288 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/11/20(月) 22:41:05 ID:softbank126036058190.bbtec.net [55/211]
憂鬱SRW ファンタジールートSS 「指と目」7
- F世界 ストパン世界 主観1944年10月下旬 オラーシャ帝国 ラドガ湖東部周辺地域
出発した帰りの輸送艦隊を歓迎したのは、非常に多くのネウロイだった。
地上と空中、どちらにも何重という数が展開し、攻撃と離脱、そして翻弄を重ねてきたのだ。
言うまでもなく、輸送艦隊が狙いであり、その為に邪魔となるウィッチ達の排除を狙っていたのだった。
「だー……畜生め」
迎撃を行う管野がうんざりしているという時点で、如何にしつこいかがわかるというものだろう。
ヒットアンドアウェイに徹されることによって、撃破効率はかなり落ちている。
そして、直掩や周辺警戒のウィッチたちが拘束を受けている間に、輸送艦目がけてネウロイが押し寄せているという状況が続いているのだ。
『全く、こっちも退屈しない……!』
『次の集団、8時方向から!クルピンスキーさん、任せたよ!』
「了解、バルバラちゃん」
AWACSのバルバラの直掩を務めるカーチャは、ひっきりなしに飛んでくるネウロイをスナイパーライフルで次々と叩き落としていた。
本来は「フィガー」が出現した際の攻撃役であるのだから備えておかねばならないのだが、そうも言ってられないのだ。
幸いにして高高度に陣取り、尚且つ輸送艦やAWACSからのデータを基にした照準補正があるので、極めて命中率は高く、ネウロイを確実に排除していた。
また、輸送艦に備えられた自衛火器による弾幕と合わさった十字砲火は、完全に取りつかれることを阻止できていた。
しかし、戦場にいる誰もが理解している。
拮抗はしているが、一つ油断しただけでネウロイ側に天秤が傾くことを。
殊更、「アウガ」「フィガー」が仕掛けてきた場合には、その対応が遅れる可能性が非常に大きい。
そも、輸送艦隊を守る502のウィッチ達や輸送艦隊付きのウィッチやウォーザードの役目は、直掩もあるが「アウガ」の早期発見にある。
各個に備えたエーテルレーダーとAWACS、さらに輸送艦隊の複数個所からの情報を基にして接近を探知し、即座に対応しなくてはならない。
だが、それぞれが拘束を受けている状態では、接近や出現を探知できても、対応ができないことになりかねないのだ。
撃たれた場合に備えた防御システムや反撃手段があるとはいえ、本来ならば撃たれない方がよほどましなのである。
「まったく状況としてはよろしくないな……そこ、左舷高高度への弾幕薄いぞ!」
当然ながら、輸送艦の艦橋で指揮を執るオネストも感づいていた。
彼とて元はと言えば海軍の軍人で、艦艇の館長を務めたこともある人物だ、今の状況がどれほど危険かは理解できる。
直掩などを出していてもネウロイに被害を受けるのは、専らその直掩が拘束されてしまうことに由来する。今がそうであるように、だ。
(発見が遅れると致命傷になりかねんからな……)
そして、相手はその意識が向いていない隙を狙って砲撃を放ってくる。
一発でも輸送艦でさえも手痛い一撃になる、強力な質量砲弾を、だ。
289 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/11/20(月) 22:42:06 ID:softbank126036058190.bbtec.net [56/211]
そして、それは唐突に現れた。
『ッ!?こちら502W008!レーダーに感あり!11時方向と13時方向に「アウガ」の反応!』
『こちらAWACSオーカ・ニエーバ!W008と同じく反応を検知。艦隊より9時方向に!』
『502W007!艦隊後方7時方向に感ありです!数は少なくとも1!』
「っ……!そうきたか!」
そう、観測手が撃墜されるならば、数を増やせばよい。どれか一つの情報でも伝達されれば、それを基に砲撃は可能だ。
さらに複数から情報が届けば、それを基により正確な砲撃が可能で、こちらに有効打を叩き込んでくるだろう。
「副長!所定のプロトコルに則り対応を開始しろ!」
『了解』
艦隊全体の指揮も執るオネストは、すぐにCDCにいる副長に指示を飛ばしておく。
副長の指揮の下、輸送艦に後付けされた迎撃用のマギリングキャノンおよび反撃用のレールガンが起動。
どの方位からの攻撃であろうとも対処ができるようにと、それぞれが定められたとおりに動き出す。
オネストの乗る輸送艦だけではない、同道しているすべての輸送艦が同じように反撃態勢を整え始めたのだ。
「各艦の距離を少し空けろ!多少速度が落ちても構わん!」
「AWACSオーカ・ニエーバより入電、フィガー、出現した模様!メインモニターに出します!」
「よし、どこに……は?」
だが、そのオネストはレーダーに表示された「フィガー」の配置に目を見張った。
多方向に、距離はバラバラに、狙いをこちらに定めているのだ。
「飽和攻撃か……!」
こちらの輸送艦隊の規模に合わせ、砲撃手の数を揃えたということだ。
いや、ひょっとすれば直掩のウィッチやウォーザードを狙ってのものかもしれない。
どちらにせよ、複数から一気に攻撃を受けてしまえば何が起こるかなど少し頭が回れば分かろうというものだ。
ならば、どうするか。
「先制砲撃だ、撃て!諸元は正確でなくとも構わん!」
『こちら101W001!攻撃するわ!』
オネストの指示が伝達されたのと、カーチャの報告が飛んできたのはほぼ同時。
そして、わずかな遅滞も許さずとばかりに輸送艦のレールガンが取得されたデータをもとに各所に砲撃。
とはいえ、人類がそれだけのことをする間に、ネウロイもまた動いていた。
『……!撃たれた!』
『AWACSオーカ・ニエーバより作戦展開中の各機および各艦!フィガーより砲撃!
