100 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/10/24(火) 00:53:14 ID:softbank126036058190.bbtec.net [38/308]
憂鬱SRW アポカリプス 星暦恒星戦役編SS「静かに燃える火」
- 星暦恒星系 星暦惑星 現地時間星暦2147年7月 ギアーデ連邦 首都ザンクト=イェデル 某所
ギアーデ連邦は、レギオンを開発し全世界を敵に回した戦争を吹っかけたギアーデ帝国の後身国家にあたる。
帝国の敷いていた旧制度---民主制の否定、専制、愚民化政策、貴族による政治と統治など---を否定し、新しい制度を敷くことで生まれた。
とはいえ、そこに貴族や派閥が関与していないということはなかった。
暫定大統領たるエルンスト・ツィマーマンは黒珀種であり、伝統的に夜黒種の従属種であった。
にもかかわらず、エルンストが革命を起こした際に後援する立場のノウゼン家などの夜黒種がそれを認めたのは、派閥にとって有利だからと認めたからだ。
つまり織り込み済みでの革命であり、下剋上であり、一般にイメージされる革命とは違って絵図が最初から描かれていたということである。
そして、未だにエルンストの肩書に暫定とつくのも、夜黒種と対立する焰紅種のブロントローテ大公率いる新帝室派との綱引きの結果だ。
今でこそ対レギオンにおいては一応協力しているものの、自領防衛を理由に私兵を温存していて、それを吐き出せられなかったのもその一部。
つまるところ、帝国は滅びて連邦と名前と体裁を変えてはいるものの、その実態は未だに二つの人種による派閥の駆け引きの延長なのだ。
一応建前として担ぐ帝室があるかないかの違いしかなく、民主的な選挙という制度を取り入れているに過ぎないとみることもできる。
そして、帝政から連邦制へ移行して10年が過ぎても、未だに帝政時代の遺物は残り続けていた。
この場合---連邦首都ザンクト=イェデルの某所に集った人物たちにとって---は、まさにその一つだった。
「属領の農奴(ニワトリ)共に反抗に兆しあり、とはな」
集まっている人員がどこの誰それであるかは、個人名はあえて言うまい。
共通項として、彼らがかつては属領や所領を持つ貴族であり、現在も知識や資産を背景として相応の地位にいる人々だった。
「反抗というにはあまりにもお粗末だがな」
誰かが鼻を鳴らしてその言葉を否定した。
所詮は農奴とそれを管理する准貴族や荘園の主などの集まり。さりとて、貴族たちにとっては自分たちの勢力の下地にあるモノだと理解している。
これの発生、すなわち反抗が発生しているというのは、言うまでもなくエクソダスに向けた準備と動員に端を発していた。
土地に縛られ、土地を持つ貴族に縛られ、生きる方法も仕事も制限され、時には学問さえも制限された彼ら。
革命から10年が過ぎた今もなお、学がなく、文字の読み書きすらおぼつかない農奴や属領出身者が未だにいるのだ。
勿論こういった属領の農奴や荘園からも、人並みに学問を身に着け、職を手にしている者たちもいる。
しかして、どうしようもない、必死の後押しをしても長年の習慣や風習の壁を超えられずにいるグループもまた確かに存在していたのだ。
読み書きや学問などという時間の浪費をするよりも労働をすることを是として長年生きてきたというのは、想像以上に根深い要素なのである。
例えば、レギオンとの戦いにおいて軍に入れようとしても、入り口で弾かれる程度しか能力がないとか。
それでも数の面で補い、さほどの学を必要としない単純だが労力のある仕事をさせるには、ちょうどよい存在だった。
レギオンとの戦いで人材というものを溶かしている状況で、背に腹は代えられないと動員されたそれらは、最低でも先日までは仕事をしていたのだ。
そして、宇宙怪獣という脅威の襲来に対してエクソダスを行う段階において、思わぬ反抗というか反発をしたのが、その彼らであったのである。
101 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/10/24(火) 00:54:08 ID:softbank126036058190.bbtec.net [39/308]
端的に言えば、梃子でもこの土地を動かない、襲い来る敵と戦う。そう主張したのだ。
主張するだけならばまだ可愛い方だろう。上官の命令ということで黙らせればいい。
軍隊というのは基本的には上から下へと命令が下され、それは服従しなければならない場所であるのだし。
問題なのはやたらと行動力のある人間だ。彼らは反抗し、仕事を放棄するなどし始めたのである。
さらに知恵の回った者は、脱走を図り、自らの故郷へと武器を片手に逃げだすといったことを始めたのだ。
捕縛して尋問した彼らの一部の主張は、観点などは違えど、貴族たちからも理解できないこともなかった。
いきなり土地を手放すどころか、国土を捨て、母星を捨て、次なる星へと逃げだすことになるなど戸惑うほかないわけである。
土地というものに根差して長年動いてきたシステムだからこそ、貴族たちとて反発を覚えなかったわけではない。
だが、彼らが農奴たちと違ったのは、その主張が到底通らないと理解する理性と知性があったことだった。
宇宙怪獣はまともに襲来した場合防ぎきれず、また強すぎるがゆえに惑星一つを容易く滅ぼし得る力を持っているのだと理解しているのだ。
自分達よりも優れていると思われている地球連合でさえも絶対を確約できない相手なら、自分たちが勝てる道理などない。
そんな無駄な抵抗をするくらいならば、さっさと属領などから回収できるだけの資源とヒト・モノを逃がす準備をした方が利口というもの。
「というのが普通なのだがな…」
「鶏共なぞ、考えもしなければ知ろうともしない連中だ。多少痛めつけてでも従わせればいいだろうに……」
「地球連合の手前、それは避けねばならんからな」
誰かが重々しく言った言葉に、誰もが口を噤む。
そう、力づくでねじ伏せることもできるのだが、今のエルンストの政権下、そして連合の援助を受けている立場上、それは難しくなった。
無論のこと最終手段として認められてはいるものの、避けるべきという状況なのは確かだ。
「もうひとつ問題なのが、あちらこちらに火種のようにある、ということだな」
「ああ……」
そしてもう一つ厄介なのは、誰かが一か所で不満を爆発させているのではなく、不特定多数が小規模にあちこちで起こしている、という点だ。
貴族たちにとってもエクソダスへの対応の遅れはそのまま凋落につながりかねない案件。
だからこそ迅速に行おうというのに、どうしようもない反発がそこらで散発的に起こっているのだ。
あくまで地球連合は内政干渉まではしてこない、とはいえ、連邦にだって体裁というものもある。
エクソダスを阻害しかねない反乱未満の反発くらいはスマートに解決したいものであるのだ。
その視点であるがゆえに相手を理解しきれない、というのは置いておくとして、彼らも彼らで動くのだ。
新しい時代に合わせ、新しい潮流を読み、自らの利益のために。
- 尤も、彼らを地球連合が見た場合、彼らもまた帝国の宿痾に捕らわれたままと、そう評したであろうが。
102 自分:弥次郎[] 投稿日:2023/10/24(火) 00:54:38 ID:softbank126036058190.bbtec.net [40/308]
以上、wiki転載はご自由に。
原作で起きたことだし、起こっても仕方がないね。
さて、今宵は寝ます
おやすみなさいませ
最終更新:2023年11月12日 14:30