609 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/02/23(金) 00:05:03 ID:softbank126036058190.bbtec.net [86/155]

憂鬱SRW 融合惑星 マブラヴ世界編SS「オペレーション・トライデント」7


  • C.E.世界 融合惑星 β世界 β世界主観1999年9月14日11時2分 ジャワ海海上 タケミカヅチ級空母タケミカヅチ 甲板上



 ストライクルージュに集まる情報を前に、カガリはため息を隠せない。
 現時刻は11時を回った頃。今日の未明にBETAの大侵攻が始まって既に11時間が経過していた。
適宜休憩こそ入れているものの、各国との折衝や各方面への指示、および報告を受ける立場のカガリはどうしても疲れを感じていた。
 疲労以上にカガリを苛むのは、苦戦が続いている東南アジア戦線の惨状を伝える報告であった。

 中小国連合は、国連および大東亜連合との協議の結果に基づいて、その戦力をより危険度の高いスリランカ方面へと派遣している。
 他方で、輸送戦力とその護衛機という形で東南アジア方面にも戦力を展開している。
BETAがこれまでにないほどの戦力を吐き出した結果、各方面からかなりの数の市民を逃がす必要に迫られ、数を提供できる中小国連合がそれに応じた形だ。
兎にも角にも逃がすべき数と範囲が広すぎるのだ。輸送艦や輸送機あるいはそれに準ずるものは一つでも多く必要で、それは国連軍さえ認めざるを得なかった。
前線で不利な環境で必死に兵士たちが戦っている間に、守るべき市民を安全な後方へと逃がす---単純だが重要な仕事の手を抜くわけにはいかない。

 だが、それがうまく進んでいるかと言えば、必ずしもイエスとは言い難い。
 前述の通り、台風の発生や悪天候で避難は遅れが出ている。人が移動するにも、輸送戦力が動くにも、不利な環境だからだ。
おまけにBETAの母艦級による後方浸透攻撃により、包囲されて救援が間に合わないという事態も発生している。
派遣されている戦力で必死に救助とBETAの排除を行うにしても、その能力に限界はあるのだ。
如何に中小国連合の戦力と言えども、数に限度があり、またどうしようもならない状況にぶつかることもある。

 おまけに厄介なのが、防衛戦からの撤退を行う兵力の回収であった。
 組織的に撤退できるならまだいいが、悪天候や核兵器の投入の余波、さらに遮蔽物がない環境下で光線級に攻撃されるという事態も起こっている。
カガリが戦闘開始からしばらくして、国連軍などに交渉をして、要救助者の捜索と救助を行えるようにしていなければ、多くの兵士が死を待つしかなったのだ。

(既に攻勢を凌ぎきって防衛線の構築などをしているスリランカ・インド方面とは真逆の状況……攻勢においても介入が認められれば良いのだが)

 何度目かの呟きを胸中でカガリは作る。
 一応介入はしているし、成果を出しているのも事実。
 しかし、それは後方支援に限定され、前線で将兵や市民が死んでいるのを座視せざるを得ない状況のまま。
国家間の協議の結果であるので、地球連合としてはそれを受け入れるしかないのだ。
タケミカヅチ他東南アジア方面の戦力が即応体制でいるのも、要望さえあれば、という連合の意志の表れである。
 だが、国連軍---つまるところ米国の意志が働いている関係上、それはできていない。
軍事は民衆の意志に、すなわち政治のコントロール下に置かれ、独断などは許されない。
当たり前であり普遍的なそれが、今ではとてももどかしい。なまじかインド方面で犠牲を抑えて失地奪還をしているだけになおのこと。
 政治のことが絡むのは承知の上だが、カガリとしてはたった一言が欲しいのだ。
その一言が出るまでの間にも、多くの兵士が死に、国土が失われていくのだから。

(信じて待つ、それしかない)

