銀河連合日本×神崎島ネタSS ネタ ゲートの先は神崎島もヤルバーンも無いようです 幕間 母と娘と
ゲート世界首脳が銀河連合世界へ渡って暫くのこと。
ゲート日本、西日本の陸上自衛隊の駐屯地を抱えたとある街のマンションで少女は目覚めた。
「どうして…私はあの時撤退戦に志願して確かに…食べられ…いえ私はこの国に生まれ…ッあああああああああああああ!!」
ブツブツと呟いていた少女は突然頭を抱えるとその身に降り掛かる痛みからベッドの上で転げ回る。
どれだけ転げ回っただろう、漸く声も消えると少女は虚ろな瞳で起き上がる。
着の身着のまま靴も履かず少女は外に出た。
裸足のまま外に出た少女は周囲を信じられないものを見た表情で固まる。
日本語の看板と溢れんばかりの人混み、裸足で着の身着のままの少女などその中に埋もれ誰も気にしない。
それはいい…それ以上に少女の瞳を惹きつけるのは皆笑顔。今日という日を祝福しているかのように…その表情には見覚えがあった。
祝祭の日の表情…少女の敬愛する彼女が生まれた日の家族の、初めて剣を拝領した日の学友の、初めての実戦を生き残った日の戦友の表情に似た…。
少女は空を見上げる。今日という日の空は記憶と同じくそんな日に似合う程憎たらしい程に青く澄んだ空。
暫し佇んだ少女の耳に遠くからキュラキュラと聞き慣れた音が響く。
「戦車の行進が始まるんだって!」「うん!急ごう!」
少女の脇を少女より幼い少女達が笑いながら走り抜ける。その瞳は明るく未来を映している。
その姿にかつてを重ねると少女たちが歩いた方へ、戦車の履帯の音がする方へと歩みを進める。
「ごめんなさい!通して下さい!」
少女は人混みを掻き分ける。時折裸足の少女にぎょっと目を開く人物もいたが気にせず人混みを縫っていく。
そして人混みを抜け視界が明るく開かれる。
「chars…。」
少女の口から遠い国の言葉が漏れる。
眼前にあるのは戦車、それも最期の記憶にある様な高い技術を使いながらも不完全な急造品ではない。
最初の記憶にあるものと似た長い期間と経験により洗練されたもの。
だが違う所も多い、些か滑らか過ぎる履帯の動きに機械式ではないでは?と少女の中の軍人の部分が囁くがそれも直ぐに霧散する。
目を見開く、視界に入るのは戦車の側面に掲げられた三色の旗。
敵への最後の突撃に掲げた摩耗し折れかけた己等の精神の様に薄汚れ色褪せ縋ったものと違う鮮やかさ。
思い出すのは今の己の始まり旗の下の記憶。死の女神の御下へ逝くまで守り抜くという誓い。
しかし自分はそこへ逝けず多くの人々を取りこぼし、多くのものを失った。
それを突き付けられる様で目に痛く下を向く。
下を向いたのはそれだけが理由ではない戦車兵らの瞳だ。
前を、未来だけを見据えた希望に満ちた光、彼女には眩しすぎた。
そうして下を向く彼女に周囲の歓声が聞こえる。
あれがフランスの司令官、指揮官だと話す声が聞こえ見上げ大きく目を見開く。
開かれた瞳に映るのは白金色、その色は周囲に敬礼を送りつつ周囲を見回すと少女と目が会った。
『Marie…?』
白金の色そのものである存在の口が確かに言葉を紡いだ瞬間、少女は駆け出していた。
それから数日、銀河連合世界フランス王国ヴェルサイユ宮殿の噴水庭園で軍服を纏った一人の若い女性が項垂れていた。
ゲート世界のフランス大統領の側近…正確には同士としてフランス王国に来訪したフランス共和国陸軍機甲部隊の若きエースであり、
軍の始めゲートフランス各界で急速にその影響力を増している指揮官派と呼ばれる派閥のトップ(自称代理)でもある。
そんな彼女が項垂れている理由であるが、
先日、仏大統領の随伴としてフランス女王マリー・アントワネットとの会食の際にとある艦娘らと遭遇し気絶してしまったのだ。
「日の当たらぬ者らの母や女神オセアンや女神ノルマンディーの実在…、
即ち女神リシュリューが存在するという証拠…!その余りの歓喜に気絶してしまうなんて…!」
