380:陣龍:2023/11/23(木) 16:37:48 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp
――――ああ言いはしたけども、今日のターボは明らかに変だ……
急減速したツインターボが再加速し、ラファールルージュと共に競り合っているのを後方から見ながら、
ゴーストウィニングは内心そう考えていた。
――――変なのは私自身もそうか。レース中に会話するとか一体どうした事か
そしてツインターボのみならず、自分の事も顧みて言いようのない【違和感】を内心吐き出す。
何時もの自分であれば、レース前なら兎も角、レース中にエールを送ったり等は決してしない。
何故なら、レースに真剣に向き合っている以上は、余計な事、邪推されかねない事をレース中に行う等不用意で有り、
尚且つ同じくレースを走る出走者に対する一種の侮辱に値するとも考えられるからだ。
――――変なのはフランスに来た初めからだ。この嫌にひりつく様な、粘り付く【空気】が、ロンシャンに来てから強く、
激しくなっている……ターボの刺傷事件、それからも泥付いた悪意も……
明らかに嘘丸分かりでも当人が大丈夫だと言い張っている以上、そして僅か三日と言う強行スケジュールの関係上
言う事は無かったが、ゴーストウィニングはフランスの地に降り立った瞬間から不快な【空気】を感じていた。
自らの過去、思い出したくもない終末にして元始となり、【今】になってからも相当な期間続いていた我欲の悪意。
その時の感触そのままを……
――――追及も何もかも後。今は集中しなければ……
渦巻く不安の思考を切り替え、視線を眼前のツインターボとラファールルージュに見据え直す。
兎にも角にも、先ずは此方の世界に置いて、ウマ娘史上初となる凱旋門賞を勝つ事が最優先事項であった。
――――捉えているよ……二人共。仕掛けは……
そして、そもそも競走馬時代の記憶と感触を未だ鮮烈に保持し、尚且つレース経験の質量共に
強引極まりない短期連続出走を重ねた為に一気に固めているゴースト。事情は不明瞭だが、
それはそれとしてレースとなると話は別物である。
381:陣龍:2023/11/23(木) 16:39:30 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp
――――……匂、い……?
だが、【仕掛け】に踏み込んだ直後、感じてしまった一瞬の嗅覚。
――――……血……?
傷口が開き、出血したツインターボの血の匂いが、ゴーストウィニングの原初の記憶を強引に回帰させた。
――――……いたい……あんじょう……みんな、どこ……
へんなすがたの『ヒト』とはしったかえりみち。おおきなうごくはこのなか。しらない『ヒト』がのりこんできた。
そとからきこえた【あんじょう】が、おおきなおとできえていった。
――――うごけない……からだがいたい……
おおきないきをして、あかいみずがくちからでた。よこになってうごけない。
――――……あつい……いたいよ……
まえからあついものがくる。
――――……たすけて……
「あぁああーーーー!??!」
全ての終わりにして全ての始まりとなった、あの馬運車襲撃・横転炎上事件。レース中と言う精神的興奮、
纏わりつく悪意の空気、そして僅かでも濃い血の匂い。理性の枷が弾け飛ぶあの日の記憶が強制再生されるのは、
必然の連鎖反応であった。
「ゴースト!?」
「ちょっと、これ不味いヤツじゃん!!」
「ターボさんの様子も変でした…」
「おかしいデス!今日のレース、絶対おかしいデース!!」
遠く離れて日本国のトレセン学園。唐突に決定したと言う事も有って同行できなかった同世代や同チームメンバーが、
寮内のメインルームのテレビで凱旋門賞を視聴し、この異変に騒然となっていた。現地はツインターボとラファールルージュの
