282:戦車の人:2024/01/19(金) 23:30:45 HOST:61-24-203-31.rev.home.ne.jp
では、投下を開始いたします。
1.概要
世界大戦終結後のワシントン海軍軍縮条約は基本、大型艦を中心とした海軍軍備の縮小を一義としたものである。
一方で旧式戦艦2隻を廃艦とするのであれば代艦1隻の建造も許されており、一切の新型艦建造を禁じたものでもなかった。
これは同条約の音頭を取った日米英が大量の大型戦艦を抱え込み、早急な主力艦軍備の縮小再構築を望んだ影響も大きい。
日本海軍においては満州戦争からその後にかけて天城型、長門型、早池峰型と24隻もの大型高速戦艦を整備していた。
その性能は今なお一級品であったが、当然24隻も戦艦の維持費は軽いものではなく、海軍部内でさえ問題視されていた。
また仮想敵と呼ぶべき存在が当面消滅したこと。寧ろ同盟国、友好国の米英の新型戦艦への牽制も必要となりつつあった。
米海軍は速度こそ26ノットに留まるが、SHSを用いる47口径18インチ砲12門を備える新型戦艦多数を整備しつつあったこと。
英海軍も次世代戦艦向けの18インチ主砲の開発を終えつつあり、代艦条項を用い新型戦艦整備が確実視されていた。
同盟国、友好国に牽制とは奇妙にも見えるが、傍目に分かりやすい戦艦兵力で遜色を見ることは、外交面でも妥当とは言えない。
つまり後に大和型と呼ばれる新型戦艦は文字通り、砲艦外交と抑止力のために胎動を開始し、国会でも議論の俎上に登ったのだ。
なお意外なようであるが建造数は最大12隻まで許されているが、海軍側からして当初より8隻で十分であると主張。
議会側も新時代の経済成長の阻害を抑えやすい建造数に好意を示し、新型戦艦8隻の建造自体はスムーズに議決された。
このあたりは周防型戦艦、伊吹型巡洋戦艦の代艦として建造された紀伊型戦艦8隻が、今なお有力な存在であったことも大きい。
46サンチ砲9門と51サンチ徹甲弾にさえ耐えるバイタルパート、主機換装により30ノットを発揮する歴とした重高速戦艦である。
紀伊型8隻と新型艦8隻の16隻も揃えば、一挙に整備の進んだ空母、ミサイル駆逐艦、潜水艦、航空機と合わせれば十分以上である。
かくして世界大戦後最初の戦艦という意味合いで「一号艦」型とされた新型戦艦は、ここで産声をあげることになる。
以下においては一号艦型-大和型戦艦のコンセプト、建造技術、性能面での特徴などについて述べてゆきたい。
なお余談であるが廃艦となった24隻の戦艦は、一定数がオスマン帝国、オーストリアハンガリー帝国等の友好国に譲渡されている。
283:戦車の人:2024/01/19(金) 23:31:27 HOST:61-24-203-31.rev.home.ne.jp
2.設計目標
さて8隻の新型戦艦建造枠を議会より承認された帝国海軍であるが、大枠のコンセプトについては計画段階より早く決定された。
今後20年で米英が建造するであろう新型戦艦を優越、圧倒する性能をもって、それ以外の欧州諸国等にも抑止力とすること。
新型空母、ミサイル駆逐艦等と連携可能な良好な指揮通信能力を持つこと。それらを枯れた堅実な技術で構築することにあった。
幸いにして紀伊型戦艦の段階で8万トンを超える、対51サンチ砲防御と30ノットの快速を併せ持つ高速戦艦のノウハウは獲得されている。
それに伴う高品質な均質圧延装甲の効率的な配置、信頼性に優れる高圧機械類なども、民間主体で低コストに達成している。
指揮通信をはじめとする電子装備も、折しも最新鋭の秋月型駆逐艦の建造縮小に伴い、各種電子装備も余裕をもって確保できた。
最も難航した項目は戦艦の一義というべき火力であり、どのような火力投射手段で米英を始めとする他国新型戦艦を圧倒するのか。
