194 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/10/25(水) 22:24:29 ID:softbank126036058190.bbtec.net [69/308]
憂鬱SRW ファンタジールートSS「氷の空の先に」2
- F世界 ストパン世界 主観1944年10月 オラーシャ帝国 ペテルブルグ 502JFW基地 通信室
ネットワーク上での会議を終えて、ラルは椅子の背もたれに大きく寄り掛かった。
全体から見ればほんの前哨作戦にすぎないそれにさえ、話が膨らんで大戦力の動員が決定されたのだ。
それに合わせ、話し合いの量も増えることになり、長時間の協議となったのである。
「失地奪還と防衛戦力進駐までやるとはな……」
そう、ペトロザボーツク市周辺のネウロイの排除のみならず、そこに防衛戦力を配置し、奪還してしまおうという算段になったのだ。
地球連合の参加にある国およびブリタニアからの戦力が抽出され、502が露払いを済ませた都市に突入、そこを奪還することとなった。
即日の内に拠点化を進め、グレゴーリ攻略への橋頭堡とする。同時に多方面から囲まれるペテルブルクの圧を分散させることも目的とされた。
作戦内容にも目的にも疑問はない。グレゴーリのある白海まで遠乗りで行くのは楽ではないから、前哨基地を設けるのは当然の話だ。
補給についても、カウハバからペテルブルクを経て、ラドガ湖を艦艇で運び、さらにそこから陸路を経れば維持できると判断された。
唯一問題が存在するとすれば、その軍の進出および拠点化ができるかは、502JFWの作戦遂行能力に左右されるということだ。
いや、問題と言っては失礼なのかもしれない。ともかく、確実に奪還しなければならないのだ。
問題があろうとなかろうと、それを超えて結果を出して、人類に貢献するのが義務であるから。
ベテランとは言えない面子であるが、彼女らの実力については問題ないと判断した。
後詰としてクルピンスキーとロスマンの2名がジェットストライカーで待機するという体制も敷いた。
(あとは未知のネウロイが一体どのようなもなのか、だな)
偵察でも動きを見せず、配下のネウロイに対処させるばかりで、その能力は未知数だ。
加えて、天候が悪い時ばかりであり、偵察結果が芳しくなかったというのもある。
まあ、情報が少ない中でのぶっつけ本番なのは今日に始まったことでもない。
命令が出されたら、それに返答して、義務を果たすのが軍人なのであるから。
「グンドュラ、抱え過ぎは良くないわよ?」
「カーチャ、抱えていない人間などどこにもいないだろうさ」
そう軽口をたたき、ラルは身を起こす。
今回の作戦にオーカ・ニエーバから陣頭指揮を兼ねて出撃するカーチャもまた、協議に参加して、盛んに議論を交わしていた。
「地球連合が連れてきた戦力というのは、あてになるのか?」
「なると思うわよ」
実のところ一番不安だったところをぶつけてみると、そんな曖昧さも含んだ答えが来た。
「ティル・ナ・ノーグにいたころに聞いた話だけどね。
世界は私たちがいる世界だけで完結しているわけじゃない。
違う歴史、違う選択、違う流れを辿った世界。我々の暮らす惑星とは違う惑星で生まれ育った人々。
選択肢や可能性は数えきれないほどあって、その数だけ世界がある」
「まるでフィクションだな」
「魔法やネウロイなんてものがいる時点で他の世界から見ればフィクションやファンタジーらしいわ」
ともあれ。
「他の世界で磨かれた人類の刃、信じてもいいんじゃない?」
「人類、か……」
同じ人類ならば、と思いたい。
502がそうであるように、出自や境遇の壁を超えて協力し合えると。
「人類の定義に、少し困るな」
そんなつぶやきを、思わず漏らした。
195 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/10/25(水) 22:25:33 ID:softbank126036058190.bbtec.net [70/308]
- 1週間後 オラーシャ帝国 ペテルブルグ 502JFW基地近郷
それから1週間余りをかけ、戦力の集結と準備が行われた。
寒冷地装備に身を固めたブリタニア陸軍および空軍。
地球連合が連れてきた、世界の外側からの援軍。
ティル・ナ・ローグで教育を受け、実戦訓練という形で派遣されてきたMPF部隊。
そして、地球連合の設営部隊---短期の内に防衛拠点を構築するための築城などを専門とする部隊と物資が届いた。
まさに大戦力。とはいえ、それらは後詰や補助だ。
一番槍という形でネウロイ支配地域であるラドガ湖の向こう、ペトロザボーツクを奪還するのは502JFWの仕事となる。
