413:陣龍:2024/02/06(火) 22:47:45 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp
『ゴーストウィニングの異世界旅行記 ~核地雷は能動爆破させる物~』
「……朝になったら何時の間にか戻ってきているかも、って思っていたけど」
「そう簡単に終わったりはしない、って事だねぇ……」
亡霊行方不明事件から翌日の朝。結局当事者が帰ってくる気配は無く、
たった一人のウマ娘の事以外は小憎らしい程に平穏無事な朝が始まっていた。
「結局、ゴーストの方からの一方的なメール以外での連絡手段や、向こうの状況を知る事は出来なかったっぽいし……」
「飯崎さんからも、やっぱり『神』は何も役に立たないって話です」
「……スカイやい、前々からネイチャさん思うけど、必要以上に辛辣すぎやしない?」
「万能機を持った子供よりある意味質が良いから悪い存在に対する評価って大体こんなもんじゃないかと」
そんな朝、そのウマ娘の友人であるセイウンスカイとナイスネイチャは、未だウマ息子世界に居ると言う以外所在が
不明瞭な状況から変わっていない有様を、昨晩メールや電話等を繰り返すもやはり此方側からは繋がらなかった事を、
自らのウマホを見せあいながら話し合う。
「その……ごめんなさい。スズカさんにゴーストちゃんの事を聞かれて、思わず……」
「申し訳ありません……マルゼンスキー先輩にゴーストの事を追及されて、誤魔化し切れず……」
「……スぺちゃんは兎も角、エルより先にグラスが漏らすなんて。明日は豪雪デース」
「……エルさん。明日、関東一円に大雪警報よ」
「……oh……」
情報封鎖する約定が僅か一日にて破られ、そして漏洩にて学園が大騒動になっている事から逃避しながら。
「把握……いや、遅かれ早かれ知られる事は違いなかった……」
「どうしましょう、理事長。恐らくこのままでは終息しません」
「生徒会の全員に協力して貰うしか無いだろうな……」
「スズカ……何故寄りにもよって、私より先にフクキタルにこの事を漏らしてしまったのだ。
そもそもスペシャルウィークに言わない様に口止めもされていただろう」
「ごめんね、エアグルーヴ……占いなら、若しかしたら分かるかもって」
「アレで分かったら苦労はしない……」
「マルゼン」
「ル、ルドルフちゃん……」
「確かに心配になる事は分かる。だが、その事を少しばかり強引に後輩から聞き出した末、
触れ回って情報を求めて拡散する事は善意であっても軽率では無いか?」
「ご、ごめんね……」
414:陣龍:2024/02/06(火) 22:49:15 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp
善性と善意が災いとなり、トレセン学園生徒、そしてSNSを通じて急激に広まったゴーストウィニングの異世界転移情報。
皮肉にもそのゴーストウィニングの関与によって、所謂ウマソウルにG1競走馬を持たない全く無名なウマ娘が度々
G1ウマ娘を超越する好成績を収める事例が複数存在しており、結果大きな恩義を感じるウマ娘が何人もいた事で、
この騒動は延焼に延焼を重ねて鎮火するには程遠い状況であった。今更情報拡散の元凶を捕捉説教した所で手遅れであった。
「あーもう滅茶苦茶だよ……」
「ゴメン、セイちゃん……」
「反省です……」
「んにゃ、ウッカリ勢いで漏らしちゃったのはもうどうしようもないよ」
「うん……」
「はい……」
「やってしまった事は変えられないからねー」
「うん……」
「はい……」
「でも反省はしておかないとねー」
「うん……」
「はい……」
「今日のお昼の人参ハンバーグと夜のお刺身貰うね」
「うん……うん?え?」
「はい……え?」
「エルー、キングー。今日のおかず一緒に沢山食べよーか。私の分も分けるから」
「えぇ……ま、まぁ、偶には良いかしら、ね」
「うーん……ま、良いデス。一緒に食べましょう。セイちゃん」
「……え?」
「……え?」
ウマ娘、スペシャルウィークとグラスワンダーは昼食と夕食のおかずを全部友人へ【献上】する事となり、
結果一方は財産もとい色々を溶かした顔になり、最終的に総大将に不死鳥双方が侘しくご飯と少量の副菜だけな
昼食と夕食となるのが確定した頃。
「視聴、感謝!只今より、異世界から来られたウマ娘、ゴーストウィニング氏との対談兼説明放送を開始する!」
「よろしくお願いしまーす、ゴーストウィニングでーす」
元世界の騒動模様を遥かに超えた爆弾情報の爆破体勢に入っているウマ娘が、
