743:陣龍:2023/12/16(土) 19:29:26 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp

『蟻の一穴・神の光明か、万策枯渇・窮余の奈落か』


 トレセン学園、カフェテリア。少し先に秋華賞、菊花賞、天皇賞秋が待ち構えるこの時期も、変わらずこの場所はウマ娘達で賑やかで有った。



「……何も思い付かん……」
「……カナ、食べないと冷めるよ?」
「あぁ……せやな……」


 その一角にて、食膳を前に天を仰いだままの関西系特急ウマ娘と、その親友の関東系特急ウマ娘が居た。今日の夕食はジ〇リル〇ン飯こと
ミートボールパスタに付け合わせのコーンポタージュのようだ。


「……ゴーストの事だよね」
「……せや。あのダービー、いや皐月賞の頃からこの方、ずっと突破口を考えてるんやが……」
「全く糸口が掴めない……」
「しかも、この前の凱旋門賞から……余計に訳分からん進化もしとる」


 ホンマどうしろっちゅうんや。そう言いながらパスタを掻き込むカナリハヤイネンを、トリプルターボは苦笑しながらコーンポタージュを飲んでいた。





 日本大陸産のUMAと、極普通の純粋なサラブレッド種。多数の子孫を残し祝福された馬生を全うした側と、子を成す機会も得られず人間の悪意を原因として
突如命を絶たれた側。度々敗退しつつも有終の美を飾るラストランを勝利した側と、全戦無敗であったが結果的にラストランとなった
別種族(ウマ娘)とのレースで敗北し終わった側。双方対極的な前世を持つ彼女らの今世は、また同じく対極的な状況にあった。

 無謀極まりないと言われたジュニア期の芝G1レース三戦連続出走からの無敗全勝、その後の桜花賞、皐月賞、オークス、東京優駿(日本ダービー)すらも
全てに勝利した『ターフの亡霊』ゴーストウィニングと、順当なOP・重賞レース選択とクラシック三冠を選んで『亡霊』の影すら踏めずに敗れ去った
『転生元UMAコンビ』トリプルターボとカナリハヤイネン。無敗連勝記録その物は、突発的に開催と招待が決まり僅か三日間の弾丸特急凱旋門賞にて
三着になった事で途切れたが、そのレース自体元UMAコンビは招待されなかったのでレースその物に参加していない。

744:陣龍:2023/12/16(土) 19:30:37 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp

「うん、うん、それでね……あ……」
「どうしたのキタちゃん……あ、カナさんにトリーさん」
「……おぉ、キタにダイヤか」
「やぁ、二人もご飯?」
「はい!今日はファインモーションさんがラーメンを作ってくれたんです!」
「北大西洋で獲れたアイルランド産の魚介スープが、とっても良い香りで…お二人は…」
「あぁ、ウチらはコレ(こんもりミートソーススパゲティ)食ってるでええわ…」
「期せずしてみんな麺類が夕食になったね」



 そんな憂鬱な雰囲気を約一名が醸し出している所に偶々来たのは、この『転生元UMAコンビ』とは違い、
同着一位と言うレース展開に無数の幸運が味方した形では有れど『ターフの亡霊』が決して絶対無敗の存在ではない事を、
オークスにて証明してのけたキタサンブラックとサトノダイヤモンド。奇しくも、サラブレッド種の自身の同一存在とは違って、
ティアラ路線に進んだ事は兎も角、馬の戦績より数ヵ月早く、それも最も新しい神話であるゴーストウィニングと並んで
G1勝利を達成した事でネット界、現実の街街道問わず各所に祭と花火大会を巻き起こすお祭り騒ぎの百鬼夜行が巻き起こったりしたのだが、
此処では割愛する。



「……ゴーストさんの事で、やはりお悩みですか?」
「せや……全く突破口が思い付かんで、何時まで経ってもグルグルグルグル堂々巡りやで……」
「カナさんもですか……私達も、折を見て考えを巡らせているのですが……」
「あはは……私も『お助けキタちゃん』したいですが、こっちも全然思い付かなくて……」
「二人もなんだね……」


 丁度席が空いていた事も有って同席し歓談しながらそれぞれの麺を食していた四人は、それぞれが食べ終わると少しだけ間をおいて、
共通の悩みの種である『最高の強敵』であるゴーストウィニングの対策について、必然的に話し出す。
最近は誰に言われずとも自然と集まっては対策会議的座談会をしている彼女達であった。



「凱旋門賞が終わってから……前から凄かった末脚や追随力が更に進化していますよね……」
「そうだね……と言うより、お姉ちゃんがやたらにゴーストに挑んで撃沈を繰り返しているせいなのか、精度がより磨かれている様な……」
「ツインターボさん、事あるごとに挑戦していますものね……」
「正直ウチらも止めてるんやが、ツインターボはあの性格やろ?凱旋門賞でも腹ァぶっ刺されてるのに、傷がふさがり切って無いのに、
傷口開いてレースの負荷で死ぬかも知れんのに強硬出走する様な大馬鹿やろ?あのアホが平時に止まりようが無いっちゅうねん」
「あはは……流石に、ネイチャさんにタンコブタワーを一棟作られた位に怒られましたから、あの時と同じ事はやらない……」
「……と、思う?あのお姉ちゃんが?」
「…………多分、大丈夫なんじゃ、ないかなぁ、って……はい……」


