636 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/11/02(木) 23:49:22 ID:softbank126036058190.bbtec.net [201/308]
憂鬱SRW ファンタジールートSS 「ラッパの前の一幕」2
- F世界 ストパン世界 主観1944年10月 オラーシャ帝国 ペテルブルグ 502JFW基地 別棟 学習室
雁淵ひかりは促成兵である。
訓練校での成績もよいとは言えず、志願と選抜での結果で繰り上げ卒業と欧州派遣に選ばれただけで、派遣先も後方基地勤務という形だった。
扶桑国がウィッチを供出したという貢献度合いを稼ぐための、政治的な価値しかない、非力なウィッチとさえ言えたかもしれない。
しかし、その絵図は異世界から来た魔女によって描き変えられた。
彼女は魔女---リーゼロッテの招きにより、入学枠が国家間で奪い合いになるほどのティル・ナ・ローグで高等教育を受けることになったのである。
そして、元より持っていた素質と諦めない信念により、苦難を突破。一介のウィッチとして502JFWへの加入を認められるに至ったのだ。
元々の素質があると保証があったとはいえ、まさしく華麗どころではないシンデレラストーリーとまで言えるだろう。
無論、彼女の姉である雁淵孝美が負傷で離脱したことの穴埋めの意味合いもあったのは否定しきれない。
それを理解しているからこそ、502JFWに着任してからも、彼女は研鑽をやめていなかった。
積極的に教育係であるロスマンに教えを請い、デブリーフィング後にも自分の動きを評価してもらい、問題点の洗い出しに努め、改善に取り組んだ。
また、そのデータはティル・ナ・ノーグにも送られ、複数の指導員からの添削なども受け、多角的に評価を受けることも忘れない。
常人から見れば、通常の軍務の上でこれをやるのはかなり入れ込んでいるように見えるだろう。
だが、ひかり本人からすれば、自分は未熟な促成兵なのだという認識があるため、これくらいやってようやく釣り合いが取れると考えていた。
実際、ティル・ナ・ノーグでの教育ではカリキュラムにかけられる時間が有限であったことから、端折ったところも多くあった。
知識や座学関連での研鑽などが最たるものであろう。即戦力化にあたって、圧縮されたのはそこであった。
『---ということで、空間のエーテルに働きかけるプロセスは---』
「……」
そして、今日もまたひかりは別棟の学習室を利用していた。
どちらかと言えば、学習室にあるPCが目当てだ。ティル・ナ・ローグが置かれているエネラン戦略要塞とネットでつながっているためだ。
それを利用することで、遠隔地からでもティル・ナ・ローグの講義に参加できるのだ。
今ペテルブルクにいるひかりに限ったことではないが、こうしたネットワークを通じての学習は各地でも行われている。
今受講しているのはウィッチ向けの「魔導理論実践」だ。
なんとなくで使うのではなく、理屈も理解することで、より精度を高められるということで、ウィッチの多くが受講することを課される。
講師がスクリーンに表示する内容を目で追いかけ、耳で言葉を拾い、ノートに書き記し、見返せるようにする。
テキストに書かれた言葉の羅列が、一体どのように実戦において働いているか、それを講師が丁寧に説明していくのだ。
637 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/11/02(木) 23:50:27 ID:softbank126036058190.bbtec.net [202/308]
ひかりの表情は真剣そのものだ。他のものに気をとられることなく、意識を集中させていた。
他方---そのひかりの隣でテキストとにらめっこして、八面相をしているのはニパであった。
ひかりが着任してすぐの哨戒任務で助けられて以来、ニパは積極的にひかりと交流を持つようになった。
当初こそお固く近寄りがたいという印象を抱いていたニパだったが、職務が絡まない平時ではフランクになるということを知って、気を許し合ったのだ。
ひかりの側も、階級が近しいということもあり、ロスマンに次ぐ形でプライベートを明かせる相手を喜んだのであった。
なお、部隊長ということもあって、ラルがプライベートに近い状況でも敬意を払われてしまうのはご愛嬌か。
そして、そのニパが今画面の前で苦しんでいるのは、彼女がひかりが受けるという講義に興味を持ったことに起因する。
