949 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/11/07(火) 00:03:08 ID:softbank126036058190.bbtec.net [286/308]

憂鬱SRW ファンタジールートSS「知らぬは当人ばかりなり」


  • F世界 ストパン世界 主観1944年10月 オラーシャ帝国 ペテルブルグ 502JFW基地 通信室


 ラッパ作戦の成功から数日、ラルは信じがたい量の管理業務に追われていた。
 作戦そのものに関する報告書はもちろんのこと、新たな最前線基地となったペトロザボーツク基地に関する書類が回ってきているのだ。
新たに基地が稼働したことで、相互支援体制・補給・連絡体制・作戦担当地域の割り当て・人員の交流など、多くの決め事をしなくてはならなくなったのだ。
 ペトロザボーツク基地およびその駐留部隊は、502JFWとは性質は違えども各国から人員を集めた国際部隊だ。
指揮系統も独立しているし、根っこは同じ国際舞台と言えど何もかもが一緒というわけではない。
 だが、その性質や立地などの観点から言って、無関係とはいかないのである。
 共同作戦をするのはもちろんのこと、補給物資はペテルブルクを経由することになるし、相互に支援し合う関係にならなければならないのだ。
失地奪還と橋頭堡の確保を成し遂げた分だけ、むしろ人類の勢力圏を維持するためにやるべき仕事は増えたのである。

「く……はぁ……肩が凝ったな」

 ペトロザボーツク基地との何度目かの通信会議を終え、ラルは大きく吐息を吐き出した。
 連日の書類仕事のほかにも、打ち合わせは何度も行われている。
 如何せんここまでの大進撃というのはそれだけ大きい戦果。
 同時に未経験に近いということもあり、やるべきことは後から後からと湧いて来てしまうのだった。
 今回は奪還作戦に参加した人員がそのまま基地に駐留するということで解決されたが、通常の部隊変遷だったら人員の奪い合いになっていたところだ。
下手をしたら、せっかく集めた502JFWのウィッチ達にも手を突っ込まれ、引っこ抜かれていたかもしれないのだ。
ペテルブルクよりも最前線だから、と言われてしまうとどうしても立場的には弱くなってしまうところがある。

(ウィッチと言えば……)

 ふと思い出す。
 今回のラッパ作戦が終わった後に、ジョゼから個人的に報告を受けていたのだ。

(雁淵がまるで別人のような行動と振る舞いをしていた、か)

 元々戦闘時と平時での態度の差が大きいと報告を受けていたが、それを飛び越えて別人になったとまで言われれば、流石にラルも反応する。
実際、ジョゼのヘルメットに内蔵されていた主観カメラおよび集音マイクには、明らかに様子が豹変したひかりの様子が記録されていたのだ。
ジョゼの固有魔法を使えるようにするために頭をストライカーユニットに叩きつけるという自傷行為をしたというが、その影響かとも疑った。
 だが、それにしては余りにも変貌が過ぎる。ひかりの声に別人の声が混じったようになり、目の色が文字通り変化しているのだ。
これを見て普段と変わらないと言えるわけがない。明らかに何かが起こったのだ。

(あのペンダントが発光していた……あれが原因だろうな)

 何らかのトリガー---恐らくは頭の負傷による意識の混濁---であのペンダントの機能が働いたと、そういう予想が立てられた。
 502JFWに着任した際に持ち込んできたもので、興味本位で調べてみたものの、分からないということが分かった、という全く未知のそれ。
本人曰くあのリーゼロッテ・ヴェルクマイスターから与えられたというのだから、並大抵のものではないのだろう。

(洗脳装置とは思いたくはないが……)

 一先ずは、と手元のコンソールを操作し、チャンネルを切り替える。
 あれこれ悩むより、聞くのが早い。そう判断したのだ。

950 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/11/07(火) 00:04:13 ID:softbank126036058190.bbtec.net [287/308]

