242 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/11/11(土) 23:18:15 ID:softbank126036058190.bbtec.net [60/179]

憂鬱SRW ファンタジールートSS 「指と目」4



  • F世界 ストパン世界 主観1944年10月下旬 オラーシャ帝国 ペテルブルグ 502JFW基地 CDC



 夜の帳がおり、寒さと暗闇がオラーシャを覆いつくした。
 ネウロイの襲撃は収まり、砲撃がどこかを襲うというのもぴたりと止まった。
 これが一体何の要因によるものかはは不明だ。念のために夜間の哨戒と即応体制を敷くと同時に、翌日からの備えに502は奔走した。

 要となるエーテルレーダーの改良作業は、あぶり出しのための囮作戦の分と基地周辺の分を一先ず完了した。
早速改良型は設置されて稼働を開始している。その探査の結果、少なくとも基地を中心としたペテルブルクには「アウガ」の存在はない---と思われる。
レーダーは理論上エーテル膜によるステルスを実現している「アウガ」にも通用するようになっているので、そこは信用するしかない。
とはいえ、急造したものなので、本当に正確に働いているか正直不安ではあるのだが。
 それはともかく、とラルは嘆息した。

「まさかサーシャたちが接敵したとはな」

 とはいえ、その特性などを把握するには十分な情報を得ることができたし、隠れる手段も判明したので、相手の奇襲を防ぐには十分すぎる。
これで囮作戦を行う際にレーダー情報を基に接敵し、炙り出す際に指針となるのがはっきりとしたわけだ。

「ええ、私も驚きでした……ニパさんはついているんだかついていないんだか、よくわかりません」
「たまたまぶつかった銅像がネウロイの化けた姿だったんだか?
 そこまで行くとある種の運だな、どちらかと言えば悪運の方だが」

 どちらにせよ役立つなら活用するまでだ、と言い切るラルにサーシャは苦笑いだ。
 使えるものは何でも使うというか、出来る人間に任せるという方針の彼女らしいというべきか。
 おかげで自分は重要作戦も含めて作戦立案などまで任される羽目になって、日夜苦労しているのだがそれはさておき。

「では、明日から囮作戦を実施するということでよろしいですか?」
「ああ、委細は任せる。
 こちらで輸送艦1隻は確保できたからな、これを既定の輸送ルートでペトロザボーツク基地まで行ってみてくれ」
「そして攻撃を受けたら反撃し、『アウガ』と『フィガー』の排除、ですね?」
「ああ、戦力配分は任せる。
 この基地を直接狙うこともありうるので、ある程度は残してくれ」
「つまり、私に丸投げですか……」
「私は他のネウロイにも備えないとならないからな」

 あっけらかんと言い放つ上司にサーシャは頭を抱える。
 いや、もちろん事実ではあるのだ。『アウガ』と『フィガー』だけがオラーシャのネウロイではないのだ。
 陣頭指揮にあたる自分が集中できるのは、ラルがこのペテルブルクで控えているからというのは理解している。
 わかってはいるが、この上司は……と思わないわけではないのだ。

「どうした、サーシャ?疲れか?明日は重要な作戦だ、早くに休んでおけよ」
「はい、了解です」

 その原因はあなたですとは、なんとも言いずらいのがサーシャの人間の良さであった。

243 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/11/11(土) 23:18:50 ID:softbank126036058190.bbtec.net [61/179]

  • オラーシャ帝国 ペテルブルグ 502JFW基地 別棟 浴室


 一先ずの所、稼働しているレーダーでこの基地が狙われていないということがわかり、司令部は地下にあるが、一部人員は地上へ戻った。
 翌日から輸送艦を囮とした誘引作戦を実施することになるサーシャも、出来る限りの休息をとるために地上に上がった。
そのまま荷物などを片付けた後は、その足を別棟にある慰安施設の浴室へと向けたのだった。
今日は別棟の開放日だった。いつもなら節制して足しげく通うことはないのだが、今日はどうしてもと思っていた。

(激動どころではないですからね……)

 502が結成されてから初年度もだいぶ……いや、かなりトラブルや激戦などで忙しかった。
 それに加えて今年に入ってからは輪をかけて多忙な日々が続いているような気がする。
 ともかく、明日への区切りをつけるために、今夜くらいはゆっくりと休みたいと思ったのだ。

(扶桑式なのは未だになれませんが……)

 浴室は遮蔽物があるとはいえ、大人数が一つの空間に集まる設計だ。
 同性相手とはいえ、身体を晒すことに羞恥心があるサーシャにとっては、オラーシャの風呂とは違うこともあって少し困る設計でもある。
個室を用意するというのも考えられはしたのだが、清掃および維持管理の手間、総じてランニングコストで劣ることから採用はされなかったとか。
まあ、タオル着用という手があるのでまだマシか。本来ならタオルをつけてはいるのはよろしくないらしい。

「水音……?」

 タオルをしっかりと巻き、浴室のドアを開けたサーシャの耳には誰かが先に入っていると思われる水音だった。
そう言えば、脱衣所にはサーシャの入る前にすでに一人分の衣服などがあったので、つまりはそういうことなのだろう。

