134 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/10/24(火) 22:08:22 ID:softbank126036058190.bbtec.net [48/308]

憂鬱SRW ファンタジールートSS「氷の空の先に」


  • F世界 ストパン世界 主観1944年10月 オラーシャ帝国 ペテルブルグ 502JFW基地周辺 訓練空域


 雁淵孝美の代わりとして雁淵ひかりが着任し、1週間余りが過ぎた。
 初出撃でのネウロイの撃破を皮切りに、彼女はたびたび発生する出撃において着実に成果を出していた。
 少々動きの粗いところはあれども、それを補うに足る実戦慣れした判断能力とそれに合わせ鍛えられた肉体は、502JFWでも劣らない戦力としての価値を生んでいた。

(とはいえ、基本的な動きがまだ粗削り。完成形にすることを優先したというのは間違いなさそうね)

 標的バルーンや標的ドローンの間を潜り抜け、マニューバの基礎を学び直しているひかりを見つつ、ロスマンはそう評した。
訓練の内容について問い合わせをしたが機密だと言われはしたが、ひかりが今後学ぶべき要素や訓練で洗練させる箇所については教えられていたのだ。
魔力やストライカーユニットそのもの、そして自分自身をもう少し精密に、精度高く制御できるようになるというのが、課題であると。
 逆に今のマニューバを無理に矯正することはやめておけ、とも忠告された。基礎を教えておけば、あとは自然と習熟するとも。

(実際にそうするのが最適解だというのが、ちょっと複雑だけど)

 自分で教えられるところは多いと思っていたが、ひかりの成長が早い分あっという間に教えられることが減ってしまった。
完成形に近づいているのは教官としてはうれしくはあるが、誰かの教えたことをそのまま成長させるだけというのも少し寂しくもある。
 とはいえ、ひかりが教えられたというマニューバについては自分でも学ぶところがあったので、良しとすべきだろうか。
相手の動きや攻撃をよく観察し、最小限の動きで最大効率を出し、少ない魔力を温存して戦闘を行う。
そして使うべきところでは一切惜しまずに魔力を使い、最大効果を得る。
言葉だけで言うならば簡単で、尚且つ理想的ではある。しかし、それはベテランでも難しいものだ。
 これをいきなり教えられたのだから、飛び方も独特で、アフターケア必須というのはわかる。

 そう考えている間に、ひかりは標的ドローンの全機撃墜に成功した。
 魔力スカウターで観測してみれば、前回よりも魔力消費量を抑えながら飛べていたことが窺えた。
 恐らく、体幹を鍛えるトレーニングを交えたことで、飛行時における姿勢制御に肉体の側からフォローできたのが大きいのだろうと推察する。
飛ばないトレーニングでここまで変わるならば、502JFWの面々でも実行すべきかと真剣に悩んだ。
元々は魔力の絶対量が少ないひかりに向けたものと思っていたが、案外侮れない。

「ロスマン先生、カリキュラム完了しました」
「お疲れ様。前回よりも改善が見られているわ。
 このまま無駄をそぎ落としつつ、戦闘継続できる時間を延ばしていきましょう」
「はい!」

 一瞬笑みがこぼれて、ロスマンもつられそうになった。
 こういう時には年相応の表情なのだが---と思うと同時に、あの笑いがよみがえる。
 502JFW所属となってからの初陣、哨戒任務中に大型ネウロイ率いる群れと遭遇戦になった後の、あの笑い。

(別人というわけじゃないはず……よね?)

 どことなく戦闘機械のような、無機質なところが出ていたこともあって、どうにもとんでもない心配をしてしまっていた。
尤も、彼女は雁淵ひかりに間違いないとお墨付きをもらい、そういった人格を歪めるようなことはしていない、と言われはしたが。

(話に聞くひかりさんの姿とまるで違うわね)
「先生?」
「ああ、ごめんなさい。今回はこれまでよ、撤収しましょう」
「了解です」

 一先ず、まだ様子見するしかないのだ。

135 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/10/24(火) 22:09:41 ID:softbank126036058190.bbtec.net [49/308]

  • オラーシャ帝国 ペテルブルグ 502JFW基地 ブリーフィングルーム



 そのころ、502JFWの基地では、ラルとサーシャ、そしてカーチャの3名によるブリーフィングが開かれていた。
 それは、ただネウロイを倒すだけとは違う、戦略的な要素の大きなそれであり、今後の活動方針にも関わるところであった。

「やはり、ラドガ湖か」
「何度か長距離偵察を行った結果から考えて、ほぼ間違いないかと」

 モニター上に表示されたのはペテルブルグより北西方向にあるラドガ湖であった。
 ネウロイの巣「グレゴーリ」とその周辺に展開するネウロイにより形成された勢力圏は、しかし、気候などを要因とすると思われる停滞をしていた。
何故ネウロイが気候程度で動きが留まるのかはさておき、そこで止まっているということならば、そのように対処する必要がある。