『ああ、アレか。雁淵軍曹に渡した保険だな』

 取次ぎを経て、当人と回線越しに面会。そして尋ねたところ、あっさりと教えられた。
 身構えていたこちらが滑稽に感じるほどに、気軽に教えられてしまったのだ。

『アレについてはそう深く考えなくてもいいぞ、少佐。
 本人にはデータ採取用としか言っていないが、いざとなった時に軍曹を守るような仕込みがある。
 尤も、それを明かすとそれに頼り切りなってしまいかねないからな、時が来るまでは明かさないでほしい』
「では、あの様子の豹変というのは?」
『あのペンダントの中にいる……「それ」が雁淵軍曹を支えた結果だ。
 自傷行為で意識が遠のいたのだろう?そうなれば意識を失って墜落するようなことにならないように対処する』

 思い切ったことをしたものだな、と笑いさえするリーゼロッテ。それを見るラルは複雑な心境だ。
 確かにあの場、あの状況下において最も適切な行動であったのは確かだ。
 凍結が進むストライカーユニットを回復させるため、ジョゼの固有魔法の発動条件を満たす必要があった。
 そして、その条件は誰かが自ら怪我をしていること。
 だから、自分の頭に自ら傷を負った。

(まったく躊躇いがなかったというか、自分から言いだしたというのだからな……覚悟が決まっているどころではない)

 勢いが過ぎて意識が混濁したというのだから、やりすぎなくらいである。
 それをためらいなく選べる精神性はちょっとどころではなく、怖いほど。
 ともあれ、あれがそういう洗脳などをするようなものでないと分かったのは僥倖だった。

『それと記録装置としての意義だがな。
 雁淵軍曹は502JFWの任務を全うできた場合、本国に戻し、新設される部隊の部隊長を務めてもらう予定だ』
「雁淵を……部隊長に?」
『ああ、CMAで開発が進む、全く新しいMPFを擁する精鋭部隊だ。
 そのMPFについては詳しくはまだ言えないが、その時のために彼女のデータを採っているのさ』

 これはまだ機密だぞ、と付け加えられる。
 だが、それ以上に大きいのは驚きだ。まさか、ウィッチ一人にそこまで目をかけていたとは。

『彼女がウィッチとして経験値を積んだうえで転科すれば、魔力量の不足に悩まされることはなくなり、また技量も高いウォーザードになれる』
「それは、そうですが。他のウィッチでも同じことが言えるのでは?」
『確かにな。ウィッチからウォーザードに転科し、戦線で活躍しているケースは多い。オーカ・ニエーバもそうだ』

 しかし、と断言する。

『あくまで既存のMPFはストライカーユニットの拡張・発展だ。
 もっと根本的な性能向上には、設計・開発のコンセプト自体を見直す必要がある。
 そうした場合、ベテランすぎるウィッチでは転科をしたところでスペックを最大限生かせない可能性が高い』
「だからこそ、ウィッチの経験がありつつも、まだ新人の雁淵に?」
『まさにその通り。
 ウォーザード育成課程で適切な人員を育てることはできるが、経験値はどうやっても戦場でしか稼げない。
 そのくせ、ウィッチに染まりすぎると不適格で、転科と慣熟に時間がかかりすぎる、厄介なところだ』

 ラルはしばし黙考した。
 その言葉の通りならば、ひかりは非常に得難い人材ということになる。
 少なくとも最前線である502で戦いぬく技量と経験を持ち、その上でウィッチの枠を超えて性能を発揮できるということなのだから。

「では、何時頃までこちらに軍曹を?」
『少なくともグレゴーリの撃破までは、だな』
「その根拠は?」
『固有魔法の魔眼だな。彼女の魔眼は以前も述べたが正確には解析魔法の一つの表れにすぎない。
 501にいた坂本、あるいは502にいる下原が有するような、透視や千里眼に分類されるような魔眼とは全く違う。
 あれをごまかせるタイプが出現するのは早々にないだろう』

951 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/11/07(火) 00:04:52 ID:softbank126036058190.bbtec.net [288/308]

