596 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/02/14(水) 22:32:48 ID:softbank126036058190.bbtec.net [88/137]
憂鬱SRW 融合惑星 マブラヴ世界編SS「オペレーション・トライデント」3
- C.E.世界 融合惑星 β世界 β世界主観1999年9月14日 2時41分 クラ海峡 防衛線跡地
BETAの蹂躙は、クラ海峡を超えていた。
防衛線として設定され、相応の戦力が配置されていたそこは、大規模侵攻に対して半日は持つという見込みを裏切り、2時間と経たず陥落したのだった。
戦術機はもちろん、火砲や支援艦艇、通常兵科など潤沢に用意されていたそれがあっけなく半壊したのは、国連軍も誤報を疑った。
最前線を担う要衝であり、海峡を利用したキルゾーンを形成しているなど、優位になる点はいくつもあったのだから無理もない。
だが、それ以上に人類側が不利だったというのが敗北を決定づけた。
まず、これは繰り返しになるが、大規模侵攻の数が想定を超えており、ダメージレースあるいは潰し合いで人類は負けていた。
戦力の質も考慮すべきとはいえ、単純な数による平押しを武器とするBETAは、人類の要衝が抑えきれないほど叩きつけたという単純な勝ち方をしたのである。
ついで、人類側戦力のパフォーマンスが低下していたのも理由だ。
何のことはない、局地的に発生した巨大な台風とそれに伴う高範囲での悪天候で、戦闘能力が低下した状態で戦うことを強いられた。
豪雨と言っていいそれにより視界不良を招いた。
吹き付ける風は戦術機はもちろん他の兵科の動きを阻害した。戦術機は動きが風に流されるし、火砲全般は砲弾が思う通りに飛ばない。
海上に展開して火力支援を行うはずだった艦艇群ももろに影響を受け、十全に火力を出せず、航行すらままならなかったほどだ。
細かいところでは通信不良やレーダーに霧がかかることになり、BETAの動きを探知しにくくなったこともある。
ともかく、そんなことがあって前線は崩壊。BETAは防衛戦の突破を果たしたのである。
これに対し、人類側は苦肉の策として最後にとっておいた策を発動させた。
即ち、クラ海峡とその周辺に埋設されていた核兵器の一斉起爆である。
シンガポール基地司令部において、基地司令らの承認を経て起動されたそれは、とある歴史をたどった世界ではツァーリ・ボンバと呼ばれた核に匹敵するものだった。
クラ海峡どころかその周辺の土地を吹き飛ばすどころ消し飛ばし、大地を割る爆発は圧倒的だった。
当然巻き込まれたBETAは蒸発。その加害範囲の広さも相まって、巨大な空白を生み出したのだ。
それはBETAの群れの空白でもあり、同時に大地を文字通り割り、砕き、消すものだった。
その結果生じたのは、分断されたマレー半島だ。クラ海峡だった場所を中心に、直径50キロに及ぶ新たな湾を生み出したのだ。
これにより、BETAは陸路の途中でこの湾を通過しなくてはならなくなり、速度が低下する。
即ち、遅滞戦術の一環であり、BETAの進撃を足止めするエリアの構築であった。
国連軍および大東亜連合軍は悪天候さえ一時的に吹っ飛ばす衝撃や揺れなどに大いに揺さぶられた。
とある世界でツァーリ・ボンバは制限して使っても1000キロは離れた場所で窓ガラスが割れ、衝撃波が地球を3周もしたという。
況やより至近距離で衝撃を受けることになった彼らがどういう目に遭ったのかは言うまでもないだろう。
だが、そんな多少の害程度で動きを止めることはない。早々に切れるカードではない以上、生かさない手はないのだった。
597 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/02/14(水) 22:33:23 ID:softbank126036058190.bbtec.net [89/137]
- β世界主観時刻 2時57分 マレー半島 クラ湾 沿岸
予定通り形成された「クラ湾」を望む沿岸は、大わらわであった。
BETAの進撃が一時的にしろ止まっているので、その間に新しい防衛線の構築と戦力再編が急がれていたのだ。
「うお、風が……!」
「負傷者は早く集めろ、モルヒネは!?」
「基地スタッフにも負傷者が!」
「自分で手当てさせろ!もっと重傷者がいるんだから!」
「地雷の敷設は?S42にも配置急げ!」
「道を開けろ、自走砲が通る!」
