713:陣龍:2023/10/19(木) 21:24:05 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp

『馬中の虎、人中の龍』



 11月初旬。ティ連技術の導入も有って改善が続けられていても尚地球温暖化や環境破壊の危機を叫ぶ
環境保護団体の動向や思惑とは裏腹に、世界は本当の『平年通り』の気温や天候の日々を迎えているこの日。



「はぁ……はぁ……、ふぅ。……並走、ありがとうございます、ゴーストさん」
「いえいえ、何時もカフェさんには世話になってますから、この位は」
「か……カフェ……一体、何時……そんなに、速く……」
「……脚の不安が有るのは分かりますが……研究ばかりしていては、こうなりますよ」



 日本国の首都、東京は府中のトレセン学園のコースにて。フランス伝統らしい重馬場になるまでの散水が何故か
機器が爆発した結果良馬場となり、その結果か日本ウマ娘初の凱旋門賞を制覇したウマ娘となった
【漆黒の摩天楼】マンハッタンカフェと、天井知らずの成長を遂げ続け無敗のクラシック三冠、
トリプルティアラを同一年達成した【ターフの亡霊】ゴーストウィニング、そしてそんな二人の並走に辛くも追随するも
疲労困憊な【超高速の粒子】アグネスタキオンが走っていた。



……ったく。全然、意味が分かんねぇ……全く、理屈に合わねぇ……
「……!……?」
 ……【アイツ】が現れてから、いや【アイツ】と走った連中にばかり異常な事ばかり起きてやがる……
「……!……ッ!!」
……何なンだ、一体……もしかすれば、【アイツ】と走れば数センチを埋めるピースにでもなるってのか……
「……ねぇ!シャカールったら!!」
「うぉぉ!?」



 そしてトレーニングコースにて、息を整えたタキオンが相変わらずの調子でカフェとゴーストに何処からか
出したお手製試薬を口八丁手八丁で服薬させようとして『おともだち』によって試験管が粉砕され、
二週間分の苦労の結晶が全て土に消えた頃。コースの外側では自前のノートパソコンを持って
思考の海に沈んでいたエアシャカールが、ファインモーションによって意識を引き戻されていた。



「……なンだ、王女サマかよ。いきなり何なンだ」
「『何なンだ』、じゃないよ!シャカールったら、ずっとここに座ったままパソコン睨んでるんだもん。
クールダウンだとしても長過ぎじゃない?」
「あぁ?ずっとって……あ」


 ファインに言われて時間を確認すると、確かにシャカール自身が思っていたより大分時間が経過していた。
パソコンの充電も気付けば半分以下に割り込んで20%有るかどうかと言う程である。



「シャカールにしては珍しいけど……何か悩み事?」
「あ……あぁ……」


 ファインモーションからの真っ直ぐな眼差しと問いかけに、目線を逸らすエアシャカール。そして、
その反応が良くなかった。


「ふむふむ……成程、分かったよシャカール!」
「あ?分かったって、何が……」
「ゴーストちゃーん!シャカールが聞きたい事有るんだってー!!」
「はぁ!?お、おいファイン!?」


 人心に敏い王女様、そして一度決めたら梃子でも動かぬ王女様。【コンセントレーション】発動で
最高のスタートダッシュでかけ始めたファインモーションに、追い込み脚質な上にノートPCを持っていて
出遅れたエアシャカールが追い付けるハズも無かった。

714:陣龍:2023/10/19(木) 21:27:24 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp

「なンでこうなるンだよ……」
「やぁやぁ、シャカール君。私はつい先程試薬が全部零れた結果後始末で忙しいから
其方で話を済ませて置いてくれたまえ」
「見りゃ分かるっての……つーか、お前には用はねぇ」



 コース上に溢した試薬が謎のゲーミング光線を発して古に伝わる伝説のディスコなミラーボール的
照射しているのを、スコップと一輪車にて一人土の埋め替えで処理しているタキオンから目を逸らしつつ、
如何にも『何で呼ばれたか分かっていない』表情丸出しのゴーストウィニングと向き合うエアシャカール。