 引き攣った笑みで目を逸らすキタサンブラック。苦笑するサトノダイヤモンド。諦めの表情で遠い目をするトリプルターボ。
そんな事よりゴースト攻略で頭が一杯の椅子仰け反りカナリハヤイネン。先のフランスでの一戦で一皮むけたと目されたツインターボも、
敗戦を元手に更なる躍進の進化を加速させたゴーストウィニングの前には形無しであった。

745:陣龍:2023/12/16(土) 19:31:54 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp

「はーっはっはっは!見つけましたよタキオンさん!今日と言う今日は逃がしませんよ!!」
「うん?なんだい、学級委員長?ここはカフェテリア、余り騒ぐのは褒められたものじゃないねぇ?」

「あ、バクシンオーさん」
「んぁ?」
「あー、【何時もの】かな?」
「【何時もの】ですね」


 そんな最中、カフェテリア内に響く声。周囲のウマ娘も一瞬注目するも過半は【何時もの事】だと直ぐに興味を無くすか、
或いは物見遊山気分か何事か起きないか心配しながら見守るかしていた。夕食時なので自分の食事をしながら、であるが。



「タキオンさん!先日また第二理科準備室を爆破して教室全部真っ黒こげにした反省文が未だ提出されて居ません!
前回吹き飛ばした時と違って何故か窓ガラスが全部無傷で爆発した音が全然聞こえなかったとしても反省文は提出して下さい!」
「面倒だねぇ……大体、あれは私にとっても不本意な【事故】であって、どう言う訳か混ぜる筈の無い保管していた試薬が何時の間にか
すり替わっていたんだよねぇ……」
「それはきっとタキオンさんが間違っただけです!」
「そもそも煤だらけになった教室は全部綺麗にしたじゃ無いか。カフェ君は手伝ってくれなかったから一人で掃除して……」
「掃除をした事は良い事です!ですが反省文とは別の問題です!!」


「……あはは、またやってたんですか。タキオン先輩……」
「隔離区域の様な理科準備室が度々被害に遭ってるよね」
「ギャグマンガ見たいに黒煤塗れやったな、タキオン……」



 サクラバクシンオーとアグネスタキオンの会話から、察するまでも無く何時もの如くタキオンが理科準備室を爆破した一件だと分かって
呆れる周囲のウマ娘達。この超高速の粒子、自分のトレーナーを発光させたりキー君なる巨大化謎生物を爆誕させたり、
最近はデフォルメ状態の巨大アリすら(事故で)生み出しているウマ娘なので、爆破する位ではもう驚かれもしなくなった。
尚この愛嬌も感じさせる様なデフォルメ巨大アリだが、やはりてんとう虫以外は虫嫌いの女帝は一目見るなり悲鳴を上げて
全力で逃亡していった御様子。現在名前募集中。


「……おぉ、そうだ!バクシンオー君、ずっと私を探していて喉が渇いていないかい?これを飲むと良い」
「おぉ!ありがとうございます!」


「いや普通に飲むんかい!?」
「バクシンオーさんだからなぁ……」
「あー……」


 そして一瞬不穏な微笑みを浮かべた問題児アグネスタキオン、何処からか取り出したドリンクをバクシンオーに手渡し、
何の疑いなく一気に飲み干す委員長。何時もの事である。



「くっくっく……調子はどうだい、バクシンオー君?……バクシンオー君?」
「……タキオンさん」
「ほぁ!?ば、ババババクシンオー君?!」
「静かにして下さい、反省室に連行します」
「藪蛇だったねぇ!?一体どうしてそうなったんだい!?」


 服薬直後の数秒後に何故か真顔かつ静かになり、問答無用でタキオンを担いで連行するバクシンオーと言う物珍し過ぎる光景に、
流石にカフェテリアのウマ娘も驚く中、偶然の産物でどれ程注意散漫でも服薬すれば物事一つに全集中力を注ぎ込むようになる
謎の秘薬と言うノーベル賞級の開発をしたタキオンは反省室へと運ばれて行った。尚、その謎の秘薬の資料は後に再現しようとして
教室を再爆破した際に全て消し飛び、存在その物が都市伝説と化したと言う。

746:陣龍:2023/12/16(土) 19:32:56 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp

「……びっくりした」
「そうだね、キタちゃん……」
「……タキオンのヤツ、一体何作ったんや?」
「考えない方が良いのかもね……」



 お騒がせ天災ウマ娘が学級委員長によって運搬されて行き、暫くして何時もの喧騒が戻るカフェテリア。
発光させたり何だりさせている事に比べれば、何時も大騒ぎな学級委員長を何故か沈黙させる事は
驚きはすれどそれ以上の事では無かった。ある意味一大事では有るが、何時もそこまで大事になる事は無いと言う
信頼感もある。



「まぁ、バクシンオーさんは何時でも何処でも何時も通りですよね」
「そうだね、何時でも何時も通りで変わらないのって、何だか安心するよ」
「ですね」
「せやな……」


 友人と親友の言葉に、何気なく相槌を打つカナリハヤイネン。


「……ん……」


 その時、ふと頭の中で今まで停滞していた思考が繋がり出す。


「……【何時でも】」

 脳内に散らばり、バラついた様々な映像の記憶が並び出す。


「……【何時も通り】」


 親友たちが雑談に興じる中、呟いた小さな言葉が記憶を貫く【串】と化し。


「……【変わらない】」


 求めて止まなかった、一つの結論を描き出す。



「……カナ?」



 そのウマ娘の異変に真っ先に気付いたトリプルターボ、そして続くように向くキタサンブラックとサトノダイヤモンド。
見れば、何時にも増して真剣で厳しい顔をしたカナリハヤイネンが、組んだ両手に口元を当てて思案に暮れている。



