459 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/12/04(月) 22:41:21 ID:softbank126036058190.bbtec.net [109/215]
憂鬱SRW ファンタジールートSS 「芳佳に似合うレガリア選びは婿選びにも似ているbyリーゼロッテ」
- F世界 ストパン世界 主観1944年10月 大西洋上 エネラン戦略要塞 執務室
リーゼロッテは目録を眺めていた。
PDAのような電子端末ではなく、古典的な羊皮紙を用いたものだ。
一切の欺瞞や改ざんを許さない魔導具であるその目録には、目もくらむような品々が並んでいる。
一言で言うならば、それらはレガリアと呼ばれるモノ、あるいはそれに準じるような遺物(アーティファクト)であった。
(より取り見取りだが、そうであるがゆえに困ったものだな)
C.E.世界からわざわざ取り寄せてまで目を通して吟味しているのは、偏に愛弟子の芳佳のためであった。
彼女の魔法の才覚と素質は、最早この世界の常識にとどまるものではないと育成をしているリーゼロッテは理解していた。
だからこそ、専用機の開発には表には伏せられているオカルト系の技術なども惜しみなく用いて進めているし、予算も度外視での進行だ。
それくらいしなければ、生きた特機のような彼女がその力を余すところなく活用する方法や装備が生み出せないと、そう理解している。
しかし、ただそれだけでなく、彼女に相応しい道具というのも必要だ。
リーゼロッテの場合、その身に宿す「虚無の魔石」が最たるものだろう。
他に有している魔導具もいくつかあるが、「エメラルド・タブレット」の破片の一つである「虚無の魔石」には数歩以上遅れをとるものだ。
保有するだけでなく、時に魔導具を作ることも、先人の作った遺物に手を加えたりすることもある。
その知見などから、極上とすら言える芳佳の力に耐え、尚且つ活かせるものとなるならば、裏の世界での「レガリア」クラスの遺物が必須であると判断していたのだ。
それ故に伝手を使ってこうして目録を見ているのであるが、如何せん彼女の力の強さが如何様にもなるから困るのだ。
(気質としては他者を守ろうとする善性の属性……だが、本質的には純粋無垢な力の塊だ。
本人の意志や精神性に影響されてその様に発露しているだけで、使おうと思えばいくらでも応用が利く万能性があると言えるな)
だから選定に困るんだ、とため息をつく。
同時に、愛弟子のポテンシャルしゅごい!と脳内では悶えていた。年甲斐もないことをゲフンゲフン。
ちょっと思考をリセット、はしゃぎすぎた。
(ウィッチとしての彼女の使い魔は豆柴……柴犬の一種。それだけならば十把一絡げの使い魔にすぎない)
リーゼロッテは扶桑皇国において、最上級クラスの使い魔を有する魔力保持者とあったこともある。
この世界特有の魔法体系を調べる中でのことだった。
謁見した彼女の使い魔は「龍」。説明するまでもなく素質も力も優れた存在と言えた。
それから見るならば、犬の一種にすぎない柴犬というのは格が劣るように見えるだろう。
(だが、それは表面的な話だ)
あくまでもあれば現在の時点での彼女の力の具現にすぎない。
眠っている素養を掘り起こし、表に出すように訓練と修練を重ねれば、姿を変える可能性が高い。
姿を変えるというよりは、芳佳の力があふれていくのに合わせ、その本性を顕すといった方が正しいだろう。
460 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/12/04(月) 22:41:55 ID:softbank126036058190.bbtec.net [110/215]
それについては追々調査をした方がいいだろう。
一応弟子入りに際して調査はしたが、芳佳のポテンシャルを鑑みるに、まだ表層を掠った程度にすぎない可能性が高い。
より専門的な設備を用いて、大規模な儀式なども行うことで、深いところまで調べなくてはならないだろう。
(問題は……私の拒否反応のような衝動か)
リーゼロッテは自分の手を見る。
テセウスの船の例にもれず、リーゼロッテの一貫性というのは「虚無の魔石」ありきである。
元より、「虚無の魔石」を受け入れた時の自分は、四肢が腐り果て、目が潰れ、病に侵されていたのだ。
その後の負傷や病、戦いのたびに身を再生していたので、自分の身体はもはや「虚無の魔石」の延長にあり、属性などもそれに準じている形。