ニパはついていないなどと言われながらも、スオムスの抱えるベテランのウィッチであることに変わりはない。
この激戦区を担当する統合航空戦闘団の502JFWに真っ先に招聘されていることからも、その実力がうかがい知れるであろう。
逆に言えば、彼女はウィッチとしての教育を受けた後は現場に出てばかりであり、後発のウィッチたちが受ける新時代の教育は受けていないのだ。
時間をかけて研鑽された学問に裏打ちされた、ストパン世界から見れば先進的な訓練なども当然だが受けていない。
502JFWに着任してからはその連合のケアを受けてきてはいたが、こうして積極的に学ぶという機会はなかったのだ。
『ということで、本日はここまで。各員、復習と課題を忘れないように』
画面の向こう、エネラン戦略要塞の講堂で講義を行っていた講師が終了を告げた。
そして、画面が暗くなった瞬間、ニパは倒れ込んだ。
「……うぅ」
「大丈夫ですか、ニパさん?」
「へーき、と言いたいけど、難しいよぅ」
やはりというか、ニパには理解が難しいところがあったようだ。
今回の講義の内容は、先述したように魔導理論の実践編。どのように魔力が影響を及ぼすか、またその制御はどうやるかを理屈立てて説明する。
とはいえ、感覚で魔法や魔力の使い方を学んだ世代であるニパにとってみれば、いきなり理屈を突き付けられても理解が追い付かないのだ。
実際のところ、この理屈や理論を教えるのはイメージ涵養という面もあり、極めて実践的なのだが、いきなりは難しかったようだ。
「こういうのをティル・ナ・ノーグでは教えているの?」
「そうですね。私は促成だったので座学の割合は小さかったですけど、正規カリキュラムだと、実技以外もみっちり座学をするそうです」
この世界で魔法の行使に欠かせないエーテルとそれにかかわる理論と理屈。これを理解してこそ、魔法について深く理解ができるのだ。
連合の観点では、この世界の魔法というのは体系化などがなされておらず、それ故に限界があるものという認識なのである。
だからこそ、そこを教えてより深い理解をさせ、実戦での能力を伸ばすという視点を持つのだ。
638 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/11/02(木) 23:51:12 ID:softbank126036058190.bbtec.net [203/308]
「へー……てことは、オーカ・ニエーバのウォーザード達も?」
「兵科を変えたのも合わせ、だいぶ学ばれたことかと思います。
オーバーロード作戦の後に1年近くかけてMPFとそれにかかわる知識を教えたとのことですし」
ヴェルクマイスター大佐から聞いたんですよね、と気軽に言うひかりに、ニパは驚きを隠せない。
リーゼロッテ・ヴェルクマイスターのことはニパでも知っている。
風の噂で聞いたレベルから、実際にオーバーロード作戦の戦闘詳報などで確認できるレベルまで、多くを見聞きした、稀代の魔女。
そんな彼女と直接会うことができたというのだから、ニパの興味は当然そそられたのだ。
「大佐は本当に……私の恩人です。
教師と教え子以上ですね……私が戦う理由を見つけさせてくれて、導いてくれました」
姉を助けられ、自分も助けられ、それ以上に道を指し示してくれたのだ。
今こうしてひかりがここにいて戦いに身を投じられるのも、リーゼロッテによるところが大きい。
まあ、実際には彼女に入れ知恵をした裏の組織が存在しているのであるが、それはさておき。
「本当に尊敬しているんだね……」
「はい!」
ひかりから、リーゼロッテへの尊敬を通り越している重い感情を感じ取ったニパだが、あえて触れるのは避けた。
そうかーよかったねーでお茶を濁すのが一番である。危ういところに近づくのは危険なのだ。
とりあえず、と話題を変えることにした。
「ちょっとわかんないのも悔しいからさ、教えてくれない?」
「私でよろしければ」
うまく誘導できたことにほっとしつつも、しかし、楽し気に説明を始めるひかりに追いつくべく、ニパは意識を集中させた。
どれほど効果があるかはわからないが、これで少しでも自分も成長できるだろうかと、淡い期待を込めながら。
639 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/11/02(木) 23:52:40 ID:softbank126036058190.bbtec.net [204/308]
以上、wiki転載はご自由に。
筆が乗ったので。
最終更新:2023年11月12日 15:01