433:陣龍:2024/02/07(水) 22:03:58 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp

『ゴーストウィニングの異世界旅行記 ~炎上、鎮火、再点火~』



「大雪だねぇ……」
「そうですねぇ……」



 【ターフの亡霊】が突如異世界転移と言う形で半ば失踪状態になって三日目。前日の予報を遥かに上回る速さで雪雲が膨張し、
そして昨日の昼前から21世紀初頭としては前代未聞の規模で関東一円に大雪が降り積もり続け、それは翌日となっても続いていた。


「……スぺちゃんとかユキノさんの故郷と比べれば大雪って程では無いんでしょうけどね、積雪10センチって」
「雪質も粉雪型だしねぇ……でも、こんなに積もる事は考えられていない現代日本の首都圏だからねぇ……」


 トレセン学園の教室から外を眺める、ここ最近共に居る事が増えたウマ娘コンビ。最早学年差と言う事は忘れられつつある。



「……雨降って地固まる、ならぬ雪降ってゴースト落ち着く、ですかね?」
「言うてその通りだけど、なんだかなぁって感じよね」


 雪かきしようとスコップや防雪防寒の完全装備でトレセン学園のグラウンドや通りに張り切って出て行くも、
職員らが機械式の雪かき器にて除雪している為に戻るよう促されスゴスゴ校舎内に帰って来る
スペシャルウィークやユキノビジン等を見つつ、とりとめのない会話を続ける。


「電車も止まってたり、スリップ事故がそこかしこで起こって居たり、それはそれとして東京で綺麗に積もった雪に大喜びしてる子供や
外国人観光客らがはしゃいでたりと、昨日の午前中から打って変わったもんだねぇ」
「実際、心配とかしても出来る事とか何も無いですからねぇ。こう言う事になると当事者無視して好き勝手騒ぐ様な活動家とか
メディアとか政治団体とかも出て来てませんし」
「やっぱり怖いんだろうねぇ、別世界の神様」



 やってる事は相当奇々怪々且つ壮絶な【天罰】を下しているコッチの世界の【神様】に対してポロっと相対的低評価するワイドウマ娘に、
相方は全く突っ込まなかった。その通りだと思っているから。


「(pipipipipi)……ゴーストからですね」
「今度は何やらかしてるんだろうねぇ」


 最早何事か起こしているのが既定路線である、異世界旅行中の友人からのメールを開く二人。



「「……コッチの気も知らないで……」」

434:陣龍:2024/02/07(水) 22:05:05 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp



『やっぱり、スプリントは駄目だったよ……⊂⌒~⊃。Д。)⊃』


 呆れた溜息と共に苦笑いをする二人は、一時しつこいまでに広告に流れていた某敗北シーン風に地面に蹲るゴーストと、
その馬鹿やってるウマ娘をおんぶする、此方の世界でも早々たるスプリンターであるカレンチャンの同位体と思しき
ウマ息子の姿が二枚添付されていた。


「……ゴースト、帰って来るまでにどれだけ向こうの世界で【大暴れ】してくるんだろうねぇ」
「あはは……真面目にボケた行動、それも致命的って程でも無い事だけするから質悪いんですよね、それも悪意無く」



 護身の為とはいえ、異世界転移後僅か二日目にして自身の過去を丸ごと開示してウマ息子世界を阿鼻叫喚の大惨事に
叩き込んだ事を知る筈も無い二人は、あくまでレース等での【大暴れ】でしかイメージ出来ていなかった。





「ぅぐ……」
「ゴーストちゃん……」


 一方、その話題沸騰なウマ娘はと言うと。


「ァ……」
「……あ?」
「アイウォントワナダーイ……ゴフッ」
「……あっははは……」



 季節は未だ春前なのに夏日に近い日光が燦燦と照り付けるウマ息子世界にて、スプリンターのウマ息子達に完全敗北を喫していた。






「一日経てば、案外と落ち着くもんだよねぇ」
「落ち着いた、と言うか……」
「落ち着かざるしかなかった、と言うべきか……」
「うむうむ、大体予想通りである」
「本当は出たとこ勝負だったでしょ、ゴーストさん。マヤ分かってるよ」



 事前予告無しの大暴露大会開催から翌日。ウマ息子世界のトレセン学園は平穏な朝日と時間を迎えていた。
ゴーストが懸念していた【ネタ】を求めた無法者報道社であったり、ウマ娘のバイオトロフィー化を目論む活動家やら
宗教家等が殺到してくる事も無い、何とも平和な一日が始まっていた。