まあ彼女にも色々とあるらしいがそれ以降も彼女は何やら百面相をしている。
ニヤけたり、眉をひそめるたり…それでも周囲の人間や神崎島の仏系妖精達…このフランス王国総督府の者ら平気でスルーしていく。
正直な話、リシュリューや元王妃現女王や聖女関係でフランス王国民が突飛な行動するのは今に始まったことではない。
つまる所この若い女性は王国民と見做されているのだ…史実フランスの人間なのに。
「ああ…でもあの女神リシュリューが我らが指揮官であることには…。」
963 名前:635[sage] 投稿日:2024/05/18(土) 07:21:58 ID:119-171-249-59.rev.home.ne.jp [5/8]
で、何やらマイナスな思考に至ったのか項垂れブツブツと呟き始めた。
暫しそうしていると十代のフランス人と思しき少女ら…それも軍服を着た…が何やら悲痛かつ不安そうな持ちで周囲を伺いながら女性の方に近づいて来る。
この場所は市民にも開放されており少女らがここに居ても不思議ではない。
そして彼女らは女性の存在に気づく。
「どうしました?気分でも悪くされましたか?」
少女の一人が女性が気分が悪いのかと尋ねその声に気づいた女性はハっと顔を上げ互いに顔を見るとキョトンとした表情をする。
「若いけどベルナルド参謀総長…?」
「最後に別れたあの時のままだけど…もしかして貴女達…マリーの所の…?」
「そう、貴女達は学生でありながら志願、民間人脱出の為の遅滞戦闘で…殿を努めそこから気づいたらここに…。」
「はい…気づいたらこのヴェルサイユ宮殿の森で気を失ってました…参謀総長は…?記憶通りならばブレストで…。」
「ええ、私は…最後はブレストのドックにBETAを誘引、自爆して果てたわ…。
そしてフランス共和国…別世界のフランスで転生して目覚めてFFRから共和王国経た他の転生者と共に共和国内で勢力を立ち上げていたわ。」
噴水庭園より少し離れた小さな休憩所に女性と少女達は移動した。
そして女性の口から出たフランス共和国の言葉が出ると少女らをピクリと反応、震える声を出す。
「ここは…幾人かのあの共和国からの転生者が言っていた…セクト思想に汚染されたフランスなのですか?」
恐る恐ると言った様子の少女の一人が問うその恐る恐るといった様子に女性は吹き出とその問いに答えた。
「大丈夫。向こうのフランス共和国にはもうセクトは居ないわ。
フランス共和国はそれまでの自分達の行いを悔い改め、
大統領始め転生者以外の『国民』も一丸となりこの国を統べられる女神リシュリューを信仰しているから問題ないわ。」
その返答にホッとした様子の少女らではあったが少女らは女性の言葉に反応する。
「【女神リシュリュー】…?」
「ええ…そうここは私の転生したフランス共和国ではなくゲートで繋がった先のフランス王国…。
前人未到の危機に晒されたフランスを救うために戦艦リシュリューが女神として顕現され統べられた国。
されども人の国は人の国が治めるべしという方針から人になられ、
その分御霊足る聖王妃マリー・アントワネットが女王として、聖女ジャンヌ・ダルクが枢機卿として在る国よ。」
「我らが指揮官が…。」「女神がとして顕現…。」
女性の言葉を少女たちは口の中で暫し反芻し飲み込んだ。
言葉を理解すると彼女らからポタポタと何から零れ落ち少女たちは顔を上げる。
その瞳からは涙が流れ訴えている何故、と…その気持は女性も痛いほどに分かる。
「何故あのフランスを救ってくださらなかったか…その気持は分かるけどそれを歴史も何もかも違うこの世界の女神に問うのは御門違いよ…それに。」
女性は言葉を続ける。
「これは私の考えだけれど…あのフランスのリシュリューは私達の先達が我らが指揮官として作り上げた存在…。
最後は兎も角戦火も経験せず砲火を交えないものを戦艦と呼べたのかしら?
