404 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/01/14(日) 23:31:18 ID:softbank126036058190.bbtec.net [59/158]
憂鬱SRW 融合惑星編「The Hound Dog in Megapolis」SS「前日譚 彷徨える猟犬」6
- 惑星2113 現地時間西暦2113年8月 旧中華人民共和国 香港 自警団活動拠点
無事に自警団の拠点に戻ってきた狡噛たちは、その日のうちに連合からの広報で事の顛末を知った。
武装ドローンを持った武装集団が香港に入ろうとし、検問所で摘発。戦闘になったが鎮圧された、というものだ。
被害はなく、無事に全員を捕縛。しかるべき処置を行うという旨が広まり、香港は安堵が広がった。
これまで何度となく香港に押し寄せる武装集団を鎮圧してきた地球連合の手腕を疑う人間はいなかった。
それでも、市井にまで噂が広まっており、その分だけ不安はあったのだ。もしもがあれば、と。
地球連合のお陰で得られたこの平穏な生活が崩壊することを誰もが恐れていた。
その噂が払しょくされたことは、安堵をもたらして当然と言えた。
「かいつまんだ事実だな」
だが、その広報をそのように狡噛は断じた。
「手際が良すぎる、まるで分っていたように待ち受けて対処した。
どのように鎮圧したかを明かしていない。
一体どこのだれなのかさえも伏せられている。
理由があって明かせないんだろうな」
「そういうものなのか?」
サイモンは今一ピンとこない。
元刑事であるこの日本人が何に気が付き、何にイラついているのかわかり得ない。
そして狡噛は、理解を求めているわけではなく、言葉にすることで自分を落ち着けようとしていた。
サイモンが言葉を挟めず聞き手に徹するしかないほどに、狡噛が柄にもなく興奮していた。
「日本製の軍事ドローンではなく、ただの武装ドローン扱い。
どこの誰がそんなものを手に入れられる?確認できたあの数を?
そのドローンの出所や武装集団の武器などの情報も全くない。
聞き流してしまいそうだが、決定的に情報を明かしていないんだ」
「嘘は言っていないが、本当のことも言っていないってことか?」
「ああ」
事件についての速報だからということも加味しなくてはならないだろう。
とはいえ、日本製の軍事ドローンを擁した武装集団の存在が表沙汰になることを嫌ったのは事実だ。
誰が?それは地球連合だ。
考えてみれば、想像の範疇だが、ありえないことではない。地球連合が日本とも接触を持ったというのは。
その外交上の取引があり、公表を控え、日本政府の面子を守ったのではないか。その様に推測したのだ。
「……まあ、大勢に影響はないだろう。俺たちが一々気にすることじゃない」
「それならいいんだが……」
大丈夫か?とサイモンの目は問うている。
狡噛としては、言葉を濁すしかない。
自分でも、ここまで反応してしまうことに、戸惑っている。
日本の事、そこでの人生、その他諸々が急にフラッシュバックしたようなものだ。
(置いてきたつもりだったんだがな……)
きっかけはわかる、テクニカルドローンを撃退した後に生まれた迷いだ。
そしてそこに、彼女を彷彿させる行動理念の地球連合が現れて、さらに刺激されたのだ。
ただ、今更ではある。
復讐のために公安局を抜けだし、シュビラシステムに逆らい、彼女の説いた正義を無視して、さらに法を犯して出国してここにいる。
今更身綺麗なのだと思ってなどいない。執行官に降格してからはなおのことだ。
だというのに---どうしてか、心が落ち着かない。矛盾しているし、女々しいどころではない。
けれど、何もできることはなく、ただ感情を持て余すだけだ。そんな狡噛を、香港の夜でも明るい光が塗りつぶしていた。
405 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/01/14(日) 23:32:56 ID:softbank126036058190.bbtec.net [60/158]
- 日本 出島 地球連合外交使節艦隊 十和田級外交使節艦
「ええ、香港での事案は完了しました。
日本政府も一枚岩ではなく、後ろめたいことなどやっていたとは予想の範疇でしたが……」
苅生ソフィアは本国との通信を行っていた。
その内容は先だって鎮圧された中国の武装集団についての話である。
一見関係ないように見えるが、実のところ大きく絡んでいるのが実態だ。
あの武装集団が用いていた装備やドローンは日本から輸出されたものだった。
しかも、その武装集団---実態としてはほぼ軍閥のそれ---は日本の外務省との取引のあったのだ。
そして何より香港で暴れようとしていたのも、決して彼らの意志だけのものではない。
(まさか、外務省内部での権力闘争が中国での武装集団の活動につながるとは……)
ソフィアは内心ため息だ。
この世界についての知識---この場合
夢幻会の有する「原作」に関わる情報についてはレクチャーを受けてある。
その中でかなり多くのことを日本はしでかしていると教えられていた。
例えば、交易相手は何も白い相手だけではない、軍閥や武装集団などとも取引を行っていることもその一つ。
