606 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/11/02(木) 19:48:05 ID:softbank126036058190.bbtec.net [191/308]
憂鬱SRW ファンタジールートSS 「ラッパの前の一幕」
- F世界 ストパン世界 主観1944年10月 オラーシャ帝国 ペテルブルグ 502JFW基地 別棟 トレーニングルーム
いきなりだが、501の基地にはトレーニングルームがある。
どんな設備かと言えば、名前の通りだ。ウィッチ達の肉体を鍛えるためのトレーニング器具が並ぶ、極めて筋肉と汗のにおいが似合う部屋だ。
ウィッチたちの使用も考慮しているこれは、ウィッチの訓練の一環として用いられる部屋であった。
ストライカーユニットで飛ぶということは、言い方はあれであるが、サーカスで曲芸をするに等しい。
その為、単純な筋肉というよりは体幹やインナーマッスルと呼ばれる、身体を支える筋肉の育成が目的であった。
これは地球連合で運用されているパワードスーツの装着者の訓練から輸入し、シティシスにおいて効果が確認された訓練である。
そして、今日もまたこの部屋で体幹トレーニングに勤しんでいるのは、502JFWに着任したばかりのひかりであった。
「ふぅ……はぁ……」
マットの上で深く呼吸しつつも、ハイリバースプランクを続ける。
仰向けに行う腕立て伏せ(プッシュアップ)は、単に腕の筋肉だけでなく、全身のバランスの維持を要求される。
適切な姿勢で適切な動きをすることで、深層にある筋肉を鍛えることにつながるのだ。
このトレーニングがストパン世界のウィッチやウォーザードの教育課程に取り込まれてからまだ日は浅く、効果については未だに懐疑的なところがある。
また、繰り上げ卒業したため、ひかりは肉体面での鍛錬が不十分だったということもあり、502JFWに着任後にフォローが望まれていた。
「あと10秒よ」
「はい」
それを監督するのはロスマンだ。
最初こそ懐疑的だったものの、目に見えて効果が出ていることを受け、積極的に理論を学び他のウィッチへの教育にも反映させていた。
勿論、自身へのフィードバックも忘れない。ウィッチとしての寿命は延びているとはいえ、何時までも全盛期ではいられないかもしれない。
だからこそ、飛行時のマニューバを支え、消費する魔力を抑えられるこういったトレーニングは欠かせないと判断したのだ。
「はい、そこまで。次はバランスボールね」
「はい!」
「管野さん、次よ」
「へーい……」
そして、ひかりに続いてマットの上に移動してきたのは管野だ。
良く言えば勇猛果敢、悪く言えば自己を顧みない飛び方をする彼女は、しかして自然に鍛えられた以上の体幹を持ち合わせていなかった。
飛び方の改善という意味合いも込め、彼女も指導の一環としてひかりと同じメニューをこなすように指示をしていた。
「うっ……くっ……これが、役に……立つのかよ……」
「実測値としてひかりさんではかなり改善が見られ、実際に役立っているのは確認済みよ。
カーチャさんたちがやっていたのだし、もっと早くに導入すべきだったかもしれないわね」
「これを……やるより……シミュレーター……が、いいだろ」
「基礎を磨く必要のあるひかりさんではまだ早いです」
607 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/11/02(木) 19:49:06 ID:softbank126036058190.bbtec.net [192/308]
抗議をするも、無慈悲にロスマンは拒否した。
ついでに、管野の視界に映るように重石をかざしてやると途端に押し黙った。
押し黙りはしたが、それでも前々から思っていたことは言った。
「雁淵の……あー……軍曹は……飛び方違うだろうが……」
「違う?」
その言い方に、ロスマンは引っ掛かりを覚えた。
まだ未熟ならばまだわかるが、「違う」とはどういうことだ?その疑問が生じたのだ。
その問いかけに、管野は意外だという顔をして続ける。
「アイツ……なんかの……真似して、やがる」
「真似を……?」
「ウィッチ、じゃねぇ……オーカ・ニエーバの奴ら、じゃねぇ……違うもの、だな」
言い切ると同時に、タイマーがストップ。負荷をかけていた状態から、マットへと体を落とす。
だが、ロスマンは管野の言葉を反芻していた。
彼女の言が正しいというならば、ひかりの飛び方はウィッチでもウォーザードでもない、独自の飛び方をしているということになる。
彼女の経歴を鑑みれば、経験の浅いウィッチがやりがちな飛行の可能性もあるが、それならばすぐにわかるはずだ。
(ならば……何を真似ているというの……?)
普通ならば、教官になったウィッチたちの教える動きを真似る。
結局のところ、飛び方を自分で確立するには、誰かの真似をはじめ、そこから自分の飛び方を見出す他に方法はない。
しかし、ひかりの飛び方がウィッチでもウォーザードでもない何かを模倣しているというならば、その候補は限定される。
彼女が促成教育を受けた場であるティル・ナ・ノーグ、その機密に指定されているカリキュラムの内容に他ならないだろう。
そして、断片的な情報ではあるが、その教導を行った部隊についてはクルピンスキーの伝手で判明している。
(地球連合軍第8492特殊鎮圧部隊、通称死神部隊。そこに編成されているベーオウルフズ)
他の502JFWの隊員にひかりが語ったところによれば、そこで教育を受けたとのこと。
さらに、顔写真などが調べた限りでは存在していないことも調査で判明している。
隊員の名前らしきものもひかりが語ってはいたが、どう考えても偽名か何かである。
(まさか、ね)
そのベーオウルフズが用いている何かの動きを、彼女は学ぶことで完成を見たというのか?
ありえない、とは思うが、管野の観察眼を否定することもできない。
ストライカーユニットは壊すし、感情に素直すぎる子供みたいなところもあるが、それでもベテランのウィッチだ。
彼女の知識や観察眼などを真っ向から否定する材料がないのも事実であるし、矛盾も今のところはない。
(思わぬ情報ね)
しかし、同時に自分が見抜けなかったことに悔しさも感じてしまう。
彼女の教育を預かっていて、飛び方の完成ばかりを注視していたのが仇となったか。
それとも、完成されすぎていたことに疑問を抱いて見るところを誤ったか。
どちらにせよ、自分もまだ教育者としてはまだまだということだ。
(終わったら、隊長の所に行きましょう)
一先ずは、ウィッチ二人の訓練だ、と意識を切り替えることにしたのだった。
608 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/11/02(木) 19:49:58 ID:softbank126036058190.bbtec.net [193/308]
以上、wiki転載はご自由に。
ラッパ作戦の前のちょっとした出来事を。
ナイ神父Mk-2氏のネタと連動させています。
最終更新:2023年11月12日 14:58