902 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/10/20(金) 21:28:03 ID:softbank126036058190.bbtec.net [168/204]
憂鬱SRW ファンタジールートSS「千鳥は舞い降りた」7
- F世界 ストパン世界 主観1944年10月 オラーシャ帝国 ペテルブルク 502JFW基地 通信室
ペテロ・パウロ要塞は古い時代の要塞だ。
18世紀に建造され、今日まで残っているため、今となってはどちらかといえば史跡といった方が正しい部類にあたる。
そも、現代の兵器を想定している要塞ではなく、また、主敵たるネウロイを想定して作ったわけでもない、人が人と争っていた時代の産物だ。
とはいえ、その建造物自体に罪があるわけではなく、また使い様はあるということで、502JFWの基地として改装され、運用されている。
現代で通用する基地としての能力を与え、周辺市街地と同様にネウロイを想定した防衛設備を設置し、滑走路やハンガーなどを用意。
さらにはネウロイの直接攻撃も想定した地下施設---CDCやシェルター---をも用意した。
それでも納まりきらない設備は基地の外に別棟という形で集約され、この基地という形を作っていた。
さて、そんな近代化を通り越し、未来化されている基地には、通信室というものが設けられている。
オラーシャのペテルブルクにあるこの基地とストパン世界各地を結ぶ通信インフラを活用をするための部屋だ。
今のところはという注釈こそつくが、ネウロイにも妨害されない大容量・リアルタイム通信を可能とする連合のネットワークだ。
それへとアクセスするモニターの前にラル、サーシャ、ロスマンの3人は案内された。
先にモニター越しに何やら会話をしていたバルバラがこちらに気が付いて離席し、着席を促された。
『おおよそ1週間ぶりになるか、ラル少佐』
そして、対面したのはリーゼロッテ・ヴェルクマイスターその人であった。
まあ座るといいと促され、502JFWの3名はモニターの前に腰かけた。
『要件としては、聞かずともわかる』
楽しげに微笑むリーゼロッテは、先に言い当てて見せた。
『雁淵軍曹のことだろう?
促成で仕込んだとはいえ、実戦でも「使えた」と聞いた』
「その通りです。想定以上でした」
ラルの言葉にリーゼロッテはさらに笑みを深くした。
『まあ、技量面ではまだ粗削りだからな。そこについては502の方で調整と訓練を重ねてほしい。
とはいえ、だ。聞きたいのはそういうことではないのだろう』
「……その通りです。
大佐、一体どのような教育を行ったのですか?
繰り上げ卒業の新兵があそこまで完成しているのは一体どうやってなのでしょう?」
『真正面から聞きに来るのは評価できるな。
だが、残念だが報告書にある通りだ。そして、内容については機密だ』
目の前のモニターに映る魔女は非常に楽し気にくっくっくと笑うが、502側は笑えもしない。
どうやって、という驚きもあるのだが、それよりも勝る感情がある。
常識外のことをしてしまうこの魔女が。
底知れぬ力と技術を持ち合わせている魔女が。
まるで不可能はないとも思えるかのような手腕を持つ魔女が、どうしようもないほどに。
「では、内容について彼女に尋ねても?」
『構わんよ、雁淵軍曹にはある程度を話すことを許している。
まあ、機密は口にするなと釘をさしてあるから、あまり期待はしないことだな。
機密は機密である方が望ましいこともあるのだから』
あっさりと許可が下りる。
いざとなれば内密に聞き出すくらいはやるつもりだったが、それも想定の内側だったらしい。
(まあ、当然だな)
903 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/10/20(金) 21:28:46 ID:softbank126036058190.bbtec.net [169/204]
自分の行動くらいは想像できてもおかしくないのだ。
だが、聞きたいことはこれだけではない。折角だからぶつけてみることにする。
どう返ってくるかでも推測などはできるわけであるし。
