501 :ヒナヒナ:2012/03/08(木) 22:07:45
○TSUNAMI


「TSUNAMI」
それはもはや世界言語であった。

かつて、多くの国ではその稀な現象に固有名詞が付けられていなかった。
英語圏においては単に「Big Wave」であるとか、
少し気の利いた言い方では「Tidal Wave(潮汐波)」という言い方をされ、
どちらも、地殻変動によって引き起こされる波という
津波の本質を表したものではなかった。

日本語においても過去には「海嘯」という言葉が使われていたが、
これは中国において大きな潮波が河を逆流する現象を指す言葉で、
津波の本質を表していない。
そのため「津(港)で突然現れる大波」という意味の「津波」が当てられた。

さて、この言葉が世界言語となったのはもちろん大西洋大津波の時と言われていた。
この頃、欧州列強では「TSUNAMI」という言葉が学者発で使われだした。
しかし、真の意味で「TSUNAMI」が一般に広がったのは大戦後だった。

日本の影響力が及ぶ範囲(実質的支配地域にある国家や、友邦)の教育機関等に、
日本から「TSUNAMI」についての教育の時間を取ることが提案されたのだ。
もちろん、教育に関する過度の干渉は内政干渉に当たるのだが、
内容が災害に対する原理とその対処方法についてというものであり、
実施国、自治体が望めば、日本から研究者が派遣され、
基幹教育者への講習会も開催するというものであった。

地震を感じたら、高台に逃げましょう
ラジオでどこかで地震があったと聞いたら海から逃げましょう
川沿いや海岸線からは離れましょう
何回も波が来ることがあります
大きな船に乗っていたのなら沖合に出ましょう
Etc.


具体的な指示が入った教訓は、多くの人々が望んだ。
「津波なんて私には関係ない」といった考え者もいたが、
少し先が見える人物はこれが沿岸国なら何処でも起こりえること、
そして、一国を滅ぼすに足る威力であることが分かるためこういった教育を推進した。

学校の集会で、企業の研修会で、多くの国、地域で津波教育が行われた。
各政府機関も沿岸地域に大きな被害をもたらした大西洋大津波に恐怖を感じ、
原因や対処法を各国で独自に模索はしていたが、
民間に広く対処法を伝えるまでには至っていなかった。
日本は民間に広く災害の怖さを広め、その対処法を広めた。

もちろん、憂鬱日本が単に親切心からこんなことをするわけが無い。
この原因は戦後直ぐの頃にあった。

502 :ヒナヒナ:2012/03/08(木) 22:08:16


―1943年6月 ある日の夢幻会


「この計画で津波の恐ろしさを更に知って米国を滅ぼしたのは津波である。
という意識を各国の人間、特に就学時期の素直な頃に植え込むということだな。」
「学校教育で広めれば、知識でなく思考の根底から染められます。
これで、多少なりとも米国人の恨みを薄めることができるし、
各列強の人間には津波の「正しい」知識をつけて貰えますね。」

近衛が満足したように言うと、辻が毒たっぷりに応じる。
今回の会合の席では戦争終結で終戦後のアレコレを話し合っている。
とりあえず緊急性の高い案件を対処し終わり、これからの展望を話し合っていたのだ。

(帝国のためならば、時に非情とまで言われる手段を用いる。これが夢幻会か。
確かにこれは表ではできない事だ。しかし、表に出れば他の手段もあるのでは……?)

ちなみに会合の席ということで、未だ夢幻会を全面的に信用していない山本も来ている。

「そういえば、倉崎が災害時の輸送機として富嶽の廉価版を開発しているそうですが……」
「おい、災害用にそんな機体を当てて大丈夫か?」
「緊急的かつ大量に物資輸送するには、たしかに空輸で物資投下が楽ですが……」
(富嶽だと? 倉崎は原子爆弾運搬機どころか次の運用を考えて開発しているのか?
戦争直後にこの余裕。伊達に夢幻会中枢に位置する訳でもないな。しかし災害用だと?
いや、災害用なら政治的に軍事展開が難しい国、地域でも送り込んでも可笑しくはない。)
「まあ、防災グッズも販売拡大が可能でしょう。三菱さんにも頑張ってもらいましょう。」

嶋田は山本がまた何か考え込んでいるのを目の端で捕らえたが、
会合の席でわざわざ指摘することでもない。後でそっと探るべきことだ。と思い放置した。
それより大体の方針が決まりそうなので、次の話題に舵をとろうとした……が。

「これで、日本だけでなく世界規模でキャンペーンキャラクタを広めることも可能だな。」
「は?」

伏見宮のその一言で、一部の人間の目がギラリと輝いた。
ちなみに、呆けたような声を上げたのは山本だ。
嶋田はすでにオタク発言を聞いた時点で無我の境地に至っている。

「では防災キャラクタ“津那美ちゃん”の世界展開を?」
「いや、それだと音が“TSUNAMI”と同じだから不味いだろう。」
「日本人なら褌美少女の“ワダツミ”様を……」
「世界展開に、日本色を出しすぎるのは良くない。
ここはドラゴン娘の“リヴァイアたん”を……」
「ばか者、某RPGに影響されおって、もともとレヴィアタンは竜というより
鯨や鰐の形をとった海の怪物だろうが!」

嶋田はなんとなくデジャヴを覚える会話を聞きつつ、
適当に放置することにしたが、SAN値が削れていくのを自覚して、
自分の苦労を分かち合ってくれる同僚に声を掛ける。
ちなみに、常識人2号として連れてきた山本はすでに状況に付いて行けていない。

「南雲さん。常識人が最近とみに少ない気がします。」
「ふふふふふ、最近出番が無いし、私もああいうキャラになった方がいいんですかね。」
「やめてくださいしんでしまいます。(SAN値的な意味で)」


今日も「日本」は平和だった。


(了)

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最終更新:2012年03月12日 22:51