307 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/10/28(土) 19:16:05 ID:softbank126036058190.bbtec.net [107/308]
憂鬱SRW ファンタジールートSS「氷の空の先に」5
- F世界 ストパン世界 主観1944年10月 オラーシャ帝国 ペテルブルグ 502JFW基地 CDC
「そうだ、こちらも吹雪になり、直掩のウィッチが出せない。
出せているのは工藤だけだ。各監視所は警戒を厳としてくれ、敵襲の可能性は十分にある」
CDCの中央、インカムをつけたラルは各所へと指示を飛ばしつつ、情報を集めていた。
寒波はペテルブルクにも襲い掛かっており、窓の外はまともに見通しが効かない世界だ。
さらに吹雪の影響もあって、ウィッチなどを飛ばせない状況に追い込まれていた。
大型ネウロイによると推測される、大寒波の誘引とそれに伴う戦力の行動停止、想定以上に厄介であった。
(ぬかったな……ネウロイがこういうことをしてくると想定しきれなかった)
例年よりも寒さが厳しいという認識であったから、これがネウロイの能力によるものとは考えもしなかった。
ネウロイ達が人知を軽く超えることなど、これまでにかなり経験してきたはずだというのに、それを見抜けなかった。
だが、今後悔したところで何かが変わるわけではないのだ。
だからこそ、それを補うべく行動を重ねているのだ。
「少佐、ユーティライネン中尉からです」
「繋げ」
『こちらユーティライネン、陸戦MPF部隊およびモートラート部隊の展開を完了した。
だが、こちらでも索敵範囲はあまり広いとも言えんな。対空戦闘力は砲台かそれ以下だと思ってくれ』
「いや、十分だ。
ペテルブルクの防衛設備の穴を埋める戦力がいるのはありがたいことだからな。
ウィッチができない分、ユーティライネン中尉達陸戦戦力が頼りだ、頼んだぞ」
『了解した』
一先ず打った手としては、吹雪の中でも稼働する防衛設備を戦闘態勢で稼働させたこと。
そして、こういった環境下での行動を前提としている陸戦MPFやモートラートで部隊を編成して展開させることだった。
この吹雪で防衛設備も全力稼働ができるわけではないために、少しでも壁となる戦力が欲されていたのだ。
無論、陸戦戦力であるので、航空戦を仕掛けてきた場合には頼りになれるとはいいがたいのが実情だ。
頼れるのはMPFのみちるだけであり、彼女一人で守るにはあまりにもペテルブルクが広すぎる。
「少佐、非戦闘要員の地下シェルターへの退避、完了しました」
「ご苦労。これであとできることは……前線の連中にかかっているな」
「目標のネウロイを倒せば、この天気も……?」
「可能性としてはな。ありえない天気を無理やり再現しているなら、元凶を断てば解決する可能性がある。
そうなれば、今は逼塞している戦力も動かせるだろう」
逆に言えば、とラルは言葉を濁す。その先はこのCDCにいる誰もが理解していることだ。
(このままでは、ペテルブルクごと凍り付く。
我々や今後の作戦のために集まっている戦力ごと)
もどかしさのままに、ラルは拳を強く握りしめていた。
308 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/10/28(土) 19:17:47 ID:softbank126036058190.bbtec.net [108/308]
空中に、巨大な火の玉が生まれた。
それは、ペトロザボーツクの空域を満たす猛吹雪の中にあって、小さくはあったが、確実な熱を生み出した。
「よし……」
その熱で強引ながらも気温の低下に抗ってみせたのは、ひかりだ。
凍り付いて動作しなくなった250ミリバズーカの弾倉を取り外し、その中に残っていた砲弾を放り投げ、M2の銃撃で着火したのだ。
