656 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/11/25(土) 01:14:43 ID:softbank126036058190.bbtec.net [144/211]


憂鬱SRW ファンタジールートSS 「魔女のちょっとした憂鬱」


  • F世界 ストライクウィッチーズ世界 主観1944年10月末 大西洋上 エネラン戦略要塞 執務室



 居室に戻ってきたリーゼロッテ・ヴェルクマイスターは、扉が閉じられた直後、深く息を吐き出した。

「……はぁ」

 そのまま、自分の椅子へと身を預ける。
 言いたいことが山のようにある、という顔の彼女は、何とか愚痴をこらえて差し出されたPDAを手に取る。
 先ほどまで、ウォーロック事件にかかわる関係者---殊更に今後「活用」できる人材と話をしていたのだ。
 ポーラ・デイムラーら、オーバーロード作戦に参加し、負傷あるいは上がりが原因で引退していたウィッチ達である。
 彼女らはブリタニアで秘密裏に進められていた無人兵器「ウォーロック」の開発に協力しており、関係者の例にもれず軍法会議を待っていたのだ。
その彼女らは、未だ「使える」ということで司法取引をし、志願という体裁でこのエネラン戦略要塞に来た。
その実態がウォーロック開発への明確な加担への贖罪ということであっても、彼女らには厳しいものが待っていると言えるだろう。
何しろ、ウィッチの身体を改造して兵器の一部とするという、倫理観によっては劇物そのものと言える利用法をするのだから。

(納得の上とは言え、な)

 今更ではあるかもしれない。
 宮藤やひかりのように、その若さで深淵に触れることを望んだウィッチもいる。その延長にあると言えば、理解はできる。
 けれども、裏の世界においてもある程度は守っている矜持や倫理観などは、それに反発を覚えていた。
 大分自分もこちらの世界に影響された、そう思う。
 魔導を秘匿することなく、表の世界で使い、あまつさえそれによって多くを救っているこの世界。
 何とも、眩しい。眩しすぎて、目をそむけたくなるほどに。

(ともあれだ、私情は交えない。そうでなければ、彼女らの挺身と覚悟を引き裂くことになる)

 改めて、リーゼロッテは自分に言い聞かせる。
 ポーラらに対し思うところがないわけがないが、それで自分の行いを曲げてしまうわけにはいかないのだ。
私人としては言いたいことは山ほどあるが、それを公の場でぶちまけても何ら意味はないし、彼女らを傷つけることにしかならない。
彼女は利用されたという立場なのであるし、縋るものを見せられてしまい、それに飛びついたということになっているのだから。

(前向きに考えよう……ヴァナディース作戦の戦力が増えたと、そういうことなのだから)

 何度か呼吸を繰り返し、気分を落ち着ける。
 モルフォW型が純粋な戦力だと、そう割り切るしかない。
 CMAからも決戦兵器を送り出す予定であるが、正直、いくらあっても足りないかもしれないほどだ。
 融合惑星からもたらされた決戦兵器に、カールスラントなどの開発した列車砲に、扶桑皇国がシティシスと共に生み出した「蛇」。
 犠牲は覚悟の上であるし、ネウロイに対策されることも模倣されることも見越したこれっきりの戦力も投じられる。
 虚憶にもない、オーバーロード作戦に匹敵するスケールでの大作戦だ。
 夢幻の人々の虚憶もここまでくるとあてになる部分は小さい。それほどに状況が変化し、複雑に絡み合っているのだから。
それだけの変化を引き起こし、運命と渡り合いながらも、ここまでこれたということは確かである。

「さて、と」

 不断の努力はここでもいくつか続いている。
 丁度いいから確認しようと、彼女は通信機を操作した。

657 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/11/25(土) 01:15:15 ID:softbank126036058190.bbtec.net [145/211]

  • 大西洋上 エネラン戦略要塞 工廠区画


 その巨人---「TYPE-ヴァルロス」は着々と組み立ての工程を踏んでいた。
 全高が15メートルにも達する巨人は、しかし、胴体の一部と頭部がなかった。
 それもそうだ、ヴァルロスはMPFが装着する大型の拡張ユニットなのだから、MPFの納まる部位は空洞になる。
 MPFをより大型に、より強力に。
 そのコンセプトの元に、シルエットナイトなどの技術も取り込むことでプロトタイプが完成し、テストなどが繰り返されているのである。

『---』
『------』

 それらの組み立ては、作業ロボットアームの無機的な動きによって行われていた。
 人の手も介在しているとはいえ、精密且つ多量の作業を行うには機械ほど向いているのは存在していなかった。
運用において極めて大きな負担となるこれは、しかし、それ以上の戦闘能力を期待されていた。
 艦隊規模の火力と制圧・殲滅能力を15メートルの巨体に押し込み、単独で圧倒的多数のネウロイを排除するというコンセプト。

「バージョンアップとテストは順調、ですが……まだ足りないところがありましたからね」

 その様子を離れた場所から見ているのは、フラワーだった。
 リーゼロッテ直轄の決戦兵器開発ということもあり、彼女が時折進捗を確認し、リーゼロッテに報告しているのだった。
 巣に抱えている戦力がどれほどかは考えたくもないほどで、そうであるがゆえに効率的な排除を可能とするこの巨人に期待されているところは大きい。
 とはいえ、決して無敵というわけでもないのだ。最前線で収集されるネウロイの戦略や戦術などをフィードバックし、逐次バージョンアップは繰り返されている。
相手が総力戦において投じてくるであろうあらゆる戦力に対応する、柔軟な対応力こそ、この巨人において重要な要素なのだから。
 それを考えているとき、フラワーの持つ通信機が鳴り響く。

「はい、こちらルビーです」
『私だ。そちらはどうだ?』
「現在、環境兵器への対応モジュールを搭載したモデルの組み立てが進行中。
 進捗としては76パーセントというところでしょうか』
『順調だな。とはいえ、アップデートもある程度で区切りをつけたいところだが、それをどこでつけるかが悩ましいのが問題なんだが……』

 ええ、とルビーはリーゼロッテの言葉に頷く。
 現在のところ、エネラン戦略要塞の設備でのテストや他の兵器からのデータを含めたフィードバックは逐次反映されている。
それを行えばそれだけ洗練され、強化されていくのは当然のことである。
 しかし、同時に慣熟や運用に慣れるまでの期間という問題に突き当たることになる。
 この瞬間も費やされている膨大な開発費のことも含めれば、早くに量産体制を本格化させた方がいいのかもしれないのである。

「現場の声なども考慮して、臨機応変且つ柔軟に対応が一番かと」
『つまり行き当たりばったりだな』

 一頻り笑ったリーゼロッテは、しかし、指示を出すのも忘れない。

『現場の人間にもよく言い含めておいてくれ、決戦は近い、と』
「はい」

 応答が終わると、再び視線は建造されつつある巨人に向けられた。
 あれらがどれほど活躍し、被害を減らせるか、それは今の自分達の努力がかかわっていると、そう自分を戒めた。

658 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/11/25(土) 01:15:50 ID:softbank126036058190.bbtec.net [146/211]

以上、wiki転載はご自由に。
着々と決戦の準備が整っております。
まあ、その決戦の後にはさらに戦いが待っていますがね!
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最終更新:2023年12月10日 17:47