そうとは知らない現ウマ息子世界に向けてのトレセン学園生放送に出演していた。
「……なぁ、カレン、マヤ」
「……なあに?」
「……どうしたの?」
「なんで死んだ目でバスタオルとか担架とかバケツとか準備してるんだよ」
「「必要になるから」」
「……はぁ……?」
その爆弾情報の破壊力は、先行開示されたウマ娘コンビの有様が語っていた。
「どんな娘なんだろうなー、教室や模擬レースとかじゃ何か天然っぽいのと物凄く速いって事しか分からんかったし」
「つーか、授業の一環名目でウマ息子全員をカフェテリア等に集めて見させるってどういう事なんだ」
「メディア関係者が取材させて欲しいと連絡多数有ったらしい。ウマ息子とかが無知から適当な事を
言わない様にする為の情報通知なんだろ」
大型スクリーンやテレビのあるトレセン学園各所の一室に集められたウマ息子達。大体未知のウマ娘が一挙手一投足で
爆発したり血染めの天井を作ったり卒倒気絶したりとで、名前と存在は知っていても当人の人柄等をマトモにしらない
ウマ息子達が大多数だった。数少ない例外枠がカレン君とマヤ君だけである。
415:陣龍:2024/02/06(火) 22:51:12 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp
「そう言えば思ったんだがな」
「なんだ」
「ウマ息子が全員女のウマ娘世界らしいじゃん?その異世界側」
「らしいな」
「じゃあ俺らの同位体も女になってるかも知れねぇんだな」
「お前が女とか想像したくもねぇな」
「おうテメェその言葉そっくりそのまま打ち返してやんぞコラ」
少々特殊な嗜好を持つお姉様()方が歓喜の万歳三唱しそうな、イケメンが約束されているウマ息子達のじゃれ合い。
彼らはこの直ぐ後に訪れる衝撃と興奮と最悪と悪夢の百鬼夜行情報が齎される事を不幸にも知らぬまま、
当然心構えも無いままに刳り貫かれた生情報をお伝えされるのだ。
「むむむ……」
「……フクキタル様~?どうされたのですか~?」
「いえ、占いでは今日は大凶の相が何度やっても出て来るので……」
極一部のウマ娘だけが、占いであったり直感等でこの先何事か起きるのかを朧気に感じ取っていたが、
誰一人として明白に未来予想出来る者は居なかった。
「視聴者数、鰻登りだね……」
「二人で宣伝したもんね……」
達観を超えて両目が死んでいる状態のウマ息子・カレンチャンとマヤノトップガン。彼らは自身の配信チャンネルにて、
今回のトレセン学園公式放送を見る様に宣伝した後、公式放送の補助要員として放送中の一室の隅に控えていた。
先行開示された情報を、昨晩お風呂上りに当人から直接資料映像付きで教えられたが為に、
彼女の要望も有って視聴者集めに協力した形になる。アーカイブに残る死んだ目の両人が後に
伝説の一品になるとかならなかったそうだが、その点は割愛する。
「……本当に、あの【惨状】を全開示するつもりなんだね、ゴーストさん」
「宇宙人とか、神様とか、今盛り上がっている内容が全部吹っ飛んじゃうだろうね……」
この世界で唯一、今現在理事長らと対談形式で自身の世界の事を、自らのウマホの映像やデータを使って説明して
視聴者たちを盛り上がらせているウマ娘の【漆黒】を知るウマ息子コンビ。コンプライアンス違反とかそう言う次元で終わらない爆弾情報だが、
時が来れば本当に全開示する?偽り無いウマ娘と言うのは既に分かっていた。
「……実際、メディアとか政治系との関わりを最低限にするには、身の上話をして同情を誘う流れにするのが良いと言う理屈は、
マヤも分からなくも無いけど」
「『【ウマ娘がいるから】と言う理由で、暴動もかくやな規模の無断騒音公害包囲網や無許可ドローン空撮突撃させないって、
この世界のメディアさん良識的だ』って素で言ってるレベルだもんね……」
乙名史記者の様に色々と【暴走】するウマ息子記者は居るには居るが、ウマ娘がゴーストウィニングが言っている様な、
唯の犯罪行為を報道の正義と称して看板に掲げ、一方的に押し付けて踏ん反り返る様な手合いは、
この世界だと余程メンツも何もどうでも良い半分裏社会側の様な零細報道社でも無ければ、
大手系はコンプライアンス教育を行っている為か余りにも粗野な行動を取る事は滅多にない。
その昔、とあるウマ息子と女性トレーナーコンビに粗野で卑しい自称取材や報道行為を行った報道社が入っていたビルが
一夜で建物一棟が突如崩壊を起こした【謎】の怪事件にして俗称【ウマ息子の神からの天罰】事件が有った為かも知れない。
