924 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/12/02(土) 19:27:00 ID:softbank126036058190.bbtec.net [40/63]

日本大陸SS 漆黒世界アメリカルート(Re)「開幕を告げる角笛」




 アメリカ合衆国は、客観的に言えば詰みに追い込まれていた。
 半分くらいは自分の講堂の結果なので、自ら危機に飛び込んだツケとも言えなくもないが、それはともかく。
ともかく、国家としてのあらゆる面において、回していくための歯車が外れ、ねじが外れ、ガタが来ていたのである。

 一番大きいのは、人口の問題であろう。これが米国に生じている問題の根源と言える要素であった。
 開拓団や遠征隊に志願あるいは徴兵されたのは、軍人も含め、働き盛りの20代や30代の男性が主体となっている。
規模は程度の差こそあれども、いずれの開拓団や遠征隊は長距離の移動や戦闘そして開拓に適した能力を持つ彼らによって構成された。

 ではこの開拓団などが侵略者と判断され、現地の日本軍により壊滅させられたらどうなるか?
 簡単である。消費者であり、生産者であり、次代を生み出していく層が消えていくということだ。
 ただでさえ男手がいなくなって開拓などが滞るところに、飲む打つ買うを行う主体者がいなくなり、そして子供の生まれる数が減る。
短期的には見えなくとも時間が経つと浮き彫りになってくる問題が発生してくるのだ。
少なくとも最初に明らかだったのは開拓の担い手が減るということであったが、長期化してくると実際に米国内に噴き出し始めた。
子供が生まれず、経済が回りにくくなり、税収が落ち、アメリカの国是たる開拓が滞りを見せる。
 多少俯瞰的に国家を見下ろせることができる人間がいれば、当然悲鳴を上げるところであろう。

 第二の問題として、戦時統制が長引いていることによる不満や負担、疲弊が積み重なっていた。
 これの要因は様々だ。
 例えば、軍人や志願兵として意気揚々と出向き、遺体や遺品さえも碌に帰ってこなかった遺族が反発する小さなものもある。
戦意高揚を謳うプロパガンダにあふれかえり、嫌気がさしている一般人という例も存在する。
 あるいは、戦時ということで予算の割り当てを減らされている他の組織や省庁などの不満という組織レベルのものもある。
軍など最たるものであろう、予算と物資と人が潤沢に得られるとは言え、次々と大損害を出していて平気でいられるはずもないのだ。
勿論熱狂的な世論に後押しされ、軍そのものも同じような状態であるのも事実。さりとて、万人がそうとも限らないのだ。

 ここに関わってくるのは、欧州列強---特に海運を握るイギリスによる経済制裁であった。
 モンロー主義の印象が強いアメリカは、しかし当然のように交易などを欧州各国と行っていた。
 そもそも移民というのは旧大陸からやってくるわけであるし、奴隷などはアフリカなどから連れてこられるもの。
あくまで政治的なスタンスとしてのものであって、一切の交流を禁じるというわけではなかったのだ。
 だが、アメリカが日米間の講和会議において、カナダ植民地への侵攻や欧州への侵攻を示唆したことで、全てが変わった。
日本の国力を適度に削るはずの駒が、狂犬となって自分たちに牙をむいた、ということであった。
当然であるがカナダ植民地を失うのはイギリスにとっても許せることではない。
潜在的な敵国から、明確な敵国に準ずる扱いへと転じ、そのように対処がなされることになったのだ。

 世界の海運を支配するイギリスがそういう態度と行動をとれば、必然的に各国との交易は大きく減じた。
 これによって、アメリカに入ってくる物資や資源、工業機械などはかなり減り、当然ながら国内で不足が発生する。
その本来の量よりも足りないそれも、戦争へと優先的に割り当てられ、一般市井へは還元されなくなる。
戦時ということで経済統制を行っているとしても、どこかしらで不足が生まれ、不満が生まれる、そういうことだ。

 総じてみるならば、国家としてあまりに多くを敵に回しすぎて、同時に、あまりに無茶をしすぎた結果生まれた必然だった。

925 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/12/02(土) 19:27:45 ID:softbank126036058190.bbtec.net [41/63]


 勿論、その程度で諦めるほどアメリカという国家は軟ではない。
 むしろラディカルにのめり込んでいき、止めようもないほどの衝動となっていたのだ。
 だが、それはあくまでもマクロの視点、アメリカという国家全体で見た場合の話だ。
 局地的に見れば、ミクロの視点で見れば、そういったマニフェスト・デスティニーにうんざりしつつある層もまた存在していた。

 特に顕著なのは南部の州であった。
 元々はマニフェスト・デスティニー、というか、北部の州同様にアメリカ大陸開拓に熱心であった。
 しかし、それは自らの利益になる限りにおいてというのが根本的に存在していた。
利益などを度外視、あるいは将来的に獲得するはずの土地で補填するという考えをいつまでも信じきれるというわけではないのだ。

 そして、南部で問題化していたのが、連邦政府および軍による徴発にあった。
 戦時統制および戦時経済を敷き、半ば総力戦を行っているアメリカは、前述のように物資や資源という面で不足が生まれていた。
それを補うために当然の如く民間にあるモノを徴発するという行動に出たのであるが、それがまた多岐にわたった。
 食料・医薬品・武器などはまあよくあることだろう。
 次いで徴発されていったのが労働力---人そして奴隷や家畜であった。
 大陸を東から西に跨ぐ鉄道の敷設に多くの人員及び奴隷が投入されたのは既に述べたことである。
その結果として膨大な数の奴隷を死なせ、短期間での完成と運用の開始を実現したことも。
そこまでならば、まあ、耐えられた。先行投資と考えれば問題はなかったし、購入して補填もできるのだ。

 だが、それを許さなかったのが南部の州の特性にあった。
 彼らは奴隷を労働力として運用していた。それは綿花などをはじめとしたプランテーション農業のためであり、あるいは開拓や日常生活のためだった。
奴隷とは言いつつも、高い技能や能力を持つ奴隷を有することは一種のステータスであったし、誇りとさえ言えた。
使い潰しのきく道具以上のものというのが、南部の州には存在しており、そこを北部の州は理解しえなかった。
 また、農業と並行して畜産業も積極的に行われており、それらにも奴隷は労働力として投入され、それぞれの州の貴重な収入となっていた。
そんな南部の州を襲ったのは、奴隷という名の付加価値の高い労働力の連邦政府による徴発、資産であり重機である家畜の徴発。
さらには連邦政府が喧嘩を売ったことによりプランテーション経済での外貨獲得手段の失陥という、まさしく踏んだり蹴ったりであった。

 開拓という名の戦争が長引けば長引くほど、自分たちが被る損害は大きくなる。
 その認識が南部の州に生まれてくるのは必然だった。元より南部の州からも多くの若者が軍や開拓団に参加し、遺体すら帰らないこともあったのだ。

 斯くして、徐々に蓄積していた不満は、致命的な分断へとつながる。
 即ち、南北の戦争という形で、噴出したのである。

926 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/12/02(土) 19:28:18 ID:softbank126036058190.bbtec.net [42/63]

以上、wiki転載はご自由に。
久しぶりに漆黒世界のSSを。
続きについてはまだ未定です。
筆が乗れば、続けて投下するかもですが、なにせオリジン版ではなかったシヴィル・ウォーを描くので、
下調べなどもして、より世界観を明確にするものとしたいところです。
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最終更新:2023年12月09日 13:36