「……【何時でも】」
「……カナ?」
「……【何時も通り】」
「あの……カナさん?」
「……【変わらない】」
「……どうしたんですか?」


 普段と全く違う雰囲気と声色に、困惑する親友と友人ウマ娘達に全く注意を向けず、同じ言葉を繰り返し呟くカナリハヤイネン。



「…………ッ!!」
「ちょ、か、カナ!?何処行くの!?」
「あ、食器!食器置きっぱなしですよ!?」
「わぁー……。よし、此処は私が片付けておきますね?」



 直後、唐突に弾かれたかのようにカフェテリアの外へ疾走するカナリハヤイネンに、それに触発されて追い掛けて行った
トリプルターボとキタサンブラック。唯一見送ったサトノダイヤモンドだけ、机に置き去りにされた食器を片付け始めていた。


「……あの三人、一体どうしたんだろうね?あ、手伝うよ、ダイヤちゃん」
「わぁ、ありがとうございます!」


 尚、直ぐに近くの級友が手伝いに来てくれたために、作業量は大した事無く終了した。これもサトノダイヤモンドの人徳の賜物である。

747:陣龍:2023/12/16(土) 19:34:12 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp


――――視聴覚室

「……ねぇカナ。いい加減何思い付いたのか言ってくれてもいいと思うよ?」
「そうですよ……食器の片付けとか、全部ダイヤちゃんにして貰っちゃってますし」
「私は気にして居ませんよ?」
「……スマンな、もうちょっとで、もうちょいで掴めそうなんや」



 堪忍な。そう言いつつ機器を操作してスクリーンに複数の映像を並べるカナリハヤイネン。因みに使用申請は
キタサンブラックが職員室に転がり込む勢いで駆け込んで許可を勢い任せにもぎ取っていた。



「……これは……」
「ゴーストさんの……レース映像?」
「皆で何度も見てますよね……?」



 そしてスクリーンに映し出されたのは、この場に居る全員の最大の難敵であるゴーストウィニングのレース映像。
それも、出走し勝利している全てのG1レースのモノに加えて、一度だけ行った短距離模擬レース映像も加えて、である。




「……なんで今の今まで気付かんかったんや、ウチは」
「……カナ?」
「何か分かったんですか?」



 苦虫を?み潰したような渋い顔色と声色で、そして絞り出すように呟いた声のカナリハヤイネンに、理由の答えを求める一同。



「……ゴーストはな」
「うん」

「……本当は【クッソ不器用】なんや」
「……うん???」





 行き成り訳の分からない事を言いだしたカナリハヤイネンに、目が点になる周囲を他所に話始めるカナリハヤイネン。


「ウチはずっと思い違いしとった。アイツは…ゴーストウィニングは、ホンマはマイルや中長距離にすぐさま適応出来る程に
【器用さ】はあらへんのや」
「……カナ、もしかして考えすぎて疲れて来た?」
「ウチの話を最後まで聞いてくれや、トリー」

 これまでのゴーストウィニングのレース戦績を見て若干意味不明なカナリハヤイネンの物言いに思わず口を挟むも、
真剣な眼差しの前に閉口するトリプルターボ。



「違和感に気付いたのは、この前のこの短距離の模擬レースや」
「ビックリする位に沈んでいましたね……」
「あんなに消耗したゴーストさんは始めて見ました」


 相槌を打つ幼馴染コンビウマ娘達の視線の先に、スクリーンに映し出され流される話題の短距離模擬レース映像では、
スタート直後は兎も角数秒後には見事に同レース出走者に置き去りにされてズタボロに敗残兵と化した、
何とも衝撃的映像が流れていた。


「問題は距離適性の事やない。見るべきところはゴーストの動きや」
「動き?」
「せや。何時ものレースの時と比べたら違いが分かるで」


 そう言うカナリハヤイネンの言葉通りに、スクリーンに並べて映し出されるゴーストウィニングのレース映像を見る一同。



「……違い……」
「走りの速さ…?スライドの感覚…?」
「うーん……、【目線の動き】が妙に激しいような?」
「そや、ダイヤ。当たりや」


 サトノダイヤモンドの呟きに反応して、短距離模擬レース時とその他G1レース時のゴーストを見比べる一同。



「……言われて見れば」
「よく見てみると、顔をあちこち見回して居たり、表情もどことなく蒼褪めている様な……居ない様な」
「そう言えば、考えてみたらこんな顔をゴーストが見せた事無いね……」
「恐らくやが、余りにも速過ぎるレースペースに加えて一度も走った事の無い距離感覚で、処理能力が飽和したんやと思う。
簡単に言えばパニック状態が近いやろな」


 各々の感想に、我が意を得たりとばかりに頷くカナリハヤイネン。厳しい表情をしつつも腕組みするその姿は、
無駄に貫録が有る様に見えても容姿が普通の関西系ウマ娘で服装もトレセン学園の制服と言うギャップが有るので何処か滑稽味を感じさせる。