やや強引ではあるが、生み出された熱がストライカーユニットの凍結を緩め、また、冷えていた体を温める。
「これで少しはましになりましたね……」
「一瞬だけですけどね」
だが、貴重な延命であったのは確かだ。
「ひかりさん、どうです?」
「徹甲焼夷弾もやはり発砲されてから一定距離で信管がやられますね……外逸の可能性もありますし、頼れるとはいいがたいかもしれません」
そう、この砲弾の着火は、徹甲焼夷弾の動作確認も兼ねていたのだ。結果としては、数十メートルほどで限界点であるとの判断が出た。
つまり、同じように砲弾をネウロイにぶつけ、それを打ち抜いてとどめを刺すにはそれだけの距離に接近しなければならないということ。
それをやろうものならば、近づいた時点で標的のネウロイの冷却効果を受けて途中で墜落は避けえないだろう。
かといって、これを起爆しながら近づこうにも、今度はストライカーユニットの方が爆発の被害で動かなくなる可能性もある。
そも、砲弾を投げるにしても、如何にウィッチであっても重量のあるそれを投げられる飛距離などたかが知れているのだ。
「……何とか熱を生み出せればチャンスはあるんですが」
「熱……」
ひかりの言葉に反応したのはジョゼだ。
「あの、私なら熱を生み出せます」
「本当ですか?」
「ジョゼは治癒魔法が使えて、その時に熱も発生するのよね。
そうか、それを使えばストライカーユニットの凍結を抑えられる……」
「で、でも……誰かが怪我をしていないと使えないんです」
「だよね……都合よく怪我をするわけじゃないし」
話し合いをしている間も、寒さはこちらをむしばむ。
ネウロイも冷気をぶつけてこようとプロペラの向きをひっきりなしに変えるので、それに合わせて動きながらであった。
「……どうにかなる、かもしれません。
お二人とも、ちょっと荒唐無稽かもしれませんが、聞いてくれますか?」
ひかりはそこから急ぎで組み立てた策を伝えた。
『いや、聞いていたけど正気じゃないよね!?』
AWACSのバルバラは思わず漏らした。
それしかないのはわかっているが、ほぼ博打のようなものだ。
502JFWの基地からは突入部隊の撤収の許可、というか実質的に撤収の指示も出ているというのに。
309 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/10/28(土) 19:18:24 ID:softbank126036058190.bbtec.net [109/308]
だが、ひかりは力強く言う。
「ここで倒さなければ作戦は停滞、最悪失敗です。
それによって生じる被害を予想するならば、ここで無茶をした方が安上がりです」
『自分たちの命まで賭けるなって言いたいんだけどね。
それをしても大勢が変わらないことだって十分あるんだから』
オーバーロード作戦を経験したバルバラの言葉は重たい。
実際、そんな場面も多かったのだろう。
先任であり、経験豊富な彼女の言を否定することはできない。
「ですが、これしかないのも事実。ならば押しとおるまでです。
私、分の悪い賭けは嫌いじゃないですから」
「うわ、管野さんみたいなことを……」
降参だ、と定子は両手をあげる。
「もう、分かりました。腹を括りましょう」
「はい……」
『……いざとなったら、全員回収して離脱するからね!?』
賛同も得られた。それに笑みを浮かべ、ひかりはジョゼと定子と共にネウロイへ飛び掛かっていく。
当然であるが、その動きはネウロイに補足されている。満身創痍に近いとはいえ、生き残っているレーザーが飛び、さらには冷気が襲い掛かった。
プロペラ部分の損傷も激しいが、それでも冷気を生み出すこと自体はできる。まともに浴びれば、今度こそ墜落だろう。
「うっ……くっ……」
「やっぱり近づくだけで……!」
「まだまだぁ!」
しかし、彼女らは怯まない。
冷気の比較的弱いところを潜り抜け、必死に進むのだ。
彼女らのHUDには、目指すべきポイントが表示されているのだから。
