509 :Forth:2012/03/09(金) 02:40:51
コンピュータ言語のネタ4話目です。
195X年 ドイツ
某月、ドイツ領近海に座礁した小型潜水艦が発見された。おそらく極秘任務中に何らかの事故で有毒ガスが発生し乗員が死亡したのだと推測されている。
装備からおそらく日本帝国の工作潜水艦だ思われるが、幸運なことに(日本にとっては不幸なことに)完全に動作可能な装置一式が手に入ったのだ。
そのなかに技官の理解の及ばないものがあった。なにやらタイプライターのキーのようなものとブラウン管がセットになっているようであり、用途不明であった。
そこで各方面の専門家に声がかけられたのであるが、そのなかに史実で世界初のプログラム制御式コンピュータを作り、世界初のコンピュータ会社を作ったコンラート・ツーゼがいた。
彼は一目でそれがコンピュータであることを喝破したが、その使用法や性能を把握するのに非常に難儀した。
だが、コンラートの努力が実り、何とか動作させることが可能となった。その報告を聞いたヒットラーは装置のある研究所に足を運んだ。
ヒットラーはすこし不機嫌そうにコンラート・ツーゼに声をかけた。
「それで、コンラート君。その装置が例のものなのかね」
コンラートと呼ばれた青年は答えた。
「その通りです。総統。間違いなくこれはコンピュータです。まだ十分な解析ができていませんがその機能については間違いありません」
コンラートはちらりと装置の方に視線を向けた。
「これだけ小型なら艦船どころか戦闘機にすら搭載できるでしょう。もちろんコストの問題がありますから戦闘機に乗せていたとは考えにくいのですが、大型の爆撃機には乗せていたのかもしれません。戦艦などには間違いなく載せていたでしょう」
「それでそのコンピュータを戦艦や爆撃機に載せるとどんなメリットがあるというのかね」
「コンピュータはすばやく弾道計算ができます。機械式の計算機に比べとてつもなく早く、とてつもなく多量の計算ができます。必要な条件を十分入力できれば初弾から至近弾を打ち込むことが可能となるでしょう。あるいは命中弾も可能かもしれません。
爆撃機においても同様です。爆弾は基本的には弾道を描きます。速度、風力、気圧などのデータがあればかなり正確な爆撃が可能になるでしょう」
コンラートはまるでセールストークのように滑らかにしゃべりだした。
「しかし、このコンピュータはそれだけに使われるには高性能すぎます。おそらく暗号解読にも使用可能だと思われます」
ヒットラーは眉を寄せ呟いた。
「むう、日米戦の最中からこのような装置で暗号を解読し、弾道を計算していたのか。そう考えると色々平仄が合うな」
510 :Forth:2012/03/09(金) 02:41:52
コンラートは話を続けた。
「しかも、このコンピュータにはプランカルキュールと類似した言語で動いています」
「何だね。そのブラン何とかというものは」
「プランカルキュール。つまりコンピュータ用のプログラム言語です。いままで作られてきたコンピュータはすべてオン、オフの命令の組み合わせを直接入力して動かしていました。しかし、これでは複雑な命令を入力するのは非常に困難です。そこで、人間にもコンピュータにも理解できる言語を作ってそれで命令を入力するべきだと考えたのです。私が開発したその言語がプランカルキュールなのです」
コンラートはため息をついた後、言葉を続けた。
「残念ながら、このプランカルキュールはあくまでも理論上のものでコンピュータに理解させる機構が開発できていません。その開発には莫大な予算が必要なのです。国の援助が受けられなかったわが社ではそれ以上の開発は不可能でした」
ヒットラーはすこし目をそらし不機嫌そうな声を出した。
「それが有用だとわかれば予算を出すのにやぶさかではないが、予算を要求する企業はそれこそ星の数ほどだ。なかなか新興企業にまで目が届かないのだよ」
ヒットラーはひとつ咳払いをして言葉を続けた。
「それで、この装置の複製は可能かね」
「残念ながらすぐさまというわけには参りません。わが社の技術で同様の性能を出そうとするならおそらく数百倍の大きさが必要になります。さらに、リレーではなくおそらくトランジスタと言われるものを発展させた装置を使っています。この解析にはFfE社の電子顕微鏡が必要でしょう。プログラム言語にしても同様です。日本語を使用しているので、日本語に堪能な人材の協力が不可欠ですし、どうやら文法がかなり独特なように見受けられます」
「わかった。各方面に協力を要請しよう。それにふさわしい予算もつけるつもりだ。もちろん君の協力も引き続きお願いする」
「はっ!総統!」
ヒットラーはすこし機嫌をなおしたのか、笑みを浮かべた。
「ところでこの装置だが動いているところをみせてもらえるかね」
「もちろんです」
返事をしたコンラートは装置に近づきいくつかの操作をした。
「これは読み出し装置の一番最初にあったのでかなり重要なものだと思われます。私の予想では何らかのシミュレーションなのではないかと」
コンラートがコンピュータを動かすと画面にいくつもの影が映りだした。同時に電子音も始まった。ピコーン、ピコーン、ピルルル、ピルルルとなにやら耳にやかましい。
「なるほど何か陣地のようなものの間を戦車を表していると思えるものが動くな。しかも砲撃を受けて、陣地がげずられている。うーむ、確かにシミュレーションかもしれないな」
「これは十分調査する必要がある」
難しい顔で話し合うヒットラーとコンラートの傍らでコンピュータの画面にはクレジットが映し出されていた。その最初には日本語でこう書かれていた『インベーダーゲーム』と。
今回は、日本人は今日も平常運転。
と、ドイツ人、戦前に電子顕微鏡とかコンピュータの原型作っているとかマジパネェ(でも逆行チートには敵わない)。というお話でした。
最終更新:2012年08月07日 14:33