514 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/03/02(土) 23:38:21 ID:softbank126036058190.bbtec.net [80/148]

憂鬱SRW 融合惑星 マブラヴ世界編SS「Andaman Express」5


  • C.E.世界 融合惑星 β世界 β世界主観1999年9月14日2時50分 アンダマン諸島 北アンダマン島 内陸部



 旗艦からの警告からすぐにBETAの出現が確認された。
 海岸沿いや多少内陸に入ったエリア、あるいはその後方に次々と母艦級が出現したのだ。
母艦級の掘り進めたトンネルからBETAが湧き出し、あるいは母艦級自体からもBETAが吐き出されていく。

『うお!?で、出たぞ!』
『警告があった矢先にかよ!』
『落ち着け、攻撃を開始しろ!』

 そして、出現したのは何も地球連合がいたエリアだけでなく、国連軍が主体となったエリアも同様であった。
見境なく平等に襲ってくる---ごくごく当たり前であり、同時にとんだ災難であった。
繰り返しになるが、β世界の国連軍の保有する戦力で母艦級の排除は無理であった。
とある世界線の未来においてはS-11を口内へと放り込む荒業で排除できたものの、それができるかどうかはまた別問題なのだ。

『くそ、120ミリも効かない、どうする!』
『どうするったって……!』
『とにかく時間を稼げ!地球連合軍が助けに来てくれる!』

 彼らと東南アジア方面の部隊との差は、一人の衛士が吐き出した言葉に現れていた。
東南アジア方面では自前で何とかするしかないのに対し、こちらではBETAを一方的に倒している地球連合軍の援護が見込めることだった。
多くの衛士が地球連合派遣軍の実力を見聞きしており、自分たちが倒せなくとも、と希望を持てていた。
戦局が極端に悪いということもないために、彼らの士気は崩壊することもなく、冷静な対応ができたのだ。

『CPよりイェーガー中隊、地球連合軍の救援が向かっている。
 あと5分ほど耐えてくれ』
『イェーガー・リーダー了解!早く来てくれると助かる!』
『了解した。それと、救援部隊からは新種よりも吐き出される個体の排除を優先した方が良いとアドバイスだ』
『吐き出される個体……』

 CPからの通信に、誰もが一時戦場を冷静に見返す。
 確かに母艦級に攻撃は通用しない。なんとかそれを排除しようとしても、戦術機の最大火力さえ通用していないのだ。
 だが、自分たちの目的は母艦級を倒すことではなく、BETAを足止めして救援が来るまで耐久することだ。
 だとするならば---操作は一瞬だ。

『各機、聞こえたな!雑魚共を駆逐しろ、安全の確保を優先だ!
 デカ物は地球連合の救援に任せる!』

 突撃砲の照準を吐き出されてくるBETAに変更し、攻撃を開始した。
 そう、母艦級は確かに脅威かもしれない。
 だが、今のところは出現してからBETAを吐き出しているだけであって、本体が何かを仕掛けてくるというわけでもない。
寧ろ脅威となるのは吐き出してくるBETAの方であって、そちらから目を離してはならないのだ。
気が付いたら包囲されているなんてことになったら目も当てられない。それこそ、戦車級に食われる羽目になる可能性が高い。

『近寄らせるな、相互支援を!』
『陣形を一旦崩す、再編急げ!』

 イェーガー中隊は幸運だった。
 これが東南アジア方面であったならば、CPともHQとも連絡が付かなくなり、訳も分からぬうちに母艦級諸共核で吹き飛ばされていたかもしれない。
 さらに、彼らは未だに損耗が浅く、衛士たちの体力も士気も十分で、弾薬などもまだまだ抱えている状態であった。
ここに冷静さとCPを経由した指示が加われば、落ち着いて対処を行うだけの余裕が生まれることになるのだ。

『光線級を見逃すな!至近距離なら処理はしやすい!』
『了解!』
『FOX1!FOX1』

 36ミリチェーンガンが優先的に戦車級や光線級などをミンチに変えていく。
 要撃級は120ミリと36ミリで動きを封じ込め、突撃級は躱して背部を撃ち抜く。
 判断の連続であり、極めて戦闘教義に忠実な動きだった。

516 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/03/02(土) 23:39:38 ID:softbank126036058190.bbtec.net [81/148]

 そして、とても長い五分が過ぎたころ、母艦級の胴体にいくつものビームの光条が突き刺さった。
 いや、母艦級だけでなく突撃級や母艦級から沸いた要塞級にも次々と刺さり、一瞬でそれらを絶命させていた。
連続していく射撃が正確無比に脅威度の高い種を狙い撃ちにし、あるいは戦術機に群がろうとする個体を焼き尽くした。

