602 名前:ホワイトベアー[sage] 投稿日:2024/01/03(水) 20:50:20 ID:softbank060067081109.bbtec.net [56/76]
日米枢軸ネタ 閑話 『とある雪国の憂鬱』
冬戦争時にフィンランド軍総司令官を務め、冬戦争の英雄と呼ばれているカール・グスタフ・エミール・マンネルヘイム、そしてフィンランド共和国第5代大統領であるリスト・リュティを初めとしたフィンランド共和国の上層部は、今回行われている会議でその頭を悩ませていた。
現在のフィンランドはその国際的な立ち位置(冬戦争後に締結した日米の片務的なフィンランド防衛義務を定めた条約の存在)とその立地的条件(隣国全てが欧州連合加盟国)から日米を盟主とするハワイ条約機構と独ソを盟主とする欧州連合、オマケのイギリスとその植民地からなるイギリス連邦の三大陣営による冷戦において欧州連合よりの中立と言う立場をとっていた。
しかし、冬戦争時にソ連の一方的な侵略行為に対して日米の義勇軍とともに自国を守り抜いたという経験や、故郷を離れ避難生活を余儀なくされた時に日米軍や両国のNGO団体などから莫大かつ直接的な支援を受けた経験から国民や軍は非常に親日親米で反独反ソ連となっていた。
国民の大多数は例え不利であろうと冬戦争で共に戦った日米と轡(くつわ)を並べ、共に侵略者であるソ連やその同盟国達に確固たる姿勢をとるべきだと声高に叫び、こうした世論に押され議会の一部からも親日親米的で欧州連合に強硬的な意見がでるほどだ。
無論、政府高官や軍上層部もこの国民意識に感情面では同意していた。
しかし、国の舵を握る人間からしたら感情を優先して自国を破滅に追いやるなど論外でしかない。
四方を欧州連合加盟国と海に囲まれている以上、戦時にハワイ条約機構とともに欧州連合と戦うならともかく、平時からハワイ条約機構に加盟して欧州連合との対決姿勢を明確にすることなど百害あって一利なしと言える愚策だとして、現状の中立と言える立場を保持することこそフィンランドにとって最善であると彼らは考えていた。
フィンランド政府のトップが集まる会議室内にてフィンランドの外務官僚はやや暗い雰囲気で手元にある資料を見ながら報告を述べる。
「ドイツからの日米製兵器の引き渡しを求める圧力は依然として強いです。日米も我々を支援するべく大西洋でイギリス連邦と共同軍事訓練を行うなど欧州連合に圧力を加えてくれてはいますが・・・」
「あのちょび髭総統も現状では引けん……か。まさか冬戦争での日米の援助物資がここまで尾を引くとはな」
リスト・リュティは言葉を詰まらせた外務官僚に変わって、ため息交じりに報告の結論を言い放つ。
現在のフィンランド政府の頭を悩ましている問題、それは冬戦争時にフィンランドを助けるために日米がフィンランドに提供してくれた先進的な兵器群の存在が引き起こした欧州連合との外交的な衝突であった。
冬戦争、ドイツの盟友たるソ連が、自国第二の都市たるレーニングラードの安全を確固たるものにするために引き起こした戦争は、大日本帝国およびアメリカ合衆国と言う単独でも全ての欧州列強を一掃できる二大超大国がフィンランド側に立って本格的介入と支援を行ったことで、世界各国の予想を裏切りフィンランド側の大勝利で終わった。
しかし、西欧戦争でソ連の同盟国であるドイツが短期間で連合国を降し、ソ連とともに欧州諸国の大半が加盟する欧州連合を創設するとフィンランドは事実上欧州連合に包囲された形となってしまう。
こうした状況でもフィンランドがソ連からリターンマッチを仕掛けられずも平和を保てていたのは、冬戦争終結後に日本や
アメリカと締結した日芬安全保障条約および米芬安全保障条約(フィンランドへの武力攻撃発生時の共同対処宣言とフィンランドが戦時体制に移行した場合の日米軍のフィンランド通行および駐留の認可を明記した条約)があったからであるが、それでも技術開発で遅れを取る欧州連合は少しでも日米に追いつこうと、経済的・軍事的な圧力を背景としてフィンランドに対して冬戦争時に大量に日米から供与された兵器群の一部の引き渡し表向きを求めてきていた。
603 名前:ホワイトベアー[sage] 投稿日:2024/01/03(水) 20:50:57 ID:softbank060067081109.bbtec.net [57/76]