兵士たちやスタッフが忙し気に走り回り、車両や輸送ヘリなどは物資を運び、メカニック班は各種兵器の調整や準備に余念がない。
どれが一番きついか、などとは言うまい。すべてがフル稼働だったのだ。一分一秒さえも惜しい。
こうしている間にも排除したBETAの群れは次が着々と陸路を進み、クラ湾を超えて迫っているのだから。
元より想定されていた計画であったとはいえ、実際にやってトラブルが起こらないことなどないし、急いでいるならなおさら。
「……」
しかし、誰もが悲壮な顔をしていた。
何が理由かなど言うまでもないだろう、間もなくここも激戦という言葉も生温い煉獄になるのだから。
そして、彼らは少なからず理解していたのだ。自分たちが後方を守るための捨て石という面があるということを。
軍に入ったということはその覚悟があるとみなされ、守るべき大多数のために捨てられる少数となる。
とはいえ、全員が全員、覚悟があるわけではない。意に反しての徴兵や生活苦からの志願という、マイナスの方面で軍に身を置く人間が多い。
国無き民---失陥したユーラシア大陸の国の民は特にそうだ。難民キャンプに押し込められ苦しい生活をするか、比較的マシな軍務につくかの二択なのだ。
手に技術がある人間であればまだいいが、そうでない人間の方が圧倒的に多く、望まない志願を強いられたケースは圧倒的に多い。
そんな彼らに士気を保て、という方が理不尽というものだろう。彼らとて己の命は大切だ。死にたくない。
けれど、それが許されない状況に自ら陥っているからこそ、なおのこと苦しい。
結果として、ひたすらに目の前のことに没頭することで逃避するしかないのだ。
(死にたくないなぁ……)
誰かが、あるいは誰もが、胸中でつぶやく。言葉を口にしなくとも、その空気や雰囲気というものはどうしても漏れ出る。
それらが堆積し、爆発し、士気が崩壊してモラルブレイクなどが発生していないだけ、まだマシであった。
それをしないのは、曲がりなりにも軍人として教育され、さらにいざ逃げたところで間に合わないという諦観があるからだった。
BETAとの戦いは地獄だ。生きたくても死ぬことを覚悟しなければならない、絶望で心を折るような状況があちらこちらで起こってしまうのだから。
598 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/02/14(水) 22:34:22 ID:softbank126036058190.bbtec.net [90/137]
- β世界主観時刻 3時22分 マレー半島 シンガポール沖合 タケミカヅチ級空母タケミカヅチ
MSの延長にある、エアーフォースワン兼軍司令部であるストライクルージュとキャバリアーアイフリッドは、甲板上でその報告を受けた。
「そうか、核の起爆を……」
『時刻こそ違いますが、どうやらBETAの大規模侵攻を受けた地域において、戦略級核兵器の投入がなされたようです』
モニターに表示されたデータは、なんとも憂鬱な内容だ。
クラ海峡だった場所だけではない。北アフリカ沿岸地域、スエズ運河、あるいはその近辺での炸裂が観測されたのだ。
爆風や衝撃波が複数に重なっていることなどを鑑みると、単発どころか複数を一気に起爆させたとみるのが正しい。
BETAの大規模侵攻を受けている最前線で、それらを一斉に使う意味など多少軍事に詳しければわかる。
「焦土戦……いや、もっと大きなものか」
『衛星からの観測では、どうやら地形を変えることも企図したモノと……こちらが画像です』
『よく計算されているようで、最大効果を狙って実際その様にできたようです』
分析官たちの言葉と画像---きのこ雲の晴れた後に観測された地形はかつてのそれとは別物だ。
理由は一つ、それがカガリの呟きの通り、遅滞戦術を行うための焦土戦だからだ。
古くから焦土戦というのは使われてきた手であるが、異星人であるBETAに対して使われるのは対人とは趣が違う。
侵攻してきたところを待ち構え、核やら爆弾やらで文字通り土地ごと焼き尽くし、BETAを排除する。
BETAとの戦争が始まった初期のころから使われてきた戦術で、深刻な放射能汚染と引き換えに高い成果を上げる戦術。
逆に言えば、戦術機などがあったとしても、BETAという物量と脅威に対しては最終的にそれを選ばざるを得ないということ。
「……とやかく言える立場ではないが、今を生きるために未来を質に入れるとはな」