あれはフランスの為に戦い抜いた戦艦リシュリュー(我らが指揮官)ではないのかも…。」
偶像であって信仰の対象ではなかったのではないかと疑問を呈する女性。
『ベルナルドさん何処にいらっしゃいますか?』
誰かが女性を呼ぶ声が聞こえる物陰から女性が出てくる。
十字の教えの衣服を纏う金髪の女性…その身には清廉な空気を身に纏っている。
「ああ…こちらにいらっしゃいましたか。そちらの方々は…。」
「枢機卿、こちらは…。」
「ああ、理解りますのでおっしゃらなくても結構です。一緒に来て下さい。」
枢機卿と呼ばれた女性に連れられフランス共和国軍人の女性等は宮殿…小トリアノンの庭を歩く。
そして庭を抜け王妃の村里に至る。
王妃の村里…小トリアノンの宮殿の敷地内に築かれた村里を模して作られたそれはかつては王妃の心を慰める為に使われていた。
ある種理想郷として理想的なフランスの小さな集落を模したその村里は少女や女性の心に郷愁の念を…、
今は遠くなったあの連邦共和国への望郷の念を掻き立てる。
そして女性は少女らに眼前の彼女こそが彼の聖女と説くと少女たちは驚きの表情を浮かべる。
964 名前:635[sage] 投稿日:2024/05/18(土) 07:22:31 ID:119-171-249-59.rev.home.ne.jp [6/8]
「枢機卿…そろそろ我々を呼んだ理由を聞かせて頂いても。」
「ジャンヌ…でも構いませんよ。理由ですが貴女の事を報告しましたら会いたいと急遽帰国された方がいらっしゃいますので。」
「会いたい方…?」
女性は枢機卿と呼ばれた女性の言葉に疑問の声を上げる。
「あの…聖女ジャンヌ・ダルク…ならば共和国陸軍の軍人であるベルナルド参謀…ベルナルドさんは兎も角私達は場違いではないでしょうか?」
「そうです私達は何処の誰とも分からないものなのですよ?」
少女たちも疑問を呈するがその言葉は何処か敬愛する存在に対する畏まったものだ。
それにジャンヌ・ダルクと呼ばれた女性は吹き出す。
「オリアーヌさんとアデールさん、イザベルさんやソフィーさんも関係者なのですから構いませんよ。
しかし本当にあの子から聞いた通りなのですね…フランス連邦共和国では私がNotre Commandantd…リシュリューの分霊と見られているとは…。」
「「「「!!!」」」」
名前を言い当てられ誰も知らぬはずの言葉を伝えられた少女と女性らは驚愕し目を白黒させる。
「さあお待ちですよ…ある意味では貴女達の母である女性が。」
ギィという音と共に重厚なドアが開かれ導かれるまま五人は建物へと入る。
そこには一人の女性が居た。
目が眩む眩い陽光の差す室内で彼女は古いフランス風の台所の焜炉に掛けられた鍋に向かい掬ったスープの味見をしていた。
その背は少女や女性の最初の人生の記憶にある母の様に祖母の様に…それでいてこれ程の美少女はないと言わんばかりの少女性すら同居させて。
「ああジャンヌ戻ったのね。釜のパンの方見て頂戴。お美味しい料理で出迎えてあげなくちゃ。」
振り向かず言葉を発した。結い上げた白金の髪が差し込む陽光に揺れる。
枢機卿と呼ばれた女性がはいと笑いながら応え釜に向かう。
「そういえば別の方もいらっしゃいましたよ。」
「知ってるわ。」
「相変わらずこの国の事に関しては耳が早いですね。」
「リシュリュー(あの子)を出汁にFFRの国土改造のお小遣い強請った馬鹿娘とエスト・シナで同じ釜の飯を食べた子達でしょ?」