日本においては調達することが難しい物品や資源といったものを彼らが確保して提供する見返りに、日本からは様々なモノが輸出される。
その中には平和輸出という名の下に行われる武器や武装などのバラマキも含まれていたのだ。
そういう関係にあると、自然と日本の傘下にその手の都合の良い組織をいくつも収める結果につながる。
そしてそれが、今回のような日本の意志が海外での暴力沙汰を生むということになるのだ。
所詮は他の惑星における現地国家と勢力の動きだ、地球連合が一々感知するところではない。
国交こそ行ってはいるが、互いの内政にまで干渉しあうような無粋な真似は基本的にはしない。それが地球連合の方針だからだ。
とはいえ、その日本政府---正確には外務省のひも付きの武装集団が地球連合の活動を妨害するとあれば話は別となる。
そも、あれだけの装備を整えた武装集団が出来上がったのは、外務省が中国における手駒を求めた結果だ。
香港だけではない、中国国内の大都市を中心に、各所にそういった手駒が存在していた。
繰り返しになるが、それ自体は問題ではない。そういった代理人を置くのは大国の特権とも言えた。
だが、思わぬところでそれらはぶつかることになった。
地球連合がエクソダスの実施のため、香港での治安維持などを行い始めた結果、香港のひも付き勢力は捕縛されることとなった。
現地で一定の勢力を維持することでクライアントが欲する情報を集め、資源などを手に入れ、その見返りを受け取っていたのである。
そんな彼らは一から十まで日本の外務省の言いなりというわけではない。彼らは彼らで判断し、行動する。
たとえその結果が、日本政府の意に反し、地球連合への反抗となったとしてもおかしくはないのだ。
ただ、起きてしまったことは問題だ。当然であるが外交問題になる。
その責任の所在をめぐり外務省内での争いとなり、地球連合との折衝で混乱が生じていることを言いことに、渉外担当者が独断で動かした。
拙速に戦力の送り込みを図り---それを厚生省が察知をし、地球連合に対して一報を入れたのである。
406 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/01/14(日) 23:33:27 ID:softbank126036058190.bbtec.net [61/158]
つまり、構図としては外務省の一部の暴走を見抜き、厚生省が妨害をするために情報をリークしたと、そういうことになる。
作中において描写され、設定などでも明かされていたが、日本政府内部の争いは苛烈だ。
シュビラシステムを擁して幅を利かせる厚生省に対し、己の領分を侵されまいと他の省庁とぶつかり合っている。
特に海外展開においては国防省や外務省までも絡んでの激闘となっており、それに絡んで多くの暗闘が繰り広げられていた。
初のシュビラの海外展開であるシーアンの案件など、その一つでしかない。
地球連合が接触する以前にもピースブレイカーやフットスタンプ作戦などが繰り広げられ、そのことで国内で流血やテロまで起こっている。
正直、嫌なものである。
同時に、こういったことさえも外務ではありがちなことだとも理解している。
国家とは暴力の独占機関でもある。国家の行動は即ち暴力も伴うものなのだ。
(わかってはいるけれど、辛いわー……)
だが、おくびにもそれは出さない。
淡々と報告だけを進めていくのだ。
「今回の件については、現地の日本国政府に秘密裏に抗議を行う形です。
エクソダスの円滑な遂行という目的の前には、表にしないことが必要ですから」
ただし、と付け加える。
「外務省およびリークした厚生省には警告の一つでも送っておいた方がよいでしょう。
利用し利用されることも考慮の内ですが、都合の良い駒にはならないとそう釘を刺しておかねばなりません」
それが、地球連合の意志であり、傲慢さだ。
エクソダスなどは可能な限り現地国家の意志も尊重する形で行っている。そのために何かしらの援助なども行うことはある。
かといって、その温情ややさしさを都合よく利用するなど決して許せはしない。
舐められたままでは地球連合の沽券にかかわり、あるいは今後の外交などにも響くのだから。
そのことを、事実として付け加えた。本国の担当官もそのつもりだったようで、承諾は得られた。
(やれやれ……目に見えないところでの流血といえば気にならないですが、かといって知ってしまっていると困るものですね)
通信が終わり、ソフィアは大きく伸びをする。
一先ずは報告は完了したので、あとは本国での判断と了承を得て、今後の対応が決まっていくことだろう。
夢幻会の意志もある程度は絡むとはいえ、それは地球連合にとっての意志が優先され、それを自分は行うことになる。
なまじ原作を知ってしまったがゆえに、板挟みとならないか。そのことが、ソフィアにとっては憂鬱な事案であった。
407 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/01/14(日) 23:34:07 ID:softbank126036058190.bbtec.net [62/158]
以上、wiki転載はご自由に。
なんとか次回で終わらせられそうです。
エクソダスについて、ついに狡噛たちに開示ですねぇ…
最終更新:2024年03月05日 20:45