この点について艦政本部と民間企業各社で相当回数の議論が交わされ、俎上に載せられた試案は100を超えると言われている。
艦政本部で研究されていた56サンチ砲9門を備える15万トン級戦艦から、主砲を半ば切り捨てたミサイル戦艦案まで多岐にわたった。
だが最終的には予算と常識が勝利し、当面最も火力と防御力に優れる米海軍のモンタナ級を、その双方で優越するレベルに策定。
火力発揮についても紀伊型の45口径46サンチ砲の拡大改良型で、既に試作砲が試験を終えていた45口径51サンチ砲が選ばれた。
必要十分な希少金属を適用し複層水圧自緊で軽量にまとめ、過剰性能を抑えつつも2トンの徹甲弾を射撃できる巨砲である。
やはり紀伊型で運用実績のある、容積を必要十分にとった3連装砲塔を前後甲板に各2基。合計4基を背負式で搭載することとした。
幸いにして電子装備の優越や機動部隊との連携を考慮すれば、命中速度と破壊効率でも十分以上のものが期待できた。
またやはり前後甲板合計128セルの垂直発射装置の搭載により、砲戦以前の段階での戦闘でも、かなりの優位の獲得を企図している。
そしてこれほどの大火力に対して必要十分な対応防御、最大30ノット前後の速度、高度な電子装備の搭載、長大な航続距離の付与。
このような戦闘艤装、要素技術を適用した船体予想図は330メートル前後と、紀伊型と比較しても空前絶後のものであった。
当然艦政本部と民間企業双方は驚きはしたが、恐れはしなかった。技術とコストで十分対応可能で、タンカー等では珍しくないサイズでもあった。
284:戦車の人:2024/01/19(金) 23:32:18 HOST:61-24-203-31.rev.home.ne.jp
3.主砲火力
米英が次々と完成させるであろう18インチ砲を多数搭載する新型戦艦を圧倒、優越するために大和型の主砲火力は空前絶後となった。
既存の46サンチ砲を原型に拡大改良を行った45口径51サンチ主砲を、3連装4基12門と搭載数でも紀伊型を上回る形で備えている。
これはSHSを用いる47口径18インチ砲12門を備える米海軍のモンタナ級を明確に意識しており、天城型巡洋戦艦以来の主砲配置である。
砲塔1基の重量は3000トンを軽々と超え、装填や操砲動作は電気油圧機械により大きく自動化され、砲塔あたりの兵員数も省力化された。
主たる弾薬は低抵抗被帽付徹甲弾であり弾頭重量2000キロ、初速毎秒770メートルに達し、実用有効射程も30キロを軽々と超えた。
発射速度も1門あたり毎分2発を長時間維持可能で、SHSに比べ無理のない。大口径の恩恵を活用した砲弾故、弾道特性も素直である。
モンタナ級の18インチSHSが1750キロ前後であり、実用有効射程でも優越しており、まず向こう10年単位で不足のない主砲火力と言える。
なお徹甲弾以外の弾薬としては対地艦砲射撃用に1.5トンの低抵抗被帽付通常弾、多弾頭型対地榴弾等が準備されている。
そして兵器として無視できない要素として、クロムメッキ処置と無理のない弾薬採用により、砲身寿命が400発と長いことも特筆に値する。
これら51サンチ3連装砲塔4基の旋回、俯仰、装填などの操砲は水圧機械を廃し電気式、電気油圧式で全て動力が賄われている。
そのため旋回速度毎秒8度、俯仰速度毎秒20度、平均装填速度25-30秒と、主砲口径と砲塔規模を考えれば迅速である。
このあたりのノウハウは紀伊型戦艦建造で既に確立されたもので、その46サンチ主砲の拡大改良型であることが性能からも伺える。
射撃管制は電気式2軸安定化が図られた電探・電子光学統合型の射撃方位盤2基を、前鐘楼及び後鐘楼トップに有している。
後述する戦闘指揮システムの一環として統合化されており、自らの持つ無人偵察機や僚艦とのデータリンク射撃も当然可能である。