 言い聞かせる。そうでないと、暴走してしまいそうだ。
 大東亜連合や国連軍への連絡や提案は続行しているのだから、と。

610 名前:ナイ神父Mk-2[sage] 投稿日:2024/02/23(金) 00:05:06 ID:p530230-ipngn801akita.akita.ocn.ne.jp [144/205]
608
最後まで笑って死ぬ最後の大隊タイプですゾ

611 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/02/23(金) 00:06:34 ID:softbank126036058190.bbtec.net [87/155]

  • ほぼ同刻 カリマンタン島 国連太平洋方面第12軍 ボルネオ基地


 シンガポール基地から退避した国連軍、特にその首脳部はボルネオ基地という後方までたどり着いていた。
より前線に近い基地も存在しているのだが、そちらは既に陥落することも前提に退避などが始まっている。
そこにあるのは時間稼ぎを担う部隊とその部隊の脱出路、そしてBETAを排除するための地雷原や焦土戦術に備えた核兵器などばかりである。
 そもそも、このカリマンタン島にも既にBETAの集団が上陸しており、交戦が開始されているのだ。
今はまだ北西の沿岸地域で足止めできているのだが、何時までも支えられるとはだれも考えていない。
 とはいえ、攻勢が始まってからほぼ12時間、戦闘が開始されてから10時間が過ぎて、ようやく得られた安全地帯なのだ。
それがいつ何時崩壊するかはわからないとしても、広すぎる防衛範囲の状況を確認するなどの余裕はあると、誰もが判断していた。

 同時にこの安全地帯で得られた時間は戦力の結集及び確認、再編などに当てられることになった。
これは国連軍と大東亜連合軍の両方に共通していた問題であったが、大規模攻勢を受けたことで多くの戦力が失われ、大わらわだったのだ。
加えて、防衛戦で犠牲が出たのは確かだとしても、どこの部隊でどれだけの損耗が発生し、どれだけ撤退できたかなどの情報の整理が必要だった。
 組織的に撤収や後退ができたところはさほど多くはない。防衛戦が崩壊し、救援などもできず焦土戦術を実行せざるを得なかった場所は多い。
KIAなのかMIAなのか、はたまた所在が確認できないだけで生きているのか---それさえも曖昧なのだ。
CPやHQのあったシンガポール基地も大慌てで引き払った関係上、どうしても情報の欠落があった。

 また、兵科によっても帰還率というか撤退成功率もかなり違っていた。
 絶望的な数値だったのは機甲戦力だった。無理もない、BETAの相手をする際に移動速度などの面で劣っているのだから。
特に突撃級との追いかけっこになったら、それは死を意味するも同然だし、運がよくとも今度は戦車級や兵士級という敵が存在する。
いずれにせよ、絶望という言葉以外が当てはまらない、途方もない犠牲を強いられた。
 助かっているのが多いのは衛士だ。これは戦術機が飛行や跳躍が可能であり、BETAと戦いながら逃げることができたのが大きい。
脱出地点が指定され、そこまでたどり着ければ戦術機を捨てれば生身で回収を受けることができたのが大きい。
とはいえ、戦術機が最前線で戦っている関係上、助かっているとはいってもその数は決して多くはないのも現実だった。

 さらに問題は付きまとった。生き残っている兵士達を糾合・再編して戦力化しようとしても兵器が足りないということだ。
 機甲戦力を例にとると、戦車などは自力で走行はできても、海を超えることは不可能なのだ。
組織的に撤退できたところでも、防衛線に戦車や自走砲などを置き去りにして生身の状態で船などで脱出したケースが多い。
戦車を陸から海の上の船に移して輸送するというのは途方もない苦労なのだ。当然のことではあったが、とても痛い話である。
そもそもの時点で大攻勢を受けて大急ぎで前線に送ったので、後方にそもそもない。
そんなわけで、兵士はいても逃げてきた後方に十分な予備戦力があるわけではないのだ。
生身で戦え?ハハッ、ナイスジョーク。歩兵で何とか出来たらそこまで苦労しない。
闘士級や歩兵級の時点で命がけなのだ、戦車級が来た時点で死以外はない。

