273 名前:奥羽人[sage] 投稿日:2023/12/31(日) 21:33:25 ID:sp49-96-45-148.msd.spmode.ne.jp [2/7]
【旭夜交差】鏖


「アーミヤ代表、ケルシー女史、Dr.██。ロドスの皆様方の多大なご協力、大変感謝しております」

「此方としても、お力添えができたのなら幸いです」



『チェルノボーグ事変』が一応の終結を見てから一週間後。
チェルノボーグ難民や感染者の対応と避難にも目処が付き、また、日本政府と契約して暫定難民キャンプの円滑な運用開始に協力したロドス・アイランド製薬の本社艦が長距離移動を始めるとのことで、日本・ロドス代表者による挨拶が行われていた。

ゲーム的には“メインストーリー第一部”とも言えるチェルノボーグ事変だが、日本の動きとしてはその大部分を蚊帳の外に立って傍観していた。
というよりは、事変発生から2週間もしない内に事態が沈静化しており、日本側が体勢を整えた頃には全てが終わっていたに等しい状態だったのだ。

事変自体も全容が分かってしまえば何てことの無い…………
『不死の黒蛇』とかいうウルサスの愛国的幽霊(?)妖怪(?)精神体が、比較的開明的な現皇帝になってから貴族反乱と大粛清&勢力膠着状態で落ちぶれるウルサスの現状を嘆き、ウルサス帝国が侵略戦争による繁栄に明け暮れていた前皇帝の時代を懐かしみつつレユニオンのリーダーの精神を乗っ取り、チェルノボーグを隣国の都市龍門に突撃させて炎国とウルサスの戦争を誘発、再び始まる戦争の時代を通して強いウルサスを取り戻そうとしてたというだけだった。
ファンタジーフィルターを通していて分かりにくいが、要するに、ソ連に憧れるロシア超国家主義派がテロリストと共謀し偽旗テロでWW3を引き起こそうとしていたような構図でしかない。



「それで、チェルノボーグ奪還の為に漸くウルサス軍が動き出した現状、貴方がたはこれからどうするおつもりでしょうか」

「一度、ゲートの向こうに撤退することとなるでしょう。偶発的な事態とはいえ、ウルサスの国土を軍靴で踏んでいては、あらぬ誤解を受けてしまうやもしれませんから」


日本にとっての問題は、その首謀者の思惑に旧守派貴族の一部が便乗している可能性があることだ。
レユニオンのチェルノボーグ突撃作戦が頓挫した今、戦争を求めるウルサス軍とその背後の貴族には振り上げた剣を叩き下ろす先が必要となった。であるならば、今、チェルノボーグに居座っている異邦の軍隊である日本がその標的にされるのも想像に難くない。


「それでは、我々は撤収準備がありますので、これで……」

274 名前:奥羽人[sage] 投稿日:2023/12/31(日) 21:35:02 ID:sp49-96-45-148.msd.spmode.ne.jp [3/7]




「……本当にこれで、良かったのでしょうか?」

「アーミヤ……?」

「仕方ないとはいえ、日本の皆さんを囮にするようなことを…」


退出した日本人を見送った後に、コータス(兎)の少女が小さく呟く。
本来、二国を巡る陰謀に首を突っ込んだロドスは、真っ先に狙われる存在だった筈だ。
しかし、それは“日本”という更に大きな存在によって覆された。
両国……少なくともウルサス帝国の目は日本の方を向き、その為にロドスは危険域から安全に離脱する事ができる。
しかしてその事実は、難民キャンプの設営において短い間ながらも日本人達と苦楽を共にした心優しい少女にとっては、心に小さなしこりを残すものだった。


「……国家と国家の衝突は、往々にして我々の想像もできない域に達する。その損害は、時として天災によりもたらされるものを上回り、そして、天災の前に一個人が何も出来ないように、我々もまた全面的な戦争の前には無力な存在でしかない。アーミヤ、今の我々に出来ることは無いんだ」

