748 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/11/25(土) 23:57:55 ID:softbank126036058190.bbtec.net [169/211]

憂鬱SRW ファンタジールートSS「オラーシャでは紅茶にジャムを突っ込まない」



  • F世界 ストパン世界 主観1944年10月末 オラーシャ帝国 ペテルブルグ 502JFW基地 執務室




 作戦名「釣り人(フィッシャーズ)」の折り返し作戦が完了し、502はようやくの休息を得た。
 彼女らが実験したネウロイへの対処法および収集したデータなど、多くの収穫があり、それに合わせた装備やメソッドが確立したからだ。
輸送艦隊の安全を確保するための処々の装備などが整えば、あとは自然と被害などが低減していくわけである。
無論のこと、ネウロイが新たな手を打ってくる可能性は高いのだが、それでもされるがままの何倍も良いのである。

 さて、それなりの規模の作戦を終えた502は、上層部から今後予定されている大規模作戦についての情報開示を受けた。
 言うまでもなく、ヴァナディース作戦についてである。
 グレゴーリ、アンナ、ヴァシリーの3つの大規模なネウロイの巣の攻略を目標とする、東欧から中東までに及ぶ作戦である。
オーバーロード作戦以降の軍事作戦においては、間違いなく最大規模である。
 というか、オーバーロード作戦と同じかそれ以上かもしれない。

「巣同士の連携を寸断し、同時に攻略を図ることで各個撃破に持ち込む。理屈としては正しくはあるな。
 カーチャはどう思う?」
「理に適っている、というのが感想です。
 一つの巣に対し多方面から戦力を叩きつけ、分断して包囲、殲滅に持ち込む。
 それだけの戦力を集結させて同時に動かすという難易度の高いことをしなくてはならないですが、ひたすら押し寄せる増援を捌くよりもマシです」

 そんなカーチャの回答に、しかし、ラルは不満げだ。

「別に私に気を使う必要ないぞ、カーチャ。率直に言ってくれて構わん」
「では、遠慮なく」

 居住まいを正し、カーチャはぶっちゃけた。

「理屈倒れの危険がありますね」
「正直でいいことだ」

 フフフ、と笑いながらも、カーチャはサモワールから紅茶のおかわりをカップに注ぎ、言葉を続ける。

「隊長も懸念されているでしょうが、あくまでもこれは理屈ではうまくいく話です。
 ネウロイの巣がどのようなものであるかまだ未知数であるということもありますし、対応しきれるかどうか不安な面があります」
「各方面軍ごとに指揮系統は独立させるとは言うが、そう簡単にいく話でもないだろうな。
 指揮権の取り合い、戦力の奪い合い、激戦区の押し付け合い、いくらでも想像がつく」

 オーバーロード作戦に参加し、その裏側であったことを知るラルやカーチャならではの視点だ。
 とはいえ、それの解決方法があるのも事実であり、二人のコンセンサスであった。

「地球連合が数的および質的な主力を担い、その分だけ発言権を持つ。
 各国に兵器や戦力を融通し、あらゆる面で援助をしているからこそですね」
「ああ。ウィッチの出し惜しみなどもなく、ある戦力をあるだけ使うとの確約もあるからな」

 出し惜しみをして勝てる相手ではないという認識であり、同時に各国にも支援の分だけ働け、というのが地球連合の意志だ。

749 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/11/25(土) 23:58:49 ID:softbank126036058190.bbtec.net [170/211]

 ジャムを美味しくスプーンで味わうオラーシャ式の喫茶をしながらも、カーチャはそこを指摘する。

「文句を言わせないが意見は聞くし反映させる、とも言っていますからね。
 実際、作戦内容については未だ協議を重ねて、骨子に肉付けをしているとのことですし」

 それに、と開示されていた情報を一つ話題に出す。

「私たちも決戦兵器というのを任されることになりそうです」
「ほう、オーカ・ニエーバがか」
「陸戦隊のマーコールも、ですよ。概要は……これですね」

 差し出されたPDAを見ると、そこには巨人の姿があった。

「これが、決戦兵器か」
「はい、MPFの外装ユニットとのことです。
 主戦力が通るルートを切り開き、押し寄せるネウロイの殲滅する能力を求めたとのことで」
「……確かに決戦兵器だな。日常的に使うにはあまりにも問題がある」

 そのプロトタイプの諸元を見ただけで、ラルは理解できた。これはまさに決戦兵器だ、と。
 つまり、決戦という場におけるパフォーマンスを重視して、それ以外を半ば切り捨てたような設計と発想なのだと。

