315 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/12/20(水) 22:27:34 ID:softbank126036058190.bbtec.net [38/72]
アメリカにおいて、南北の対立が決定的となった出来事はいくつもあるとされている。
特に、後のアメリカ連合国となる南部州の意思統一が決定的となったのは、1846年から勃発した米墨戦争にあったと言える。
この戦争は端的に言うならば南部州の開拓という名の侵略に公的的な層を物理的にも政治的にも追いやるきっかけとなったのである。
のちに市民戦争で南北はあらゆる面で相反する立場となるわけだが、ことはそう簡単に分かれるわけではない。
史実を鑑みれば、むしろ南部の州の方が開拓などに熱心であり、米墨戦争もその延長で起きた側面があるのだ。
つまり、南部州でもフロンティア・ウォーで儲けを得ていた層と失うばかりであった層に分かれていたということである。
この米墨戦争の発端については多くは語るまい。
元々は移民を受け入れていたメキシコ領だったテキサスが、アメリカからの移民者が増え、アメリカに入ると宣言してドンパチ始まった。
しかし、この世界線においては事情が少しばかり異なる。
このテキサスの領有は、西進、すなわち日米間のフロンティア・ウォーにおいて新しいルートを拓きたいという合衆国の意志が絡んでいたのだ。
当時、フロンティア・ウォーで使用されていた西へと向かう鉄道ラインは主に北部に集中していた。
工業力の高い北部の方が維持管理が容易く、敷設が容易であるというのも絡んでいた。
同時に、当時はメキシコ領であったテキサスを回避するという意味合いからも、北に線路を用意するのは順当な選択であった。
だが、このルートから来ると種が割れてしまったことで、日本側の防衛体制はアメリカから見て西の終着点を基点に構築されるようなった。
戦力をいくらぶつけても、迂回をしようとしても、移動や輸送のルートが固定されていればどうにもならない。
なれば、南側からもルートを開拓し、フロンティア・ストリップを超えようというのは自然な意見であった。
ルート開拓の意見が先か、それともテキサスの合衆国への編入運動が先か。それがどちらであろうと、それが合衆国の利益に基づいたものなのは事実だ。
さらに相違点として、テキサスへの移民が進んで、外交問題となり、いざメキシコと事を構えた時に南部の州を中心に戦争反対の風潮が出たのだ。
言うまでもなく、それはフロンティア・ウォーで多くを失っていた層が主体となった反対意見であった。既にフロンティア・ウォーで兵力を溶かしていた合衆国は、正規軍のほかにも州軍や民兵に依存することが増えていた。
西のフロンティア・ウォーで消耗し、さらに北のカナダとの国境を警戒し、さらに南に戦線を構えるとははっきり言えば愚策でしかない。
その際に州軍やら民兵をとられてしまえば、ただでさえダメージを受けている南部の州はとどめを刺されかねない。
南部の州の反対に合衆国としては戸惑った。国家のため、天命のためならばと協力すると思っていたのだから。
それはフロンティア・ウォーで感覚が麻痺しきっていたことの弊害の一つと言えるかもしれない。
とはいえ、賛成する意見もあり、その派閥が人や物を出すことで何とか妥協点となった。
こうして、いろいろな変更点を挟みながらも、アメリカ合衆国はメキシコに喧嘩を吹っかけたのである。
316 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/12/20(水) 22:29:48 ID:softbank126036058190.bbtec.net [39/72]
当然のことであるが、この動きが日英らに知られるのは早かった。
アメリカの動きに目を光らせ、動きを観測しているのは現在進行形で戦争中の日本と、準敵国認定のイギリスにとっては当然のことだった。
日本の方では
夢幻会側の情報もあり、アメリカがテキサスへの進出を図るであろうことは想定の内にあったのである。
両国から見て、メキシコがアメリカに勝てる可能性は低い。
現状、日本に連戦連敗しているアメリカだが、日本が強いことや遠隔地への出征というデバフが加わってのものだ。
独立戦争で勝利をもぎ取ることができたのはイギリスから見れば遠隔地ということを差し引いても、軍が強かったのも関わっている。
歴史的に見ればアメリカは国家とは常に戦争と共にあり、工業力などもあって馬鹿にならない存在だったのだ。
そうでなければ、イギリスがカナダ植民地のテコ入れと本国化を急ぎ、軍事的にも増強を急ぐことはなかっただろうし。
ただ、勝てないからといって、何もできないというわけではない。
日英にとってみれば、メキシコとわざわざことを構えてくれるのはありがたいのである。
戦線を新たに設けるということは、先に述べたように戦力の分散につながり、ひいては国力消耗を引き起こすのに十分な要素である。
なればこそ、日英その他欧州各国はメキシコに接近した。直接の兵力は送らなかったが、それに準ずることはした。
メキシコの持ちえない最新の武器や兵器の供与。軍人の育成や教導。物資の提供、艦艇の販売。関税の一時的な値下げ。
自国領を守るために他国を囮とするような策ではあったが、ともかく日英はそれを選んだのだ。