748:陣龍:2023/12/16(土) 19:36:12 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp

「競走馬時代のゴースト号はもうちっと柔軟性有った様な気がせんでもないけど、アレは多分竹内騎手の手腕が
大きかったと思うんや。あの人は否定しそうやけどな」
「あの人、何時も『自分の技術はゴースト号で育てられました』って言ってるよね……」
「……ジャパンダートダービーで人気薄の地方所属追い込み馬を2馬身差勝利させたり、去年のサウジカップで
二桁人気の逃げ馬で勝利したりと、先行特化だったゴースト号さんだけで説明して良いんでしょうか」
「キタちゃん、多分言ってはいけないお約束だと思うよ」



 因みに人気馬を手堅く入着や勝利させるだけでなく、度々人気薄の馬を入着させ、時たま一着にまで持って行く事が
それなりに見られている為に、ネット界の一部では時々万馬券、極稀に十万馬券を誕生させる竹内騎手を
『馬券破壊神』と言う異名である意味恐れられたり崇められたりと好き勝手に言っていたりする。
粛清前のメディアから一方的に『引退した武勇の後継者』とコメンテーター等にネタにされて雑に無責任に
喧伝されるのよりはあくまで一定の節度や愛されたネタ扱いなのでネット民の方が未だマシな良識である…かも知れない。



「……話を戻すけど、つまりカナが言いたいのは『多重判断を強いて判断力を落とし失速させる』って事?」
「端的に言えば、せや」
「はぁー……成程……」
「うーん……」



 そしてカナリハヤイネンの辿り着いた答えを纏めたトリプルターボだったが、難問が解けた様な納得感では無く、
カナリハヤイネンすら含めて渋い顔を揃って突き合わせていた。



「言いたい事は分かりました…けど……」
「うん……」


『『どうやって【多重判断を強いて判断力を低下させる】んですか?』』
「……(´・ω・`)」




 突破口が見えそうな答えを見出すも、肝心要の答えに辿る為の【解法】が全く欠片も切欠すらも出て来ないと言う、
実質的に何の意味も無い無情な状況に、カナリハヤイネンは無言でしょんぼりヤイネンするしか無かった。






「……やーっと【答え】に辿り着きましたねー」
「だねぇー……秋華賞と菊花賞が今週と来週に迫った状況でやっと辿り着いたのが、
運がいいのか悪いのかは分からないけどねー」
「にゃははー……」



 再度頭を突き合わせて【解法】を模索するも全く糸口すら掴めぬ交通事故で四人のウマ娘が頭を悩ませる中、
その視聴覚室の外ではこっそり気付かれずに話の内容を聞いていたセイウンスカイとナイスネイチャが、
同じくこっそり中のウマ娘に気付かれずに離れて行っていた。



「……思い返して見れば、【想定外の事態で行き足が鈍る】って当たり前の話ですよねぇ。あのレジェンドホース杯で、
私らを完全に抜け出せきれなかったのも、恐らくウマ娘と言う存在に混乱していたんでしょうし」
「まーねー……。ウマ娘になってからも、馬と人の身体の違いに慣れるまで、身体能力任せの勝負は兎も角
駆け引きになると、簡単に私らに乗せられてたし」



 言外に【想定通りだったら確実にゴーストウィニング号に勝てなかった】と言う感傷を滲ませつつ、
伝説となった最初で最後のゴーストウィニング号とのレースを思い返す二人。別世界のおウマさん達、
それも殿上人とか雲の上の存在とかの様な方たちからも、以前トレセン学園の衆人環視の元で手放しな賞賛どころか
その場で胴上げ祝いされてコンニャクよりふにゃけて羞恥で顔を真っ赤にした二人だったが、
あくまでも純粋な実力での勝利では無く、多大なる幸運と偶然と、そしてサラブレッドであるゴーストウィニング号の
ウマ娘に対する困惑と混乱で零れた勝利を拾ったと思い続けている。


「ところでネイチャさん」
「どしたん、スカイ」
「今度の秋華賞と菊花賞。どうなると思います?」
「そうだねぇー……」


 最近はカレンチャンとヒシアケボノと共にショッピングモールでゴーストウィニングを着せ替え人形にして
『ゴーストちゃんの恋バナ(マヤノ談)』で顔面沸騰させている、セイウンスカイとナイスネイチャと共にレジェンドホース杯に
出走したマヤノトップガンが聞いたら宇宙猫になりそうな内心を?(おくび)にも出さず、【これから先】の事に話を切り替える両名。

749:陣龍:2023/12/16(土) 19:38:07 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp

「……距離の短い秋華賞組のキタサンとダイヤなら、勝ちを拾える確率はそこそこ有るんじゃ無いかなぁ」
「そうですねぇ……二割、いや……三割弱、くらいですかね」
「そんなもんだろうねぇ。まぁ打率が三割も有れば四番に座れると言うらしいし、展開次第でオークスと同じく
ゴーストを抑え込めれてもおかしくないでしょ」
「距離が短い分、ゴースト以外のウマ娘も囲みや追走に追い付けるでしょうしねぇ」
「もしゴーストと同学年デビューだったらと考えたら……不謹慎だけど、そうじゃ無くて良かったと思ってしまうのが
我ながら情けないと言うか……」
「にゃははー……私も、同学年でなくてよかったと、そう思いますよ……」



