235 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/10/26(木) 20:26:14 ID:softbank126036058190.bbtec.net [85/308]

憂鬱SRW ファンタジールートSS「氷の空の先に」3


  • F世界 ストパン世界 主観1944年10月 オラーシャ帝国 ラドガ湖 湖上 輸送車両


 作戦開始を1時間遅らせる決定が各部隊に通達されたのは、輸送車からペテルブルクの作戦司令部に報告が飛んでからしばらくしてのことだった。
 天候を操作あるいは影響を及ぼすタイプのネウロイの影響力の中で戦うという事態が避けえず、その対策が必須になったためだった。
後詰のMPF部隊および大型掃討ヘリ、さらにペトロザボーツクを制圧・防衛する予定の部隊も装備の確認を強いられた。

 特に直接攻撃を行うウィッチやウォーザード達はストライカーユニットや武装などが凍結しないように対策を行うこととなった。
極寒を想定したサーマルジャケットと加温機を追加で武器やユニットへと装着し、時間制限付きながらも動作を確実なものとしたのだ。
とはいえ、加温機の性能にも限界はあるため、短期決戦が望ましいのは変わらない状況だ。
そもそもMPF「クリスタル・リッター」のそれを急遽転用した形であるため、本来はストライカーユニットとは噛み合わないものである。
加えて、エーテル供給で動作するそれは、ストライカーユニットの補助エーテルリアクターで動くには必要出力が大きかったのだ。

 MPFは魔導装甲自体が発熱機能を有し、またクリスタル・リッターからの装備の流用が利くため、比較的マシな状態であった。
問題なのはネウロイがどの程度の影響力を及ぼしてくるのかわからない点であり、こちらも短期決戦が望ましかった。
ウォーザード2名は取り巻きを可能な限り倒して血路を拓く必要があるため、なおのこと負担は大きかった。

「ご苦労様、みちる」
「どういたしまして。
 でも、まさかネウロイがこんなことをしてくるなんて、思いもよりませんでした」

 基地防衛のウォーザードとして残っていたみちるは、急遽武装コンテナを担ぎ、必要な物資などを詰め込んでデリバリーをする羽目になっていた。
 そして現場にいた人員が総出で作業を行い、何とか全員分の装備に極寒の状況下での運用に備えた調整を施し終えたのだ。
 急遽の派遣であり、作戦開始の遅延を少なくするために突貫作業を強いられたため、みちるは戦わずして少なくはない疲労を感じていた。
とはいえ、これから戦闘の人員の手前、それをおくびにも出さないくらいの気遣いはできた。

「これは本命のネウロイも、個別の戦闘能力という意味で相当厄介かもしれませんね」
「ええ、でもそれを乗り越えてこそよ」

 みちるの言葉にしかしカーチャは力強く答える。
 条件は厳しく、また、状況は悪化しつつある。その中で目的を果たすのは楽ではない。
 だが、やらねばならない。常人には無理でも、それを乗り越える力を有しているのだから。

「わかりました。隊長のご武勇をお祈りいたします」
「ありがとう。基地の方の防衛も、ウォーザードは一人しかいないから頑張ってちょうだいね」
「はい、それでは」

 ふわりと大分軽くなったコンテナを担いで、再びみちるは空に舞い上がる。
 ここから急ぎで基地に戻って、装備の交換作業と戦闘準備を再度するのだ、時間の余裕はなかった。

「……ネウロイがこちらに感づいたら、飛べなくなるかもしれないわね」

 だからこその短期決戦であり、首狩り戦術。
 相手の気候変動までも起こすネウロイを、一気に撃破して戦局を優位に書き換える。
 それができなければ?言うまでもない、戦域全体が恐ろしい寒さに襲われ、逼塞せざるを得なくなるだろう。
 そして、じわじわと寒さと攻勢でなぶり殺しにされ、ネウロイによってオラーシャ全土が支配される。
 ひいては、北方からのネウロイの巣攻略やその先にあるベルリン奪還なども遠のいてしまうことだろう。

236 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/10/26(木) 20:27:20 ID:softbank126036058190.bbtec.net [86/308]

 改めて、カーチャは背負うものの大きさを認識した。

(定子ちゃんが参っちゃうのも、しょうがないわね)

 作戦直前になってメンタルケアをやる羽目になったのも無理からぬ話だ。
彼女は実力を備えているウィッチだが、目立つところが小さかった。
それ故に、自分の力不足を自分で責めてしまい、卑屈になっていたのだ。
自分の実力を過信するのも危険だが、過小評価もまた危険だと、カーチャは経験則から知っている。
思い込んでしまうと、どうしても心理的な影響もあってウィッチは本来の実力を出せないものと言われている。
記憶に新しいオーバーロード作戦での撤退戦も、まさにそれだった。ネウロイの大攻勢を前に心が折れてしまうウィッチがいたのだ。

(いいえ、今は……)