「……ポクルイーシキン大尉?」
「ひかりさんだったのね」

 そして、水音の方に向かってみれば、そこには広い湯船の傍でかけ湯をしているひかりの姿があった。
 即座に敬礼をしてくるのを手で制した。

「今は敬語や階級は余り気にしなくてもいいわよ」
「ですが、今は警戒体制ですので……」
「いいの。これは上官からの命令、いいかしら?」
「……わかりました。ではサーシャさん、と」

 よろしい、と頷き、サーシャは扉と遮蔽物が設けられ、半分個室のようになっているスペースへ向かう。
 周囲からは足元しか見えないここは、周囲の視線を遮ってくれて非常に気楽だ。
 全員が一つの浴槽を共有するからこそ、先に体を洗うものだと教えられたのはずいぶんと前の事のように感じる。
あれは確か扶桑から来たスタッフの一人だった。サーシャよりも前に着任していた彼女にそう言われ、マナーを教えられたのだった。
 懐かしさを感じながらも、テキパキと体を洗っていく。
 髪を洗い、顔も洗顔料で汚れと化粧を落とし、一日の激務で酷使した身体を洗いながら解していく。
 昼間のエンカウントはとても驚いてしまった。通常のネウロイを追いかけていたら、まさかの重要目標とぶつかることになったのだから。
そのおかげで相手の特性を丸裸にすることができたのは非常にラッキーではあったが、あまり心臓によろしくはなかった。

「明日は……いえ」

 明日から、というべきだ。
 どれほど潜んでいるかわからない「アウガ」と「フィガー」をあぶりだし、各個撃破に持ち込むのだ。
 輸送艦や中継基地を狙っていたことを考えると、瑞鶴が襲撃を受けたように直接戦闘ではなく補給線を攻撃する方針に切り替えたのだろう。
そういう性質だからこそ、一回で倒しきれるかどうか怪しく、長期戦になることがほぼ確実だった。

244 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/11/11(土) 23:19:35 ID:softbank126036058190.bbtec.net [62/179]

(掃討戦なのに、待つしかないのはもどかしいわね)

 そう、攻勢に見えて防衛寄りの作戦だ。
 相手がうまく食いついてくれればそれでよい。同時に、相手がこちらの狙いを察して攻めてこない可能性もあるのだ。
一先ずは補給線を維持しやすいように数を減らすというのが目標になっているが、どれほどかかるか。
柄にもなく緊張し、焦りを覚えている。いや、重職を任されているからこそか。

「サーシャさん、大丈夫ですか?」
「……えっ……あ、だ、大丈夫よ!?」

 あまりにも動きがないことを心配したひかりから声をかけられ、サーシャはびくりと体を震わせ、返事をした。

「そうとは思えないのですが……」
「……そうね、少し考えすぎているかもしれないわ」
「そうですか、それはうれしいことですね」
「え?」

 その言葉は意外であった。
 自分でもよくないと思っていたところに、彼女の不意な肯定は響いたのだ。

「大尉は、戦闘隊長としてよく部隊や作戦のことを考えておられます。
 それは職務上やらなければならないことであるとはいえ、しっかりと貫いておられるのが窺えます」

 それは、どういうことであるか?

「指揮下で戦う我々にとっては、上司が不測の事態に備えて考え、行動に移してくれているということで、非常に助かることです」
「でも、それは当然のことでしょう?」
「その当たり前の価値は非常に大きい、私はそう思っています。
 私が最前線を何も知らないまま安全に暮らせていたのは、大尉のように知恵を絞り、努力を重ねている人々の努力の結果なのですから」

 掛け値のない言葉だった。今でこそ多くを知り、深淵を覗き込んでいるひかりは、ほんの少し前までは訓練校で夢を追いかけていたのだ。
それができていたのも、最前線でネウロイを食い止める人々がおり、その努力が実を結んでいたからだ。
 そして、その最前線にいる身分となってからは、そうした努力を不断のものとするのが如何に苦労するかも知ることができた。それゆえの言葉だった。

「そう、そうなのね……」
「厳しい態度や指導をなさっていますが、それも大尉が必要だと判断したからこそ。
 口や態度には出さなくとも、感謝していると思いますよ」

 その言葉は、身に染みた。
 浴びているシャワーの温かいお湯よりも、深く。

「……過ぎた物言いをしました、申し訳ありません、大尉」
「構いませんよ、ひかりさん。そう言ってもらえて……私はうれしいわ。
 明日からは本番、期待しているから」
「ご期待に沿えるよう、努力いたします」
「もう、敬語はいいのに……行っていいわ」
「はい」

 そして、ひかりは退室していった。
 ドアが閉まる音がして、そこでようやく、サーシャは感情を吐き出せた。
 よかったと。自分の努力や行動が無駄ではない、ちゃんと有意義だったと、肯定されたのだ。
身を削り、精神をすり減らして、この部隊の戦闘隊長として動く労力をねぎらってもらえた。
本当に、救われた気がしたのだ。この言葉だけでも、明日からも頑張れる、そんな気がした。

「まったく、もう……」

 目じりからこぼれる液体をぬぐい、サーシャはシャワーのバルブをひねり、お湯を止めた。
 もう、寒くない。そう確信できたのだ。

245 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2023/11/11(土) 23:20:32 ID:softbank126036058190.bbtec.net [63/179]

以上、wiki転載はご自由に。
次回より、囮作戦となります。

サーシャを泣かせていなかったので、泣かせました(言い方ァ!
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最終更新:2023年11月23日 12:48