 あくまで予想だが、と注釈がつけられる。
 たしかに、ひかりの固有魔法はそういうものだと教えられている。
 たまたまネウロイとの戦いでコアを見通す能力となっているが、より研鑽を積めば応用が利くということも。

『最近のネウロイには面白い傾向があってな。
 コアの偽装を行うタイプが見受けられている。他にもコアの中に真のコアを隠す、というのもな。
 恐らくだが、コアの位置を見抜くだけの魔眼がいつまでも通用するとは限らないだろう』
「だからこそ、雁淵ひかりの解析魔法が必須である、と?」
『そういうことだ。コアを見抜くだけならば、その能力を再現した魔導具を年をまたいだころには前線投入できる目途が立っている』

 しかし、と断言する。

『コアの偽装さえも見抜くことができる解析魔法……これまでに確認されていないタイプの固有魔法だ。
 教育の間にこちらでもできる限りデータを採ったが、まだ原理を朧げに把握した程度だ。再現しきるにはまだ時間がかかる』
「……グレゴーリが、そういったコアの偽装をしてくると?」
『ああ。オラーシャ方面から来る大型のネウロイが複数のコアや偽装をしてくるのは、他の戦線などで確認されていることだ。
 親玉が同じ能力を持っていてもおかしくあるまい?それどころか、それ以上に厄介かもしれんぞ』
「そうなれば、撃破には必須になる、ということですか?」

 グレゴーリの攻略については、すでに準備が始まっている。
 最前線のペトロザボーツク基地への物資や兵力の蓄積、他方面からの進出の準備など、ラッパ作戦以上の大戦力の投入が予定されている。
それほどの大戦力なのだから、ウィッチは主力になるが、その働きの割合は下がるのではと、そう考えていたのだが。

『備えておくに越したことはない……違うか?』
「……わかりました」

 言外にこれ以上は言えない、と言われたならば下がるしかない。

『それとカウハバの方だが、こちらで手を打ってある。安心してほしい』
「カウハバ……雁淵の、本来の配属先ですか?」
『そうだ。カウハバとて前線に含まれる地域だからな、ウィッチの戦力は一人でも欲しい。
 まして、ティル・ナ・ノーグで教育を受け、実績を上げたウィッチならばなおさらほしいと、こちらに催促が来ている。
 実際、手放したくはないだろう?』
「確かに、そうですね。孝美の復帰までと考えていましたが、それを差し引いても惜しいと思っていました」

 これは忖度のない評価だ。
 代わりだと、孝美が復帰するまでと割り切ってはいたが、これまでの働きは戦場でもそれ以外でも優秀そのものだ。
経験を積み、あとは技量をさらに磨くことでベテランとまでいえる逸材になるだろう。
最前線ではないにしろ、ネウロイの襲撃を受けることもあるカウハバ基地で欲しがるのも無理はない話だ。

『というわけだ。ひかりについては任せたぞ、ラル少佐。潰さない程度にこき使って、経験値を積ませてくれ』
「簡単に言ってくれますね……」

 それに名前呼びとは、だいぶひかりは気に入られているようだと察する。
 まあ、彼女もリーゼロッテにだいぶ言及し、懐いていたことから考えても、良き師弟関係であったのだろう。

『では、これまでとしよう。また面白い報告が来るのを楽しみにしているぞ』

 そして、通信は切られた。
 後に残されたラルは、知ったが故の重さに、またため息をつくしかなかったのだった。

952 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/11/07(火) 00:06:10 ID:softbank126036058190.bbtec.net [289/308]
以上、wiki転載はご自由に。

というわけで一話で完結させました。
ブレイブウィッチーズのストーリーをなぞるので、まだまだ先は長いんじゃ。
スポッターと砲撃手、サトゥルヌス祭、姉名乗るモノ事件、そして本命のグレゴーリ攻略作戦。
序盤をある程度スキップしましたが、それでも長くなりそうです。
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最終更新:2023年11月12日 15:06