この後押しを受け、メキシコのバレンティン・ゴメス・ファリアス大統領および招集されたアントニオ・ロペス・デ・サンタ・アナは抵抗を開始した。
大国の支援があり、アメリカに侵略されると何が起こるかを大々的にプロパガンダで広めたこともあり、挙国一致は想像以上に進んだ。
元より疲弊していたアメリカの快進撃はそううまくは進まず、一進一退の攻防が繰り広げられ、やがては降着した。
アメリカは史実で言うところのテキサス州を制圧することはできたものの、それ以上は進めなかった。
海軍を動員して海上封鎖を試みたが、平然とイギリス海軍の護衛をつけたイギリスの交易船を止めることはできず、また日本からの船も止められなかった。
加えて、カナダ周辺でイギリス海軍の動きが活発化していたことで、アメリカ海軍もそちらに戦力を分散せざるを得なかったのである。
無論、消耗戦でメキシコが不利になることは避けえず、事実としてメキシコも相応に消耗していた。
元より国力という点ではメキシコは劣っていたのであって、日英他のアシストやアメリカのデバフでようやく勝負になるという範疇だったのだから。
だが、それ以上にアメリカ側に打撃と衝撃を与え、これ以上の戦争続行が危険だと思わせるには十分な時間を稼ぐことができたのである。
317 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/12/20(水) 22:30:39 ID:softbank126036058190.bbtec.net [40/72]
事実、南部州をはじめとして厭戦気分の拡大が起こり、さらには政府としてもこれ以上リソースを割きすぎては元が取れないとの判断を下した。
元々イギリスを敵に回したことで国の経済が回りにくくなっていたのを、戦争経済という形で無理やり回していたのだ。
余計に戦線を拡大し、これ以上消耗しすぎれば、カナダ方面や加州方面から侵攻を受けかねない。
そして、メキシコ自身も長くはもたないことを理解し、妥協点を探っていた。
アメリカとしてはこのまま突っ切り全面戦争となるか、はたまた妥協を許すか、という二択を迫られることになった。
既に多くを失っていることから考えれば、さらにやられっぱなしで民意が沸騰することも考慮すれば、妥協は危険だ。
だが、それ以上に危険なのがこれ以上戦争を続け、徒に死者を増やし、損を重ねることだ。
最悪、弱ったところをいいとこどりされかねない、と判断していたのだ。
斯くして、メキシコとアメリカは講和の場を持った。
アメリカの出した条件は、テキサスの併合の認可、さらに日英らとの軍事を含む同盟の禁止など。
メキシコは、併合を認める分の土地及び移動できない私財などの代金の支払い、さらに戦争で被った分の被害の賠償であった。
当初こそアメリカはメキシコがかなり吹っかけたテキサスの代金に反発したものの、史実と違い明確に戦争に勝ったわけでもなく、取り下げるしかなかった。
メキシコも明確にアメリカに勝利した、というわけではないためにテキサスを諦めることになったのだが、その分だけの補填は得られることとなった。
日英からの入れ知恵もあり、テキサスで得られるかもしれない地下資源の利益も先行して支払うようにと要求し、搾り取ることに成功していた。
当然であるが、この講和に関してはアメリカ国内では荒れた。
とくに北部の州では格下とみていたメキシコに殆どしてやられた政府を批判する声が相次いだのだ。
ただでさえフロンティア・ウォーで消耗しているのに、土地の代わりに莫大な金を持っていかれれば当然と言えば当然だ。
米国は元々消耗していた国力をさらに失い、テキサスという土地を得た分の金を失うことになった。
メキシコとの戦争で失った命や物資は当然戻ってこない。何年もかけて補填する必要がある。
フロンティア・ウォーを続けつつ、カナダの方を常に気にしながらという悪条件下で。
しかし、南部の州としてはこれ以上の戦争で自分たちが消耗しないことに安堵を得ていた。
ついでに言えば---南部の州で起こっていた連邦政府への反発に同調しない者の物理的な排除もできたのだから。
さらに、米墨戦争はのちにメキシコが判断を為すときに大いに影響を与えたことを含め、多くの意味を持つことになった。
その他の影響を語り切るには、あまりにもスペースが足りない。
それは蜘蛛の巣どころか、複雑に絡み合う絡繰り細工のように、思わぬところへ影響し合うものとなった。
そして、この戦争の実質的な敗北を以て、南部州の、のちのアメリカ連合国の意見は一致し、火種として燃え上がる。
これ以上の戦争経済の続行と国力の消耗に付き合いきれないと、ついに独立を叫び、武器を手に取るほどに。
それは、ほんの数年後にまで迫っていたのであった。
318 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/12/20(水) 22:31:39 ID:softbank126036058190.bbtec.net [41/72]
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南北の亀裂の決定打。
それは、止まぬ人の欲望の結果でしたとさ…
最終更新:2024年03月06日 23:18