『!?』
『来た、来たぞ!』

 飛んできたのはビームだけではない。誘導されたミサイルが次々と母艦級に突き刺さる。
刹那に起爆したそれで、まるで攻撃を受け付けなかった外皮があっけなく吹き飛び、千切れ、内部が露わになっていく。
文字通り食い破られていくようであり、その痛みが響いたのか母艦級はもがくようにして倒れ込んだ。

『こちら地球連合アンダマン諸島派遣軍第124MS小隊「シーバード」、現着した!』

 そして、通信と共にSFSで飛んできたのは、ザク・ウォーリアとジン・センチネルで構成された小隊だった。
 たったの4機1個小隊、さりとてその戦略価値は戦術機とは比較にもならないほどに高かった。

『待ちわびたぞ!』
『遅れた分はしっかり援護を開始するさ』

 上空を陣取ることは、光線級のヘイトを稼ぐことになる。
 また、MSの電子機器が高性能であることを察知したBETAの注目は露骨にMSへと向けられた。
 さらには動きが止まったかに見えた母艦級がさらにもがいて、内からBETAがさらにこぼれだした。
 けれども、全く「シーバード」のMS達は怯えるそぶりを見せない。

『攻撃を開始する、高脅威目標は任せてくれ!』
『ああ、任せる!』

 そして、交戦が開始した。
 武装の差もあって、自然と有人MS3機が前面に出る形へと移行していく。
 高威力のビーム兵器を擁し、さらに戦術機とは比較にならない飛行能力を有するザク・ウォーリアは次々と脅威度の高いBETAを狩る。
より脅威度の高い敵を想定したビーム兵器や実弾兵器はBETAにとってはオーバーキルとなるが、構うことはない。
ここで一匹でも多く潰しておかねば、不測の事態が起こってしまいかねないのだから。

『ええい、うっとおしい……!』

 一機のザク・ウォーリアのパイロットがうめく。
 戦車級や闘士級、兵士級といった小型種がこれでもかと足元に集っているのだ。
精密機械の塊であるMSは垂涎の的であるが故で、それぞれが噛みついたり腕で殴るなどしている。
その結果は語るまでもないだろう、むしろBETAの側が損傷を受けているのであった。
 だが、それはMSパイロットにとっては不快に極まりない。体液などがへばりついたり肉片が絡むのは面倒になるのだ。
 だからというように、次の操作は押し寄せるBETAの小型種にとって死神の鎌だった。
装甲の各所から飛び出すのはMSから見ればとても小さな、しかし、殺意の塊そのもの。
空中で炸裂したそれは、BETAを殺すのに十分すぎるほどの数のシェルをまき散らし、地面を埋め尽くすそれを一掃する。

『対人・対物兵器用の地雷程度で十分とはな』

 吐き捨てた。こんな雑魚に構うのさえ面倒だと、そのように振舞ったのだ。
ついでに繰り出された蹴りの一撃が、あっけなく突撃級の正面装甲を打ち砕き、一気に絶命に至らしめる。
その言葉と動きは衝撃を以て衛士たちの耳に突き刺さる。彼我の戦力差などはあると知っていたが、ここまで差があるとは。
言葉にすることさえもできなかった。そして、その力が助力してくれる幸運を噛みしめていた。

520 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/03/02(土) 23:44:45 ID:softbank126036058190.bbtec.net [84/148]

 そんなことを感じつつも、BETAの駆逐は進む。
 MSの前では要塞級でさえも気軽に絶命して倒れていくのだから、そのペースは速い。
 10分も経つ頃には、沿岸部に湧き出していたBETAの数はほぼ0となり、あとは大きくあいた母艦級の穴から来る後続ばかりとなる。

 到着後からそこに集中砲火を浴びせ続けて足止めを行っているのは無人機のジン・センチネルだ。
全身に搭載された火器による制圧射撃は湧き出した傍らからBETAを消し飛ばしていく。
イェーガー中隊の戦術機への支援もやりながら、それを担うだけの処理能力と火力が存在していた。
そこにSFSであるベースジャバーに懸架されている武装までも加われば、最早大地ごと焼き尽くす火力であった。

『しかし、厄介だな』
『……この穴の先にはまだBETAがいるのか』

 だが、対応していたイェーガー中隊の顔色は優れない。
 火消しに飛び回るシーバード小隊の助力で、母艦級の排除と押し寄せてきたBETAの処理は完了した。
 だが、ここからさらに来るであろう後続---穴の先にあるBETAの勢力圏から来る群れにまで対処するのはできない。
火消し役は飛び回って少ない数で発生する大量のトラブルに対処してこそなわけで、ここから先はイェーガー中隊の独力に戻るのだ。