『こっちでの準備は完了したよ』
「了解……!」
バルバラの声を受け、さらに前進。
しかし、その時ついに定子のストライカーユニットの加温機が過負荷で停止してしまった。酷使の結果だ。
「想定内です!」
それを情報としてHUDで確認したひかりは、すぐさま定子を肩車するようにして支え、そのまま飛行する。
しかして、ひかりの千鳥とて余裕があるわけではない。最新鋭に近いからこその微妙な耐久の差が支えているにすぎないのだ。
そして、ジョゼが直近にいることを確認したうえで、ひかりは歯を食いしばって---
「っ、ぁ……!」
頭を定子の履く紫電二一型に自ら叩きつけた。
当然出血した。意識が揺さぶられ、平衡感覚が揺らぐ。いけない、と思うも、対応が追いつかない---と思ったとき、不思議と身体は動いた。
些か以上にやりすぎたものの、それでも何とか姿勢を維持したまま、ジョゼの接近を許したのだ。
「な、治します……!」
そして、ジョゼの治癒魔法が働いた。
生じる熱も動員し、定子とひかりのストライカーユニットを解凍していく。
ついでに、武器についてもだ。定子の持つM2が解凍されて、全く役に立たない状態から復帰する。
310 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/10/28(土) 19:19:49 ID:softbank126036058190.bbtec.net [110/308]
やりました、と快哉をあげようとして、ジョゼは別ななにかに遮られた。
「……肉体との同調率を上昇。姿勢制御を優先。魔力循環維持、問題なし」
「ひっ……!?」
その時、ジョゼは見て、聞いて、感じてしまった。
力を失ったかに見えたひかりが顔をあげた時、瞳も、漏れた声も、気配も、まるで別人のようになったのを。
いや、それはもう人ではない。ネウロイとも違う、まるで見たことのない怪物のようで---
『座標入力完了。信管は停止の設定、落下速度制御モード。皆……信じているよ、FOX2!』
そんなジョゼを正気に戻したのは、上空のバルバラの声だった。
彼女のスカイ・リッターが翼部のハードポイントに抱えていた空対空ミサイルが全弾発射され、一気に迫ってくるのだ。
全部で8発。それこそが、本命であった。
「私、限界です!堕ちます!」
そこが、ジョゼの限界だった。
魔力がまだ残っていて尚且つストライカーユニットが動く内にと、防御姿勢をしながらも落下していった。
あれならば地面にキスすることなく、ギリギリ対空出来るだろうと考え、定子はM2を構え、待ち構える。
暴発しない程度に温め、温存しておいた徹甲焼夷弾のマガジンを装填し、狙いを定める。
HUDには、ネウロイのコア付近目がけ、殆ど落下するようにして飛来するミサイルとの距離などが表示されていた。
距離にして100メートルほど。これが近づけた限界点。これ以上はジョゼによる回復も見込めない。
全弾発射した空対空ミサイルを撃ち抜き、コアを木っ端みじんにしなくてはならない。
(落ち着け、私……!)
定子は、集中した。
すべては自分に託されている。
どうしようもないと思っていた自分にとっては、正直泣き出しそうなほどの重役だ。
逃げ出したいし、誰か別な人に譲りたいくらいだ。ぜひとも代わってほしい。
(でも、私が、私がやるんだ!)
けれど、代わりなどいない。この場にいて、一番頼りになるのは自分なのだから。
こんな役目を望んだわけじゃないけれど、こんな物語の主役みたいなことをできるとは思えないけど、それでも。
「目標物、飛来!」
変質したひかりの様子に気が付かないほどに、意識を研ぎ澄ます。
チャンスは八発もあるが、しかし、それらは自重と重力による加速を受け、一瞬間で通り過ぎてしまう。
寒さによる照準からの外逸の可能性もあると考えれば、至近距離と言えども油断ならない。
(みんなが信じてくれた私を、私が信じるんだ!)