着弾地点を送ったので回避急いで!迎撃が間に合うかどうかわかんないから念のため!』
『わーお』
『陸戦ウォーザードは退避急いで!輸送艦の防御圏内に!』
『カンノ!敵を追いかけてる場合じゃないよ!』
『うっせぇ、わかってらぁ!』
着弾までは時間がある、とはいえ、それは通常の速度で動くしかない人間にはわずかな間。
そして----炸裂が発生した。
290 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/11/20(月) 22:42:39 ID:softbank126036058190.bbtec.net [57/211]
打ち出された砲弾は第一射で8発、直後に第二射で同じ数だけ発射されたので、合計で16発に及んだ。
多方面からの飽和攻撃と言う物量、さらに直近にいるネウロイの個体を顧みない躊躇いのなさ、そして反撃を恐れない行動力。
ネウロイの強みをこれでもかと叩きつけたその攻撃は、しかし、空中で次々と迎撃を受けた。
各艦艇に搭載されていたマギリングキャノンが火を噴いたのである。
質量弾を打ち落とす---否、蒸発させることも前提の高出力のそれは、迅速に砲弾を熱量と質量で砕き、蒸発させていく。
「よし……」
『まだよ!』
だが、AWACSのバルバラの叫びが回線でとどろいた。
『4発か炸裂!徹甲弾じゃない、榴散弾だ!大量の質量弾の雨が来る!』
『なんだと!』
『エーテルバリア、出力上げ!』
『間に合えぇ!』
そう、撃墜された砲弾は単なる砲弾だけではなかった。
破壊されると同時に、内部に詰まっていた大量の散弾をまき散らす特性を持っていた。
砲弾の運動エネルギーをそのまま受け継いだ散弾---とはいっても元々のスケールが大きいためにちょっとした砲弾くらいはあるそれが、降り注いだ。
『うおぉぉ!?』
『状況知らせ!』
『エーテルバリア貫通されました!上部装甲に着弾、なれども損害軽微!』
『確認された「フィガー」、撃破5、損傷3。損傷個体は逃走しました』
『追撃は不要だ、防御態勢を見直せ』
情報が錯綜した。
一筋縄ではいかないと分かっていたものの、それでも昨日の今日で新しい手を打ってきたことへの動揺が生じたのだ。
291 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/11/20(月) 22:43:25 ID:softbank126036058190.bbtec.net [58/211]
だが、それでも艦艇は止まらなかった。
バリアこそ貫通はされたが、それでも艦艇そのものが持つ防御力の方が上回り、砲弾を跳弾させることに成功したのだ。
直掩のウィッチやウォーザードの退避も間に合ったこともあり、被害は総合的に見て軽微であった。
『……レーダーに反応なし。「フィガー」はこのまま逃げたとみるべきかしら』
『地下に潜られると流石に追いかけられないのか?』
『流石にエーテルレーダーも万能じゃないから……地面の中になると、反応が減衰するわね』
ともあれ、とオネストは通信を繋ぐ。
『一先ずの所脅威は去ったようだ。
だが、まだネウロイは押し寄せてきている、各員迎撃を続けてくれ』
まだペテルブルク基地の確保している安全圏までの距離は存在している。
そこに逃げ込むまで、いや、逃げ込んでもネウロイがしつこく追撃してくる可能性は十二分に存在していたのだ。
「被弾した艦艇は再度状況確認を急いでくれ。
それと、敵の増援がないかの確認は慎重に頼む」
『AWACSオーカ・ニエーバ、了解したよ』
「小さくとも可愛いウィッチに言われると嬉しいね」
オネストの半ば本気の口説き文句を受け流したとき、ふとバルバラはレーダーに微弱な反応を探知した。
『待って……艦隊正面に反応……これだけの数が?でも視認はできない……?』
『また「アウガ」でも湧いたのか?』
違う、と答えるしかない。
エーテルレーダーの改良によって、「アウガ」を探知する能力は確保されている。
だが、検知したりしなかったりと曖昧な反応をしているのはこれまで見たことがない。
『距離が詰まって……艦隊の方が近づいている……?』
『輸送艦レインからAWACSオーカ・ニエーバ、現状予定通りの進路を進んでいるが、何か問題が?』
『それは……未知の反応があってね』
AWACSオーカ・ニエーバ---バルバラさえもこの反応には戸惑うしかない。
中途半端にレーダーに探知されるネウロイ、しかも全く動かないときたものだ。何をしたいのかさっぱりわからない。
『動かない……?レーダーの探知に少し反応……?艦隊の前……?陸上……』
『定ちゃん、どうしたの……?ネウロイが隠れているのがそんなにおかしいこと?』
『ばれているのになんともないのが……』
ジョゼからの通信に定子が応えようとして、その瞬間にひらめきが奔った。
これまでに得た情報が、一気に意味を持ち、連結したのだ。そこから導き出される未来は---
『輸送艦隊の皆さん、今すぐ止まってください!』
そして、間に合えと祈りを込め、絶叫したのだった。
292 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/11/20(月) 22:45:38 ID:softbank126036058190.bbtec.net [59/211]
以上、wiki転載はご自由に。
ネウロイお得意の戦術に出てきました。
さて、最後の定子はなにに感づいたのか?
それは次回ですね。
最終更新:2023年12月10日 17:19