また仮にこれら方位盤が破壊された場合でも、127ミリ速射砲やSAM誘導用に用いる射撃指揮装置がバックアップとして機能する。
僚艦や航空機との良好なデータリンクを形成し、練度十分という条件がつくが、射程30-35キロでの平均命中率は15%を超える。
大雑把にいえば主砲斉発1回あたりに1-2発の51サンチ徹甲弾が敵艦に命中する計算で、破壊効率は紀伊型を大きく凌駕している。
計算上は10分程度でモンタナ級を大破に追い込むことが可能で、かような火力を求めるほどモンタナ級を高く評価していたとも言える。
285:戦車の人:2024/01/19(金) 23:33:32 HOST:61-24-203-31.rev.home.ne.jp
4.速射砲及び誘導武器等
主砲以外の砲熕兵装としては両舷に54口径127ミリ速射砲12門、62口径76ミリ速射砲8門を、主に対空用として備えている。
何れも駆逐艦、巡防艦に多用されている日本製鋼所開発の無人自動砲で、友好国でも多数が運用されている傑作砲である。
中近距離防空を担う砲熕兵装で前者は127ミリ砲弾を毎分45発、後者は76ミリ砲弾を毎分90発で射撃する能力を有する。
弾薬は通常弾、榴弾などが準備され、対艦ミサイルのような高速目標に備え調整破片近接信管も常備されている。
当然ではあるがこれら速射砲は全てレーダー連動デジタルFCSによる、自動追尾照準に基づき射撃を行う。
特に遷音速目標に対する即応性に優れており、また沿岸部の魚雷艇など小型水上目標に対する阻止射撃にも用いられる。
さらなる至近目標に対しては戦闘機用の20ミリ他銃身機関砲を用い、追尾・捜索レーダ及び計算機を一体化した近接防御火器。
通称CIWSがやはり両舷各部に8基備えられている。最大発射速度は毎分4500発で、人の手を介さない全自動射撃も可能である。
76ミリ砲でも対応の難しい懐に近づかれた場合の最後の防御手段で、有効射程は1.5キロ程度だが即応性と命中精度に優れる。
そして紀伊型が甲板上に各種誘導弾を箱型発射機で追加したのに対し、大和型は当初より各種誘導弾を垂直発射装置に収める。
艦首・艦尾甲板に各64セルの垂直発射装置には間欠指令式の艦対空誘導弾、指令誘導式の垂直発射対潜ロケット弾。
対地・対水上遠距離攻撃用の巡航誘導弾等が装填され、任務に応じ適宜搭載誘導弾の割合の変更も可能である。
間欠誘導式の艦対空誘導弾は秋月型駆逐艦で運用されるものと同一で、専用防空艦程ではないが複数目標同時対処能力を有する。
対潜ロケット弾は弾頭部に対潜誘導魚雷を搭載の上で、最大20キロ以上の指定水域へ誘導、着水の上で魚雷攻撃を行う。
そして最も高価な巡航誘導弾は1.5トンと戦艦砲弾並のサイズで、地形照合と慣性航法に基づき1500キロ先の目標を攻撃可能である。
まことに帝国海軍の戦闘艦らしく両舷には3連装短魚雷発射管が各1基備わり、対潜魚雷と自走式デコイ双方の発射に対応している。
主砲から他銃身機関砲まで充実した砲熕兵装もさることながら、日本戦艦として最初に誘導武器搭載に最適化を行った点も大きな特徴である。
なお竣工から程なくして海賊船、自爆ボート攻撃などの対抗手段として、多数の25ミリ機関砲と12.7ミリ機関銃を増設搭載している。
286:戦車の人:2024/01/19(金) 23:34:14 HOST:61-24-203-31.rev.home.ne.jp
5.防御構造
基本的な防御構造は前型である大和型戦艦で完成を見た傾斜、多重装甲の洗練。船底部の多層化構造などを踏襲している。
また均質圧延装甲-陸軍式にいえば均質防弾鋼板-を装甲に用い、主要部には高分子繊維製の内張を適用する点も変わりはない。