 『未だそんな事言ってるのかこの娘は』とおウマさん総出で呆れられそうな、うつむき加減の自己評価と弱音は兎も角、
秋華賞に関する評価は適切な亡霊スレイヤーウマ娘コンビ。ゴーストに引っ張られる形で同期デビュー組も
相応に成長しているのだが、それでもウマソウルが著名なG1馬と言う事もあるのかキタサンブラックとサトノダイヤモンドが
一頭地を抜き、そしてそれ以上に強行連続出走でG1勝利を重ねたゴーストウィニングが飛び抜けていた。
レースに絶対は無いと言うが、それは有る程度実力が伯仲している事が前提であるので、
ゲートが揃って故障か故意かして開かないなどの、余程展開がぶち壊れない限りは順当にゴーストウィニングの一着を
キタサンブラックかサトノダイヤモンドが抑えられるかどうか、と言う話になる。



「……で、肝心のクラシック三冠最終戦の方は……甘く見て【一割】、ですかねぇ」
「優しいね、スカイは……良くて【3%未満】が精々でしょ……」
「うーん、無情ですねー……」


 秋華賞は多少なりとも明るい評価であったその一方、元UMAコンビが出走確定している菊花賞に関しては無情で
絶望的な評価になる先駆者たち。


「何が辛いと言えば、菊花賞は3000メートルの長距離レース。スタート時点で上り坂途中で、レース中にコーナーは6回も回って、
高低差4.3メートルの坂も二回上り下り。いやぁー、セイちゃんとしても良くスぺちゃんら相手に勝てたと思いますよ」
「逃げ脚質だから、先頭切って走るもんだから一番消耗凄いだろうからねぇ……私の菊花賞は4着だったからなぁ……」
「……勝ってる私が言うのもアレですけど、菊花賞四着って十分えげつない成績って言われると思いますよ?」
「いや【えげつない】って何さスカイやい」


 どっちもどっちな【上澄み】同士のじゃれ合いは兎も角、菊花賞経験者が語る京都レース場・芝3000メートルの苦労。
単純に距離が延びると言うだけでなく、コーナーの多さや高低差のある坂道の二度に渡る上り下り。距離適性は当然の事ながら、
3000メートルを走り切れるスタミナ、誰よりも先にゴール板を駆け抜けられるスピード、坂道やコーナーに振り回されないパワー、
競り合いに負けない根性、そしてこの長距離を掛からず冷静に見極め対応できる精神性或いは賢さ。
これまでからさらに一段上の領域を求められるレースなのが、菊花賞であった。


「まぁ自覚していないネイチャさんの恐ろしさは兎も角として」
「スカイやい、鏡見てみる?二冠ウマ娘の方が恐ろしくない訳がないけど」
「ネイチャさんはシニア期以降も活躍していたじゃ無いですか。私はクラシック期以降が……止めましょう、この話題」
「……そうだね」


 G1以前に未勝利戦で七転八倒しているウマ娘が聞いたらハリセンでシャ〇ニング(映画)しつつ張り倒しに行きそうな、
良く分からない物言いの皮を被った賞賛泥試合を一端止める両者。



「……クラシック路線の、ゴースト達の同期も成長はしているんだけどねぇ」
「それ以上にトリプルターボとカナリハヤイネンが一気に伸びてますし、ゴーストはもう訳分かんない事になってるしで……」
「しかもゴースト、3000どころかそれこそ4000位にだって対応してそうな位に長距離適性高いからねぇ……」
「代わりに短距離路線はボロボロのボロ雑巾ですけどねー……まさか芝の短距離で、ウララちゃんに二バ身差負けしたのは
顎が外れそうになりましたけど」
「まぁ、あの娘出ないからね……スプリント」



 ゴースト達が日本ダービーで独壇場を演じ、そしてフランスはパリ・ロンシャンまでゴーストが弾丸出走しに行っている間も、
当然ながら同期のウマ娘達は血が滲む思いでトレーニングに励み続け、相応にそして確実に成長していた。
だが彼女らの死に物狂いの努力をあざ笑うかのように、能力の成長期に突入した元UMAコンビは飛躍し、
そしてそれ以上にゴーストウィニングは『ターフの亡霊』に相応しい、最早絶望的と感じさせるウマ娘が出て来る程の進化を加速させていた。
反比例するように短距離が壊滅的にも程がある惨状だが、彼女がスプリントに出る予定は皆無なので問題はない。

750:陣龍:2023/12/16(土) 19:39:31 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp

「レース展開はどうなると思います?」
「トリプルターボとカナリハヤイネンが競り合って大逃げするも、ピッタリ背後に張り付かれて最終コーナーで抜け出されるか、
或いは逃げを強引に封印して封じ込めに徹しようとして同じく最終コーナーまでに突破されて置き去りにされるか。そのどちらかだねぇ」
「うーん堅実なレース運びなゴースト。【何時も通りの王道】ですねぇ」
「ホント、ずっと堅持し続けてる【王道】だよね」