そして、「虚無の魔石」というのはエメラルド・タブレットの破片の一つが、異なる次元で闇の力を現実時間で数千年吸い続けた結果生まれたモノ。
その闇の魔力が拒絶するようなものといえば、対になる属性の魔力を有している事の証左と言えるだろう。
(柴犬は大洋連合の大本、日本と呼ばれた国の固有種。神話体系としては今もなお独立している、あの地域の生まれだ)
犬とは遺伝的に狼から分岐したとされている。
いくつかのグループに分かれていた中で、柴犬は遺伝的にも狼に近い素質を持ち、人に近しい種と言える。
(そして言葉のつながりからすれば……狼とはオオカミ、すなわち大神につながる)
言葉は重たい。殊更に名前というもので繋がっていれば、より強力なものとなるであろう。
大神、すなわちアマテラスオオミカミ。日本神話における太陽神である。
自分が本能的にも近い拒否反応を示すということは、その説を補強する事象だ。
そこまで考え、しかし、リーゼロッテは頭をガシガシと乱暴に掻く。
(アマテラスオオミカミ、か)
厄介である。
殊更に、引きこもって隠れたという逸話を持つ存在だ。隠れることにかけては神話級と言える。
太陽神である彼女を隠れてしまった岩戸の中から表に出すために、神々はかなりの策を弄した。
アマノウズメを筆頭として、岩戸の前で祭りを行い、アマテラスオオミカミの興味を引き、岩戸が空いた瞬間に天之手力男神が岩戸をこじ開けた。
逆に言えば、それくらいしなかったら太陽神たる彼女は表に出ることをしなかったというのだ。
そんな逸話付きの彼女とつながっているであろう芳佳の使い魔の本性を引きずり出すのは骨が折れる。
(まあ、完全にそれというわけではないのだからな。
あくまで本体は芳佳。彼女の力の成長に合わせ、自ずと出てくる公算は高い)
そして、その時に力を制御し、解き放つツールとしてのレガリアは必須だ。
羊皮紙の束を置き、次に手に取るのは和紙の目録。言うまでもない、大洋連合から取り寄せたものだ。
461 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/12/04(月) 22:43:09 ID:softbank126036058190.bbtec.net [111/215]
「そうであるならば、候補は絞れる。太陽神の現身、万物万人にさえ向けられる慈愛。
己と違うものさえ認め、受け入れ、それでいて平等ですらある。
なれば……」
捲られていく和紙の束、その目録のページはぴたりと開かれた。
そこにあるのは---
「鏡、これを超えるものはあるまい」
鏡は太陽の現身だ。
大洋連合、日本の神話体系の、表の意味でのレガリアの一つが鏡であるのがその証左。
太陽の現身の御神体、そしてその形代という極めて遠慮と会釈を込めた扱いを介するオブジェクトならば相応しいだろう。
(問題なのは……芳佳の力に耐えうるものを探すこと、か)
正直、それが問題だ。
難易度を跳ね上げているのは底なしのポテンシャルを感じる愛弟子の力を受けられるかどうか、ということ。
元の世界のままならば候補はいくらか増えただろうが、このエーテルの多い世界に来てしまったのがある種の不運。
どこまで成長するかもわからないのに、適当なモノをあてがったら余計な剪定をしてしまいかねない。
(まずは……ヤタガラスに頼るか)
正直なところ、リーゼロッテはあくまでも「外」の人間だ。
より「内」に近い人間が、大洋連合系の裏の人間の方がより適切な対応を行えるだろう。
まあ、芳佳を直接任せるのは己のプライドもあるし独占欲もあるので無しだが、アドバイスくらいはもらっておいた方がいい。
楽しくなってきた、その自覚がある。
表においては存在しない遺物には事欠かない。
伝来の品が多く残り、国を挙げて保管されていた日本の神話体系の世界ならば、彼女に相応しいものがあるだろう。
それを得て、力の使い方を学んだ時、芳佳は---
「人外に至るかどうかは、芳佳とよく相談しよう、そうしよう」
そこでブレーキを一旦掛けられる程度に、リーゼロッテは自制心があったのだった。
462 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2023/12/04(月) 22:43:55 ID:softbank126036058190.bbtec.net [112/215]
以上、wiki転載はご自由に。
ちょっとオカルト関係の濃いF世界の話となりました。
芳佳が「太極---」とか言い出しそうですが、それはご愛嬌。
最終更新:2024年01月13日 16:06