但し用いられる均質圧延装甲や高分子繊維の強度、品質は紀伊型のそれに比べて一世代以上、技術的に進歩したものである。
特に前者の防御効率は2割以上も向上しており、かの世界大戦に始まる好景気に支えられた基礎工業力と技術力の進歩を伺わせる。
全ての参戦国に文字通り鉛筆から空母まで売りさばき、生み出された莫大な富を投じた工業インフラと基礎技術研究はそれほどのものとなった。
主装甲帯で550ミリ/傾斜15度、水平主要部300ミリ、主砲防盾700ミリの均質圧延装甲は、既存装甲に換算して2割増近い厚みに匹敵する。
陸軍戦闘車両や歩兵用防弾チョッキにも用いられる高分子繊維も、やはり化学技術の長足の進歩により靭性の面で大幅な改善を達成。
仮に18インチ級SHS複数の同時直撃、大型超音速対艦ミサイル被弾に際しても、艦内に対する破片飛散の最小化に努めている。
対水雷防御は艦底部は重油層を挟んだ多層構造を、舷側にやはり重油タンクを兼ねる大型バルジで舷側、艦艇直下双方に備えている。
51サンチ徹甲弾に対しても過剰と言える防御力は、近い将来確実に他国でも実用化される対艦ミサイル。それも大型ミサイルを強く想定している。
既に世界大戦当時、無誘導方式であれば各種ロケット弾は湯水の如く使われており、自然と技術も洗練されたものとなっていった。
それを対艦攻撃に、特に海軍力に乏しいドイツ等が転用することは確実視され、大和型はそれを正面から吸引し、空母への被害抑制も企図されていた。
広大な低抵抗バルジや多層構造艦底部も同様で、主力艦に乏しい海軍でも整備しやすい潜水艦と大型魚雷を強く意識している。
持たざる海軍だからこそリソースを集中された大型対艦兵器への対抗も、米英などの新型戦艦と同様に大和型の主たる仮想敵に含まれていた。
また最悪の事態であるが原子兵器を敵が使用した場合、艦内気圧変更を含む気密防御と、散水装置による除染能力も有している。
そしてこれら装甲防御を突破された場合のダメージコントロールも怠りはなく、注排水装置や化学消火装置は電路と合わせ冗長化し全艦に搭載。
ダメージコントロールにあたる応急要員も防火服と自給式呼吸器を標準で備え、艦内火災状況でも長時間、応急作業に当たることを可能としている。
言うまでもなく艦内の可燃物は極力排除され、塗料も難燃性の物を用いるなど、帝国海軍の戦闘艦らしい生残性追求が施されている。
287:戦車の人:2024/01/19(金) 23:35:00 HOST:61-24-203-31.rev.home.ne.jp
6.船体構造
これほどの戦闘艤装を備える戦艦であり、当然ではあるが船体も比例して巨大化する。その点は当時最新のスパコンさえ導入し計算が行われた。
船体全幅43メートル、船体全長330メートル、基準排水量118000トン。有り体に言えば紀伊型戦艦を一回りほども大型化した船体規模である。
だが上に述べた通り世界大戦の特需で大いに儲け、戦後も仏独の復興特需で続く好景気により造船業界も、世代をまたぐ技術進歩を果たした。
今や大日本帝国の有するコンテナ船、タンカー、バルカー、そしてついに原子炉を備えた新型空母などで、全長300メートル以上は当然である。
つまり官民を問わずそのような大型艦船建造に十分対応できる能力を、造船業を含む帝国の産業界は身につけていた。
それは大手造船企業や製鉄業だけでなく、中小製造業でもその種の大型艦船の艤装をモジュール単位で製造し、納品可能なほどに。
故に大和型の設計と建造は慎重に行われたが、そこに恐れはなく、着々とこれまで培った技術と経験から最適解を作り出す工程であった。
高効率な特殊鋼の低コスト化も幸いし、船体規模はほぼスパコンを用いた艦政本部の試算と変わらず、ブロック工法も円滑に行うことが出来た。
