47 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/10/22(日) 20:20:34 ID:softbank126036058190.bbtec.net [19/308]
憂鬱SRW アポカリプス 星暦恒星戦役編SS「その火山使わないんですか?」
- 星暦恒星系 星暦惑星 現地時間星暦2147年7月 極西地域 白紙地帯
火山灰降りしきる極西地域に存在する所謂「白紙地帯」。
端的に言えば、そこは生命を拒む地域だ。
火山活動などに伴う火山灰や重金属の噴出などの要員により、そこは誰も版図として取り込めない地域として存在していたのだ。
その点、機械であるレギオンはそれをかなり無視することができたために、ここを拠点としてノイリャナルセ聖教国を攻撃し続けていた。
また、そのさらに先、人が立ち入れないその先には攻撃衛星を射出するマスドライバーが存在しており、かなりの数の砲弾を打ち出していたのだった。
尤も、それらはすべて過去の話である。
白紙地帯にいたレギオンは駆逐され、秘匿されていたマスドライバー施設も制圧された。
人が入れない地域であったそこに、学問という武器と鎧で身を固めた人類が堂々と押し入ったのである。
幾度かの戦闘を経た結果として、この白紙地帯はレギオンの手から人類の手へと陥落したのである。
さて、斯くしてレギオンの脅威を一先ず脱したノイリャナルセ聖教国であったが、むしろ本番はこれからであった。
まず、宇宙怪獣の襲来が近いとの情報を得ていたのである。これについては詳細は言わずともよいであろう。
ノイリャナルセ聖教国はレギオンとの長年の戦いの被害補填もそこそこに、大慌てでエクソダスの準備をしなければならなかった。
国家のアイデンティティーとは国民・領土・文化・風習など多岐にわたる。その中で国民に関しては比較的にがしやすくはあるだろう。
問題なのは文化や風習である。レギオンとの戦争の中でも未だに保存されてきた文化的な資産などを同じように逃がさねばならなかった。
これがまた厄介だ。エクソダスのための移民船は大型で、それこそ建物だって解体して持ち込んで組み立てても余裕がある。
とはいえ、そんなことを行うのは建物を組み立てるよりもよほど苦労するというものだ。
また、繊細な管理を必要とする美術品や芸術品などの持ち出しにあたっては目録の作成やらなにやら事務仕事も付きまとう。
いっそレギオンとの戦争の方が楽だったのではないかというほどの膨大な仕事が叩きつけられたのだ。
次いで問題になったのが、ノイリャナルセ聖教国と地球連合の間の取引である。
何も地球連合はボランティアで、つまり無償で働いたわけではない。己の矜持ということもあって手を差し伸べたのは事実。
それでも、レギオンと戦えばモノを消費するし、軍隊や移民船を動かすのだって金がかかる。
つまるところ、支援の見返りというものをノイリャナルセ聖教国をはじめ星暦惑星各国は求められたのである。
勿論地球連合の通貨などを持ち合わせておらず、物価なども違うことなどから為替レートを設定しなければならないがその時間も惜しい。
ということで、ノイリャナルセ聖教国では手っ取り早く物納という手を使ったのである。
具体的なことを言えば、白紙地帯の火山、それを差し出したのである。
この火山は別にノイリャナルセ聖教国の所有物というわけでもないのだが、言い出したもの勝ちである。
48 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/10/22(日) 20:21:34 ID:softbank126036058190.bbtec.net [20/308]
そんなわけで、白紙地帯の火山の悉くには、マグマを吸い上げ、溶け込んでいる元素を収集するプラントが据え付けられていた。
それぞれの大きさは吸い上げ装置だけでも高さ200メートルにもおよび、そこに冷却装置が付属して直径は50m以上に達していた。
さらに火山に突き刺さったそれら付随するのは、元素を移送するケーブルや不純物を除く精製装置、そして蓄えるためのタンクなどである。
