378:リラックス:2024/02/04(日) 06:03:12 HOST:softbank060106198046.bbtec.net
さて、変な時間に目が覚めたので

厄いものが湧いたみたいです~幕間・転移前の環太平洋条約機構~

「とりあえずエネルギー事情に関しては、これで一段落といったところでしょうか」

環太平洋条約機構の首都コロニーに存在するとある会議室にて、国務省から代表で出席している男が言う。

(国務省とは、国防省同様に環太平洋条約機構へと再編する経緯で、かつての内務省をイメージした組織と思えば大体間違っていない。

何故ネーミングセンスがアメリカ式なんだよ?という疑問に関しての答えはというと『嫌いでしょ?旧大日本帝国形式』がβ/甲世界側の答えである。)

男…杉下の提示するデータは、バイオエタノールを含む炭化水素系合成燃料、時間凍結技術により保存・運用が容易になった反物質、核融合用のヘリウム3などの各種エネルギー資源が各地の海上プラントで安定的に供給されており、自給可能なエネルギー総量が戦前…ファーストインパクト前の基準で100%を越えており、必要に応じて250%まで増産可能であることが示されていた。

「危機的水準を脱したとは言えるだろうね、内地だけでなく環太平洋条約機構全体で見ても」

会議室の、否、事実上、環太平洋条約機構における最高責任者であり、室長と呼ばれる男…小野田がそう呟くように答える。

勿論、本来の肩書きの正式名称はもっと長ったらしく複雑なのだが、何故『室長』なのかと言えば、その座にある者もそれ以外も、事情を良く知る者もワイドショーを流し見した知ったかレベルの者も『β/甲世界の傀儡』と嘲笑するようなその地位に最初に就いた者が、『傀儡だろうが外来種だろうが、この部屋にいる限りは国のリーダーとしての責任を背負っている自覚を持たねばならぬ』という旨のことを宣言し、そこから広まったという説が有力だ。

β/甲世界側もいつまでも国の経営を肩代わりし続けるよりは支援を受けながらでも自立して回して欲しかったことから、この姿勢を積極的に後押しし、環太平洋条約機構はある程度以上の主権を少しずつ取り戻していったという事情もある。

ちなみに、小野田は日本国を環太平洋条約機構に再編する過程で東奔西走する過程であれよあれよと上の地位へと祭り上げられ、何代目かでその地位にたどり着いたという経緯を持つ。

「はい。今後はアウトサイダーズのコロニー群に向けたエネルギー供給拡大と非常時に備えての備蓄を進めていけば、現在の勢力圏のエネルギー事情は一先ず安定化したと言えるかと」

「取り敢えず国際経済の崩壊を考えずに済むか、民心も少しは安定してくれそうだね。
まあ、戦前のようなグローバリゼーション化なんてのを復活させるのは不可能にしろ」

総理補佐官と魔物災害対策担当官とを兼任する甲斐が肯く。

それにしても、かつてエネルギーや資源不足から世界規模の戦争に踏み切った国家の成れの果てが、今や世界最大の(というかほぼ唯一の)エネルギー輸出国家と化したという事実を考えると、頭痛を越えて空恐ろしさすら覚えるような話である。

現在、かつて地球の事実上の支配者として席巻した人類文明は現在進行形で瓦解しつつあり、環太平洋条約機構の再編が完了しつつある現状でも、何とか土俵際で踏み止まれたという状態なのだから然もありなん。

初代室長の頃に設立された国境警備軍による魔物の駆除作戦は今、この時も現在進行形で遂行中ではあるが、最終段階である歩兵部隊による制圧を成し遂げる為のメタルギア:カイオト・ハ・カドッシュを始めとする各種兵器群の投入はまだ数が限られており、大量に現場に行き渡るようになるのはもう少し先の話になるだろう。