何より幸いであったのは新型空母や民間大型船舶向けを除いても、大和型を建造可能な造船所、工廠が8箇所以上存在したことであろう。
これにより建造に必要なブロックモジュール、鋼材、装甲板などの一括調達。そしてやはりコンピュータを多用した工程管理によるスケールメリットを達成。
戦艦としては空前絶後のサイズでありながら、各地の造船所や工廠でほぼ同時の建造が行えたのである。
また平時故に建造スケジュールにはそれなりの余裕が設けられ、建造関連職員に法定休日を付与し、労働及び建造効率を高く保ったことも特筆に値する。
かくして1920年代に相次いで各地の造船所、工廠で進水を果たした大和型であるが、生産性を意識しつつもその船型は、紀伊型譲りの優美なものであった。
大和坂と呼ばれる、前部後部の主砲から艦橋に続く緩やかな傾斜甲板。機能的な塔型前鐘楼とそれに続くマックと第二煙突、そして後鐘楼。
喫水線下もバルバスバウに始まり流線型の低抵抗バルジが側面を覆い、4軸のスクリューと2枚舵で締めくくる流線型を多用したものであった。
勿論これは戦闘艤装や上構造物を効率的に配置し、更には水中抵抗を軽減するためであるが、一つの機能美として乗員や職工から親しまれている。
やがて主砲、速射砲、垂直発射装置、各種電子装備などが艤装岸壁で取り付けられ、その優美な船体は確実に戦艦としての姿を取り始めた。
完成した戦艦としては空前絶後の姿は明確に凶器そのものであったが、そのような戦闘艤装をもってしても優美さは奪えなかったという証言も多い。
288:戦車の人:2024/01/19(金) 23:35:43 HOST:61-24-203-31.rev.home.ne.jp
7.機関及び発電機等
さて戦艦というのは火力、防御力、電子装備と並び速度や航続距離と言った機動力も重視される。今や空母も駆逐艦も30ノット以上が当然である。
帝国海軍のドクトリンに従えば高速戦艦以外の戦艦の価値とは大いに下落するもので、モンタナ級も帝国海軍からすると「鈍足」に分類される。
彼女も最大速度26ノット、巡航15ノットで15000海里と世界水準で見れば鈍足ではないが、帝国海軍は紀伊型にさえ近代化で30ノットを与えた。
最大速度だけではなく戦闘巡航20ノットで10000海里近い航続距離も達しており、広大な水域の制海権の恒常的な維持。
非常時において艦種を問わず高い最大速度、戦闘巡航による長い航続距離による緊急展開能力を、非常に重んじていたことが伺える。
そのドクトリンは当然、大和型にも設計段階より盛り込まれ、紀伊型に比べ大きな縦横比を持つ船体も、高速発揮の容易化を意識している。
そして原動力たる主機には80気圧/510度規格の水管式ボイラー8基及び衝撃型多段減速タービン4基を、シフト配置方式で搭載。
既に駆逐艦や通常動力空母で多用された枯れた機械類で、予熱気化機を用いれば28万馬力を超える最大出力を発揮できる。
これにより大和型は最大速度こそ僅かに30ノットに届かないが、戦闘巡航20ノットで10500海里と概ね必要十分な機動力を獲得した。
また主機より分岐される蒸気を用いた主タービン発電機は2500キロワット規格のものを8基、独立したディーゼル発電機に1500キロワット規格を4基搭載。
合計で最大26000キロワットの発電量を獲得しており、艦内照明から1基で駆逐艦に相当する主砲駆動まで、必要な電力を賄っている。
これら発電機も通常動力空母などで多用され、運用実績を確立した枯れたものを多数搭載という形であり、信頼性は機関と並び高い。
枯れたとは言え機関及び発電機運用はデジタル計算機を用いた遠隔操作を主体とし、基本的に機械室は無人状態で運転を行う。
出港や入港時、あるいは戦闘運転に際しては有人運転となるが、これも特に大人数が必要な機関科の省力化による、乗員数抑制のためである。
