111 名前:635[sage] 投稿日:2023/10/29(日) 08:21:04 ID:119-171-251-4.rev.home.ne.jp [16/36]

日本連合 日本 支援ネタ ありふれたふこうのはなし二


それはこきょうをすてました。それはにんげんであることをすてました。


集団の中の黄色いベストを着た薄汚れたアジア系の男はため息を漏らす。
農作業中に無理やり駆り出されタンクを積んだ大型トラックの護衛をさせられている。

子供はここ最近さらに進んだ大気汚染によりもとより患っていた呼吸器系の病気が悪化、
故国に居た頃はそこいらの薬局で安く買えた薬を飲んで命を繋いでいる。
しかし今では値段が釣り上がり続け、薬そのものも希少になっている。
自分の稼ぐ雀の涙ほどの金では足りず故国では妻も働きに出ているがそれでも生活するのもやっとで十分な薬を得るのは難しい。

平和主義やポリティカル・コレクトネスや動物愛護と称された考えその信奉者であり、
人権派と呼ばれた死刑に反対する弁護士でもあった彼は彼の視線で軍国主義に走っていた故国に見切りをつけ思想の先進国たるヨーロッパへと脱出。
軍国主義に陥った故国が正義に敗れる様を見てそれ見たことかと喝采を贈ったものだ。
そして故国は解放される筈であったがあれが開いてから全ては変わった。
彼から見た正義であった国は容易く粉砕され、故国は新たな統治者を得た。

加え彼が脱出先に選んだ欧州を喜劇が襲った。
助けてやった筈の難民から逆襲を受け政権どころか国家そのものが崩壊し彼とその家族は奴隷階級に落とされた。
人権を叫んでも意味などない。
新たな統治者にとっての人権は彼らのものであり誰もが生まれ持った権利ではないからだ。
故国の名前を叫んでも意味はない。
大陸間移動手段が喪失した当初はリベラル=イスラム革命国家とは距離故に関係がなく、
故国を捨てた彼に体制が変わった故国に籍が残っているかも怪しい。

そんな彼は上に言われるがまま作業することしか出来ない。
これが何か技術職であれば優遇されていたであろうが彼は故国では弁護士ではあったがその実態は運動家や思想家を名乗る遊民の様な何かだった。
今のこの世界では単純作業の工員か技術力の要らない日雇いか、農奴そして民兵ぐらいしか仕事はない。
大きな収入を得るならば民兵として外征先での臨時収入しかないがその臨時収入が最後にあったのも随分前のこと。
ああ、あの時は反抗的な者を黙らせる為に無様に泣き叫ぶ一人断頭台に送りこんだり、
外の軍の銃を手に入れ戯れに逃げ惑う人間を的にして楽しかったなどと思い出す。

彼は考えることをやめていた。
あれだけ声高に否定していた処刑台に人間を送りこむのも非武装を誇りとすべしという叫びを上げながら武器を持ち人を殺すも自分から積極的に行っている。
眼前のタンク車と認識しているものが大量破壊兵器を搭載可能な弾道ミサイルと知っている筈なのに要らない知識と記憶の奥底で埃を被っている。
それでも故国に戻れればと妄想してはその中で自身を崇高で完璧な人間としている。
死刑反対、非武装平和、反大量破壊兵器の旗頭として持て囃される崇高な自分に酔うという滑稽なことをしている。
それらを理念と主張出来る様な上等な人間でもないというに。


そんな時だ。ヒュルリと何かが落下する音が聞こえ空を見上げる。
ミサイルだと誰かが言った次の瞬間には身体の感覚が無くなり叩き付けられた。
何がと思う間もなく次に認識したのは全身を襲う痛み。


「な、何が」


痛みを堪えなんとか起き上がり自分の状態を確認する。体中の至る所に裂傷があり無事な場所を探す方が難しい。
周囲を見渡せば地面の雪は吹き飛び自分らが乗ってきた車両などが火に包まれているのが分かる。
自分と同じ用に立ち上がる者もいるがそこいらに横たわっている者もいる。
動かなかったり、頭が無かったり、下半身なかったり燃えたトラックの火が移ったり…。
今までの必要だった知識からあれでは助からないだろうなと頭の隅で考えながらさらに周囲を見渡すと黒い煙の中にこちらを刺すように見る大きな人影を見た。
影の頭に当たる部分が赤く光、視線と思しきそれがこちらを向いていた。