「ケルシー先生……それは、そうなのですが…」

「多分……彼らも予想していた事だと思う。迎え撃つ準備も、既に…」

「ドクター…?」


複雑な心境を抱く少女の横で、ドクターと呼ばれた彼(もしくは彼女)は、短くも深い思索から顔を上げ、一つの結論を出していた。


「ウルサス軍に大打撃を与えて、ゲートの支配権を認めさせるつもり……かもしれない」

「ドクター、君もその結論に至ったか」

「……!」


フェリーン(猫)の女性がドクターに同意するのに対して、コータスの少女は驚きの表情を浮かべる。

国ぐるみで鉱石病患者への差別と迫害が行われているテラにおいては、現代地球的価値観で感染者を手厚く保護しているだけの日本の行動すらも、十分驚きに値するものである。
それが故に、無意識の内に日本をテラの様な厭悪や野蛮とは無縁の“聖人”として捉えていたからこそ感じる驚きなのであるが……文字通り世界が違うという事から来る意識の隔たりは、存外に大きいものであった。






一方その頃……ウルサスの寒々とした荒野に、打ち捨てられたチェルノボーグ市へと近づく土煙が上がっていた。

彼らは、ウルサス帝国軍。

高速戦艦と呼ばれる砲熕兵器を備えた陸上移動要塞と、全てが成功した暁に動く筈だった第三師兵団(おそらく師団規模部隊)の兵士達である。
黒を基調とした非常に現代的な装具を身に付け、それに反して見た目だけはモダンな剣や槍、盾、クロスボウなどの武器を持つ。
その後方には高らかにウルサスの国章……双頭の鷲の旗が掲げられていた。

これから戦場に向かう彼らに不安の顔色は無い。
何故なら、『日本連邦』とかいう自称別世界から来た“敵”は……感染者の暴徒集団(レユニオン)から街一つ奪う事も出来ずに逼塞していた“弱者”なのだから……一様に、彼らの意識はこのような見識に支配されていたのだった。

とはいえ、これは過度に侮っている訳ではない。
チェルノボーグが簡単にレユニオンによって陥落させられたのは、ウルサス内部の協力者によって防衛体制が予め骨抜きにされていたことが一番の要因だった。
本来なら、レユニオンと国家の正規軍が正面衝突すればレユニオン側には万に一つの勝ち目も無い。
更に日本は、難民保護の為の全周波数帯での呼び掛けの際に「鉱石病および源石の知識が少ない」旨を言って諸国に協力を呼び掛けていた。
源石技術が全てのこの世界において、それは「高度技術文明に至っていない」と受け取られてもおかしくはない。

つまり、これも世界が違う故の悲劇といっても良いだろう。

275 名前:奥羽人[sage] 投稿日:2023/12/31(日) 21:36:34 ID:sp49-96-45-148.msd.spmode.ne.jp [4/7]





「源石の危険性は?」

「構成元素の分光分析においては不明瞭な結果を返すだけでしたが、大まかな機械的性質は把握されています。また、異なる物理法則下に置かれている為か、こちら側での自己増殖は確認されておりません。活性状態への移行こそありますが、エネルギー保存則に反するものではありません」

「では、水際作戦でも問題ない、ということだな」

「現在、第6師団がゲート前面に展開を完了。後詰めとして第9師団より第9戦車連隊及び第21歩兵連隊が展開中。第7航空団も準備を完了しており、いつでも行動できるとのことです」

「よろしい。後は、奴らが来るのを待つだけか」






移動都市の壁を乗り越え、黒衣の軍団が静かな街に侵入してくる。その足取りは確かなもので、影のように静かに進む。彼らの装備は重厚で、武器を携えた者たちはその鋭さを物語る。

源石に犯された無人の街はかつての喧噪を知る者にとって、異様な静寂を漂わせていた。
大通りの市場の店は放り出されたままで、広場にはもちろん誰もいない。故に、その静けさは黒衣の軍団…………ウルサス帝国正規軍の侵攻を妨げる事は無い。
帝国精鋭先鋒の指揮官が一団を率い、広場に進出する。彼の目は冷徹で、周囲を睨みつけるようにして歩む。その後を従う兵士たちは一様に黒と赤の装備に身を包み、シルエットが都市の影に混ざり合う。

彼らの進む先にはゲート───突如としてこの世界に現れた光の幕が広がっており、空気には緊張感が漂っている。
彼らの目的や動機はただ、ゲートとその“先”を手に入れる事のみ。
彼らの到達点がどこであるかは彼ら自身にもわからないが、その進軍は確実に帝国による繰り返される侵略の再開を意味している。
街が抱える秘密や歴史の積み重ねの上で今、暗黒の中でテラは新たな展開を迎えようとしている。

