548 :①:2012/03/10(土) 22:02:47
これもネタです。
この人がもし存在していればある意味、夢幻会に最も近い人ということになるでしょう。
しかし最も遠い人でもあります。
夢幻会は未来を知ってる人たちですが、この人は過去しか知らないのですから。
それに夢幻会の人たちは同類の人たちと仲間を作っていろいろしてますが
この人は「孤独」です。なんせ殺しあいしなければなりませんから。
作った動機はSSに投稿したブルーノ・ヴァルターの話の感想を見て。

〉白人の彼にとってはアメリカは素晴らしい国であったかもしれない。
〉しかし、白人以外にとってはユダヤ人に対するナチスのような国だったのではな>いのか。

これを読んでなぜかこの映画のシーンを思い出し、この人もニューヨークだったなと。
もっともこの時期は、思い出したシーンの欧州にいたと思われますがw




「近くて遠い人」


1.

男は走っていた。
津波に飲まれたニューヨーク。
生き延びた彼は、今、食料を探し回っている暴徒と化している人々の間を縫ってニューヨークを脱出しようとしていた。
住んでいたマンハッタン島を抜け出して西に向かっていた。

彼はつい最近まで欧州にいた。
ナチスが支配しつつある欧州で、彼はドイツ人の蛮行をイヤというほど見てきた。
人間が戦い続ける愚かさを見せ付けられて、彼は欧州から新大陸へと渡った。
ナチスが言う人種の優位が支配する世界より、
「人民の、人民による、人民の為の政治」を標榜するアメリカの方がマシだと思ったからだ。
しかしアメリカにきてもあまり変わらないと思った。
なるほど、マンハッタンの高級アパートの暮らしは快適だった。
いろいろな人種が溢れ、人々は礼儀正しく働いている。

しかし、一歩離れれば醜い現実があった。低賃金で、狭いアパートに押し込められて黒人たち。
南部に行けばバスまで座る場所が分けられている世界。
ナチスの世界とあまり変わらない風景がそこにあった。
いやむしろ、民主政治と高い理想を掲げた裏で行われている現実。
それは彼にとってみればナチスとあまり変わらない、いやむしろ醜い現実と思えた。

そして津波を迎えた。


もはやこの国に民主政治も高い理想もない。人は生き残る為に、今まで唱えていた理想を打ち捨て自己の欲望を丸出しにした獣の世界と変わり果てていた。

周りでは銃声が轟いていた。
男は暴動を避けようと田舎家の納屋に駆け込む。
納屋はまるで外の喧騒が嘘のように静まり返っている。
そのときだった。
ガタンと納屋の鶏小屋が動いた。
男が近づいてあけると、中に黒人の12.3歳ほどの少女が怯えて震えていた。
少女が何か叫ぼうとするのを男は唇に手を当てて制した
「名前は?」
「レイチェル」
「他に人は?」
「みんな殺されたわ…」
そう言って少女が指差す方を見ると、家族だろう、木に吊るされていた。
男は顔をしかめ、少女を抱き上げた。

その時、背後で銃声が響いた。
男は少女を抱えたまま、地面に倒れた。

549 :①:2012/03/10(土) 22:03:53
2.

「へへ、なかなか若い黒人じゃねえか」
白人の男が一人、野卑た言葉を吐いて、ニヤつきながら倒れた男と少女に近づいていく。


少女は観念していた。
優しそうな男に抱き上げられたとき助かったと思ったが、
その淡い希望も撃たれたことによって潰えたのだ。
慰み者にされた後、学校で聞いた自分の先祖の奴隷制度のような生活に逆戻りだろう。殺されるかもしれない。
そしてこれから起こる出来事に自分は抗う力はない、所詮まだ子供なのだ。
そう少女が思ったとき驚くべきことが起こった

撃たれたはずの男が目を開けたのだ。

少女はあっと思って声に出しかけるが、男が唇に手を当てる。


撃った男が近づいてくる。
男は突然立ち上がり、隠し持っていた物を閃かせた。

白刃の光が一閃すると銃を持った男が叫び声を上げた。
銃を持っていた手を切り落とされたのだ。

男は日本刀を鞘に納めると、地面に転がった銃を取ってうずくまっていた男に近づいた

「やめろ!撃つな!」

腕を抑えた男は叫ぶ。
男はその顔に見覚えがあった。
津波が来る前、「弱者に力を!人種差別反対!」を訴えて州議会に立候補していた男だった。
高尚な理想を掲げていたはずの男が…
男はここでもアメリカの現実を思い知らされた。


「撃つな!頼む!」

「<弱者に力を>、それがアメリカの理想ってもんだろ?」

男は引き金を引いた。


男は少女を抱き上げた。
納屋の外に死んだ男が乗ってきた車があった。
それに男は乗り少女を乗せた。そして車のキーをまわす。

「どうして生きてるの?」

少女は聞いた

「魔法とでも言っておこうか」

男は笑いながら言って車を走らせる。

「どこへ行くの?」

「西だ…、ここはもう危ないし、「集合」のときは近い」

少女はその時男の名前を聞いていないのに気がついた。

「名前は?」

「コナー・マクラウド」

ハイランダーと少女は西を目指した。

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最終更新:2012年03月12日 23:14