「エネルギー事情の改善が予定通り進んでいるなら、各種軍需工廠や生産プラントの稼働も順次本格稼働を開始させられるね?」

「はい。であるからこそ、今後について腰を据えて考える必要があります」

甲斐が沈着な口調で続ける。

379:リラックス:2024/02/04(日) 06:04:31 HOST:softbank060106198046.bbtec.net
「海を渡って来れるような水棲型の魔物に関してはβ/甲世界側が流出を防いだこと、更に向こうの日本勢力圏からの魔物の流入が大陸北部を除けば最小限であったことから足元に関してはある程度余裕があります。
しかし、魔物と実際に接する機会が多いアウトサイダーズに関しては、様々な理由から魔物に魅入られる根本的な対策が全く進んでいない以上、セカンドインパクトの再発という懸念から、我々は逃れられていません」

『魔物と粘膜接触する者』が極々一部少数であったとしても、その一部少数に煽られるような行動力と漠然とした不満を有り余らせているような輩は社会において皆無にはなり得ないものである。

如何に失業率を低下させ、就学率、就業率を高め、経済事情から道を断念する懸念を取り除いたところで、真っ当な道を歩みたくなくなる奴はどうしようもないし、そういう気分になることは誰にだってある。

そんな時に違う道への分岐点があることを教えられてしまうと、『自分の意志を示したい、自分で選んだという事実が欲しい』という心理から流されてしまう者は絶対に出る。

これは人ならずとも、生物であれば備わっている当然の心理である。

「2度目のそれが何時、どのような形態で起こるのかすら掴めていないのが現状ですが、国家として備えないという選択肢はあり得ません」

「ふむ… セカンドインパクトについて詳細の周知徹底に加え、原因の一つとなった『魔物と粘膜接触した者』への嫌悪感を煽り立てるのも一つの方策という訳ですか」

「『魔物と粘膜接触』することへの恐怖を煽って禁止すれば反発する者も出やすいでしょうが、幾ら叩いても良い相手としてそうした者たちを紹介するカタチにした方が受け入れやすくなるでしょう」

兎にも角にも意識改革には積み重ねが大切ということで正午の公共放送にて、毎日数分間それ専用の時間を取ることが決定され、学校職場等でテレビ、ラジオでの視聴が推奨されるようになる。

目論見通り『魔物と粘膜接触した者』への嫌悪感を示す報道は中々効果があったらしく、凡そ報道時間が二分間であったことから、この時間は『二分間ヘイト』とネット上で呼ばれるようになるというのは余談だ。

兎にも角にも、後にそうやって『二分間ヘイト』と呼ばれることになる試みが決定した後、他にも実行手順に暴力を用いることを徹底的に否定した環境保護のために穏やかな人類滅亡を目標とする運動…VHEMT(人類自主絶滅運動)から派生したような奇妙な思想が主にアウトサイダーズで広まっているという報告が為される。

「人類という種族ごと魔物へと回帰する?」

「はい、細かい違いこそあれど要約するとそのようになる思想が複数のコロニーで広まりつつあるのが確認されたとのことです」

「確か自衛隊の対処が必要になったコロニーの中には自分は名誉魔物だと主張していた連中もいたと記憶しているが…」

「自分達を厚遇しない庇護者など新しい庇護者に売り渡すという、昔ながらの御花畑な売国奴か、他国の庇護を受けて延命なぞ死んでも御免という跳ねっ返りのどちらかでしょう。ただ、対応のし方が変わっただけです」

「はい、この場合は人類同士での子作りを制限し、魔物と交配を繰り返すことで魔物へと回帰することで純粋な人類の滅亡と新たな生態系を築くという思想のようですね」

「うーむ、環太平洋条約機構の対応に問題があったと?」

「いえ、それで『まともにやってはどう足掻いてもアウトサイダーズのコロニーでは自衛隊に敵わない』という共通認識が生まれたからこそ、こうした主張へと変化したというのが専門家の分析です。なので、これまでの対応はアレで良かったと言えるかと」

380:リラックス:2024/02/04(日) 06:05:27 HOST:softbank060106198046.bbtec.net
何とも悍ましい話であった。(ちなみにβ/甲世界側の夢幻会はコレを聞かされて『そうはならんやろ』とドン引きしたが、『どうせ魔物のイメージがモン娘とかエルフとかそんなんで、魔物との交配でチート能力を得るとかそんな浅ましい考えで乗っかる奴が出るんだろうな』と察しもしたらしい)