276 名前:奥羽人[sage] 投稿日:2023/12/31(日) 21:37:56 ID:sp49-96-45-148.msd.spmode.ne.jp [5/7]



そうして、ゲートを越えた彼らが目にしたのは「圧倒的な豊かさ」だった。


緑に覆われた大地、粉塵一つ無い澄んだ大気。そして、移動都市などという狭い箱庭に縛られない、どこまでも広がる人の営み。

まさしく楽園と呼べるような光景に、彼らは躊躇を捨てた。
ゲートと楽園を隔てる一枚のフェンスと、「これより先日本連邦領域、立ち入り禁止」の看板。
それらは防壁としてはあまりにも弱々しく、帝国先鋒の刃によってアッサリと断ち切られた。
そうしてウルサスの侵攻部隊が日本の地へと雪崩れ込んだ、その瞬間。



『────射撃開始』

地面が爆ぜ、爆風によって土が捲り上がる。
着発と曳火の混じった150mm砲弾は、ほぼ同時にウルサス帝国軍歩兵陣の只中で炸裂し、何も分からない哀れで雑多な歩兵を吹き飛ばす。
とはいえ、それに何とか耐える兵も存在しているというのが、流石はファンタジーというべきか……しかしその者らも、偽装網を翻した戦車による一斉射撃に消し飛ばされた。
ダグイン状態の主力戦車より放たれる140mm多目的榴弾が、正確無比な射撃管制装置の力によって重厚な盾を構えたウルサス盾兵の真正面で炸裂。強烈な鉄のシャワーを浴びた盾兵は意図も容易く細切れに寸断された。
ウルサスの戦列は瞬く間に壊乱し、機動戦闘車の50mm機関砲が取り零した兵を丁寧に刈り取っていく。
ウルサス強襲射撃兵と呼ばれるジェットパックらしき物を背負って飛んでくる兵も、基地防空設備から引っ張り出してきた20mm対空機関砲の火線が鞭の様に薙ぎ倒した。

比較的後方に存在したウルサス砲兵は、お得意の砲撃強襲に使われる迫撃砲の様な兵器の設置に取りかかるが……半端な現代戦を日本相手に挑むことの代償は、その後すぐに支払われた。
偵察機より情報を受け取り低空飛行してきた戦闘ヘリから連射されるロケット弾が即席の迫撃砲陣地を潰し、重攻撃機(ガンシップ)の機関砲と榴弾砲が逃げ惑う兵士達を掃除していく。
弾幕を掻い潜り恐ろしい脚力で日本側陣地に突入しようとしていた兵士は、次の瞬間に強い光を発して火だるまと化した。
飛翔体迎撃用の戦術レーザーが照射する不可視の化学レーザーは、文字通り光の速さで兵士を捉えると高出力の電磁波で容易く自然発火点を突破させる。それは、生身の人間にとっては極めて致命的だ。


ゲート前に形成された一辺約数キロメートルにも及ぶキルゾーン内部には、日本の持つありとあらゆる火力が投下され、別世界からの侵略者の悉くを引き潰していった。
無論、ウルサス軍が特別に無能という訳ではない。というよりか、テラにおいては最強クラスの軍事国家として君臨している。
只々、彼らの戦っていたテラの戦場では“あらゆる方向からあらゆる火力を最大効率で叩き付けられる”という場合の戦訓を得ることは不可能だっただけなのだ。


まぁ、日本側も得体の知れないファンタジー正規軍を畏れ、相手を「ジェダイとアベンジャーズの連合軍」と考えていた節もあったのだが……

しかしてその結果は悲惨なものであり、戦闘開始から1時間も経たない内にウルサスの侵攻部隊は完全に殲滅されていた。

『第9戦車連隊、準備完了』
『第14戦車連隊、準備完了』
『第22即応機動連隊、準備完了』

斯くして、攻守は入れ替わる。

277 名前:奥羽人[sage] 投稿日:2023/12/31(日) 21:43:05 ID:sp49-96-45-148.msd.spmode.ne.jp [6/7]
とりあえず以上となります。転載OKです。
地獄のまな板状態ですね。
日本だって“光と化して1km跳躍強襲できる騎士”を何人も抱えた国相手にまだ戦略的優位性を保てる国とか怖いですもんね
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最終更新:2024年02月26日 21:34