枢機卿と呼ばれた女性は笑う。
「噂に名高い智謀大統領の戦車乗りも貴女に掛かれば馬鹿娘ですか。」
「そりゃ私は一応とはいえNotre Commandantdeでもあった訳だしね…マリーもその子達もアナイスも娘と言えば娘よ。」
二人の会話に女性達は驚きと共に頬に熱いものが流れる。
そしてふと眼前の女性がこちらを向くと金色の瞳を大きく見開く。
前世で見慣れた遊戯の絵の通りのダズル迷彩の白地に黒のラインが入ったニーソックス、同じダズル迷彩柄のチューブトップワンピース。
その女性は笑う…母の様に童女の様に。
「世界は違えど久し振り…というべきなのかしらね…オリアーヌ、アデール、イザベル、ソフィー…それからアナイスも。」
名を呼ばれ頬に熱いものを流したまま少女と女性は眼前の女性へと殺到するが女性は難なく受け止める。
二カ月後。
965 名前:635[sage] 投稿日:2024/05/18(土) 07:23:02 ID:119-171-249-59.rev.home.ne.jp [7/8]
履帯が雪を巻き上げる。
疾駆する装軌式車両の車列…それもどう見ても先頭始め幾つかは軍用装甲車両であるが側面に描かれたアスクレピオスの杖が人を害するものでないことを伝えている。
医療器具が所狭しと据え付けられた車内ではベルトで固定されながらも揺れる車両に設けられた取手に必死にしがみつく明るい茶毛の少女が車長席の少女へ叫ぶ。
「マリー!早い、早いよ!!」
「何を言ってるのよぐだ子、助けを待つ人々がまだいるのよ?これでも遅いくらいよ。」
「そうです、マスター。死は待ってはくれません。こうしている間にも患者に忍び寄っているのです!」
「ナイチンゲール女史の言うとおりよ。」
「ナイチンゲールまで…。」
ぐだ子と呼ばれた少女の反対側に座る女性はマリーと呼ばれた少女の言葉に同意する。
その姿にぐだ子と呼ばれた少女は裏切られた様な表情をしている
彼女らはゲート世界で大規模災害が発生したと聞いてボランティアとして志願し、
これまでに複数の集落を周り唯一医療資格持つ人物の指揮下でボランティア活動に従事している。
時折出る怪異は女性加え複数の同様の存在とスコップ(某仏戦艦鉄製)装備した少女たちにより撃退されている。
少女らは銃があればとぼやいていたが艦娘らともかく生身の人間は色々と問題があった。
ちなみに現在乗っている車両は少女の一人が在日銀河連合日本神崎島鎮守府軍に用意して貰ったものである。
その女性の隣に座る少年は手に持ったゼルボードとにらめっこをしていると顔を上げ車長席のマリーの方を見る。
「マリー、この先300メートル先を左に行くルートに変えれば更に10分短縮出来る!」
ナイチンゲールと呼ばれた女性を除く彼女らは同じ屋根の下で学ぶ学友であり廃校対策委員会と名付けられたサークルの仲間である。
実はもう一人いるのだが生憎とその人物は軍人でもあるので招集されこの場にはいない。
マリーは少年の言葉に応え車内に激を飛ばす。
「流石、冬の女王陛下の息子!みんなぐだ男の言葉聞いたわね?この先300を左よ!」
「「「「Oui!Maman!」」」」
マリーの言葉に装甲車を手足の様に扱うマリーと同年代の少女達が声を揃え返事をする。
マリーはその返事に満足気に頷いた。
何はともあれ彼女らは現在(いま)を生きている。
最終更新:2024年05月18日 17:27