 戦術機もまた同じであった。
 BETAとの戦いにおける主戦力ということもあり、後方の機体も人員共々前線に急ぎで輸送されたので、後方の予備機の数は少なかった。
稼働機が全くの0ということはないのだが、それでも、足りないものは足りなかった。
 戦術機自体もそうだが、戦術機の武装や弾薬なども備蓄が怪しいのも問題であった。
こちらも最前線に向けて送り出され、形はどうあれ消費され、戻ることはない。後方基地に備蓄されている分もあるにはあるが、足りるかどうか。
 こんな状況---補充も再編もおぼつかないのに、未だに押し寄せてくるBETAへと立ち向かえ?冗談ではない。
それが命からがら生き延びた衛士たちの総意であった。

 海軍はまだマシだった。海上を移動するならば光線級以外のBETAの追撃を受けずに退避ができるのだから、ほぼ全艦艇が離脱してきた。
とはいえ、海軍艦艇や潜水艦などは戦線を支えるためにその弾薬などをほぼ使い果たしてしまっている状態で、補給が必須であった。
そして、その補給作業にはかなり時間を要するし、専用の設備が必要になる。
となれば、海軍が戦力として動き出せるのは相当時間が経過した後、ということになる。

612 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/02/23(金) 00:07:52 ID:softbank126036058190.bbtec.net [88/155]

「改めてみれば……絶望的だな」
「……うむ」

 基地の司令部で額を突き合わせる国連軍の将官や指揮官などは一様に暗い顔---否、もはや土気色だ。
 組織的に抵抗ができているのが奇跡的な状況と言っても過言ではない。
一部戦線ではそれができていないところもあるという情報が入っていることも考慮すると、それが拡大するのは時間の問題だ。

「戦力は枯渇が近い---モノとしても人も足りない。米軍は何と言っている?」
「できる限りは出すとは言っていますが、届けられるのが早いかBETAの侵攻が早いかの瀬戸際でしょう」
「……焦土化を前提に作戦を組み立てなければならんとはな」

 国連軍の将兵には、国土を抵抗の末に失った者が多い。
 そうであるがゆえに、国家の基礎たる国土を失わせて戦うことには心理的に抵抗があった。
そうしなければならないというのは理解していて、そうするしかないと割り切ろうとしても、早々にできるものではない。

「ここもどこまで持つかわからんな」
アメリカからは、戦線維持に固執せず、オーストラリアまで後退して戦力を結集して防衛するという案も来ているが……」
「その組織的後退が難しいのだ。それしかないからと味方殺しをしろなど、受け入れられるものではない!」

 それに、と将官の一人が発言した。

「焦土戦術にしても、実行性が危ぶまれてきている」
「どういうことだ?」
「まさか……」
「……既に使える核兵器が枯渇寸前という疑惑が出ている。
 クラ海峡はまだいい。あれは抜かれることも前提であったからな。
 だが、他の場所は?あとから設置したり、飽和攻撃で叩きつけるなどしている分、相当に消費している」
「つまり、焦土戦術が不徹底になると?」
「後方に下がるにしても、数の漸減は必須だ。
 そうでなければ、例えオーストラリアに戦力を結集したところで、押しつぶされるのが目に見えている」

 誰もが押し黙ってしまう。
 最後の手段であり、こちらの犠牲を鑑みない攻撃であるが、核兵器の投入は有効ではあるのだ。
放射能汚染や友軍を巻き込む恐れがあるとしても、BETAの大群でも消し飛ばすことができる手段なのには変わりがない。
 だが、問題なのはその核兵器があるかどうかということだ。モノがなければ、焦土戦術も絵に描いた餅にすぎない。
S-11などの代用となる兵器がないわけではないが、それだって数に限りがある。
通常の火薬をかき集めたところで核に劣るのは言うまでもないことだ。

「……地球連合軍からの派遣軍はどうでしょうか?
 スリランカ方面に派遣されていますが、こちらにも残存戦力がいるとのことですが」
「大東亜連合が介入を認めていないからな。国連司令本部からも、同様だ。
 彼らからは何度も具申はあるのだが……」
「この状況で戦力を遊ばせるなんて、正気ですか!」