「その機密となっている訓練を熟せば、誰もが同じようになれるのでしょうか?」
次いで質問をぶつけたのはロスマンだ。教育係として気になるのもあるだろう。
『無理だな』
だが、その希望をあっさりとリーゼロッテは潰す。
当たり前だろう、という顔で続けた。
『必要な要素は無尽蔵に用意はできん。
それに、訓練を受ける当人の資質にもよる。
雁淵軍曹の場合は、諦めを踏破してのけたのが大きいからな』
「諦めを……それはともかく、個人の素質によると?」
『平たく言えばそうなる。この訓練で成長するものもいれば、逆効果になるものだっているだろう。
今回は促成教育であることに加え、素養があると見込んで受けさせて、結果的に才能を開花させた』
わかるか?と502JFWの3名は問われる。
『常人では折れ、諦めてしまう茨の道を進むことを選び、乗り越えたのだ。
諦めることなく前に進み、拒絶した時、人間は人道を踏破する権利者となる。
これは……私の親しいヒトの受け売りだがね』
「……そう、ですか」
親しい、というよりもさらに情がこもっていたように感じたのは錯覚か。
だが、その瞬間の彼女の表情は外観年齢相応の、花も恥じらう少女のような表情であったのを、ロスマンは見た。
『では、他にはあるかな?』
「いえ……細かい点で聞きたいことはありますが」
そこでロスマンは割り込んでしまったラルに会釈をして場を譲った。
「では、雁淵軍曹に固有魔法があると、その種類や特性まで把握していたのは?」
『私の経験と勘だ』
サーシャがこちらを見て絶対嘘では?と目線で訴えてくるが、これ以上は聞き出せそうにない。
何しろ、年齢や経歴までもが軍機で黒塗りとなっているこの魔女が言うと、説得力が違うのだ。
『それともこういえばいいか?機密だ、と』
「納得しがたいですね、大佐」
『固有魔法はあれば便利なものだが、時として不和を呼ぶ。厄介ではあるな。
ああ、それで雁淵軍曹の固有魔法についてだが、姉がそうであるならば妹も同じような固有魔法を有していてもおかしくないと推測しただけだ』
「……」
確かにそうだ。固有魔法の有無に限らず、ウィッチとしての素質そのものについてもわかっていないことが多い。
血か、生まれか、育ちか、それとも別な要素なのか。実のところウィッチという存在のことはよくわかっていないことが多い。
分かっていないから、そうだと言われてしまえば、それを確かめることも難しいのだ。言ったもの勝ちですらある。
だが、言い方からすると何らかの目星がついているかのようですらある。
自分たちが知らず、彼女が知っている「それ」を明かすことが、彼女の言う通り不和を呼ぶかもしれないというからにはその可能性はある。
尤もそれは憶測に過ぎない話であって、否定されてしまえば、繰り返しになるが、どうしようもないのである。
『さて、聞かれて答えるばかりではつまらんから、こちらからも聞いておこうか。
ポクルイーシキン大尉、いいかな?』
「は、はい!」
904 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/10/20(金) 21:29:47 ID:softbank126036058190.bbtec.net [170/204]
急に名を呼ばれたサーシャはすぐに返事を返した。
少しの怯えが混じったその声に薄い笑みを浮かべつつも、リーゼロッテは問いかけた。
『知っている事だろうが、雁淵軍曹は相対的に見て魔力の絶対量に不足がある。
そのうえで、部隊の一要素としてどのように差配するのか、聞いておきたいところだ』
これはラル少佐にも聞いているな、とリーゼロッテは付け加えた。
ひかりが抱える唯一の欠点---努力で克服不可能な弱点ともいえる、抱える魔力の絶対量の少なさ。
魔力スカウターの開発と普及により、ウィッチの抱える魔力というのは感覚ではなく、数字として認識できるようになったものだ。
同時に、その魔力量というのは戦闘能力を図る上での目安の一つとして、説得力と客観性を持つようになった。
当然ながらひかりの抱えるそれも数値化され、データとして提供されているし、把握している事だろう。
では、502JFWはそれを踏まえたうえで、如何に戦力として活用するのか?