435:陣龍:2024/02/07(水) 22:06:49 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp

「……それでさ」
「うん」
「正直ね、行き成り【あんな事】をぶちまけちゃったんだから、腫物扱いにされるのも当然かなって思ってたんだ」
「うん」



 そんな会話をしながら各々が弁当を食べている三名の現在地点は、トレセン学園の屋上。それも物陰に隠れるように並んで座る形。


「……なんで普通にアイドルの様に扱ってくると言うか人気沸騰してるのが居るんだろうね」
「それは、ねぇ……うん」
「ゴーストちゃん、ウマ息子と言うか、思春期真っ盛りの男共の思考回路の直結回路や単純思考っぷりを舐めない方が良いと思うよ。
カレンが言うのも何だけど」
「……ワケワカンナイヨー」



 恐ろしがったりする事無く当たり前に新しいクラスメイト扱いするだけな未だ真っ当なウマ息子が殆どだったが、一部ではパリピ的に、
元の世界のゴーストの知っているギャルウマ娘勢の如く、何処か能天気さまで感じさせる歓迎っぷりであり、
幾ら何でも警戒感が無さ過ぎでは無いかと自分の事を棚上げして真面目に思いつつ、弁当のシャケを食べるゴーストであった。




「カレン」
「どうしたのかな?」
「確かにワタクシ、ゴーストウィニングは今日も模擬レース出場について了承はしています」
「うん」
「……しっかりと『スプリント以外で』って伝えたハズなのに、なんで今回1200mなんですかねぇ?」
「あれー?あ、そうだった。ごめんね?」
「ウゴォ……自分の強みを知っているウマはこれだから強い……」


 周囲の騒動を切り抜けつつ辿り着いた午後。昨日に続き模擬レースにゴーストも参加する事となったが、
カレン君の【間違い】によってスプリントレースに出走する事となっていた。ウマ息子でも魔性さは全く変わっていないカレンチャンによる
てへぺろ謝罪は、ゴーストの抗議する気分を急速に脱力させていった。



「スプリント戦、苦手って域じゃ無い程に駄目なんだけどなぁ……マイルなら割と行けなくも無いんだけど……」
「でもさ、ゴーストさんの走りを知りたいってスプリンターのウマ息子も多いんだー」
「うぅ……そう言われると、それと期待の眼差しの多さを見ると、何とも断り辛い」



 マヤノ君の言葉通り、コースの外では目を輝かせた多数のウマ息子達が、ゴーストの動きの一挙手一投足を見逃さんとばかりに
目を皿のようにして見ていた。2400mと言う実質長距離同然な模擬レースで、G1ウマ息子も平気で薙ぎ払ったウマ娘なのだから、
きっと短距離でも凄まじい挙動をするのではないかと言う、特に根拠のないが期待する気運は凄まじかった。



「……もう準備出来ちゃってるから、一応真面目にやるけどね」
「やったぁ!やってくれるゴーストちゃん大好き!」
「やったぁ!でも大好き!でも無いんだってば。こちとら、スプリントに関しては壊滅的なんだから」
「えー、でもゴーストさんの昨日の走り見て居たら行けそうに見えたんだけどなー」
「OK分かった、論より証拠、案ずるより産むがやすし。やったろうやないかいゴーストウィニングのスプリントレース」



 何か右手の握り拳と共に背後に悲壮感を滾らせているゴーストウィニングと極めて親し気に漫才的会話を重ねるウマ息子のカレン君とマヤノ君。
何だかその他ウマ息子から嫉妬されそうな二人であったが。



「ゴーストちゃーん」
「あー……」
「大丈夫ー?」
「目ーと大地ーがぐーるぐるー……」
「あー……駄目だね。木陰に連れて行って休んでもらおっか」
「そうだね……ゴーストちゃん、担ぎますよー」
「おー……」


 昨日のレースとは打って変わって、見事にレース開始直後からバ群に埋没して撃沈し、目を回してぶっ倒れたウマ娘、
ゴーストウィニングの姿で嫉妬云々の事は、周囲のウマ息子達の頭から吹っ飛んでいた。

436:陣龍:2024/02/07(水) 22:07:30 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp
|д゚) 結局のところ、ある意味一挙手一投足にネタには困らんゴーストであった

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最終更新:2024年03月17日 18:50