681 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/10/18(水) 20:11:16 ID:softbank126036058190.bbtec.net [129/204]

憂鬱SRW ファンタジールートSS「千鳥は舞い降りた」6


  • F世界 ストパン世界 主観1944年10月 オラーシャ帝国 ペテルブルグ 502JFW基地 ブリーフィングルーム



「---以上で、デブリーフィングを終了します。
 各員は後程戦闘詳報の提出をお願いします」

 解散が告げられ、502JFWを構成するウィッチやウォーザードは三々五々にブリーフィングルームから退出していった。
 今回の定時哨戒任務は大物との不意遭遇戦に発展したことで、戦隊長のサーシャ、502トップのラルも交えたデブリーフィングが行われていた。
特に以前撃墜し、その対処法が確立したと思われていたON-18が進化を遂げたということもあり、502首脳部は重く判断したのだ。
 さらに、この戦闘が雁淵ひかりの502JFWにおける初陣であり、その実力を推し量る材料となったことも、今回のデブリーフィングの重要性を増していたのだった。

「……ふー」

 ブリーフィングルームに残った2人のウィッチ、サーシャとロスマンを前にして、ラルは大きくため息をついた。
それは驚きと感嘆、そして困惑という複雑な感情の入り混じったものであったのだ。

「……出来過ぎにもほどがある」

 そして、やっと絞り出せたのはその言葉だった。
 言うまでもなく、それが雁淵ひかりというウィッチに対する今回の戦闘における評価だった。
 この502への加入を認めたのもラル達であるが、あくまでも彼女らが評価したのはひかりの技能や座学などの実力がメインだ。
シミュレーターやドローンによる訓練などの結果も見ているが、それだけでウィッチの実力というのは測りきれない。
訓練と実戦とでは違う。どうやっても緊張感やシチュエーションという点で大きな隔たりがあるのだ。
 あくまでもついてこれるだけの技能などがあることを認め、実戦を通じて問題点を見つけ、再度教育していくというのが502側の計画だったのだ。
 それがどうだ?実戦二回目……ほとんど初陣と言っていい雁淵ひかりは502のベテランたちと遜色のない仕事をしてみせたのだ。

「エディータ、どう思う?」

 水を向けられた先、502の教育係も拝命しているロスマンは複雑な表情のまま、何とか言葉を絞り出す。

「あの場にいた人員の主観カメラ、AWACSの観測データ、それに通信のやり取りを鑑みるに、隊長の言うように出来過ぎですね。
 もちろん、粗がないわけではありませんし、技能面で見直すべき点があるのも確か」

 けれど、と断言する。

「明らかに戦場慣れをしています。
 新兵によくある恐怖や混乱といった症状も見られず、極めて冷静に判断し行動を行っています。
 独力だけでなく、ニパさんとの即席の連携でもうまく相手に合わせて、最適に近い選択をとれています。
 本当は徐々に戦場に慣らしながら、技量を補う教育を行っていくつもりでしたが……教育計画は練り直しですね」

 手放しとは言えないが、それでも高い評価だ。ロスマン本人としても驚いているか、あるいは納得がいかないようではあるが。

682 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/10/18(水) 20:12:10 ID:softbank126036058190.bbtec.net [130/204]

「ふむ……サーシャはどう思う?」
「月並みですが、私も同じ意見ですね。
 哨戒に出撃する前のブリーフィングの時点から、よく確認を行い、その上で出撃後もAWACSに確認をしていました。
 そういう訓練を受けていたならそのように振舞うこともできるでしょうが……慣れている、というより、落ち着きが……」

 しばし言葉に迷い、それでもサーシャは続けた。

「もっと言えば、覚悟というものが決まっているのを感じます。
 経験を積んだウィッチしか持ちえない、そういう精神の完成度と言いましょうか。
 ……あの、本当に彼女は繰り上げ卒業をした新兵なのですよね?」

 最後は、こちらへの確認にまでなってしまったのも無理はないと思った。
 サーシャの言葉とともにちらりとラルを見たロスマンの目も、同じようなことを言っていた。
 果たして、本当に彼女は新兵なのか?と。
 その問いかけをしたくなる気持ちもわからなくもない。

「それについては確認をしてある。扶桑にも、ついでに訓練校での成績についてもな。
 二人も確認してもらったと思うが?」
「信じられなくなった、といえばいいでしょうか……」
「右に同じく……扶桑皇国が雁淵軍曹が優秀なウィッチだったことを偽装していたと言われたら信じてしまいそうなくらいです」