激しい競り合いに注目が集まり、そして病院から逃亡した事実を知る極少数もツインターボを注視していた為、
ゴーストの異変に気付いたのは日本に居る学園生徒が殆どであった。岡目八目とも言える。
「ゴーストさん……一体どういう事ですの、キングさん!?」
「……今の所は分からないわ。一体何が有ったのか、何が起きたのか。日本に居る私達には、今の段階では……」
分け隔てなく、並走を求められたら共に走るゴーストウィニング。だからこそ、並走した事のあるウマ娘は
画面内のゴーストが突如フォームが崩れ去り、完全な素人の力任せに走る様相に仰天していた。
それでも急速に先頭の二人に迫りくるのは凄まじいが、異様なのは走るフォームだけではない。
382:陣龍:2023/11/23(木) 16:41:04 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp
「グッ……グラース!ゴーストが、ゴーストが変デース!?」
「鬼気迫る…いえ、これは恐れ、怯え?何かから逃げようと……?」
「ケ!?まさかこの前の亡霊とか化け物事件がフランスで!?」
「エルちゃん、もしあの日の様な事が起きていたらレースどころじゃ無いと思うよ」
チラチラと画面に映るゴースト。その表情には、勝利を見据えた眼差しも、レースを楽しむ不敵な笑みも無い。
有るのは、恐怖から逃れようと蒼褪め藻掻く、まるで幼児の如き姿であった。
「……ツインターボの件と併せて、ゴーストの事も聞いておかないとね。帰国して来たら」
「そうですね……多分、ゴーストが行き成り変になったのは、ツインターボさんの挙動が要因だと思うんです」
「私も同感だよ、スカイやい……一体全体、何がどうなっているのやら」
後にツインターボの暴挙を知ったナイスネイチャは、帰国してきたツインターボが学園に戻ってくるなり
正座させて目線を合わせて、会長も副会長も誰も彼も視線一瞥だけで問答無用で黙らせる気迫の覇気と絶対零度の視線で
一時間以上追及と説教をブチかますのだが、それは少し先の話である。
「ハッ……ハッ……ハァ……ハァ……」
――――……レース……終わった……?
場所は戻ってロンシャン天空競馬場。唯一追走状態にあった位置関係で僅かに感じた
鮮血の匂いで我を忘れたゴーストは、気が付けば無我夢中の無心のままにレースを終えていた。
何時もならばレース順位やバ身差の確認などを掲示板を見てするのだが、今はそれどころでは無かった。
「お姉ちゃん!!お姉ちゃぁぁん!!」
「と、トリーちゃん!?まさか、ターボちゃん…」
「治っていないんです!病院を抜け出して……!!」
目の前で開示された情報に、同レース出走者そして競馬場に居た全員に衝撃が走り騒然とする中、
一言も喋らず直立で硬直しているゴーストウィニングの内心は無数の感情…トラウマの記憶が蘇った事による『神経不安』、
友人の重度の出血負傷の事実による『神経過敏』、そしてレース後の高揚と思考回路の過剰酷使による『興奮状態』が織り交ざった、
有体に言えば何時精神的に暴発してもおかしくない、俗にいうブチ切れる一歩手前に近い状態にあった。
――――……一体どうしてこうなったのか
そして一方、荒れ狂う内心とは全く別に、【後付けされた理性】は冷静に、冷徹に、こうなった事態の理由の検証を、
脳内で急激に回転させていた。
――――……ラファールルージュ
地面に女の子座りで力無くへたり込み、そして罪悪感や悲壮感、絶望感が浮かぶフランス生まれのウマ娘の姿を横目で見る。
周囲は行き成り乱入して来て、ターフのど真ん中でティ連技術で緊急手術を始めている何処ぞの突撃野郎の奥方の方に
注意が向いていてあまり気にされて居ない。
――――……そう言う事か
今にも死に入りそうな彼女を見て、全ての『違和感』が繋がり、この事態に陥った理由と答えを確信するゴーストウィニング。