「なんで俺は待機なんだよ」
そんな中にあって、502JFWの基地で文句を垂れているのは管野だ。
一応彼女も格納庫において待機しており、何時でも出撃できる体制ではある。
だが、それは今回の失地奪還のためではなく、この502JFWの基地の防空を主任務とするための待機であった。
「不満か?」
「当たり前だ!俺が出た方が確実だろ!」
「ここにベテランを残しておかなければ、作戦が成功しても帰る場所がなくなる危険があるからな」
「ぐっ……」
噛みついた管野にラルは冷静に返答するのみだ。
502JFWの戦力の過半が基地を離れての長期作戦になるということは、それだけ基地の防衛が薄くなるということだ。
勿論、防衛設備もあり、また距離の防御でネウロイが直接攻撃にしにくいという点はある。
それでも、万が一の場合、ラルが言ったように作戦が成功したとしてもペテルブルクが攻め込まれて陥落しては元も子もない。
それどころか、動かした戦力がネウロイに包囲されて悲惨な目に遭うことが確定的になるのだ。
「ここにいる戦力はほぼすべて該当地域奪還のためにいなくなる。
MPF部隊も残ってはくれるが、おんぶに抱っこにされっぱなしでは502の面子も潰れる。
そのためにもお前をここに配置したんだ、そのことくらいは察してほしいものだな」
「最前線でネウロイを倒してこそだろ、ウィッチってのは」
「ここも最前線だ。オラーシャで安全な後方などない」
わかったか?と問いかけた先、言葉の剣幕ほど管野が激昂していないのを見て、ひとまず安どする。
実力的には申し分ないのだが、この逸りがちなところがもう少し直ってくれればと思う。
まあ、そこを含めて敢闘精神が高いのは評価できるのだが。
「……問題は、先行した部隊が包囲を受ける前に速やかに目標のネウロイを撃破できるか、だな。
長期戦も覚悟しているが、長すぎても停滞が発生し、危険が伴う」
「あ、あの、隊長。それってものすごく大変なんじゃ……?」
「当たり前だ。というか、今更だぞ、ニパ。
だが、ゲストに重要なところをやってもらう羽目になっては我々の存在意義がなくなる。槍の切っ先(スピアヘッド)は、我々が努めねばならん」
遠慮がちに進言したニパは、やっぱりぃ!と悲鳴を上げた。
ニパも管野同様にペテルブルクの防衛が任務ということで待機している。
今回の作戦で彼女が例によって「ついていない」が発動してしまっては非常に困るとの判断から、ここに残した。
こちらの方がフォローが効くし、何よりも影響を最小限に抑えられるためだ。
「まあ、いざとなればエディータとクルピンスキーがいる。
フォローの体制もできている。あとは、結果を待つのみだ」
ちらりと時計を見る。間もなく作戦時刻になる。
戦闘可能な時間を可能な限り伸ばすため、すでにウィッチとウォーザード達は凍り付いたラドガ湖を突っ切って移動している最中だ。
ここにいる今のラルにできることは、彼女らが無事に任務を果たすと信じて待つことだ。
「よし、私はそろそろCDCに向かう。何かあればサーシャに指示を仰いでくれ」
「了解」
「了解だ」
正直不安はある。けれども、彼女らの強さをそれ以上に信じている。
だから、ラルは足取りを緩めなかった。
196 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/10/25(水) 22:26:45 ID:softbank126036058190.bbtec.net [71/308]
最短ルートをとるために、ネウロイとの接触もありうる地表---というか氷上を突っ切っていくのは502に貸し出された輸送車両だった。
無限軌道で普段は走行、万が一氷が割れてもそのまま航行できる水陸両用車を改造して用意されたものだ。
牽引するコンテナ内部にウィッチとウォーザード達は待機しており、予定ポイントまで可能な限り接近したうえで出撃することになっている。
すでにコンテナ内部では準備が整っており、装着後に何時でも出撃ができる状態だ。それゆえに、緊張の糸が張り詰めていた。
大規模な作戦における槍の穂先として、一番重要な任務を果たさなければならないのだ。緊張しない方がおかしい。
「定子ちゃん、大丈夫?」
そして、ベテランでありこの中でも年長者でもあるカーチャの目から見て、定子は明らかに入れ込んでいた。
作戦に際して、緊張して力が入りすぎているともいえる。502に招聘されるくらいのウィッチの彼女がここまで緊張とは珍しい。
ひかりの方がむしろ堂々としており、集中力を高めるために呼吸を落ち着けながら作戦開始の時を待っているくらいだ。
「あ、その……」