「おかげさまで、私たちは訓練を3割増しにする羽目になりました。
 その余裕を生むために人員が追加で派遣されてくるとのことですが、この娘の調教もしなくてはならないので……」
「後半は聞かなかったことにしておくが……それはすまないな」
「いえ、元より覚悟の上ですよ」

 それよりも、とカーチャが心配するのは追加人員の片割れだ。

「雁淵孝美……元々502にウィッチとして派遣される予定だった彼女が、ウォーザードとして派遣されること。
 部隊内の不和---特に姉妹間で何かあっては困ることになります」

 オーカ・ニエーバと502にまたがりますからね、と付け加える。
 そして、その言葉をラルは無言で肯定した。
 元々共に戦うことを切望していた管野がいるというのは言うまでもないこと。
 さらに問題なのは、後方のカウハバにいるはずの妹のひかりがウィッチの一人として502に属し、最前線で戦っていることだ。

「ヴェルクマイスター大佐からは、彼女に502の情勢については情報統制を行っているとのことです。
 情報を知ったら飛び出してしまいかねないから、と」
「根っこでは、初陣で飛び出した雁淵ひかりと同じというわけか……」

 厄介だな、と嘆息するしかない。
 感情の問題だ。理屈では納得しがたいし、むしろ反発が起こりかねない。

750 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/11/25(土) 23:59:32 ID:softbank126036058190.bbtec.net [171/211]

「私も妹や弟がいるので気持ちとしてはわかります。
 ですが、それとこれとは話が違いますからね」
「……そうだな。これは軍務で、雁淵姉妹は軍人として振る舞い、平等に扱われるのが道理だ」

 そう、特別扱いなどできない。
 ラルとしてもひかりを手放すのは惜しいと思うくらいだし、カウハバには別の人員が派遣されている。
それらの決定については地球連合と国家間の話し合いや軍としての話し合いなどを経て決定されたことで、すでに実行されている事なのだ。
軍人でありウィッチである、そしてウォーザードに転科訓練中の孝美は、私情を殺し、それに従わなくてはならない。

「実際、軍曹の持つ能力は特別だ。解析魔法によるネウロイの弱点の把握……欺瞞なども看破する、唯一無二の力だ。
 透視や千里眼といったただ見るだけの固有魔法とは違う、極めて有用なもの。巣の攻略には必須だろう。
 というかだ、ヴェルクマイスター大佐にそう断言された」
「大佐がそこまで言うとは、よほどですね」
「……その忠告に背いたとき何が起こるか怖くてな。
 なまじ正解を言い当てるあの大魔女様だ、軍属としても、ウィッチとしても、人間としても逆らいたくはない。
 孝美には、正直に謝るしかないな」

 それでもだめなら?と視線で問われ、肩をすくめた。

「ヴェルクマイスター大佐に任せる。
 どうせ、孝美が我儘を言えば大佐の耳に入るだろうしな」

 そもそも、と紅茶を呷ってからラルは続ける。

「そのような采配をしたのは私の上の人間であるヴェルクマイスター大佐なんだ。
 私は従わざるを得ないし、大佐の責任と援護の元にそのように動くしかないんだ。
 言い訳に聞こえても知らん」
「開き直りましたね」

 だが、それが事実だともカーチャは理解している。
 部隊長として色々な人間関係を俯瞰できるからこそ、ラルとしても迷ったのだろうとカーチャは察した。
 個人の情をとるか、それとも軍人としての責務をとるか。部隊員がパフォーマンスを発揮できるように差配するからこそ、悩んだのだろう。
オーカ・ニエーバとマーコール、さらに502そのもの。総じて3000名余を荷物として背負っているのだから。

「ですが、重荷を投げつける相手がいるのはいいことだと思いますよ?」
「ああ、そうだな。大佐にもそう言われたよ。私まで子供のように扱うとは……」
「本当に何歳なんでしょうね、大佐は」

 それからしばらく、ブリーフィングを兼ねたお茶会は続いた。
 部隊を率いる者同士、気兼ねのない会話で、近づきつつある大規模作戦を前にして緊張をほぐしていた。
 ヴァナディース作戦まで残り2か月余り。時間の猶予は、徐々に減りつつある中でのほんのちょっとしたモラトリアムだった。

751 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2023/11/26(日) 00:00:34 ID:softbank126036058190.bbtec.net [172/211]

以上、wiki転載はご自由に。
部隊長同士の会話でした。

なお、作中に出ました「マーコール」ですが、502JFW付きの陸戦ウォーザードの部隊の名前ですね。
ユーティライネン中尉とかも含まれています。
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最終更新:2023年12月10日 17:49