「ヒィッ!?」


感じるほどに殺意すら込められた視線に恐怖を覚えるがそれもその人影の姿が見えるまでだった。
機械の巨人、最近各戦線で見るようになったと噂される大きな人型…その肩に白地に赤い丸のマークを見ると彼は安堵を覚え満面の笑みを浮かべる。
アレは自分を助けに来たのだ!高貴で崇高な自分を!
夢が現実となると考えた彼は喜色満面の笑みで機械の巨人に向かい手を振り急いで近づく。
他の同じ国出身者も同じだ。


「おーい!日本じ…え…。」


六つ銃身の冷たい鉄の無機質な仄暗い穴と怒りを込めた赤外線カメラの瞳がが彼らを無機質に見つめる。
ブォーン、文字にすればそんな音が響き渡ると先に行った者らは赤い霧に姿を変え後に残されたのは出来たてホヤホヤの新鮮な挽肉。
鉄の雨、それが彼らのその行動への巨人の返答。

112 名前:635[sage] 投稿日:2023/10/29(日) 08:23:29 ID:119-171-251-4.rev.home.ne.jp [17/36]


「え…あ…?」


考える間も無く眼前の人間は人間でなくなった。彼は助かったが次の瞬間には痛みが手を振っていた左手を襲う。
見ると肘から先がなく痛みを視線で脳が認識すると数秒前以上の激痛が彼を襲う、先程の鉄の雨に持っていかれたのだ。
同じ国の人間なのになぜどうしてと痛みがそこら中走る脳の片隅で考えながらも今までの経験から身体は勝手に逃げ回る。
その間も響き渡る鉄の雨の音は容赦なく死を量産する。
巨人にとって黄色を纏う獣は駆除対象しかない。それが黄であれ白であれ黒であれ。

キュララと味方の戦車の音が耳に入り彼はその方向へ進路を変える。
そうすれば可能性は兎も角として助かると考えるからだ…まあその行動の途中で彼は転んでしまった訳なのだが。
それでもキュララという音は彼に近づいてくるので安堵の溜息を漏らすが次の瞬間には凍りつく。
戦車はスピードを落とすこと無くまるで彼が居ないかのように真っ直ぐに彼のいる場所に向かって来るからだ。
自分はここに居ると叫ぶが密閉されましてや戦闘中の戦車の中に聞こえる筈もない、立ち上がろうとするも足が縺れて起き上がれない。
その間も戦車は主砲を撃ちながら近づいて来る。


「来るな…っ!来るな…っ!来るなあぁぁぁぁ…ああああァァァァァッ!?痛い!痛い!イタイ!」


幸い、と言っていいのか分からないが彼の身体に潰されず、足が履帯に巻き込まれ生きたまま身体の一部をミンチにされるという得難い経験をし、
そのまま意識を失った。




彼は意識を取り戻した。その彼が見たのは夜空と視界の隅を覆う赤い明かり。
既に痛みはない。痛みを感じる器官は既になく脳も痛みを痛みと認識しない程に脳内麻薬に侵されている。
文明の火がほぼ消え失せた大地から満点の星空に見える、それは幼い頃に見た故郷の星空にも似ていた。


「とうさん…かあさん…いたいよう…かえりたいよう…。」


もう何もかもなくなりただの人間に戻った彼は涙を流しながら故国に置き去りにした存在を思い出す。
戻ることなど叶わず命も重度の火傷で後数時間、巨人が残った全てをもう一度使わせない為に火を放ったからだ。
その様は巨人が炎の剣を振るっていたと生き残った者は語っていた。



そして…彼の周囲には何かの唸る声が響く。



かれはさいごにまもるべきもものとかんがえたもののかてとなりはてました。
もえのこったかれはりねんにじゅんじてしあわせだったのでしょう。それとも…ふこうだったのでしょうか?

113 名前:635[sage] 投稿日:2023/10/29(日) 08:24:37 ID:119-171-251-4.rev.home.ne.jp [18/36]
以上です。転載はご自由にどうぞ。
ヨーロッパに脱出したある男の顛末。この世界ではありふれた終わりの一つですが。
+ タグ編集
  • タグ:
  • 日本大陸
  • 日本連合
  • ポリコーラル

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2023年12月09日 12:36