「珍しい、というか、ここまで緊張をしているのはさすがに見過ごせないわね」
「……やっぱり定ちゃん、おかしいよ」
気が付いてはいたが、しかし、言い出せずにいたらしいジョゼもおずおずと尋ねる始末。
問われ、口を噤んでしまった定子の様子を察し、控えていたスタッフへと指示を出す。
「何か飲み物をお願い。作戦開始までまだ余裕はあるでしょ?」
「わかりました」
年長者のお仕事だ、とカーチャは頷いた。
恐らく彼女は作戦の重責に押しつぶされそうになり、卑屈になっている。
これでは勝てるものも勝てなくなるし、戦場では致命傷となりかねない。
「定子ちゃん、ちょっとお話しましょ」
「……はい」
穏やかだが、しかし真剣なカーチャの言葉に、定子は静かにうなずいたのだった。
197 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/10/25(水) 22:28:07 ID:softbank126036058190.bbtec.net [72/308]
「……おかしい」
「どうしたの、今度は雁淵軍曹?」
コンテナから雪上車側の個室に移動した定子とカーチャを見送り、その際に外の様子を見たひかりは一人呟いた。
それに反応したのは鏡子だ。何やら集中を高めていたひかりが外を見てから考え込んでいたのを見抜いていた。
「いえ、違和感を感じると言いますか」
「具体的には?」
ひかりが無駄なことを言いだす性格ではないと理解しているので、鏡子はとりあえず聞いてみることにしたのだ。
「オラーシャに来たのは初めてなのですが……ここはこんなにも寒い土地なのでしょうか?」
「……えっと?」
「今はおおよそ10月半ばを過ぎたあたりですが、すでにラドガ湖は凍結、さらに雪まで降り、ペテルブルクまで寒さが来ています。
例年のデータを確認したのは少し前なので、あまり正確ではないかもしれませんが、ここまで冷えるということはあるのでしょうか?」
「……気象は年によって程度が違うものだから、誤差の範疇じゃないの?私も偉そうなことは言えないけど」
実際、鏡子もオラーシャ方面で戦った期間はそう長いとは言えない。
元々渡欧部隊の一員ではあったが、オラーシャ方面に赴任するのは初めてなのだ。
そのため、こちらの気象や風土などについての知見はまだ一年分程度しか貯まっていなかったため、断言できなかった。
「そうだといいのですが……気象レーダーの情報だと、妙に寒冷前線の動きが鈍いようにも感じます。
まるで一定の位置にとどまり続けようとする意志が働いているような……」
「そういうものだから、という認識だったけど、軍曹は違うと思うわけ?」
「はい。このラドガ湖の氷結にしても、例年ならば11月から12月にかけて徐々に進むもののはずです。
一部が凍結する程度ならばともかく、こうして車両が走行できるほどの氷が張っているのは、本当に自然なことなのかと」
「まさか……ネウロイが?」
確証はありません、とだけ補足する。
だが、ティル・ナ・ノーグでの訓練の中で、ネウロイ以外の、この世界の外で現れた侵略者の情報を知っているひかりはそう判断したのだ。
侵略者の中には、地形や気候までも変化させることができる強力な力の持ち主が多くいたと教えられた。
勿論それらについて詳しいわけではないが、そういったこともしてきた経験が地球連合にはあるのだと。
同じように考えた場合、ネウロイは何らかの方法で気象に影響を及ぼしているのではないかと、そう思えたのだ。
「……少し問い合わせてみる必要があるわね。ちょっと待っていて」
「はい、私は?」
「いつネウロイが来てもおかしくないから、そのまま待機しておいて。何かあればAWACSから報告が来るから。
……もしかしたら、作戦に大きな影響が出るかもしれないから、急がないと」
ともあれ、と急ぎで鏡子は本部への問い合わせを行うことにした。
もしもひかりの懸念が当たっているならば、とんでもない苦戦を強いられることになりかねない、と。
「どうした、鏡子?」
「カーチャさん、少しお聞きしたいことが……」
丁度戻ってきたカーチャはただならぬ気配を察し、一つ頷いた。
小さな気づきに始まる動きが、大きくなり始めていたのだった。
198 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2023/10/25(水) 22:29:30 ID:softbank126036058190.bbtec.net [73/308]
以上、wiki転載はご自由に。
ネウロイが原作よりもやばいってのは散々言われていましたからな。
さあ、次回からいよいよネウロイとの激突です。
最終更新:2023年11月12日 14:34