「えっと……ファインさんに『悩み事が有るから相談してあげて』って言われて呼ばれたんですが、
何かあったんですか、シャカールさん」
「ファイン……」
「ずっと一人で思考の袋小路に迷っていても時間の浪費になるだけだよ。そんなのはロジカルじゃないでしょ?」
「あぁ……」


 【してやったり】の笑みを浮かべる王女様に、反論が思い浮かばず押し黙るエアシャカール。
視界外では掘り出したゲーミング土の中に居た蟻が一輪車の中で手のひらサイズにまで巨大化し、
謎のウマ〇ょい伝説ならぬアリ〇ょい伝説を踊り出す事態にタキオンが異常なテンションになっているが、
大体タキオンの事なので気にもされずに放置である。



「……上手い事纏まってる訳じゃねぇンだが、一つ聞きたい事が有る」
「はぁ」
「……お前、どうして【そこまで走れるんだ?】」
「……はい?」


 エアシャカールにしてはハッキリしない物言いに、思わず顔一杯に疑問符を浮かべて聞き返すゴースト。
近くに居るファインモーションとマンハッタンカフェは、あやふやでは有るが真剣であるエアシャカールを尊重し、
傍にこそ居るが会話に口を挟もうとはしていない。背景のタキオンは今飛び出たキー君と掌サイズアリが
謎のダンスバトルしているのを納めるのに忙しい。



「……ゴースト、オマエと関わって走った連中は、皆G1の勝利に絡めたり、当事者すら想像していなかった成長をしている」
「切欠こそ私かも知れませんけど、結局は本人の努力の結果で【壁】壊せたからじゃないです?」
「……そンな単純な話なら、俺が此処まで頭悩ませてたりしねーよ」


 不思議そうな顔で、そして当然と言わんばかりの口振りで、成績や成長の伸びが停滞、鈍化していた複数のウマ娘達が、
ゴーストと並走したりゴーストの伝手で故郷のファームでトレーニングした結果たちまち好成績を収め始めた事を、
当人らの成果であると当たり前に【持ち上げ】るゴーストに対して、呆れた口調と目線で異を挟むシャカール。
そしてシリアスモードであるこの場から少し離れた場所でウマ〇ょい伝説からシームレスにトレセン音頭(改造ver)で
竜巻回転を始めたキー君と肥大アリに巻き込まれたタキオンはそれどころではない。


「ブリッジコンプちゃんもそうだけど、ジョーダンちゃんも、ハナ差以下の死闘になった、あの宝塚記念でのレコード更新未遂の走りに、
天皇賞秋での自分のレコードを更新する一着の走り。その二つとも、ゴーストちゃんと並走したりした結果だって言ってたよ」
「……私も、そうです。あの凱旋門で勝てたのは……ゴーストさんと並走した……それだけでない、
それ以上の原因が有るのではないかと……そう、思っています」
「……そう言う事だ。データを見ても、ゴーストと並走した、トレーニングを受けた連中は『軽々しく』成長している。全くロジカルじゃねぇ、
理屈に合わねぇンだよ」
「そう言われても……【走れた理由】……うーん……」



 当人が全く認識していない影響と余波について三者三様に言われ、腕組み顎に手を当てて考えるゴースト。
欄外で『キャーイクサーン』してキー君とデカアリのダンスバトルを強引に収めさせたタキオンの雄姿等気にもされて居ない。

715:陣龍:2023/10/19(木) 21:28:32 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp

「……やっぱり、【運】と【縁】ですかね」
「は?」
「【運】と……」
「【縁】……ですか」


 そしてゴーストから出て来た言葉に、自身の想定から遥かに外れた内容に面食らうエアシャカールと、反復するファインにカフェ。



「ゴーストウィニング【号】の頃からそうだったけど……もしその二つが無かったら、根本的に私が此処に居る事も、
それ以前に競走馬としてレースに出走なんか、出来る筈が無かったから」



 何処か寂し気に語るその姿は、ターフの中で見せる絶対的勝者の姿と掛け離れた、迷い疲れた幼子のようであった。



(ゴースト君は技術面での助言では無く自身の事についての質問と捉え違いしてしまったようだねぇ……)
(キー)?( ??ω?? )?
(キュアー) ?(*?ーωー?*)?