 作戦に集中だ、と頭を切り替える。
 あの時以上に力をつけたのは、同じような目に遭うのを避けるためなのだから。
 繰り返すわけにはいかないのだ。

「各員、出撃までチェックを怠らないように。
 作戦開始は……まもなくよ」

 了承の返答の声を聞きながらも、カーチャは己のブライト・リッターへと歩を進めた。


  • オラーシャ帝国 ペテルブルグ 502JFW基地 CDC

 CDCに詰めているラルは、気象レーダーからの情報を常に確認していた。
 やはりというか、ネウロイがいると思われるペトロザボーツク周辺空域には寒冷前線が居座っているのがわかる。
そのおかげである程度範囲を絞ることはできた。刻々と変わり続ける気象の中で、変化の乏しいところを見出せばいいからだ。

(とはいえ、それでも範囲が広いことに変わりはないからな……)

 少なくとも標的のネウロイの周辺は吹雪に近い状況だ。
 迂闊に飛べば、ストライカーユニットもMPFも凍結による動作不良を起こしかねない。
 こちらでとらえている気象レーダーの情報の共有は、この作戦においては絶対に必要だ。
 幸いなのは、遠方を見通す魔眼を持っている定子がその最前線にいるため、目視でのネウロイ発見に期待が持てるということである。

(問題は、下原のメンタル面か)

 だが、その定子がメンタル面で不安定になったというのは不運でもあった。
 カーチャが聞き出したところによれば、原因としては不出来な自分という思い込みと、出来過ぎる新人との比較にあったという。
 一先ずの所、話を聞き、簡易ながらもケアを行ったことで作戦続行は可能と判断されたが、不安要素なことに変わりはない。

(とにかく、出来ることはやった。あとは結果を待つのみだな)

 そして、時計を確認する。
 作戦開始を遅らせてから、もう間もなく一時間が経とうとしていた。
 待ったをかけることは難しく、早くにネウロイの撃滅が必要だ。
 各所に確認の通信を飛ばし、返答を受けたうえで、ついに告げる。

「司令部より各隊へ……時間だ、作戦開始」

 その言葉を以て、各所で一斉に部隊が動き出した。

237 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/10/26(木) 20:27:53 ID:softbank126036058190.bbtec.net [87/308]

  • オラーシャ帝国 ラドガ湖東岸 数十キロ地点 上空


「もう吹雪いてきているわね……」

 カーチャはエーテルバリアに刺さる雪と風を見ながら、そう呟く。
 ラドガ湖をギリギリまで進んだのち、輸送車から発進したウィッチとウォーザード達はペトロザボーツク方面へと飛んでいた。
AWACSを務めるバルバラの誘導と索敵情報を基に、可能な限り無駄なく、そして戦闘を避けて飛行を続けていた。
 問題のネウロイによる影響なのか、すでに軽い吹雪が発生しており、視界は安定しない状況だ。
 ついでに言えば雪も叩きつけるようになっており、風も強く飛行に影響しかねないレベル。
 とはいえ、これの先にいるのだから、恐れずに進むしかないのだ。

「101W001よりAWACS、状況は?」
『AWACSより101W001、今のところ索敵範囲にネウロイは見られず……光学視認の状況はどんどん悪くなっているね』
「それだけネウロイが近いということでもあるが……502W008からは?」
『こちらもまだ発見できていないみたい』
「101W001了解、何か見えたら報告をすぐにお願いね」

 了解の声を送った先には、AWACSのバルバラのほかにも定子が観測要員として随行していた。
 AWACSと同じ高高度を飛行しながら、開けた視界の中でネウロイをその魔眼で探してもらっているのだ。
索敵に集中できるように、バルバラのスカイ・リッターによって牽引される形での飛行を行っている。
まあ、そう簡単に成果は出ないとは覚悟していた。焦りすぎれば、いざというときに失敗を招くのだから。

 そして、合同部隊はその後十数分間飛行を続けた。
 その間にも徐々に燃料と魔力は消費されていき、また、吹雪が徐々に体力などを削っていく。
 時間の経過も合わされば、誰もが焦れてくる。

『502W008より各員、雲に動きが……これは……?画像、共有します!』
「各員、HUDを確認!」

 急な定子の叫び。
 HUDに表示されるその映像には、明らかに不自然な動きをする雲の塊が存在していた。
 そして、雲の合間からは唐突に多数のネウロイが展開をはじめるのも確認できた。

「101W001よりCP、目標ネウロイと思しき集団を補足。これより戦闘態勢に入る!
 各員、所定の配置に!」

 カーチャの声を受け、フォーメーションが変更される。
 カーチャと鏡子を前衛にし、ウィッチ3名が後方につく形だ。
 いや、それはただの配置変更ではない、本命がいるであろう雲の中へ、ウィッチたちを送り届ける突撃の槍であった。