 ゴーストウィニングがレース展開について【不器用】である事その物は間違いではない。だが忘れているのか気付いていないのか、
それとも目を逸らしているだけなのか。使用時間を超過した事で先生に注意されて大急ぎで片付けているカナリハヤイネン達は言及していないが、
その【不器用さ】を無問題にする手段が徹底した【王道の先行抜け出し策】を、ゴーストウィニングがそれこそ【前世】である
サラブレッド時代から取り続け、磨き続けていた事で、その弱点と目された【不器用さ】は既に一つの【強み】へと
昇華して居たも同然であった。王道が強いのは、詭道を使わぬシンプルさかつある種の【一番】であるからであり、
そしてその【一番】が磨かれれば、複雑な要素の無い強固な砕けぬ柱となる。それに一点特化の不器用と言うのは、
言い換えれば全てに真っ向勝負の一徹精神。これまでに重ねたレース経験で補強されたその一徹は、
生半可な物では皹すら入らない。



「全く……秋華賞も菊花賞、どっちとも楽しみでもありー……不安でもありー……」
「何にしても、今年のクラシック・ティアラ路線両方の最終戦は飛んでも無い事になりそうですよねー」
「ホントにね……これで大番狂わせが起きたらどうなる事やら」
「大光量のフラッシュでレース中写真撮影される位の事でも無いと起きないんじゃ無いです?」
「副会長が能面で蹴り飛ばしに行きそうだね……その前に【神様】が落雷か何かして来るか」
「あの【神様】、何時までこっちに関わり続ける気なんでしょうかね」


 日本のみならず、今度はフランスでも【やらかした】、トレセン学園とウマ娘達を別世界から丸ごと拉致してきた神を名乗る存在に対して
辛辣に両断するセイウンスカイを苦笑いで見るナイスネイチャ。実のところ、このセイウンスカイの素朴ながらに厳しい感情は、
かなりの人間が感じている感情であった。





「お疲れ様だよ、主さん。大丈夫?」
『あぁ、ゴースト……大丈夫。諸々終わったから』
「……本当に大丈夫?またあの【神様】とかから変な事されたりしていない?」
『今の所自分勝手な【天罰】とかは起きていないよ。それに心配するのはこっちの方。フランスで酷い事になってたでしょ』
「あぁ、うん……」
『話はネイチャちゃんから聞いたよ。我を忘れたと言っても片手でナイフを握り潰す様な危ない事はしちゃ駄目だから』
「はい、もうしませんです」
『よろしい』


 結局袋小路で解法が糸口も見つからず解散になったカナリハヤイネン達と同時刻。トレセン学園寮内の一室では、
その話題の渦中にあるゴーストウィニングが主さんこと『飯崎鈴夏』と電話をしていた。


「いや、コッチは良いんだけど、裁判の事だから弁護士さんとかの話とか大変だっただろうし」
『手慣れた物よ、裁判に関する弁護士との話し合い。まぁ知り合いの方たちの紹介された人に加えて、
日本での弁護士資格取って迄アメリカから弁護士が来たのには流石に面食らったけど』
「アメリカ?……あ、若しかして」
『覚えてる?あの時の凱旋門で勝った後に会いに来たあの人。あの人が寄越してくれたの、代金は結構な割合、手弁当で』
「……主さんの人望手厚いよね、本当に」
『言い方合ってるのかな、人望が手厚いって』


 事も無げに話される不穏なワード、【裁判】。トレセン学園の多くの学生ウマ娘には知られて居ないが、またもや『飯崎鈴夏』は
訴訟の標的になりかけていた。

751:陣龍:2023/12/16(土) 19:41:41 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp

「……でも実際のところ、あの時逃げ回るのと同時に踏み潰していた事は事実なんだけど、どんな風な事になったの?
証拠映像は、まぁあの時ずっと垂れ流していた訳だし」
『あの状況では、袋詰めされて注連縄で縛られた物体を人と認識しないのも当然だし、警察もその点問題視する事も無かったし、
再検証でも同様に結論付けられた。そもそも集団訴訟予定のメンバーの中にはまともな承諾なしに入れられていたとか、
訴訟の前段階で怖気づいて拒否した人とかが出て空中分解しちゃったからね』
「残っているだけで訴訟継続しようとしそうなものですけど」
『良い様に弁護士に釣り餌に使われた発端の人間も、依頼を受ける弁護士が居なければ裁判も起こせないし、
それに【利用】した弁護士共々説教されたそうだから』
「説教……絶対生きた心地が無い……」


 訴訟内容は、警察からはマル神案件と呼ばれ、政軍官問わず事実を知ると顔を蒼褪めさせた『トレセン学園異界化事件』。
その事件の最中で、不法侵入して異界化したトレセン学園の中で謎の存在(実体化ウマ霊)によって麻袋か頭陀袋に
仕舞われ縛られて床に放置されていた所、怪異から全力で逃走していたニシノフラワー騎乗(おんぶ)ゴーストウィニングが
所謂股間部を全力で踏み抜き、或いは蹴り飛ばした結果、当然ながら強烈な打撃を受けて【機能】を永久に停止か不全に追いやられた。
何気に大人一人担いで激走していたおウマさんのメジロマックイーン号も複数名の機能を【撃砕】していたりするが、そこは割愛。

