647:リラックス:2024/02/24(土) 23:02:46 HOST:softbank060106205151.bbtec.net
厄いものが湧いたみたいです~人類種の天敵~

「つまり、魔物に対する優位性を維持したまま共存を目指してはどうかと?」

環太平洋条約機構加盟国における議会で行われた提言に、大河内国家安全保障局長は思わず目を丸くした。

「その通りです。β/甲世界においても人と共存を成し遂げている魔物はいますし、仮に国家を築いた魔物と共存したとしても長年積み上げた組織力による優位は保てる公算が高いかと」

議会参加者である大使は相応に研究して来たのか、自信ありげな態度で大きく肯く。

「仮に錬金により一人で資源から製品の完全生産が可能だとしても、生産力という観点から見れば競合とはなり得ない。経済産業省と経団連を中心としたチームで合同シミュレーションを実施した結果、そのような結論が得られました」

「ふむ……個体による優位性は組織力による優位性を覆すには至らない、と?」

「その通りです。また、生産力以外の観点から見ても……」

大使の言葉が少し途切れ、端末を操作する。

「例えば、このような農作業用の小型特殊車両を生産するとします。
ある程度は使い方はご存知のはずですし、どのような原理で動いているかも同様かと思います。
ですが、仮に今から環太平洋条約機構によるバックアップ無しに新規の農作業用の車両メーカーを立ち上げるとして、他社との競合に優位性を保ち、尚且つ利益を得るまでにどれだけの労力が必要となりますか?」

「成程、部品は専業メーカーから取り寄せるとしても、組立設備を整え、生産業務に携わる人員を雇用、試作まで漕ぎ着けた所で法的な基準を満たす為に必要な知識や技術、何そしてコストに見合うペイを得られるまでに乗り越えるべき壁がどれだけあるか、考えるだけでも目眩がする。
分野によって多少差もあるにしろ、先端技術を用いられた製品全てに対して同様のロジックが適用可能。
仮に現地のインフラを整えて国家を樹立させたとしても、維持・発展に必要な物は全てこちらの紐付きにしてしまえば良い、と」

大使はこの時点で説得の成功に半ば確信し、技術や知識は流出するとしても、独立してやっていけないよう対策すれば信頼はならずとも共存は可能と結論を言おうとして、

「しかし、問題はね。そうした組織力そのものを丸ごと奪われる可能性があるという話なんですよ」

と、ぶった斬られ、しばし絶句した。

「いや、そんなまさか」

有り得ない、と言おうとして、コロニー自治政府という形で組織を丸ごと乗っ取られた例など既に存在することに気付いた。

「β/甲世界での話にもなりますが、国家を持たない少数民族などでは珍しくもなかったパターンだそうで、アーリア人云々から派生した血統主義を現代まで維持しなければならなくなった理由の一つがコレだそうです」

中枢からそうした連中を遠ざけられれば遠ざけられるほど良い、という意味では確かに血統主義は理に適っているのかもしれなかった。

組織の硬直化を助長しかねないというデメリットはあるが、価値観そのものが組織を守る防壁の一つとして機能し得るからだ。

「更に言うならコロニーというのは、元々はそうした環境下における組織乗っ取りのプロセスを解析する為に、少数民族やカルト教団のような輩を用いた社会実験場から開始し、それを防ぐ為の方法を試行錯誤した成果だとか」

β/甲世界の構築した統治マニュアルや組織形態を不完全なまま、現地人の好きにやらせたコロニーは類似例のあるプロセスで乗っ取られる傾向がある、と、犠牲を伴うトライ&エラーの結論を見せながら、大河内は続ける。

648:リラックス:2024/02/24(土) 23:04:31 HOST:softbank060106205151.bbtec.net
「ちょっとやそっと時間を加速したり、死人や生者を万単位で操れるくらいで現代軍を本気の戦闘で相手取れるほど甘くない、という話がありますが…恐らく、そんな能力持ちを恐ろしくないと断言出来るのは『そういう能力持ちがいる』と把握していて、かつそこがそういう戦場だと理解した上で臨戦体制を取っている現代軍しかいない場合に限るでしょう」

あらゆる意味で脆弱極まりない一般人の多数いる社会に、そんな存在を文化交流とか門戸を開いた状態で平和理に招き入れられたら、と考えてみると良い。

近いのはゾンビパニック系だろうか?

ただし、そのゾンビはリーダーとなる上位個体の下に統率され、生前の知識やスキルを同じように使いこなし、更に他者から見て簡単にゾンビだと分からないものとし、リーダーは組織という強みを理解し得る知能を有しているとする…と但し書きのつく。

「ちょっとした国程度なら乗っ取られても不思議はないでしょう?」

「成程、恐ろしい話です。魔物との生存戦争は銃を以って戦い続けることが出来れば人類の勝ちということでしたが…」

アレは楽観でなく、むしろ逆。

現代軍と、それを成立させる現代国家が戦時体制を維持し続けないと『勝てない』という意味なのだと、ようやく理解した。

「既にそうしたケースは見られていまして、人間の死体か、ホムンクルスのような魔造生命体に生者の記憶をインストールしたのかは不明ですが、己を『ファンタジー世界っぽい世界に転生した一般人』と認識させて集落の発展や能力の応用の研究を行っていることが確認されたケースは既に存在します」

その成果と見られる物です、と紹介されたのは一般的にゴーレムとイメージされるような存在だった。

「本来なら主人が最初に込めたエネルギーが尽きれば自壊する存在ですが、中心に核となる物質を使用することで、普遍的に存在する無色のエネルギー、エネルギー変換技術、β/甲世界における魔導技術においてはインフラトンエネルギーと呼ばれるエネルギーを吸収して核となった物質が限界を迎えるか物理的に破壊されない限り自律行動を続けるという代物となっています」

「もしかすると、主人を倒しても活動を停止しないのでしょうか?」

「その通り。尤も、主人以外の命令を聞かない安全装置とも言える機構の為、主人を倒せば最後に命令されたことを愚直に守り続けるだけの存在となりますが、そこもまた厄介です」

核となるような小型の魔物など、そこら中で調達可能な上、肉体構成する素材は砂や泥で良いのだから材料にも困らないと大河内は軽く肩を竦める。

「まだ解放作戦が軌道に乗っていなかった最初期には、支配下においた眷属達を利用してこうした…通称ゴーレムと呼ばれる個体を大量生産して抵抗を試みた魔物も確認されました。
幸い、近隣のコロニーや基地に物量による飽和攻撃を行うという方法に用いられたことで早期に発覚し、戦略砲爆撃の開始や空挺部隊の投入で関連技術拡散前に量産体制を破壊して対応出来ましたが、利用のし方次第では厄介なことになっていたでしょう」

β/甲世界が追い出したのは、要するにこういう魔物達なのですよ、という結論の後、人間と交配して変化する魔物についての話が始まった。

魔物とは人類が共に天を懐くことが困難な、人類種の天敵。

この後、環太平洋条約機構内において、その認識は急速に広まっていくことになる。

649:リラックス:2024/02/24(土) 23:05:06 HOST:softbank060106205151.bbtec.net
短いですが以上です。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2024年03月17日 19:12