360 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/03/01(金) 01:02:29 ID:softbank126036058190.bbtec.net [47/148]

憂鬱SRW 融合惑星 マブラヴ世界編SS「Andaman Express」3


  • C.E.世界 融合惑星 β世界 β世界主観1999年9月14日1時43分 アンダマン島 国連印度洋方面第1軍 中アンダマン島・オースティン基地 指令室


 圧倒的なまでの暴力が吹き荒れている。
 地球連合軍とのデータリンクで得られた詳細な戦場の様子は、それを目に見える形で突き付けていた。
衛星で観測されているBETAの群れが明らかにユーラシア大陸沿岸到達前に相当数が削られ、さらに水中でも削られている。
その結果として、アンダマン諸島周辺にはごく少数しか到達していないのだ。
BETAの侵攻を監視するために海底に敷設されている音響監視システムにもごく少数しか探知されていないことからも窺える。
一応の備えとして沿岸部では戦術機をはじめとした部隊が水際での防御を行うべく待機しているのだが---この分では仕事はないかもしれない。

(覚悟が空回りだな……)

 オースティン基地の司令官は呆れも混じったため息を吐き出す。
 いや、覚悟していた犠牲がほとんどないというのはありがたいことなのだ。
 犠牲をのそんでいる人間などいない。死がそこら中にあるとはいえ、死にたい人間も死なせる人間もいない。
少なくともこうして戦っている人間の中にはいないと思っている。
 にもかかわらず、圧倒的に勝利ができていることに、妙な感覚が付きまとっているのだ。
 これは司令官だけではなく、指令室に詰めているスタッフや参謀などにも共通している。
勝てているのでうれしいはずなのだが、素直に喜べないというか、拍子抜け過ぎるというか、ともかく奇妙な感覚なのだ。
戦闘中であるから緊張はしているのだが、同時に途方もなく楽なので弛緩してしまいそうな、そんな二律背反状態と言えるかもしれない。
 自分だって、死ぬくらいの覚悟を固めていたというのに---

「んんっ……集中しなくてはな」

 直近の問題は、地球連合からの問い合わせだ。
 内容としては至極単純だ。このまま迎撃を進めるとして、それ以上を望むかというもの。
 つまり、このままBETAの進撃を押し返し、ユーラシア大陸への上陸と失地奪還を進めるかという提案だった。
このままアンダマン諸島の防衛に徹することもできるのだが、このまま兵力を差し向ければ前線を押し上げることができる。
それだけの兵力はあるし、可能にするだけの質も併せ持っている。とはいえ、主体は現地の司令部にあるから、と問い合わせがあったのだ。

(迷うな……)

 正直、魅力的な話だ。
 失地奪還というのはこのBETA大戦においては稀有どころではない。これまでに幾度も計画され、実行され、はじき返されてきたのだ。
G弾によってハイヴが攻略されて失地奪還がなされたらしいという事案はあるが、あれは信頼性が低いのでカウントしても良いかは微妙だ。
その中で失地奪還を挙げることができるというのは、一個人としても非常に魅力的過ぎる。
少しでもBETAに奪われた土地を奪還して、勝利につなげていきたいという気持ちは非常に強い。

 しかして、自分は国連軍の方面軍の、そのまた一部の基地の司令官にすぎない。
 いかに勝てるからと言って、このまま戦線を拡大することが良いことかどうかは判断しかねるのだ。
権限としてこの基地にいる戦力を動かすことはできるが、果たして失地奪還までもやってよいか。

(問い合わせるしかないか……)

 少し迷ったが、そう結論付けた。
 確かにこの最前線基地を防衛するにあたって地球連合軍の力は見せつけられた。
 だが、逆に言えば彼ら抜きにしてはこの基地やアンダマン諸島は陥落していただろうという予想がある。
防衛三倍有利という条件であったとしても、確認されたBETAを防ぎきれるとは思えないと判断できた。
そんな状況において戦線を拡大---それどころかユーラシア大陸への進出ができるだろうか?
防衛すらおぼつかない自分達では当然できないだろう。失地奪還をしても、どうやっても兵力が足りなくなる。
 彼らだけに任せればいいだろうが、そうもいかない。地球連合も自分達だけでやるのは勘弁してほしいと言っていたのだし。
 とりあえず、そのことを伝えるようにと部下の一人に命じて通信室に行かせる。
 最悪に備え、住人の避難や兵力の結集及び配置など、やるべきことは多いのだから。