余談ではあるが巡洋艦、駆逐艦などガスタービン主機を採用した戦闘艦では、CICからの遠隔操作と無人運転が最早当然となっていた。
なお蒸気タービン艦といえば出港まで時間が必要なものであるが、帝国海軍は紀伊型戦艦や瑞鶴型空母でタービン発電機常時運転を実現。
これにより出港まで必要な時間を1時間程度まで短縮し、遠隔操作による乗員疲労抑制も含めて大和型でも踏襲されている。
但しタービン発電機への負荷が大きく、遠隔操作でも機関科乗員の疲労は蓄積するため、平時ではあまり推奨されない運転手段でもある。
289:戦車の人:2024/01/19(金) 23:36:28 HOST:61-24-203-31.rev.home.ne.jp
8.電子装備
今や1920年代に至り海軍艦艇の殆どはシステム化を果たし、何らかの形でデータリンクシステムが形成するネットワークに支援されている。
それは戦艦も同様であり、当初より誘導武器の運用に最適化された大和型など、通信系と処理系双方で高度なものが当然とされた。
センサー系も流石に秋月型のような固定式フェイズドアレイレーダー搭載は見送られたが、対空、対水上、対潜用に一通りが揃っている。
その中核を担うCICを含む処理系であるが、紀伊型近代化の段階で軍用計算機を主としつつも商用電算機を補助に導入。
大幅に処理能力を向上させ、また補助計算機のレベルであれば民間用コンピュータの性能向上に伴い、柔軟な交換が可能であった。
大和型ではそれを更に一歩進め、秋月型最終ロットと同様に規格化された商用電算機多数による、並列分散処理システムを構築。
これにより嘗て標準計算機とされた軍用艦載計算機規準で300台相当の処理能力を獲得し、被害発生時の冗長性も高い。
また従来は分離されていたCICとFIC(艦隊指揮所)を、商用電算機の並列処理によりコンソールを規格化することで統一。
艦内容積の効率化を進めると同時に、陸海空でコンソールを規格化し、統合任務部隊等における指揮通信能力を大きく高めている。
ネットワークシステムもそれに準じて充実したものが準備され、通信衛星を用いた陸海空共通規格の高速データリンクを主体として搭載。
バックアップ及び中近距離通信用として、やはり商業通信技術を援用した洋上無線ルータを用いる中距離データリンクを構築。
多分に商業電子通信技術を用いることで、本土からを含む長距離通信と共同交戦能力。安価な中近距離通信併用を行っている。
これらは1920年代の大型戦闘艦では標準的なもので、計算機では日本電気や富士通。ネットワークでは三菱電機などが担当している。
センサー系としては前鐘楼直後のマックに長距離三次元レーダ、対水上レーダ各1基。後鐘楼マストに二次元レーダ1基を搭載。
前鐘楼及び後鐘楼には各1セットの電波探知妨害装置を備え、射撃管制レーダ、誘導弾、航空機等からの電波逆探と妨害を担う。
FCSには前鐘楼、後鐘楼トップに主砲射撃方位盤各1基を。前鐘楼、後鐘楼、両舷各部にSAM・速射砲射撃方位盤8基を搭載。
対潜索敵手段としてバルバスバウ内部に低周波大型ソーナーを備え、戦闘指揮システムに統合化。短魚雷や対潜ロケット管制手段として用いる。
基本的には同世代戦闘艦で運用実績を持つ枯れた技術の集大成だが、特に旗艦としての指揮通信能力は同世代空母よりも優れたものを持つ。
290:戦車の人:2024/01/19(金) 23:37:45 HOST:61-24-203-31.rev.home.ne.jp
9.居住性
帝国海軍は幕府の大政奉還から国民政府に移行、それから急速に主権領土と了解を民意のもとに拡大。それに引きずられた歴史を持つ。
つまり平時から広大な領海、通商路、外地領土を艦隊が巡回せねばならず、一度出港してしまえば駆逐艦ですら数ヶ月の航海が当然。