これらが火山灰の中にそれらが乱立しているさまは非常に異様な光景と言えたであろう。
とはいえ、この星を救うことはできなくとも、人間を救い出す対価と考えれば安いモノだ。
元々白紙地帯は人間の生活に適さないわけであるし、そこにあるモノをどうこうしようと問題ないのだ。
加えて、白紙地帯全体も大型重機が走り回っている。
目的はどんどん降り積もり、雪とは違って溶けることなく層を積み重ねている火山灰である。
たかが火山灰、されども火山灰である。これも立派に資源となるわけであるし、地球連合では使わなくとも、その傘下にいる国では貴重であったりする。
使い道があり、価値が存在している。この火山灰ひとつをとっても捨てるところなど全くないのだ。
しかも、この星暦惑星というのは宇宙怪獣の襲来によって廃星の可能性が高いのだ。
宇宙の塵となるくらいであるならば、人が生きていくために有効活用したほうがよほど良いのである。
「しかし、こうしてひたすらに奪われていくのを見ると、白紙地帯に同情が湧きますね」
航空艦のモニター越しに白紙地帯を見るトトゥカ聖一将は、そんな言葉を漏らした。
レギオンが潜伏する先であり、散々レギオンとの戦いで駆けてきた白紙地帯。
そうでなくとも、その環境の特異性を以て人類を阻んでいたその白紙地帯が、より大きな力によって制圧されている。
どうにもならない環境と半ばあきらめてはいたものの、しかし、こうして一方的に奪われているのを見ると同情心が沸き上がる。
今回トトゥカ聖一将が来ているのは、神戟が今回の作業に---白紙地帯の戦場跡の処理や火山灰の収集といった仕事に従事しているからだった。
フェルドレスやMTなど戦闘用の兵器も装備さえ整えれば重機の一つとして使えることもあり、この作業に投じられている。
地球連合だけに任せておくと負債は積み重なっていく一方であるために、少しでも手伝えるところは手伝うというわけであった。
「端的に言えばもったいない、そういうことですからな」
そのつぶやきに応じたのは同じく航空艦に乗り込み、同道しているドナルドであった。
レギオンに対する軍事行動が概ね片付いてしまった---少なくとも担当国は安全を確保できたということもあり、派遣軍はその役目を半ば終えていた。
とはいえ、無駄飯ぐらいをするわけがなく、パイロット達やオペレーターたちも様々な形でこうして資源回収に勤しむなどしているのである。
「とはいえ、この光景も白紙地帯も見納めと思えば感傷も湧きますかな?」
「ええ……よい思い出があるわけでもありませんが、思うところはあります。
無為に消え去るわけではなく、我々の命の対価になるのだと分かっていてもですね」
この場に限った話ではなく、またこの国に限ったことではないが、多くの国がエクソダスのために多くを集めている。
植物・動物・土壌・微生物その他あらゆるものをかき集め、次なる移住先の惑星に持ち込んで生き残るために。
「言うなれば、母星の葬送でしょうか」
これまで命を育んできた母星を、自らの都合で切り捨て、都合の良い部分だけ切り取って奪っていく。
やむを得ないことだと、仕方のないことと分かっていても、行動の醜さが目に付いてしまう。
「なるほど、そういう例えも……」
トトゥカ聖一将の例えに、ドナルドは言葉短くも応じる。
母星を守れている側の人間が、見捨てざるを得ない側の人間に言えることは多くはない。
まして、この星を捨てざるを得ないのは、この星の住人のせいではなく自分たち地球連合の都合なのだ。
そのことを思うと、重たいものが胸中に出来上がる。それを、ぐっとこらえた。
49 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/10/22(日) 20:22:26 ID:softbank126036058190.bbtec.net [21/308]
以上、wiki転載はご自由に。
流れを変えまして、星暦恒星戦役のSSでした。
思いついたのでしょうがないね。
自分で書いておいてあれですが、タイトルと中身の温度差ァ!
最終更新:2023年11月12日 14:26