尚、該当の思想が危険思想として、掲げて活動する者達が殺処分対象者として取り締まられることが決定したのは言うまでもないが、三度目が充分に起こり得る可能性として考えるべき案件であることは共通認識となった。

「それで10年後…、アウトサイダーズのコロニー群に加えて日本全土のコロニー群の半数が崩壊し、魔物の勢力圏に落ちる。そんな想定で対策を講じると?」

「はい、恐らくその頃になると、今現在の小中学生が成人し始め、魔物への恐怖や嫌悪感を共通認識とする社会への反発心を抱き、上手く社会に適合出来ない者が社会的に問題になるでしょうから、妥当な所かと」

まさか、と言いたい所だが、東日本大震災の時もコロナ禍の時、それくらいの時間が経過した頃に『話を盛っている』『そこまで馬鹿な訳ない』と当時のドキュメンタリーにおける当時の政権や関係部署への描写に対しての批判が頻発したという情報を根拠とされるとそうした意見は引っ込むこととなった。

「被害規模に関して最悪の想定は妥当な所として、年代も妥当。では、10年でどれだけの備えを行い得るか検討しよう」

小野田はそう言って、検討会の開始を宣言した。

「この場合、国境警備軍は反撃よりも封じ込めを優先して戦力を温存して時間を稼ぎ、可能な限り無事な国民を宇宙へと脱出、この際に残す設備は可能な限りで構わないので自爆させ、月の居住区にて再起を図ることが骨子となると思われます」

投影された資料を背に、β/甲世界側からの出向者(パイプ役とも言う)である冠城という男が断じる。

「現在、月には研究施設を兼ねたヘリウム3の採掘施設を建築中ですが、これの規模を拡大し、年単位で自給自足が可能かつ、月自体を開発するのに必要な生産設備を今後十年で備えることを提案します」

環太平洋条約機構の各地に建設されているマスドライバーや重力偏向技術があれば、それは決して妄言でも夢物語でもなく、実現可能なプロジェクトであると冠城は言う。

実際そうなのだろうと会議の参加者は思う。

極端な話、β/甲世界側の技術はエネルギーさえあれば理論上必要な物は全て現地で用意することが可能だ。

そして、月は核融合に必要なヘリウム3の有望な採掘場である。

「一時避難先になるか最終避難先になるかは兎も角、もしもの時に避難先があるとないとでは大きく変わって来る。仮にそのもしもが来なかった場合は宇宙開発の進出拠点として機能すると」

「実にロマンがあって良いじゃないか。願わくば、もっと平和で、このような想定を現実のものとして警戒しながら始めるプロジェクトでなければ更に良かったんだけどね」

「まあ、小野田室長。宇宙はそれ自体がロマンの塊ですから、それ以上を求めてはバチが当たる…ということにしましょう」

「まあ、それはそうかもしれないけどね。分かったよ。杉下、冠城クンと協力してその辺の計画についてもうちょっと煮詰めておいて」

「かしこまりました」

「あ、それともう一つ、並行して進めることになる太陽系内を探索出来る宇宙船についての計画だけど」

「何か問題が?」

「いや、宇宙船の名前について決まってなかったと思ってさ?一応、目玉になり得るトピックスだから何かしら名前があった方が関心持ってくれる人も増えるんじゃないかなぁってね」

その後、宇宙船については公募を出して候補を政府の方で絞った後、最後は国民投票を行うことが決定した。

この宇宙船に関してだが、最終的に『ヒリュウ』『エンタープライズ』『デス・スター』『アルカディア号』等の候補の中から『ナデシコ』が勝ち残り、目出たく名付けられることになる。

この、後にナデシコと名付けられることになる宇宙船が並行世界とはいえ人類初の他の惑星へ表敬訪問を担う栄誉を賜ることになるのは、また別の話である。

381:リラックス:2024/02/04(日) 06:06:00 HOST:softbank060106198046.bbtec.net
以上、皆さま良い日曜日を

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最終更新:2024年03月17日 19:06