そのような状態で将兵の士気を保つためには、否応なしに居住性にも相当な配慮と努力を傾けざるを得なかった。
無論ダメージコントロールの観点から華美さは控えめだが、急速に国家が膨張したのと同時に、民主化と国民権利もやはり比例して拡大。
世界大戦のような総力戦もない限り、徴兵や徴用は法律により厳密に規定され、平時は実質階級を問わず志願出身者が主体となる。
勿論、俸給改善や資格取得。士官では米海軍のROTCに範を取った予備士官制度が確立されたが、それでも志願者は貴重な存在である。
故に任務部隊旗艦を担うことも多い大和型でも良好な居住性には、かなりの努力が傾けられた。三等兵曹以上は総じて居住区は個室制。
流石に兵は大部屋だがそれでも一部屋4人を規準とし、一人あたりの居住容積を拡大。ホットラグ等はなく兵一人に一つの寝台が割り当てられた。
艦内全区画への冷暖房空調もABC防御を兼ねて当然行われ、平時の運用人員3000名はちょっとした客船レベルの居住性を与えられている。
このような措置は程度の差こそあれ、巡防艦から正規空母まで普及しつつあるもので、大和型も同世代の原子力空母の居住艤装に範を取っている。
また単純な起居区画だけでなく、昇任試験勉強や術科教育用も兼ねる図書室、映写室。集中治療室複数さえ有する地方公立病院並の医療区画。
体力錬成のため階級を問わず利用可能なトレーニングルーム、豊富な真水生成能力に基づく大浴場複数なども準備されている。
そして長距離航海で最も士気を左右する要素の一つの食事も、豊富な発電量に支えられた大容量冷凍庫・冷蔵庫複数。
旅館レベルの広大な司厨区画、専門教育を受けた補給分隊などにより、可能な限り良好なものを維持され、その予算は戦闘艤装に劣らない。
また大容量冷蔵庫の複数搭載はアルコール-ビール、清酒、洋酒の大量搭載も実現し、これも士気維持に大いに貢献している。
但し貴重な志願将兵にアルコール依存患者を出すわけにもゆかず、酒保を開くに当たっては軍医を含む衛生分隊の所見を用いることもある。
また下戸に対するアルコールハラスメントは、艦の戦闘力を大きく低下させるものとして、寧ろ呑兵衛たちが率先して自粛させる効果もあった。
なお食事やアルコールは基本、各種手当からの有料だが、俸給の安い兵や新米少尉・中尉等は無料と、経済状況に応じた体系が採用されている。
291:戦車の人:2024/01/19(金) 23:38:29 HOST:61-24-203-31.rev.home.ne.jp
10.総括
諸外国の新世代戦艦を圧倒するべく、ある意味では少数精鋭(日本帝国規準)で建造された大和型戦艦だが、実態は枯れた技術の集大成である。
その「枯れた技術」が既に空母、駆逐艦、民間大型船舶多数で実績を重ねているあたりに、産業と軍事力の尋常ではない層の厚さが貢献している。
大政奉還、明治へ移行してからの経済と軍事の堅実な発展。そして世界大戦の莫大な特需に基づく高度経済成長が、大和型建造の原動力である。
事実、基準排水量の段階で12万トンに迫る巨大戦艦8隻を同時に着工、建造できるという段階で、他国ではおよそ真似できるものではなかった。
大火力と堅牢さを併せ持つモンタナ級戦艦8隻を建造した米国でさえ、あのカモミールコングロマリットの支援を受けても、これほどには及ばない。
そして何より枯れた技術の集大成ゆえに、中小企業による戦闘艤装の納品とノックダウン生産も行えたことも、平均建造3年と迅速な竣工を助けた。
部隊配備後の大和型は-これも習熟性を意図したゆえであるが、紀伊型と同一規格の艤装を最大限用い、転属兵員の練度向上に貢献している。
流石に戦闘艤装等は新規訓練も多いが、それでも半年程度で兵から士官まで習熟可能を意図し、概ねそれは成功している。