 参謀の一人が叫ぶが、誰もが言い返せない。
 国連軍とは名前とお題目といいとはいえ、結局は政治の傀儡であるのに変わりはない。
 即ちもっとも政治力と影響力のあるアメリカ合衆国の都合と意思が優先される、国連という国家の垣根を超える組織にあるまじき状態なのだ。

「彼らの力が未知数なのはありますが、それでもある戦力は活用すべきでしょうに」
「仕方がない……我々はそういう軍隊なのだからな」

613 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/02/23(金) 00:08:49 ID:softbank126036058190.bbtec.net [89/155]

 未知数だから、と言い訳しているが、実のところ力の一端が既に証明されているのは確かだ。
各方面での防衛戦を行い、さらに焦土戦術が実行できているのは、実は地球連合軍のお陰である。
 具体的に言えば、後方へと民間人やら非戦闘要員やら輸送しているのは彼らなのだ。
民間人などは戦闘や戦争においてはお荷物でしかない。巻き込むのは本末転倒だし、逃がすのだって簡単ではない。
その簡単ではない避難などを取り仕切って実行してくれているのは非常に助かっているのだ。
人がいなくなっていると分かっているから惜しみなく焦土戦術やら地雷の敷設による時間稼ぎが成立しているのである。
 また、彼らの手によって要救助者が集められているのも大きい。この後方の基地へと定期的に輸送機がやってきて、兵士たちを降ろしていくのだ。
戦線で孤立したり、撤退中に移動手段を失ったり、あるいは死にかけたり---理由はあれども、彼らのお陰で命が救われている。
BETAの侵攻を受けている中においてそんな救助活動をできるというのは、下手にBETAと戦うよりもよほど苦労することなのだ。
 上からの指示で無視せざるを得ないとはいえ、そんな戦力の誘惑に現場では耐え切れそうになかったのだった。

「……そういえば、大東亜連合軍は?」

 将校の一人が言い出し、誰もがふと顔をあげて確認する。
 国連軍と大東亜連合軍は指揮系統は別だが、決して無関係ではない。むしろ積極的に協力しなくてはならない。
例え大東亜連合が国連軍への編入を拒んだ国々による軍事的・政治的な同盟であるとはいえ、今回はそうも言っていられないのだから。
 見渡してみれば、連絡役の将校はいるのだが、将官などは見当たらない。

「どこへ?」
「私もわかりません……なにやら招集があった、としか伝言はないままで」

 そして、その連絡役も困惑していた。
 恐らくは大東亜連合軍に割り当てられた施設に行ったのだろうと予想はつく。
 だが、この状況下で何か打開策があるというのだろうか?

「……まさか地球連合に救援を求めたのか?」
「ありうるが……」

 そこで、彼らはふと気が付いた。
 そういえば、地球連合軍はスリランカ方面の防衛に参加していたではないかと。

「こちらはこちらで手一杯で確認が遅れていたな。
 スリランカのコロンボ基地との通信をしてみるか」
「あちらはボパールハイヴからの大規模侵攻を受けたのだ、無事であるとは思えんが……」

 同時に諦めもあった。あちらはよりハイヴに近く、大規模侵攻では防衛しきれないと判断されたのだ。
 地球連合軍がそちらに派遣されたのも、半ば当てつけに近いものであった。
 そこに米国の意志が大きく絡んでいるのは言うまでもないことであったが。

「通信、繋がりました」
「結構、こちらに回してくれ」
「コロンボ基地は健在だったのか……」

 驚きとともに、将校や将官らは情勢を確認すべく、モニターに注視する。
 彼らの想定以上のことが起こっているとは、未だに知らないままに。

614 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/02/23(金) 00:10:43 ID:softbank126036058190.bbtec.net [90/155]
以上、wiki転載はご自由に。
もうちょい続きそうなのですが、区切りがいいのでいったんここまで。

次の話までの間に設定を挟む予定ですので悪しからず。
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最終更新:2024年05月19日 21:34