875 :earth:2012/03/15(木) 22:18:48
 『次元大戦』

 西暦1950年。
 某料亭で開かれた夢幻会の会合では『ゲート』の向こうの世界の最新の様子が報告された。

「『向こう』の朝鮮半島は完全に共産主義者の手に落ち、欧州もイギリスを除いて赤化。
 アメリカ合衆国軍は慌てて引き上げていますが、何もかも遅いでしょう」

 情報局局長の言葉に出席者達は安堵のため息を漏らした。

「やれやれ、漸く引き上げてくれましたか。全く連中との戦いでどれだけ無駄な戦費と人命が費やされたことか」

 辻が忌々しそうに呟いた言葉に誰もが同意した。
 西暦1947年、この年に小笠原沖、フロリダ沖、バルト海に出現した黒雲は、西暦1947年の史実世界と繋がっていた。
 日本帝国、いや夢幻会としては面倒ごとはお断りなので穏便に付き合おうとしたのだが、向こうの世界の合衆国は頷かなかった。
 彼らはアメリカ合衆国の滅んだ北米の様子を知ると、十分な用意をした上でアメリカの再建を掲げて乗り込んできたのだ。勿論の
ことだが列強がアメリカの再建など認めるわけがなく日独伊仏連合軍と史実米軍は北米、太平洋、北海で激突することになった。
 世界最強の名に相応しい質と量をもって侵攻してきた米軍と戦うのは、日本軍をもってしても容易ではなかった。日本本土侵攻こそ
頓挫させたものの空母赤城を筆頭に少なからざる数の艦船と航空機を喪失。
 さらに米軍の勢いに勇気付けられたのかカリフォルニア共和国では白人至上主義者のクーデターが発生。マッカーサーを首班とした
臨時政府が発足し、日本は多大な犠牲の末にパナマ運河と西海岸からたたき出されることになった。

「あの恩知らず共が!」

 日本国内では誰もが激怒した。
 そして帝国は5年ぶりに総力戦体制に移行。次元を跨いだ全面戦争『次元大戦』へ突入したのだ。
 建造を前倒しした戦艦大和、武蔵を筆頭にした連合艦隊はハワイ奪還を目指すアメリカ・カリフォルニア合同艦隊と決戦を行い
壮大な大海戦の末にこれを撃退した。
 アイオワ級戦艦VS大和型戦艦という夢のドリームマッチも開かれたが、宴の後始末で海軍上層部は頭痛を覚えた。

「津波が無かったら、どうなっていたことか」

 戦果と被害の報告を聞いて吐き出した嶋田の言葉に誰もが頷いたのだから、日本帝国がどれだけ衝撃を受けたか分かる。
 日本としてはそのまま恩知らずの裏切り者であるカリフォルニア共和国に鉄槌を下そうと考えたが、さすがに北米大陸に
そのまま遠征するのは難しく睨みあいとなった。

「……欧州からの救援要請を断れば、もっと負担は軽かったのですが」

 嶋田の言葉に何人かが頷く。

876 :earth:2012/03/15(木) 22:19:39
 北海から現れた米軍の攻勢によってドイツは窮地に立たされていた。さらにイギリスでは新たな戦争の勃発による
負担の増加から遂に革命が勃発。それに米軍が介入したことでイギリス政府と王室は本土を放棄し脱出することを余儀なく
された。ドイツ軍や仇敵であるフランス軍の支援の下、彼らは欧州へ亡命した。しかしそこで戦争は終らず、英本土に展開
した米軍と欧州枢軸軍が激しい戦いを繰り広げることになったのだ。
 こうして戦火が拡大するに及び、日英独仏伊などの列強は対米同盟を締結し同盟軍を編成することになった。 
そしてその一環として日本海軍は第二次遣欧艦隊を編成し、ドイツ軍や自由英軍と共に幾多の激戦を戦った。

「まぁ仕方ないでしょう。米帝に欧州と北米を押さえられたら大変でしたから。それにこれで日独の関係は改善されました」

 近衛がそう宥めるが、辻は不快な顔のままだ。

「アメリカを追い出したとしても、こちらに残されたのは革命で荒れ果てたイギリス本土、再度の戦乱で破壊された北米。
 そして核攻撃まで受けたドイツと。全く、どこまで迷惑なことです」
「歴史を振り返ればよくあったことですが、やられるほうは堪ったものではないですね」

 嶋田の言葉に誰もが頷いた。

「尤も連中は、自業自得と言いますか、相応の報いを受けることになりましたが」

 米軍は日本軍と枢軸軍を相手にし、北米で合衆国(?)再建を図っていた。
 しかしそれゆえに彼らは本来は元の世界に向けるはずの力を浪費した。そしてその隙を見逃すほど共産主義者は耄碌して
いなかった。
 朝鮮半島で、欧州で再び戦端は開かれた。加えてアメリカ風邪の隔離に失敗したのか、小規模であるが史実世界でも
アメリカ風邪が米本土で被害を出しており、アメリカは戦争どころではなくなった。

「それでこの後は?」
「裏切り者のカリフォルニア共和国を滅ぼします。容赦は不要でしょう。それにあの混乱で西海岸でも汚染が広まっている
 という話もあります」
「西海岸で水爆実験ですか」
「ええ。もう甘い顔をする必要もありません。西海岸を完全に破壊します。何も残す必要は無いでしょう」

 嶋田の言葉に反対意見はなかった。
 後日、カリフォルニアはアラスカから発射された多数の核弾道弾によって耕され、その後はハワイから発進した超重爆に
よって水爆を投下されて完全に壊滅することになった。
 こうして米国の(心理的)後継者は完全に滅亡し、アメリカという国家の系譜は完全に断たれることになる。

877 :earth:2012/03/15(木) 22:20:41
 カリフォルニア共和国の滅亡、イギリス革命政府の瓦解によって、フロリダを除いてこちらの世界での橋頭堡を失い
さらに自分の世界の朝鮮半島と欧州の赤化という事態を受けて史実世界のアメリカ合衆国は同盟軍に対して講和を申し込む
ことになった。
 しかし本土を追われたり、本土に核攻撃まで受けることになった英独は怒り心頭であり、生半可な条件で頷くわけがなかった。
だがこのまま向こうの米軍と戦い続ければ、雲の向こうの世界が全て赤化し、共産主義者とゲートを跨いだ第二次次元大戦をする
ことになることも彼らは理解していた。よって米国から相応の賠償を勝ち取ると矛を収めることになる。

「まぁそれで終っていれば良かったんだが……」

 戦艦大和の艦上で派遣艦隊司令長官に任じられた南雲大将はため息を漏らした。

「まさか我々が共産主義国家との最前線になった史実日本を支援することになるとは……」

 次元大戦とアメリカ風邪によって弱体化したアメリカは海外に大規模な軍を派遣できなくなった。
 このため史実世界の日本や英国は危機的状態に陥ったのだ。何せ目と鼻の先には共産国家が居座っている。そして両国とも
共産国家と戦う力は無い。そしてこちらの日本と欧州枢軸もお隣が共産化するのは好ましくなかった。
 こうして紆余曲折の末、日本と欧州枢軸は抑止力として軍を日本本土と英本土に送り込むことになったのだ。

「在日日本帝国軍か……何のブラックジョークだ」

 自衛隊ではなくいきなり国防軍として再建された日本軍の出迎えを見ながら、南雲は嘆息した。

「やれやれ、それにしても向こうの嶋田さんに会ったらどんな顔をすればいいのやら」

 かくして両方の世界の交流が始まる。

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最終更新:2012年03月17日 16:26