「この湖付近……そしてペトロザボーツク市周辺がネウロイの最前線です」

 そう断言できたのは、これまで繰り返された強行偵察による結果から推測した内容だからだ。
 ウィッチだけでなく、長距離巡行ブースターを装着したMPFによる強行偵察も行い、どのあたりからがネウロイの勢力圏なのかをあぶりだしていったのだ。
インターセプトをどの範囲から受けるのか、繰り返し行ったことでデータを収集できたのが功を奏した。
 自らもMPFを纏い、実際に飛んで確認してきたカーチャは報告を続ける。

「ここから先はインターセプトの飛行タイプだけでなく、陸戦型のネウロイも多数発見できています。
 定期的にペテルブルグやその周辺に群れが飛来するのも、ここから発している可能性があります。
 来るべきネウロイの巣の攻略に際しては、最短ルートを確保するためにも押さえておきたい要衝ですね」
「だが、ネウロイもただでは譲らないつもり、か」

 プリントされた写真を手に、ラルはポツリと漏らす。
 そこには、大型のネウロイの姿が写っていた。膨大な数の護衛を引き連れ、悠然と浮かんでいる姿がわかる。
傍目にも骨が折れることは確実な、そんな大きな強敵であることが窺えた。

「しかも、新種です。陣地奥に引きこもっているので、能力についても未知数。
 ともすれば、ぶっつけ本番で撃破を狙うしかありません」
「危険は冒してほしくないですが、そうでもしないとならないのが辛いところですね……」

 サーシャは頭を抱えるしかない。
 実際、何度か502でも偵察に赴いてはいるが、それでも最奥に居座る親玉に接敵することはできていなかった。
事前情報などが乏しい中でこれを攻略しろというのはかなりの無茶とさえ言える。

「まあ、無理にこちらから攻める必要はないかもしれん」
「ですが、何をしてくるかわからないネウロイ相手に楽観が過ぎるのでは?」
「言ってみただけだ、サーシャ」

 ラルとて分かっている。

「とはいえ、後ろに展開されているグレゴーリをどうにかせねばおちおち南下もできん。
 ストリボーグ艦隊もいつ活動再開となるかわからん以上、現状の戦力で補給路の確保をしなければならんのは事実だ」

 だからこそ、北方は白海に居座るグレゴーリが邪魔、というわけである。

136 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/10/24(火) 22:11:27 ID:softbank126036058190.bbtec.net [50/308]

「気が遠くなるがな……」
「お察しします」

 最終目標はベルリンの奪還で、その為には「アンナ」「ヴァシリー」が邪魔で、しかして「グレゴーリ」がそのまた邪魔をする。

「神出鬼没なのと合わせて厄介極まりない。
 ともかく、我々としては橋頭堡になりうるラドガ湖のネウロイの排除を試みたいところだな。
 いずれ攻めてくるなら、先制攻撃をしたいところだ」

 問題なのは、とラルはペテルブルクからラドガ湖までを直線でなぞりながら言う。

「長距離侵攻はどうにかなるとして、湧いてくるだろうネウロイの処理だな」
「本命を倒す前に消耗させられては困りますからね」
「MPFならば爆装すれば大多数を蹴散らすことはできますが?」
「本音としてはネウロイの対処を優先してもらいたいところなのだがな……」
「ですが、爆装で周囲のネウロイを殲滅しなければ危険が伴います」

 サーシャの進言に、ラルは眉にしわを寄せて考え込む。
 戦力バランスとMPFのローテーション、そして予測される勝率などを鑑みて、割り振りをしなければならない。
長距離侵攻を行う関係上、AWACSの支援は必須であろうし、ウィッチたちをけん引する役目も必要となる。
それらの装備の準備とあれこれを考え、物資との折り合いをつけて---考えるだけで書類の山が襲ってきそうだ。

「……これ以上の偵察でもわかることは少ないかと思うけど、グンドュラ?」

 迷うラルに、サーシャは先達としての提案をする。
 慎重を期したいのはわかる。部下を死地に送るというのも、早々にできる決断ではないのだ。

「言ってくれるな」

 完敗だ、と両手をあげる。

「だが、襲撃のリスクがあることを考えて、全力出撃とはいかない。
 それにベテランだけですべてを解決するのは後進の育成のためにもよくない」

 よって、と決定を告げる。

「502からはジョゼ、下原、雁淵を出す。経験値を積ませてやってくれ」
「管野からは恨まれそうですね」
「何、あいつには書類仕事をやらせるさ」
「ふふ、了解しました。101の方の人選はこちらで行います、追って連絡します」
「ああ、待っている」

 斯くして、カーチャ命名「エレープ(ラッパ)」作戦は実施が決定。
 そして細部を詰めたのちに、部隊内で共有されることとなったのであった。

137 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/10/24(火) 22:12:55 ID:softbank126036058190.bbtec.net [51/308]

以上、wiki転載はご自由に。

カーチャは年齢的にはラル少佐より上なのですが、
階級および101が502の麾下の部隊という位置づけのため、
公的な場も含め、基本的にはラル少佐を立てる立場にあります。
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最終更新:2023年11月12日 14:31