尚修繕費や周囲への賠償金は一切保険が効かず、検証の結果建物崩壊の原因とされたその報道社が全額負担して倒産・消失した。
「うむ!ではこれより、質問コーナーを開始する!質問が有れば、コメント欄にて書き込む事!」
「こっちで適当に選んで応えていきますのでお気楽にどうぞ。勿論、答えられないモノも有ると思うので了承して下さいな」
「皆!分かっていると思うが、コメント内容は考えて良識のあるモノを……」
「あ、早速一つ目『ゴーストちゃんのスリーサイズはどんなもんでっしゃろ』とな。えーっと、確か上から……」
「却下ーー!?」
相変わらずボケなのかマジなのか分からない言動を連発させているウマ娘。
こんな娘があの【悪夢】であったり極めて特殊な【出生】の過去を持っていると、
一体誰が想像するであろうか。真相を知る二人はそう思った。
416:陣龍:2024/02/06(火) 22:52:53 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp
「はぁ……はぁ……」
「えっと、未だ時間有りますよね?……はい、未だ時間一時間は有ると。ありがとうございます」
質問を三つ四つ答え、その度に理事長を慌てふためかせたり、扇子での文字芸が発生する、
まるでお笑い芸人のステージの如き和やかな雰囲気。
「それで……『ゴーストちゃんの生まれとか教えて!!』ですね。じゃあ、この質問で最後にさせて貰って良いですか?」
「……?うむ、構わないが、何故?」
首をかしげる理事長や、疑問の空気が生まれる室内そして放送内のコメント欄とは違い、此処から発生する流れを悟り、
既に死んでいる両目から次は表情が抜け落ちたカレン君とマヤノ君。
「いや、色々正直に話すと一時間で足りるかどうかなので」
「うむ、ゴーストウィニング嬢の事だ。きっと濃密な【十数年】を過ごされていたのであろう!」
ニッコリと笑ってそう言い切った理事長の声に対して、今度は生気すら抜け落ちるウマ息子コンビ。
「あー、すみません。私の実年齢って【数年未満】なんですよね……あ、でも前世のサラブレッド時代と併せたら十年近くには成るのかな?」
「…………はい???」
「マヤ分かってたよ。【核地雷】を能動爆破すれば延焼含めて酷い事になるって」
「収拾……つかないだろうね……」
「寧ろ収拾付かない程に燃え盛れば燃え盛る程に【火元】は燃えなくて落ち着いて行く説」
「それ可燃物どころか酸素すらも無くなってるだけ……」
前世こと競走馬【ゴーストウィニング号】の馬生の始まりから、栄光を欲しいままに駆け抜けるも人間の悪意に
長期間晒された悪夢の時期、それを乗り越えようとしたウマ娘とのレース後に突然の終わりとなった
馬運車襲撃事件と鞍上の事故死、自身の生きたままの焼死。そして【死者蘇生】【馬からウマ娘へ】の転生と、
暫くの穏やかな学園生活。そこに突如巻き起こった別世界からの拉致被害な来訪者たちとその事が原因の
活動家や自称正義の報道班達によるトレセン学園への襲撃、異界化、異形の怪物との逃走劇。
そして自身の半身とも言えるゴーストウィニング号とのレースと別れ、そこから間を置かぬおウマさん化による出戻り再開……。
「自分の事ながら、何とも【濃い】情報を一気に開示したなぁと思うよ。アハハ」
「ホントだよ……ゴーストさん……」
「阿鼻叫喚の一言じゃ済まない有様ですよ……」
昨日のライブ事件の有様より尚酷い、ウマ息子のみならず教師やトレーナー、そして理事長やその秘書、
リアルタイム視聴していた人々も巻き込んで、この情報爆弾は全てを【炭化】させる以上の破壊力を発揮した。
そしてその核地雷を能動発破させた張本人は、周囲の時が止まったかのような絶句している有様を他所に、
相変わらずの能天気な雰囲気だらけだった。
「……元の世界のカレンとかも、苦労してるんだろうなぁ」
そんなカレン君の虚空に向けた呟きは、今回の騒動でまた一歩【大人】になったマヤ君の苦笑いと、
少々不服そうに剥れるゴーストにだけ聞かれていた。
417:陣龍:2024/02/06(火) 22:55:17 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp
|д゚) 改めて思う、ゴーストウィニング号→ゴーストウィニングの生涯の濃密さとイカれ具合よ
|д゚) 爆破炎上案件も有って、触らぬ神に祟りなし状態で何処ぞの乙名史記者程度に真っ当なウマ息子記者しか、
取材しに来る事も無いなって。この世界のメディア
最終更新:2024年03月17日 18:48