「ただ、ドイツ外務省から水面下ではありますがあくまでも国民に説得できる材料が欲しいだけなので、ある程度見栄えが良ければ兵器の種類は問わないと付け書きが来ております」
「なるほど、ドイツも流石に日米とのこれ以上の対決はごめんということか」
外務官僚からのオフレコの話を聞いたマンネルヘイムはドイツ側の考えがある程度見えてきた。いや彼だけではない。
「東京やラングレーの友人曰くフランスを筆頭にいくつかの欧州連合加盟国は植民地での泥沼の戦いとハワイ条約機構の経済制裁で少なくない国力を浪費しているようです。あくまでも推測に過ぎませんが、国内や欧州連合内での求心力の回復が目的ですかな?」
「フィンランドが欧州連合、いやドイツに屈服した。そういう構図が欲しいわけか」
リスト・リュティは憂鬱そうな顔でため息をつく。
西欧戦争において華麗かつ一方的に連合国の盟主たるフランスを屈服させ、事実上イギリスに白旗を上げさせたことで欧州における主導権を確立し、欧州連合という自らを盟主とする一大陣営を築き上げたドイツであったが、満中紛争において中華民国に派遣していたドイツ軍事顧問団の暴走や東南アジア植民地での泥沼の消耗戦によってその求心力を大きく低下させていた。
「日米政府にこのことは?」
「すでに極秘裏に大使館を通して伝えております。オフレコですが、両国としては最低限の建前さえあれば欧州諸国に引き渡すことも容認するとのことです
……無論、機密に関わるいくつかの兵器を除いてとのことですが」
周囲の部下たちに悟られぬように表情こそ動かさなかったものの、外務官僚からの報告にマンネンヘルムとリュティは内心は驚きで埋め尽くされた。
何しろ冬戦争で供与された兵器群、特に欧州連合側が望むであろう戦車や装甲車、航空機などの重装備は、もしも二人が日米側の人間であったのなら仮想敵国である欧州連合諸国に完全な形で渡ることなど許容するはずがないほど高い性能を有していた。
(しかし、それらが仮想敵国に渡ることを軽々と許容するということは、日米両国は我々に供与したものよりも遥かに強力な兵器を相当数配備しているということか……)
自分たちと日米両国の間にいったいどれほどの差があるのか、そしてそれほど強力な列強がなぜ自分たちのような中小国家をあれほどまでに支援してくれたのか。
支援の対価として日米はどれほどのものか。それらの疑問からくる恐怖を確かに抱きながらも、マンネンヘルムはそれを周りに悟らせず静かに口を開く。
「それなら日米と協議の下で引き渡す兵器を決めたほうが良いですかな?」
いくら日米と同盟関係にあり、欧州連合側には仇敵であるソ連がいるとは言え、日米両国がフィンランドから欧州連合に兵器が渡ることを許容している以上、無理に欧州連合側の要求を拒否するメリットはフィンランドには存在しない。
しかし、いくら日米両国の政府が許容しているとは言え、日米両国国民にフィンランドへの不信感を抱かせることは何としても避けなければならない。
「幸いにして近々ワシントンDCにて日米首脳との会談がある。我が国への原子力発電所の建設支援が主な議題だが、そこで話を持ちかてみよう」
マンネンヘルムの言葉にリュティが答えた。
日米両国は孤立を深める友好国を見捨てないことを示すため、そして欧州連合を抑止するための見せ札をフィンランドに与えるために原子力発電所の建設と必要な技術の移転を打診していた。
無論、必要以上に欧州連合を刺激しないように核兵器製造を監視する体制の構築もセットではあるが、欧州連合に包囲されているフィンランドにとっても日米両国の提案は魅力的なもので、水面下で三カ国間の実務者協議が進められ、その最終確認のために首脳会談が予定されていた。
日米両国に不信感を抱かせずに欧州連合の要求に答えるためには、非公式でもいいから日米両国政府はもちろん、両国の軍局からも直接許容範囲を示してもらうのが一番確実である。
そのためにこの絶好の機会を利用しない手はない。
参加者たちはそう認識を統一して会議を締めくくった。
604 名前:ホワイトベアー[sage] 投稿日:2024/01/03(水) 20:52:04 ID:softbank060067081109.bbtec.net [58/76]
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最終更新:2024年03月06日 23:40