361 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/03/01(金) 01:04:52 ID:softbank126036058190.bbtec.net [48/148]

  • β世界 1時58分 アンダマン諸島 中アンダマン島 地球連合アンダマン諸島派遣軍旗艦 改レセップス級陸上戦艦「アナトール」


 アンダマン諸島の防衛を担う国連軍の判断については、すぐさま同諸島へ派遣されていた派遣軍へと伝達されていた。
忙し気にスタッフや参謀たち、あるいはアンドロイドなども動き回る指令所で、司令官のアイ・ウエスト准将はそのことを総司令官のカガリと話し合っていた。

「左様ですか……」
『彼らも国連軍の一部でしかない、ということだ。
 まあ、想定されていた通りではある。国連としても及び腰になるのも無理はない。
 アンダマン諸島の派遣軍はそのまま防衛戦に徹してくれ。BETAの侵攻はまだ続いているとの報告もある』
「H1 カシュガル・ハイヴからの増援ですね?」

 それはアイも確認していたことであった。
 地球に初めてBETAが侵攻してきた際に構築されたカシュガル・ハイヴ。
 構築されてから経過した時間および衛星によって観測された規模などから、最大級のBETAの巣となっていることが推定されていた。
この大規模侵攻---各方面で一斉に起こった空前絶後のBETAの進撃の根っこには、このハイヴが大きくかかわっていた。
数十万どころではないBETAがそこから吐き出され、他のハイヴからの分と合わせ、各方面へと展開していったのだ。

『あのハイヴにどれだけの個体がいて、何時まで吐き出されるかは分からないのが現状だ。
 一時的に殲滅したと思っても、あとから来る可能性は十二分にある』
「……この世界の歴史では、BETAの攻勢が長期間に及んだ結果、防ぎきれなかったことで敗北を重ねたケースが多いですからね」
『ああ。BETAは脅威たりえないが、我々の油断は彼らに致命傷を与えかねない。
 油断こそが一番の敵だと思って対応してくれ。
 補給物資は順次投下してもらう手はずだ、追って情報を送るから確認をしてくれ』
「かしこまりました、カガリ様もご健闘を」

 カガリのいる東南アジア方面は既に激戦だという。
 アンダマン諸島に展開した砲台群からの支援砲撃があってもなおBETAの数は多く、クラ海峡防衛線には信じがたい数が叩きつけられていた。
人間とは違う外敵であるがゆえに、人間には不可能なことを平然とやってくる。犠牲を鑑みない物量任せの進軍などまさにそれだ。
 海峡を利用した防衛線で食い止めてはいるというが、果たしてどこまで維持できるかについてアイは楽観できない。
これまでの戦いがそうであったように、大攻勢を受け止めるだけの火力投射などができなくなれば、やがては津波に呑み込まれるのだから。

 さらに言えば、すぐさま現地の国家および国連軍からの救援要請が来たこちらと違い、東南アジア方面は要請がなかったという。
政治的な都合もあり、過度な介入ができない派遣軍としてはそう言われたならば従うほかない。
とはいえ、これまでにない規模の大攻勢を前にして、彼らは前例を考えなかったのだろうか?と思ったのは事実だ。
シビリアンコントロールは結構。けれど、そのシビリアンの都合で死ぬ兵士や失われるかもしれない土地のことを考えたか?となるのだ。

「まあ、愚痴ってもしょうがないですね」

 こちらはできるだけ忠告はした。それでもやったならば、それは向こうの責任になる。
 そんなことより重要なのは、長期戦を見越しておくことだ。先ほどカガリと話していたように、油断こそが最大の敵となる。
 不意な増援、あるいはBETAの進出、新種の出現---考えられるだけでも多くのことが起こりうる。
多くの外敵を相手にしてきたこともあって、想定外を想定するのには慣れていた---慣れるしかなかったのだ。
補給や交代要員の配置なども順次進めなくてはならない。未だ後方と言えども油断もできない。その瞬間こそ突かれると痛い隙なのだし。
 この時の備えが功を奏することになるのは、一度打ち止めになったかと思われた後に出現した第二波攻勢の時になるのであった。

362 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/03/01(金) 01:05:55 ID:softbank126036058190.bbtec.net [49/148]

以上、wiki転載はご自由に。

次回はちょっと時間を進めたところを描いた後、このアンダマン諸島防衛線の顛末まで書く予定です。
場合によっては2話に分割するかもですが悪しからず。
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最終更新:2024年07月06日 20:35