 そして全てが終結後、不法侵入者は一人残らず警察によって引っ立てられて行ったのだが、異界に生身で踏み入りそして呑まれ、
異形の存在と化した面々は兎も角、幸か不幸か縛られて封印されていたが故に正気と正常な人体を保持していた。
過半は身の毛もよだつ異常な状況に身の程を知り、憔悴し従容としていたが、極少数ながらこの異界化した世界の中でも事態を理解出来ず、
そして自らの一部を踏み潰された事に対する怒りと屈辱と地獄の痛みから、刑事告発は兎も角損害賠償請求の民事訴訟を起こした者達が居た。
まぁ、理由は分からんでも無いと言う男性諸君も居るかも知れない。


『生きた心地、ね……ふふ』
「主さんのいう弁護士さんらって、私が競走馬だった頃に出会った人達からの紹介でしょう。普通の依頼だと先ず会う事も無い様な、
ある意味【上流階級】御用達の」
『まぁ、ね』
「そんな人達に加えて、態々訴訟大国アメリカから、日本の弁護士資格取得してまで飛んで来たアメリカ系弁護士も追加で来る。
なんだろう、これ。処刑宣告?」
『向こうの【弁護団】が金切り声で金任せに集めた悪の富豪呼ばわりしてたもんね。弁護費用とか相当安くして貰っていたんだけど』
「……アーカイブで見たけど、あの人らって本当に弁護士だったの?」
『弁護士バッジ有ったしそうなんじゃない?』


 そうして負傷させた事への損害賠償請求を求めた少人数の一団に付いた弁護士が、まぁ所謂イデオロギー的なモノを余計に出したり
裏に表に利権等の腐臭が見えそうな何時もの手合いだった事で、依頼者側の要望を無視や超越して余計な引火が始まりかけた所で、
真っ向から殴り返しに対応した『飯崎鈴夏』の弁護士たちによって訴訟の前段階で粉砕された。詳細は省くが、
ただ単に金を払うだけで雇えるような存在ではない粋な弁護士達の、何とも何処ぞの吸血鬼殺しな神父を思い起こす笑みと共に
行われた水面下の攻防は、イデオロギーや虚栄心優先の弁護士達に対応できる規模では無く、依頼人を見捨てる形で契約破棄等で逃亡し、
何も出来なくなった依頼者側が訴状取り下げにて終幕した。【鉄火場】で大立ち回りに成らなかった事でアメリカから来た
弁護士は少々不満足だったが、代わりに日本の弁護士などとの知古や日本製各種菓子類の大量まとめ買いにて満足して帰って行った。




『こっちの事よりも、ゴーストの方も本当に大丈夫だったの?正直上層部一人のせいであんな有様になるまで仕込みされていた、
なんて信じられないんだけど』
「まぁ……あの【天罰】であの有様になった人らの言い分的には」
『……あの【天罰】が証明と言っても信じるに信じ切れないからね。以前のゴースト号の頃の、フランス側の所業を忘れていない競馬民とか、
改めて解説動画とかで知ったネット民とかは特に』
「あー……」


 そしてゴーストウィニングが保護責任者の関係で『飯崎鈴夏』に対して行われた民事訴訟が頓挫している頃、
ネット界を中心にフランスはロンシャン競馬場にて勃発したツインターボ襲撃事件が『ゴーストウィニング号の凱旋門賞勝利を妬み嫌う
フランス人による策謀』と言う陰謀論が、後に直接の刺傷犯であったウマ娘・ラファールルージュの告白が有っても尚、
根強く疑われ囁かれていた。

752:陣龍:2023/12/16(土) 19:43:36 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp

 過去、ゴーストウィニング号の凱旋門賞勝利は、日本競馬界のみならず世界的な競馬関係者に
激震と言う言葉では足りない衝撃を齎した。80年以上前、イギリスから輸入されたダイオライト号と
フリッパンシー号の間に生まれたセントライト号。戦後も過ぎた今から60年以上前、
母が同じくイギリスから輸入したビューチフルドリーマー系であるシンザン号。
欧州では最早歴史書の奥隅にしか無い様な古代遺物の血を断絶させずに受け継いだ日本馬が、
歴代最高峰と謳われたイギリスのライトニング号、そして同じくフランス最強牝馬と謳われたヴィクトワール号を、
凱旋門賞にて真っ向勝負で打ち勝った。それも、最終直線でライトニング号を抜いてからは決して
追い付けさせない王者の走りで。そこまでは良かった。同レースに出走した騎手は茫然としつつも
脱帽するか或いは賞賛し、フランス競馬界の上層部は苦虫と屈辱のスムージーを一気飲みしてリベンジを誓う。
ライトニング号の馬主だった英国の女王も、次回の対決を楽しみにしていた。……それで良かった筈だった。



「……一応、フランスのパパラッチ?とかは一度も来る事は無かったよ。勝手に飛び出したとある暴走娘は兎も角、
私はホテルに居たし。レース中やレース後のパーティーでも変なのは来なかった」
『さっきのアメリカの人にも確認する様に頼んだけど、報道でも変な事には成って無かったとは聞いたけど、
それでも心配なの。こっちはね』
「大丈夫……って、簡単に言わない方が良いんだっけ」
『悪意は当事者の想像もつかない方向から襲ってくるからね。用心するに越したことは無いよ』