どれほど強大な超戦艦であろうと、操る人員の練度と士気が伴わねば高価な文鎮に過ぎないと、帝国海軍は良く理解していた。
同型艦8隻全艦が連合艦隊へ配備された後は、既存の紀伊型と合わせ16隻の戦艦という戦闘単位を形成し、米海軍と並ぶ一大戦艦戦力となっている。
そして習熟訓練期間の短縮、兵器としての信頼性向上、高い指揮通信能力の付与などに尽力したことで、任務部隊という柔軟な編成にも対応。
空母機動部隊やミサイル駆逐艦隊と多用な任務部隊を編成し戦間期の抑止力、北欧戦争やそれ以降の欧州混乱で大きな抑止力として機能している。
また実戦処女というわけでもなく、ソ連によるフィンランド侵攻などに際しては派遣統合任務部隊の主軸として常時2隻が展開。
「コミュニストはクソだ」「悔しいだろうが仕方ないんだ」と言わんばかりに、艦砲射撃と巡航誘導弾攻撃でソ連陸海軍に痛打を浴びせている。
海軍力が限定されるがゆえにソ連が必死に整備した対艦ミサイル攻撃にも、空母とミサイル駆逐艦の連携で封殺する活躍を見せた。
また電子装備を中心に大きな発達余裕を有していたことから、実に半世紀以上も現役にあり続け、大和型は日本戦艦の代名詞とされている。
これは性能向上や紛争への投入だけでなく、平時には広く一般公開が行われ、多数の国民から親しまれたことも大きい。
70年代となるとついに新型戦艦に後を譲り退役するが、同型艦の半数が記念艦として保存され、今なおその勇姿を留めている。
292:戦車の人:2024/01/19(金) 23:39:11 HOST:61-24-203-31.rev.home.ne.jp
11.諸元
船体全幅:43メートル 船体全長:330メートル 規準排水量:118000トン 乗員定数:3100名
兵装:45口径51サンチ主砲3連装4基12門
:54口径127ミリ速射砲12基12門
:62口径76ミリ速射砲8基8門
:高性能20ミリ機関砲(CIWS)8基
:80口径25ミリ単装機関砲18基18門*
:12.7ミリ重機関銃20基20門*
:垂直発射装置128セル(SAM、SUM、SLCM搭載)
:324ミリ3連装短魚雷発射管3連装2基
舷側装甲(主装甲帯):改良型RHA550ミリ/15度 水平装甲(主要部):改良型RHA300ミリ 砲塔防盾:改良型RHA700ミリ
主機:三菱製水管式ボイラー(80気圧/510度)8基及び石川島播磨製衝撃型タービン4基4軸/最大28万馬力*
発電機:タービン式発電機(2500キロワット型)8基及びディーゼル発電機(1500キロワット)型4基/合計26000キロワット
艦載機:対潜哨戒ヘリコプターなど中型ヘリ4機及び無人偵察機3機*
戦時治療所病床数:60個 集中治療室:複数 臨床心理士相談室:複数(何れも災害派遣も想定)
最大速度:28.5ノット 航続距離:巡航20ノットにて10500海里 最短出港準備時間:1時間前後(平時4-6時間)
同型艦:「大和」「武蔵」「信濃」「甲斐」「越後」「出雲」「長門」「陸奥」
定格出力。余熱気化機含む全力運転で30万馬力以上
状況に応じ大型輸送ヘリコプター複数の搭載、離着艦運用に対応
以前にお出しした改訂版をベースに枢軸世界日本海軍の食事習慣、あるいは紀伊型戦艦の防御力記述に基づく矛盾点の解消。
その他にホワイトベアー様の書かれた諸元をベーシックに、あちこちを弄り回してみました。今はこれが精一杯…
wikiへの転載はご自由に。度々の設定変更、浅慮拙文申し訳ございません。
293:戦車の人:2024/01/19(金) 23:44:28 HOST:61-24-203-31.rev.home.ne.jp
以上にございます。
かなり長くなってしまい恐縮です。
最終更新:2024年06月10日 23:18