73 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/10/23(月) 19:25:20 ID:softbank126036058190.bbtec.net [28/308]

憂鬱SRW アポカリプス 星暦恒星戦役編SS「征海船団、星の海へ向けて」



  • 星暦恒星系 星暦惑星 現地時間星暦2147年7月 レクキード征海船団国群 移民船



 レクキード征海船団国群という国家は、地球連合の救援を受けてから、全く休まることのない日々であった。
 まずは国土全土の奪還作戦---フェルドレスに不向きな国土を平然と踏破するMSやその他兵器による全面打通---が行われた。
 続けてその砲弾とあらゆる火器の嵐を浴び、またレギオンに蹂躙された土地の復興及び事後処理が実施。
 そして、そこでようやく周囲を見渡す余裕を得て、摩天貝楼の存在に気が付いて、これの制圧を行う羽目になった。
オーファンフリートとの合同作戦を経て、レギオンの拠点を制圧、さらに内部の精査を経て、ようやっと戦いは終わるかに見えたのだ。

「んで、今度はこの星から脱出か……お前ら共々」

 レクキードに割り当てられた移民船団の中でも特殊な環境艦の中、海洋資源を詰め込んだ巨大な移民船の中で、イシュマエルはそれらと対峙していた。
即ち、元々征海船団国群が外洋進出の際に敵として定め、戦いを挑んでいた「原生海獣」達である。
 この星独自の、他では見られない謎多きこの生物。地球連合が用意するレクキードの移民先の惑星に持ち込まれる予定なのである。
これまでのように征海艦によって仕留めるのとは違う、生きたまま捕まえ、狭いながらも海洋を再現した環境で活かされているのだ。

 地球連合による調査と捕縛により、全長100mを超える未確認種までも新種までも確認されたのは、レクキードを大いに驚かせた。
これまでよりもさらに深い海域にのみ生息し、めったに姿を見せることのない、まさに王ともいえるそれ。
謎の多い生態の原生海獣の解明に役立つのではないかとまで言われたそれを前に、イシュマエルは興奮を隠せなかったのを覚えている。
 その他にも、体長数メートル程度のモノから数十メートルのものまで、多くの原生海獣が生きたまま捕縛され、環境艦に入れられた。
 原生海獣だけでなく、普段原生海獣が餌としてとらえている魚や哺乳類、その魚たちが餌とする小魚、さらにプランクトン---という具合に多くが連れていかれる。
海底や海底の土壌、海底山脈の一部までもはぎとり、そこに生きる生物までもつれていくという徹底ぶりで、次の惑星を改造する予定だという。

 奇妙な気分だ。その様にイシュマエルは思う。
 先祖代々奪い奪われるようにして戦ってきた---相手にその認識はないだろうが---仇敵とさえ言える相手と共に逃げ出すことになるとは。

(それだけ相手がとんでもない怪獣ってことなんだがな)

 宇宙怪獣。
 海洋ではなく、宇宙を縄張りとし、生命体を滅ぼすことを第一義として行動するような、そんな怪獣。
 原生海獣のように海洋進出を妨害するだけなのがかわいく見えるほどに、脅威だ。惑星さえも手軽に滅ぼし、生命体を駆逐する。
 そんな怪獣たちがこの惑星を含む恒星系に目をつけて襲い掛かってくるというから、防ぎきれないからこそ逃げる。
レギオンも原生海獣も容易く蹴散らす地球連合さえも苦戦するとは、どれほどのものか今一イメージはつかない。
 それでもわかることがある。
 それが、想像もできないほどに恐ろしいということだ。

74 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/10/23(月) 19:26:17 ID:softbank126036058190.bbtec.net [29/308]

「お前らよりも恐ろしく、訳が分からんとはなぁ」

 呼びかけてみるが、こちらに原生海獣は見向きもしなかった。
 ただ、巨大な水槽---というより環境艦の中の海---の中を揺蕩うだけだ。
 相手からすればこの原生海獣と人間に差異など存在しない、どちらも標的にすぎないという。

 無論のこと、この原生海獣のために脱出のための移民船や環境艦を使うというのは連合にとって負担ではとレクキードでは考えていたことだ。
 それでも、地球連合はレクキードのためにも、と原生海獣のエクソダスを提案した。
 即ち、国家として、民族としてのアイデンティティーの一つを失うことにこの国家は耐えきれるだろうか?という問いかけを受けた。
 レクキード征海船団国群の歴史は、海の制覇にあり、また原生海獣との戦いと共にあった。
それが消え去ってしまったら、元の国家には戻れなくなる、ただのレクキードという国家に成り下がると、そう指摘を受けたのだ。
確かにレギオンとの戦いの中で原生海獣との戦いが半ば途絶えていたが、それでも艦隊は常に国家と共にあり、戦いの中で共にあった。

 では、それが今度こそ消えてしまっては?
 オーファン・フリートは確かに残るかもしれない。移住先で海に繰り出す役割を担い続けることに変わりはないのだから。
 だが、伝統である原生海獣との戦いを失えば、さらにレギオンのような敵との戦いも失えば、それはもはや征海艦隊ではない。
伝統と格式あるレクキードの、その他国家群の一部であった艦隊としてのありようを失うのだ。

 出血大サービスだな、とそれを教えられた時には思ったものだ。
 ただでさえ、この惑星の国家を丸ごと逃がすという大仕事に、こんなオプションまでつけてしまうことになろうとは。

「貰ったり救ってもらってばかりだ、俺たちは……」

 まったく、情けない。力が足りないということがわかっても、早々に納得できるものではない。
 けれど、生きていれば、生きながらえて、時間をかけてそのツケを払えるなら悪くはない。

「新天地で、勝負をつけようぜ」

 だから、せめてもの強がりと、決意を込め、そう言ってやった。
 レクキードという国家群がエクソダスの準備を整えている最中の、7月の事であった。

75 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2023/10/23(月) 19:27:28 ID:softbank126036058190.bbtec.net [30/308]

以上、wiki転載はご自由に。

イシュマエル大佐視点でした。

次は……ギアーデにしましょうかねぇ
脛に傷がない国はなく、理想という光を掲げる限り影は必ずできる
目を逸らすな、光で生まれる闇を覗きこめ。
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最終更新:2023年11月12日 14:27