 尚、ようやく自爆的騒動を納めたタキオンは、四人の会話の側で体育座りをして待機していた。頭の上ではダンスバトル()で
仲良くなったらしいキー君とビッグアントがマトリョーシカの様に積み重なってやれやれとしている、
微笑ましいのかシュールなのかよくわからない絵面だが。


 同時刻、神威に満ち満ちた神代列島日本世界。


「お疲れ様、電」
「響お姉ちゃん、お疲れ様なのです」
「【例の人】は大丈夫?」
「なのです。今は社で休んでいるのです」


 ゲート先で繋がった、超大陸化等して居ないノーマル列島日本と丁々発止や様々な騒動の果てに、
ゲート先でも始まってしまった戦争、それも北方南方同時の戦争にて、侵略者を全員叩き出すも当の当事国の
国内で暗殺未遂事件が発生して堪忍袋の緒が切れたゲート先ティ連が幕府日本を成立させた頃から暫く経った頃。


「さっきの不躾な事を言ってきた金ぴかはどうなったのです?」
「大鉈持ったシンザン号と十文字の朱槍持ったセントライト号さんに捕まって何処かに連れて行かれたよ。
能面見たいに真っ新な表情していたね」
「全く……何でここに来たのかは兎も角としても、初対面の人に【何だこの異常な魂の雑種では無い怪物は】とか言うとか、
無礼にも程が有るのです。あの人が目を白黒させた位で気にしなかったのが幸いでしたが……」
「соглашаться(同意だよ)、暫く絞られてくると良いね」



 此処は、余人不可侵にして神聖なる現世の『神殿』。真に限られた存在しか入る事は許されぬ、
突撃取材等と言う低俗な行動等は決して赦されざる、文字通りの『神の領域』。


「……まだ暫く掛かりそうだね」
「なのです……それに、【加護】を掛けるだけでは片手落ちなので、序でに休ませていくのです」
「本当に異例中の異例だね……【人中の龍】さん」
「……なのです」



 その『神殿』は、唯一人の【人間】を……否、【人の理を超える可能性を持った存在】を迎えていた。その名は『飯崎鈴夏』。
数か月前、とある牧場にてこの『神殿』の主であるティアマトと共に侵入者を撃退していた女性である。

716:陣龍:2023/10/19(木) 21:30:38 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp

「電。此方の方で色々調べたんだけど、やっぱり『飯崎鈴夏』と言う女性は、どの世界にも存在が確認されなかったよ。
二つの列島日本も、向こうの大陸化した日本に繋がった全ての世界にも」
「……ある程度、予想がついていた事なのです」


 響の報告に、溜息を吐く電。


「あのデリカシーの欠片も無い金ぴかに沿うのも癪なのですが、『飯崎鈴夏』さんの諸々と似た様なモノを持った人が
そうポンポン出て来られたら不味いとか言う領域じゃ無いのです」
「そこまで言い切るのかい?電の話とかを聞く限り、あの人は優しくて平和的だけど」
「ただ単に当人の精神性が善性で最後の一線を踏ん張れていた【運】なだけなのです。
それと配信者としてリスナーとの関係性の繋がり、そしてゴーストウィニング号さんから始まった競馬関係者等との【縁】によって
繋ぎ止められていたと言うだけなのです……」
「もし、【普通の人】だったとしたら?」
「【人中の龍】の存在に誘蛾灯の如く本能的に集る連中に直ぐに限界が来て【暴龍】と化す未来か、
自らのみならず周囲も、世界も巻き込んだ破滅に突き進んでいく未来か、或いはそれより尚悪い未来なのです……」
「……Безнадежный(絶望的)、だね」


 ?偽りのない深刻な顔で語る電に、顔を顰める響。現状の【彼女】は、巧みな投資の眼力と動画投稿・配信による急速な
人気獲得の他は特に目立った影響力を発揮していない。だが電は、伝え聞くゴーストウィニング号の馬運車襲撃・焼死事件等、
ゴーストウィニングに関わる危害的事象が発生した際に、無意識的にそして関係者も『悟らぬ』まま全ての伝手を使い【敵対勢力】に
大火力の『報復』を叩きこんでいたと確信していた。ただ『不幸』な事に、馬運車襲撃事件の時は【神罰】が下った事で
危害関係者特にメディア系の殆どが【神罰】の方へ意識が集中したが為に『報復』に関連した事態を全く認識しておらず、
多数スポンサー契約が解除された事や【上流階級】との関係が途絶した事への理由を全く回顧しなかった事で、
一切合切体質改善されなかったと思われたのが歯痒い話であった。