彼らはそうするしかない、とは理解する。
同時に、もし自分達を頼ってくれていたらとも考えてしまう。
少なくとも、国土とそこでの未来を質に入れるような断腸の思いで決断することはなかっただろうに。
今ストライクルージュがいるタケミカヅチとその艦隊だけでもいれば、相当に時間稼ぎができたはずだったのに。
(ままならないものだな)
それが政治の決定であり、現地の国家の意志。
けれど、こういった苦戦---否、はっきり言えば負け戦をしている時ほど、後方国家は楽観に捕らわれ、取るべき決断を誤るのだ。
帝王学や軍政を学ぶ中で知った、旧世紀の人物「ジェイムズ・F・ダニガン」の言葉を思い出す。
ずっと負けてばかりのこの世界の住人は、知らずにそのドグマに陥っているのではと、そう思えてしまう。
(いかんな……)
だが、悲観もしていられない。
ここで判断を止めるわけにはいかないのだ、殊更に代表である自分は。
599 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/02/14(水) 22:35:19 ID:softbank126036058190.bbtec.net [91/137]
気を取り直し、上がってきている報告に目を通していく。
特にこのタケミカヅチに関わる任務---民間人の避難には気を使わなくてはならない。
「……トマチ一佐、避難民の移送状況は?」
『今のところは順調です。尤も、悪天候の影響はどうしても避けえないですな。
また、厄介なのが、シンガポールよりさらに南に逃がすように指示が出ているということです』
「シンガポールより南……つまりジャワ島やインドネシアか?
いえ、とトマチは言葉をつづけた。
『オーストラリアです。
持ち込んできた輸送機ならば届けられない距離ではないですし、タケミカヅチを中継点とすれば容易いです。
ですが、後方の島ではあっても実質的に東南アジアの最後方を指定してきたのが……』
「それは大東亜連合からの?」
『それが、国連軍からなのです』
国連軍、という言葉にカガリは顔を思わずしかめた。
国連軍とは、実質的に米国の影響下にある軍隊と言っても差し支えない。
BETAとの戦いの中において最も後方にある覇権国家の面目躍如といえばそれまでだが、強い影響力を及ぼしているのだ。
『少なくとも国連軍は、このシンガポールだけでなく、隣接する島々も陥落すると見越しているようです。
いえ、見越しているだけならばまだいい方でしょう』
つまり、と画面の向こうでトマチは暗い顔をする。
『この大規模侵攻を受け止めるためには焦土戦術もやむを得ません。
ですが---大東亜連合の立場などを危うくするためにも使われるとしたら?』
「……大東亜連合は、国連軍への編入を拒んだ東南アジア諸国の連合組織だったな?」
『はい。国土を失った国々の軍は概ね国連軍に編入されております。
同時に、
アメリカの影響の元に下るを良しとしない姿勢を貫かれて困るのはアメリカです。
そうであるがゆえに、この大規模侵攻を利用してしまえば---』
おぞましい考えだ。
カガリは直感的にそう判断した。
協力し合うふりをしながらも、その実、政治的な要求を押し通すために必要のない犠牲を---他国の国土を焼き捨てる?
「このことを大東亜連合は予測していると思うか?」
『はっきり言えばNoでしょう。あちらもアメリカや国連の支援をあてにせざるを得なかったのですから、譲歩を相当強いられたでしょうし。
やむを得ないという体裁を取り繕うかもしれませんが、最悪の場合は……』
「---わかった、一先ず他の参謀とも話し合う。
それと、大東亜連合と国連軍の動きについては追跡を続けてくれ」
『了解いたしました』
外れてほしいという願いはある。
けれども、それがどうなるかの決定権は自分たちの手にはない。
最悪とまではいかなくとも、看過できない未来が起こることにも備え、派遣軍は密かに動きを加速させていった。
600 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/02/14(水) 22:36:56 ID:softbank126036058190.bbtec.net [92/137]
以上、wiki転載はご自由に。
米国そういうことやるよね、ということでした。
次回は、シンガポールでアレコレしている間にインド方面はどうなっているかですね。
最終更新:2024年05月03日 20:35