 当事者たちそっちのけで、この対決で日本馬が勝利した事に目くじら立てて義憤、と言う名のネタとしたのは、
事態を余計に燃やす事に定評のあるフランスメディア系の中でも悪質なイエローペーパー。
この凱旋門賞のゴースト号勝利を報じる冒頭で、ゴースト号の貧弱極まりない血統の事や、
過去日本馬の【衝撃】が失格になった騒動を再掲して『日本馬が勝利した事その物に不正の疑惑が有り』と大々的に報道。
風刺画で『ドーピング入り薬瓶でロケット加速する、ロンシャン競馬場を走る骸骨馬とゼッケンの日章旗』と言う、
一目見たフランス競馬の重鎮が激怒して凄まじい剣幕で会見を開く事を即時厳命した最悪の代物も出されていた。
当然厳重抗議どころか名誉棄損の訴訟すら検討を明言したが、このやらかした報道の一社は『報道の自由』を盾に
変わらず疑惑報道を続け、それに煽られた様に愛国の皮を被った、ただ誰かを叩いて気分を良くしたいだけの輩もSNSを中心に動き出し、
既に日本に帰国していたゴースト号に対する日本メディア陣による過剰・過密・過失満載の取材攻撃に
余計な大義名分を与えたと言う、何とも悪意は連鎖する有様となっていた。


 その煽られた【SNS世論】に影響されたか、その年に行われた競走馬のレーティングでもゴースト号を推す
イギリスに対して、フランス側の人員が強硬に反対し、かなり強引な理屈でライトニング号の方をレーティング一位にする顛末となり、
この騒動を半ば外野で見ていたアメリカ人の『真剣勝負の勝ち負けを無関係な外野が好き勝手利用する事程勝負を汚す事はない』と言い、
イギリス側がそれを引用して揶揄した事すら起きていた。しかもその後に、ゴースト号が彼の馬運車襲撃事件で横死した結果、
この醜態を訂正や撤回する機会は永遠に失われたも同然となった。フランス競馬界にとっては踏んだり蹴ったりの
天災の様な物だったが、謂れなき誹謗中傷を拡散された日本側にとっては、特に疑りが深いネット民には信じるに足りる事では無い。


『あ、そうそう。今度の秋華賞と菊花賞は出席できるよ』
「ホント!?」
『ホント、ホント。以前のダービーの時は御免ね』
「訳分かんない恨み節と逆恨みの人間に出待ちされて付き纏われてたんだもの、仕方がないよ」
『まぁ……若しかしたら、VTuber繋がりで何人か付いてくるかも知れないけど』
「その位気にしないよ、誰も」



 そんな過去の事は兎も角、桜花賞と皐月賞は契約していた企業との案件業務で泣く泣く向かえず、
オークスでは唐突な体調不良で無念にも行けず、日本ダービーでは出待ちされていた失業の逆恨みで押し掛けて来た元報道関係者の
付き纏いと張り付きでレース場に向かえず警察で一日事情聴取で潰れと、単純な間の悪いでは無く何某の妨害を疑う未出席率であったのが、
今度こそ出席できると確約した『飯崎鈴夏』。その約束は如何なる賞品・賞金よりもゴーストウィニングを喜ばせる物であった。

753:陣龍:2023/12/16(土) 19:44:42 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp

『……もうこんな時間か。早く寝て寝坊しないようにね』
「分かってるよ、主さん」
『はは…。じゃあ、お休み』
「うん、お休み、主さん」


――――大好き



 気恥ずかしさからか、それとも別の思いからか。口の中に止めた感情の発露を飲み込み、ゴーストは自分の居室に持ち込んだ
デスクトップパソコンを用いて、もうすぐ傍に迫って来た秋華賞と菊花賞のコースを、自作した競馬アプリで寝る前の
イメージトレーニングをしていた。実際の競走馬だった記憶も有る事からか、エアシャカール等との協力も受けて初制作アプリでありながら
驚きの使いやすさと高精度さもあり、鞍上こと竹内騎手経由でJURAに提供され、新人中堅ベテラン問わずに使って技術向上に
用いられている驚きの一品である。制作協力者のエアシャカールにはティ連技術込みで世界最高性能のノートパソコンが提供されたそうな。


――――……主さんが、次には観戦に来る



 画面上にて多数のウマ娘を走らせながら、独り言ちるゴーストウィニング。それなりに精神的に成熟し始めたように見えて、
中身の成長度合いは相変わらず幼児の様な有様より幾らか伸びた程度でしかない彼女にとって、
大好きな主さんがレース観戦に来る事は極めて大きな事態であった。



――――……キタサン、ダイヤ、トリー、カナ


 同時刻、時間延滞で寮に戻るのが遅れて寮長らに見咎められてゴメンナサイしている事等露知らぬまま、
ゴーストウィニングは次のG1レースにて最大の脅威となる友人たちを思い浮かべる。




――――……皆にも、絶対に負けられない理由が有るのは分かってる。けど……



 自らに能力のマイナス補正を、ライバルに能力のプラス補正を掛けた、画面内のウマ娘達を見ながら、一人呟く。



「……次は、負けない。絶対に」



 目に黒き炎を宿したウマ娘が呟くのと、画面内でゴール板直前でゴーストウィニングが差し切り勝利するのは、同時であった。

754:陣龍:2023/12/16(土) 19:46:05 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp
|д゚) ……フゥ

|д゚) まぁ、なんか纏めたらこうなった(定期)

|д゚) とりまコレが自己流ゴーストウィニングの評価と言うかそんな感じのです。後オマケの絶対起こってる筈のヤツも追加

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最終更新:2023年12月28日 19:28