 無論、これらの『報復』等の話はあくまで電個人の推測で有り、明確な証拠など特に無いのであるが、そう思わせるだけの【魂】と言うモノは、
ほんの数日程度の関わりであっても気付かせる程度に強く、輝きを見せていた。何処かの世界の悪道な魔術師だの時計塔の何ぞやらが見れば、
狂喜乱舞して魂砕きとやらをする為に捕獲しに走るであろう。確実に【彼女】の体術でお高く留まった魔術師のプライド諸共
撃ち砕かれる未来しか見えないが。




「……どうして、こうなったんだろうね」
「推測ですが……言いたくは無いのですが、超大陸化と言う異常現象が起きた事により引き起こされた
【奇跡的偶然が生んだバグ】と言うしか無いのかも知れないのです」
「……北海道で走り回っているゴーストウィニング号を思わせるね。【奇跡的偶然が生んだバグ】って」
「今、ゴースト号さんは何やっているのです?」
「【落伍者】を回収したり【残存悪霊】を誘導して引きずり回したりしてるね。ゴールドシップ号やマックイーン号とかと一緒に」



 因みに元居た世界から別世界への顔出しデビューが終わった為にゴーストウィニング号の辿った経歴等が
二つの列島日本世界に有る程度情報開示され、関係者や関係各所に獄炎の方が未だ良い、
鋼鉄も溶かし蒸発させる火災旋風が巻き起こって脳を焼いたりその他が『炎上』したりと中々面白い事になっているそうな。



「まぁ、何にしてもティアマト様の【加護】が無事に執り行われる事を待つばかりだね」
「なのです……良い人が理不尽に不幸になるのは、見たくないのです……」

717:陣龍:2023/10/19(木) 21:31:26 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp





 『神殿』の最奥、神の住まう場所である本殿。その場にて、一人の女性が青髪の美しい女神の膝枕にて、静かに寝息を立てていた。



「――――大丈夫です、わたしは、此処に居ます」


 愛おしそうに、膝枕にて寝息を立てる女性の頭を撫でる女神…ティアマト。本来ならば、触れられる所か視界に入る事すら有り得ない状況だが、それを咎める不躾な輩は此処には居ない。



「――――~~~~~♪」


 苦労の一言で片づけられない、理不尽な不幸も害意にも、自らが崩れ落ちる直前の限界まで耐え続けた【優し過ぎる子】に贈られるは、【彼女】の世界では存在すら忘れられた、古の子守歌。





――――~~~~~♪


 どこからか、ティアマトの歌う子守歌に合わせて、共に歌う声が聞こえた気がした。

718:陣龍:2023/10/19(木) 21:34:25 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp

 一方その頃ゲート先日本の北海道

マックイーン号|・∀・#)「ゴースト号さん!?どうして此処まで引き連れて来たんですか!?
               多すぎて撮影で封印できませんわよ!?」
ゴースト号|д゚#)「連中引っ張って来いって言ったのマックイーン号の方じゃないか!?
            と言うか【余計なモノ】引っ張って来るかも言ったのに大丈夫言ったじゃんか!?」
テイオー号| ゚Д゚)「うわぁ、マック号とゴースト号先頭にスッゴイ数の百鬼夜行。
           これはゴースト号の収集力を軽視していたマックイーン号の方が悪いね」
ゴルシ号|´∀`)∩「ほいほーいマック号ちゃーん、対悪霊特攻トリモチトラップはコッチだぜー」

 ギャグ展開的にてんやわんやしつつロシア侵攻で連れ込まれて置き去りにされた【厄介者】共を封印や除霊しまくっていた。

と言う訳で特に脈略も無くゴーストウィニングと飯崎鈴夏についての話でした。『人中の龍』って表現バチクソロマンですよね(小並感)

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最終更新:2023年10月22日 22:18