HUDにカウントダウン。
もう数秒もない。
引き金に指をかけ、左手で重心を支え、光学サイトを覗き込み、狙う。
そして---
「今!」
発砲と弾丸の発射、そして落下してきたミサイルと弾丸の激突が、刹那の間に生じた。
311 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/10/28(土) 19:22:20 ID:softbank126036058190.bbtec.net [111/308]
生じた爆発は、連続していた。
定子の発射した徹甲焼夷弾の嵐は、順番に落ちてきたミサイルの三発目を見事に打ち抜き、起爆させたのだ。
当然だが、その爆発は他のミサイルにも連鎖し、巨大な爆炎となり、衝撃と爆圧と火炎で周囲を焼き尽くした。
露出し、自らの放った冷気で冷え切っていたネウロイのコアをもまとめて。
そして爆発は、コアだけでなく、損傷をしていたネウロイの身体もまとめて吹き飛ばしたのだ。
元より攻撃を連続で受けてガタガタになっていたのだから、ミサイル8発分のそれらに耐えきれるわけもない。生じるは必然的な破壊である。
勿論、とっさに残っていた魔力を注ぎ込んでシールドを張っていたと言え、ひかりと定子が無事であるはずもない。
彼女らはまとめて吹っ飛ばされ、あらぬ方向へと落下していってしまう。
今度こそ衝撃で揺さぶられた二人はそのまま落下していき、地面が迫っていく---が、そこに強引に割り込む存在がいた。
「捕まえ、た!」
バルバラだ。爆発を確認し、ネウロイの反応が焼失したのを確認するや、彼女は一気に急降下を選択した。
二人が落下していく速度を超え、肉薄したバルバラは二人に素早く手を伸ばして捕まえ、しっかりと抱え込んだ。
後は制動をかけつつも、進路を変更していくだけだ。
「……!空が!」
先に落下し、しかし低空で待機していたジョゼを確認して、傍に降り立ったバルバラの声を受け、ひかりは何とか上を見上げる。
そこには、空があった。
冷気と雲と雪に閉ざされ、蓋がされてしまった逼塞の天蓋ではない。
それらが取り払われ、厚い雲の向こう側にあった太陽が顔をのぞかせ、さんさんと光を降り注がせている光景だ。
ネウロイに支配され、何の自由も喜びもない、無感情な空ではない。
「守るべき、空……」
それを、意識が朦朧としながらも、ひかりは見た。
ああ、守れたのだと。あの時認識した、自分の守るべき空を。
そして、ぷっつんと緊張の糸が切れてしまった。
「ちょっと、大丈夫!?」
今度こそ完全に意識を手放し、その体はバルバラの手の中で力を失ってしまった。
「落ち着いて、カルガモちゃん……ちゃんと生きているよ、無理もない」
「まったく、無茶にも程があるわ」
慌てたバルバラだが、やんわりと諫める声を受けて気が付いた。
「カーチャ隊長、それにキョウコ!」
「ここまで分の悪い賭けで勝つなんて、彼女、悪運があるのかしらね?どう思う?」
「ちょっと信じられないですけどね……というか、アーマードネウロイを倒したと思ったら、一番取り乱したのは隊長だったじゃないですか」
「それはそうよ。必死に戦って勝てたと思ったら、無茶なことをしていたんだもの」
軽口を叩いてはいるが、彼女らのMPFも損傷が見られ、武装の脱落も見える。相当激戦だったらしい。
さて、と仕切り直し、カーチャは告げる。
「作戦はまだ続行中。彼女たちの分も働かないと。行くわよ」
「了解!」
作戦の山場は超えた。なれば、あとは目的を果たすのみだ。
勇敢なウィッチ3名に報いるべく、寒さで逼塞していた各部隊は一斉に動き出したのだ。
目標のペトロザボーツクは、目の前だった。
312 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/10/28(土) 19:22:57 ID:softbank126036058190.bbtec.net [112/308]
以上、wiki転載はご自由に。
長くなりましたが、メインの戦闘は終了となります。
盛り込むべき要素がたくさんありましたが、成し遂げたぜ。
けど、後始末の話をそれなりに書かないとならんとです。
最終更新:2023年11月12日 14:46