529 :①:2012/03/10(土) 11:11:33
えー、つまらないネタ話です。
SSの方で真面目な話で音楽ネタを書いたので。
たぶんこれなら皆様にはわかっていただけるかと




「Auferstanden aus Ruinen」

1.

ロサンゼルス市内を歩いていたハンスは悩んでいた。
ユダヤ人でナチスに追われた彼はアメリカに亡命していた。
共産主義者にもかかわらず、アメリカは快く受け入れてくれた上に、
様々な楽団の音楽顧問にもなり、チャップリンの映画の音楽監督も努めた。
そのアメリカは崩壊して、今は「カリフォルニア共和国」となっていた。

ハンスはその共和国の閣僚から作曲を依頼されていた。
なんと新しい国、「カリフォルニア共和国国歌」の依頼である。

「州民、いや、カリフォルニア国民を元気付ける曲をなんか書いてくれ」

と、ハンスが作曲家と知っての酒の席の上での戯言だったが、ハンスは思いのほか真剣にこの依頼を受け止めた。

 無理もない、彼を受け入れたアメリカの東半分は廃墟になりつつあった。
新しい国カリフォルニア共和国も南からメキシコが攻め込んできており、降伏した日本の助力を請けねばならない立場だ。
 彼を受け入れた既にアメリカは崩壊し、ドイツはいまだにナチスの支配下にある。そして心の祖国とも言えるソ連は、彼の祖国ドイツといまだに戦っている。

(このままでは世界は廃墟になってしまう…)

 その思いを胸にこの酒の上での戯言を、彼は思いのほか真剣に受け止めたのだ。カルフォルニアといわず、アメリカ、ドイツ、ソ連が愚かな戦争の廃墟から立ち上がる希望の曲を作ろうとしたのだ。

 ところが、思い立ったはいいが曲が全く浮かんでこない。
 師匠であるシェーンベルクに破門状を送りつけたほどの彼がである。

 思い悩んだ彼は町を歩くことにした。
町を歩いて、人々や風景を見れば何か思いつくかもしれないと思ったのである。
 しかし、町を歩いても曲想が浮かんでこない。重いテーマに陰鬱な旋律しか浮かんでこないのである。

(この曲には勇壮さと希望が同居したものでなければならぬ…)

ハンスは悩みながら町を歩き続けていたが一向にダメだった。

その時である。ふと、ハンスは一軒の店の前で脚を止めた。
コーヒーショップの一角にレコードが詰まれている。

(何か曲でも聞いて気分を変えるか…)

ハンスは店の扉を開けた ―

530 :①:2012/03/10(土) 11:12:14

2.

ハンスはピアノを弾きながら曲を書き続けていた。

(これだ!この旋律だ!)

思い浮かんできた旋律をピアノで弾き、楽譜に書き留めていく。
さっきまでのスランプが嘘のようだった。

― きっかけは、さっき立ち寄ったコーヒーショップだった。

レコードは売り物だった。店主の勧めでコーヒーを片手にレコードを見たが、流行歌やジャズのありきたりなレコードばかりでハンスの興味はそそられなかった。
が、一枚のレコードにふふと手を止めた。ジャケットは西洋の騎士の絵で見慣れぬ文字で曲名が書かれている。曲名はわからない。

「これは?」

「ああ、これ。戦争前、ジャップのビジネスマンが国に引き上げるとき売っていったもんなんですよ。なんでも国にいるとき、軍人やらビジネスマンの音楽好きが集まって、曲を吹き込んだレコードだそうです」

ハンスは何かの刺激になるかもしれないと思ってレコードをかけてもらった。

レコードからは聞いたこともない旋律が流れていた。そして最後の曲が流れたとき
ハンスは飛び上がったのだ。その旋律はまさに彼が求めていたものだった ―


「出来た…」

彼は楽譜を置き直し、もう一度ピアノで全曲を弾く
人々の心のうちに働きかけ、勇壮さと希望が湧き出る曲、美しい調べ…

全曲を弾き終わった彼は、脇のレコードを見る。

「ありがとう…アメリカを滅ぼした憎むべき敵だが、私には偉大なヒントを与えてくれたよ…」

そう呟きながら亡命ドイツユダヤ人作曲家、ハンス・アイスラーはカリフォルニア、
いや、滅んだアメリカやいまだ戦っている祖国ドイツやソ連、そして世界に想いをはせて曲のタイトルを楽譜に書いた、彼の祖国ドイツ語で、


『Auferstanden aus Ruinen』―廃墟からの復活―

と。



傍らに置かれたレコードがその姿を見ていた。
ちなみにレコードにはあの男の絵と共にこう書いてあった

「ガハハ、グッドだ!」

―懐かしのエロゲ音楽集
by MMJ有志楽団(私家版:関係者以外配布禁止よ!)―

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最終更新:2012年03月12日 23:10