その後のラファールルージュの血を吐くが如き告白も、唯の【答え合わせ】に過ぎなかった。
383:陣龍:2023/11/23(木) 16:42:40 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp
「……それに、私が生きていたら、家族や皆が!!」
だからこそ、自暴自棄になり自死をしようとするラファールルージュに。
「お前が死んだら全てが無意味になる」
「……えっ……?」
冷酷で無情になる未来を突き付けた。
「……は……はな、して……!?」
「断る」
周囲は困惑していた。絶望し自らに突き刺そうとしたラファールルージュのコンバットナイフを、
一切の無表情で口調も全く別人になったゴーストウィニングが、自らの素手で握って止めているのだから。
「……はっ!?ご、ゴーストちゃん何してるの!?」
「スペシャルウィーク、すまないが静かにしていて欲しい」
「はぅ!?」
真っ先に再起動した日本総大将が問い質すも、振り返りもしないゴーストの一言に切って捨てられる。
困惑を超えて混乱が始まる。
「……お願い……私は……」
「今この場で死んだら、全ての罪科がラファールルージュ一人に転嫁され、全ての下手人は無罪放免で野放しだ」
「え……」
「今のお前の告白はあくまでお前個人の証言であって客観的な証拠は存在しない。証拠が無ければ罪には問えない。
罪に問えないのならば、それは【無実の人間】だ。それで終わっていいとは言わせない」
コンバットナイフを握りしめる右手から血が滴り落ちているのを全く何事も無い様な平然とした様相で、
残酷な現実を端的に示すゴーストウィニング。実際、この状況でラファールルージュが自死した場合、
これ以上の騒動を避けたい政財界の意向で全てをラファールルージュに擦り付けて【手仕舞い】とする可能性は、
幾らでも有り得る話であった。
「……ま、待って!でもティ連の技術を使えば、例えラファールルージュが何も言えなかったとしたって、幾らでも証拠が…!」
「此処はフランスであって日本では無い。事件の捜査権限はフランス側に有り、強引な捜査介入は内政干渉に当たる」
「で、でも…」
「加えて言えば、日本では元総理でも世界的大富豪でも罪を侵せば平等に容赦無く裁かれ罪となる。
だがこの地でもそうであると断言出来るのか。『富豪でも功績者でも裁判に掛ける後進国』等と真顔で言う者共が存在する地域に」
「う……」
トリプルターボの発言にも、容赦無く現実を突き付けるゴーストウィニング。今回の治療に関しては緊急避難や人道的処置の範疇である為に
何も問題はないが、捜査となれば話の次元が違う。【敵地】ならではの圧力や妨害工作、果ては隠蔽工作等も幾らでも起こり得る。
増してや、飛ぶ鳥を落とす勢いのウマ娘界隈、そのフランスの頂点に短期間で上り詰める男である。
安易な行動は、逆に相手に利用される隙となるだけだった。
384:陣龍:2023/11/23(木) 16:44:27 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp
「……心配するな、ラファールルージュ」
「……え……?」
ゴーストウィニングが握りしめるコンバットナイフに、力が籠められ、ピシリと皹が入る。
「……目には目を、歯には歯を。権力と言う盤外戦術には、更なる権力と言う盤外戦術を」
「……なに、を……?」
吹き出る出血の中で、更に音を立てて皹が入るコンバットナイフ。
「悪がこの世に栄え続ける理は無し」
「……砕け、た……」
握り潰され、砕かれたコンバットナイフを茫然と見るラファールルージュ。
「……【会長】、とか言ったか」
「【逃げられると思うなよ】」
止めどなく血が流れ出る右手で、諸悪の根源を指差すゴーストウィニングの眼は、
今まで誰にも見せた事の無い、暴龍の如き負の感情を溢れ出していた。