「攻撃開始!」

 飛来するネウロイに対し、MPF「ブライト・リッター」はその搭載火力を解き放つ。
 大多数を蹴散らすことを前提に、ホーミングレーザーキャノンを背負い、また弾幕形成のマギリングガトリングキャノンを抱えていた。
更には空対空ミサイルポッドを翼部に吊り下げ、腰には120㎜滑腔砲という重武装であった。
大量の敵機に対して手持ちの武器と合わせ、一斉放射されるそれらは、瞬く間にルートを広げていく。
 だが、そうやすやすと行くものでもなかった。徐々に吹雪が強くなりつつあり、弾道軌道に影響が出ているのだ。
直撃を得た数は多いとはいいがたい。それでも、湧いてきたネウロイの多くが一度に撃墜され、ルートが開いた。

「進んで、時間がない!」
「了解です!皆さん、続いて!」

 ギリギリまで火砲で道を拓いたカーチャに指示され、魔眼を光らせた定子が先頭を行く。
 ここから先はウィッチたちの出番だ。なればこそ、ウォーザードがやることも決まっている。
 カーチャはその場で反転すると、残りのネウロイの群れに向き直った。

「無粋な連中を蹴散らすわ、鏡子、あの子たちの援護を」
「承知しました!」

 送り出すだけ送り出せた。
 あとは、追撃しようとする雑兵を食い止め、如何に持ちこたえるかだけだ。

「舐めるんじゃないわよ、ネウロイ!」

 獰猛なまでに吠え、カーチャは火力を叩きつけた。

238 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/10/26(木) 20:28:36 ID:softbank126036058190.bbtec.net [88/308]

 ひかりは加速度的に天候が悪化し、視界が不良になっていくのを実感していた。
 また、武器やストライカーユニットにつけた加温機が稼働して熱を必死に生み出しているのも。

『ネウロイは補足できています、このままついて来てください!くっ……』

 吹雪の中でも、定子の声は何とか無線で届いた。
 また、HUDに表示されたレーダーによって、迷うことなくひかりとジョゼは飛行を続行できた。
 出来てはいるが、同時に限界点が近づいているという予感も。長く浴び続けていたら、やがて凍り付いてしまうかもしれないという恐怖が。

(え、熱?)

 しかし、その時ひかりは確かに感じ取った。
 この寒波の中にあって、寒さにむしばまれる体やユニットを温める、ちょっと強烈なくらいの熱を。

「持ってきて正解だったわね……」

 それは、やや先行して飛行し、ホーミングレーザーキャノンをばらまきながらこちらを向くみちるの姿だった。
 両手で構え、後方に向かって放射しているのは---

「エーテル式火炎放射器!通常の火炎放射器と違って、早々に止まらないわよ!」

 そう、エーテルリアクターから供給されるエーテルを交えた火炎放射器であった。
 通常のそれよりも射程が長く、尚且つネウロイに対して早々に消えない強力な燃焼による攻撃を可能とするそれは、熱量を生み出す道具としても使えたのだ。
単なる吹雪から猛吹雪になりつつある中にあって、その熱は、確かにウィッチ3人を温め、守りを与えていた。
身体やユニットに感じていた違和感がほぐれ、動きがよくなるのを感じる。これならば、あと少し先のネウロイにたどり着ける。

「感づかれた……!」

 しかし、鏡子はHUDの警報とほぼ同時に回避運動。狙い撃ちしてきたレーザーを回避する。
 同時に武装ハンガーに搭載してきた兵装の一部をウィッチ達に投げ渡す。

「定子さん、ネウロイは……!」
「もう目の前です!」
「わかった、3人はこのまま行きなさい!あとそれ、ウィッチでも使えるはずだから!」
「は、はい!」
「任せてください!」
「落ちたら助けに行くから、信じてなさい!」

 最後まで気に掛ける言葉を受けつつも、ここまで温存できていた加温機を稼働させ、3人のウィッチは前進を選んだ。
 立ち上がる雲の中、気象にまで影響を及ぼすであろうネウロイがいる。
 それの排除の邪魔はさせない。その決意と共に、火炎放射器を武装ハンガーに預け、代わりにマギリングマグナムを両手に構える。
 視界は不良で、猛吹雪の中だ。機体そのものは問題なく動作するが、動きが平時とは違うのは避けえない。

「正念場よ」

 自分に渇を入れる。
 あの時、オーバーロード作戦の撤退戦の時のように。されども、逃げるためではなく、勝ち取るために。
 ネウロイはこの吹雪でもある程度動きは制限されているようだが、未だ健在だ。
相手の動きは若干鈍いが、こちらも狙いがずれたりFCSの追尾が追い付かないこともある。
だからこそのマギリングマグナムだ。多少狙いが外れていようが、至近弾でもエーテルはネウロイを焼き尽くす。
 そんな彼女の援護のもとに、ついにウィッチ3人はたどり着いた、元凶へと。

「W009、エンゲージ!」
「W007、エンゲージ!」
「W008、同じくエンゲージ!」

 ひかりらの声は通信回線を通じ、各部隊に伝わったのだった。
 それは、彼らの努力が報われた証であり、同時に、作戦の最重要ポイントにぶつかった証であった。

239 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/10/26(木) 20:30:23 ID:softbank126036058190.bbtec.net [89/308]

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多段ロケット方式で本命のウィッチたちをネウロイの所へ。
次回、決戦です。
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最終更新:2023年11月12日 14:35