 何の利益があるんだ、と思いはするが、そうと思わなければ納得がいかないのだろう。

「まあ、私としても信じがたくはある。
 だが、原因に全く思い当たるところがないわけではないさ」

 それは、と断言する。

「エネラン戦略要塞でのティル・ナ・ノーグでの訓練……あの場において、一体どのような教育を受けたのか、だ」
「……それは、そうでしょうけど」
「誰でもひかりさんのように仕上げられるなら、私はお役御免になりそうですね」
「冗談でもよしてくれ、先生は頼りにしている」

 そういいつつも、二人の前にラルは書類の束を置いた。
 何度となく捲られ、確認されたことが窺えるやつれ具合のその紙の束の表紙には、特徴的なエンブレムが描かれていた。

「ティル・ナ・ノーグ……」
「そう、雁淵軍曹の教育計画とその実施についての報告書だ」
「私も目を通しはしましたが、それがなにか?」

 ロスマンの問いかけに一つ頷き、ラルはぺらぺらと書類をめくっていき、付箋をつけていたページを二人に見せる。

「ここだ」

 二人が覗き込んだ先、そこには何時どこでどのカリキュラムをこなしたのかが詳細に書かれていた。
 だが、ある一点から、その記述に変化が見られた。

「戦闘訓練……内容が軍機?」
「担当者も軍機で明かされていない?」
「そうだ、全ての戦闘訓練・戦技講習が軍機というわけではないが、内容について秘匿されている」

683 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/10/18(水) 20:13:24 ID:softbank126036058190.bbtec.net [131/204]

 目を通してみれば、確かにある時を境に戦闘訓練や戦技講習の内容が明かされていないカリキュラムが増えていっているのがわかる。
勿論座学やティル・ナ・ローグで学ぶ他のウィッチ候補生たちとの訓練が0になることはなかったが、それでも割合は増えている。
 その記述がなされているところを指でトントンと叩きながら、ラルは自分の考えを述べる。

「恐らくだが……この秘匿されている訓練によって、雁淵軍曹は急速に成長したのだろうな」
「……では、一体誰が何を?」
「考えられるとすれば、促成教育のためのなにかだとは思いますが……個人に合わせたカリキュラムを組んだ……?」

 それでも二人には疑問が残る。
 それなりにあるとはいえ、ただ一部カリキュラムを変えた程度で、あそこまで完成されたウィッチが1週間と少しで教育できるとは思えないのだ。
そんな簡単に強いウィッチが育成できるならば、ウィッチの取り合いなど起こらないだろうし、ネウロイの駆逐もできてしまうかもしれない。

「それに……これは明かしていなかったが、雁淵軍曹は固有魔法として魔眼を持っているとのことだ。
 物理的に接触したネウロイのコアの位置を見通す、魔眼とは言うが解析魔法の一つらしい」
「固有魔法を、ですか!?」
「どうやってそれを調べたのでしょうか?」

 わからん、とラルは首を横に振るしかない。
 不可解な点が多すぎるのだ、ティル・ナ・ノーグには。あるいは地球連合やそこから派遣されてきたリーゼロッテ・ヴェルクマイスターらについては。
 彼女のプロフィール、経歴、その生い立ちなどについては余りにも軍機で覆い隠されているところが多い。
 実績で黙らせているとしても、気にならないわけがないのだ。

「ひとつ確かなことは、ヴェルクマイスター大佐らティル・ナ・ノーグには、我々には明かせないことを抱えているということだろうな」
「では、どうするんですか?」
「決まっている。一先ずは正面から尋ねることだな」

 弾かれるかもしれんがな、と言いつつラルが立ち上がった時、ブリーフィングルームの扉がノックされた。
 サーシャに促されて入ってきたのは、オーカ・ニエーバの隊長である長身のウォーザード、カーチャだった。

「よろしいですか、ラル少佐」
「要件によるな、どうした?」

 問われた先、カーチャはちょっと困った顔をして、要件を告げた。

「ティル・ナ・ノーグの方に報告を送ったのですが……その際にですね、ヴェルクマイスター大佐がラル少佐とお話したいと言われました」
「……渡りに船、だな。わかった、すぐに向かう。私だけか?」
「いえ、ロスマン先生なども是非と」

 図ったようなタイミングだ。いや、実際狙っていたのだろう。
 エネラン戦略要塞には各戦線からの情報が日々送られている。当然その中には502JFWに配属になったひかりに関する情報もあった。
 それに日々のMPFの運用についての情報も101から送られているだろうから、自然と耳に届くだろうということも。

「……わかった、先に通信室に行ってくれ」
「了解しました」

 さて、鬼が出るか蛇が出るか。
 相応の覚悟を決め、502JFWの首脳部は動き始めた。

684 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/10/18(水) 20:14:05 ID:softbank126036058190.bbtec.net [132/204]

以上、wiki転載はご自由に。
次で一区切りとなりますね。
うまくナイ神父Mk-2氏の投下した作品と整合性をとらないとなりませんな。
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最終更新:2023年11月03日 11:26