(教育を行って送り出した側のヴェルクマイスター大佐としては当然の問いかけですね)
同時に、502でのウィッチの運用というものを問われている、とサーシャは理解した。
戦闘隊長としての意見を、とまずは口を開いた。
「雁淵軍曹の魔力の絶対量不足については、通常の範疇では問題にならないと、私は判断しています」
『ほお、その根拠は?』
「あくまで魔力の絶対量は指標の一つです。飛び方や戦闘技能の面で補うことができる面があります。
こちらで平時に行われている戦闘や哨戒任務などに支障をきたすレベルの不足であるならば、そもそも弾かれていたでしょうから」
これは事実だ。
実際、ひかりは魔力量の絶対量は多い部類ではないが、ウィッチとして足りないと足切りされた候補生等よりはよほど抱えている。
それにこれまでの訓練を熟せてきたということであるならば、魔力の量が少なくとも致命傷とならないのは明白だ。
「ですが、問題となるのは戦闘継続能力などです。
特に大型のネウロイの迎撃などを行う際には、長時間の戦闘を強いられます。
そこでは短い時間しか活動できないというのは大きなハンデとなりうるでしょう」
『確かに。ではどうする?』
「何も長時間戦うことだけがウィッチではありません。短い時間で高いパフォーマンスを発揮する、それを優先するべきと考えます。
具体的な方策については、正直なところ未だ検討中ではありますが……」
『今はそれで十分だ。まあ、追々報告してほしいところだな』
さて、とそこでリーゼロッテは仕切り直し、問いかけた。
『ほかに何かあるかな?』
905 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/10/20(金) 21:30:33 ID:softbank126036058190.bbtec.net [171/204]
「うまく言いくるめられたようなものだな」
通信室から執務室に戻ってきたラルは、開口一番にそう漏らした。
結局のところ分かったことはほぼ0だ。当初の目的を果たせてはいない。
「正面からまずは聞いてみる、といったのは隊長では?」
「それで聞き出せれば一番よかったが、それがだめならば搦め手だ。
あちらがこちらを調べられるように、こっちにもティル・ナ・ノーグについて調べることはできるさ」
そう、統合航空戦闘団の持つ権限はそれなりにあるのだ。
これでも国際的な協力と連携のもとに結成された部隊であり、ネウロイと戦うにあたって権限などを認められている。
加えて言うならば、その統合航空戦闘団の間や国家との間にはコネクションというものが存在し、調査などもやろうと思えばできるのだ。
「サーシャとロスマン先生は雁淵軍曹からうまく聞き出してくれ。
あとはオーカ・ニエーバの隊員からもな」
「彼女たちは知っているでしょうか?」
「調べられるところは調べるだけだ」
「同じところで教育を受けたと聞きますし、可能性はあり得ますね」
オーカ・ニエーバの面々は出身こそバラバラだが、全員がティル・ナ・ノーグで教育を受けたウィッチ達だ。
何かしら教育課程について知っていることがあるかもしれない、案外人と人の間での情報のやり取りは多いのだし。
「クルピンスキーにも声をかけておいてくれ……情報源は多いに越したことはない」
「……了解です」
頼るのはちょっと嫌ですけど、とロスマンは漏らしたが、最終的には了承した。
確かにクルピンスキーの伝手を頼るというのは悪くはない。彼女は色々と交流が広く、情報源として頼れる面が存在した。
尤も、彼女を頼ると非常に面倒なことになる、というのがロスマンの経験則だ。まあ、背に腹は代えられない。
「でも、隊長。味方を監視して調べるようなことをするのは気が引けるんですが……」
「明かしてくれないヴェルクマイスター大佐が悪いさ」
サーシャの不満を、ラルはバッサリ切った。
「あからさまに隠していれば、知りたくなるのも無理もない。ちょっとくらい調べても構わんだろう。
それに、彼女が使える人材というなら、とことん使うまでだ。どういう経緯を経て実力をつけたにせよな」
「わかりました」
「さて、忙しくなるぞ」
自分から半ば招いたことではあるにしても、明日以降のネウロイがこちらが忙しいからといって手を抜いてくれるわけもない。
502JFW首脳部は、雁淵ひかりというウィッチを迎え、動きを活発化させていくのだった。
906 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/10/20(金) 21:31:47 ID:softbank126036058190.bbtec.net [172/204]
以上、wiki転載はご自由に。
とりあえず着任とそれにまつわる顛末は描けましたので一区切りです。
これでナイ神父Mk-2氏の作品と整合性が取れていればいいのですが…
不備がありましたら指摘していただければと思います、修正しますので。
次は何書きましょうかねー…
最終更新:2023年11月03日 11:28