……自らが主さんと慕う女性の奥底に眠っている、常人には耐えられない怨念の如き、黒き代物を。
「ヴィクトワール」
「勿論ですわ、ライトニング。此方で明前と全てを明らかにしなければ、名折れでは終わりませぬわ」
「そうだ。あの男は我々の居場所を汚した。その報いは、死より尚重い罪と成らねばならぬ」
「ふふっ……さぁ、参りましょうか」
「ああ。……ライトニング号の無念を果たす場を、自業自得の所業の逆恨みで汚した罪」
「もう一度、ヴィクトワール号が共に走る神聖なる場を、下らぬ欲望で侵した罪」
『『後悔してももう遅い』』
ライトニング(ウマ娘)
引退年にキングジョージ6世&クイーンエリザベスステークス、BCクラシック、
凱旋門賞を全て7馬身以上の差を付けて制覇し引退した【エクリプスの再来】ライトニング号のウマ娘体。
ゴーストウィニングやトリプルターボ等の様な転生者ではないが、実馬とは種を超えた双子の様な関係性だと言う。
王位継承権が二桁台後半だが英国王家の遠縁で、諸事情からウマ娘の中では
極僅かな実質的顔パスで英国女王や王室の所へ行けるスゴイ娘。
実際には王室側の執務の忙しさも有って本当にアポなし訪問する事は皆無であるが。
身長160㎝、誕生日4月1日。実馬と同じく純銀の美しい毛並みを誇り、体格等も黄金律そのままの優秀さであるが、
性格は実馬の気性難な自分勝手な自由奔放さを受け継いだか、行動原理はファインモーションより
少々国を思った抑圧さが抜かれた特急列車。書置きを残して街に繰り出し子供らに語り聞かせしたり観光客に道案内したりと、
シービーとは別方向に何とも自由。最近アイルランド王家の某王女を通じて貰った某王女お手製日本式塩ラーメンを
泣きながら『美味い、美味い』と言いつつ食べる怪奇現象が確認された。実は英国諜報部所属と噂の有る
凄腕優秀ウマ娘SPが何時も居る。
ヴィクトワール(ウマ娘)
日本のジャパンカップとエリザベス女王杯を両方制覇し引退した【21世紀前半フランス最優秀牝馬】のウマ娘体。
ライトニングと同じく転生者ではなく、また同じく実馬とは関係良好。旧フランス貴族の家系である歴史ある大富豪の御令嬢で、
幼少期から欧州各地を両親と共に訪問や面会を重ね、その流れでライトニング(ウマ娘)と知り合い、国を超えた親友同士に。
一度サプライズでライトニングにより英国女王にドッキリ面会した時は衝撃と緊張と女王の威厳に思わず騎士の礼を完璧に取り、
女王に気に入られた逸話が有る。
身長155㎝、誕生日3月29日。フランス人美少女を体現するスレンダータイプで、実馬と同じく黄金色の流れる美しさな毛並み。
性格は欧州版グラスワンダーと言うか鎌倉【騎士】で、レース中となれば常に正々堂々真っ向勝負、
レースが終われば優美に礼を取る瀟洒な御仁。正し虫全般が本能的に拒絶反応を示して逃げ回って暴走する困った一面も。
尚、実家が歴史ある富豪だが娘のヴィクトワールには自由に生きて欲しいと言う親側の意向が有るのだが、
近年の状況を鑑みて伝統的な家系のウマ娘私設護衛部隊が付けられていると言う、
過保護かそうでないか判断に困る体制でもある。因みに実家の影響力はフランスに限れば政財界の【根】を幾らか握っている位である。
385:陣龍:2023/11/23(木) 16:47:46 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp
|д゚) と言う事でゴーストが仕掛けを遅れた原因ですた。実際血の匂いもわずかながらに確認出来る可能性有ると思うんすよね()
|д゚) で、まぁトラウマ再起で精神暴走寸前なので理性で強制ロック掛かったゴーストに、デビュー前ながら見学に来ていた
希代の名ウマ娘候補たちが冷静に沈着にブチ切れていると言う
|д゚) では(逃亡)
最終更新:2023年11月26日 14:07