『諦めるなよ』

 だが、部隊員の弱気を切ったのはイェーガー中隊の隊長だった。

『俺たちの感じている苦労なんてのは、もっと多くを熟している地球連合から見ればちっぽけなもんさ。
 次が来ようが、その次が来ようが、それでも戦うんだよ』

 そもそもが、地球連合の援助など降ってわいた幸運でしかない。
 いずれは起こっていたであろう侵攻が今来ただけであって、それにしり込みするようでは意味がないのだ。

『そうじゃなきゃ、俺たちは自分のケツも拭けない情けない奴ってことになるぞ』

 隊長期のF-15Eは前に踏み出した。
 相応に武器弾薬は消耗しているが、まだ戦える、そう訴えるように。

『ついてこれる奴だけついてこい』
『……そうだ、戦うぞ』
『いつまでも助けられっぱなしも、気分悪いですしね』

 そういうことだ。自分から動かずして、何が得られるというのか。
 衛士たちは「それでも」と前に進むことを選んだ。

『イェーガー中隊、こちら「シーバード」。これから俺たちは別の戦域に向かう』
『ああ、ここは任せてくれ。健闘を祈る』
『お互いにな。ついでにこれは餞別ってやつだ、活用してくれ』

 言葉に反応して飛来したSFSを見上げると、そこから大量のコンテナが積載されていた。
 その量は、中隊を補給してもなお、余りあるほどの量といえた。
 さらに、付随したのは連合の兵器「セントリーガン」も含まれていた。

『これは……』
『意気込みだけで勝てるわけじゃないってな。
 よし、シーバード各機、続け!』

 MS達は次の戦場へと飛び立っていく。
 ここを守ること以上に、他で助けを待つ人々を助けることが重要で、それが任務だから。
 なれば---

『イェーガー中隊、準備を整えろ。
 まだまだ戦いはこれからだ』

 自分たちはここを守るのだ。
 その意志と共に、戦術機達は次なる襲来に備えた。

521 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/03/02(土) 23:45:38 ID:softbank126036058190.bbtec.net [85/148]

 この後のアンダマン諸島の防衛の顛末を語ろう。
 母艦級の出現による第二波、および数時間の間を開けて襲来した第三波、第四派を以て、BETAの侵攻は停止が確認された。
内陸部---都市部だけでなく、地球連合が設置した砲台群などを標的とした地下侵攻も発生したのだが、それらも十分に対応できたのであった。
 いや、それ以上に明らかになったのは地球連合の力だ。
 何しろ、侵攻が始まった未明からおよそ13時間で、南進してきた膨大なBETA群をほぼ排除しきったということで、それだけの戦力がある証明をしたのだ。
現地の国連軍との共同作戦もうまくいったこともあり、被害は驚くほど小さく済み、またアンダマン諸島の失陥などは回避することができた。
これまで人類の敗北続きだったBETA大戦において、輝かしい勝利をついにもぎ取った形であった。

 ただ、散発的にBETAの集団が上陸あるいは母艦級の堀った地下茎を通って襲来することがあり、予断は許さぬ状況であった。
母艦級の出現した箇所の分だけ監視及び防衛箇所は増えたということであり、それへの対応を行う必要にも迫られたのだ。
 また、東南アジア方面ではいまだにBETAの攻勢が続いており、アンダマン諸島からの援護攻撃は続行されることとなった。
南進してくる分は殲滅できたが、そちらへと向かう群れは未だに健在であり、積極的な支援が必要と判断されたためであった。

 その東南アジア方面でも動きがあった。
 β世界主観1999年9月14日12時には、大東亜連合が地球連合へと正式に救援を要請。
この要請を以て東南アジア方面で待機していた地球連合派遣軍が一斉に行動を開始、逆襲を開始した。
正式に動くための大義名分を得たことで、アンダマン諸島のからも側面支援のために戦力が出撃。
この逆襲と合わせる形で一気に戦線の押し返しに助力することになった。

 また、ほぼ同時刻にはインド亜大陸のマドゥライ周辺を最前線とする防衛ラインの構築が完了した。
 ボパールハイヴからの襲撃が続く中でも進められたその工事は、まさに地球連合の持つ物量と技術、そしてスケールを象徴するものと言えた。
 直近にあるボパールハイヴから沸くBETAを誘引し、間引きを継続的に行えるだけの有力な防衛線の存在は、大きな価値を持っていた。
ボパールハイヴの攻略だけではなく、そのボパールハイヴの北に存在するH1「カシュガルハイヴ」への橋頭堡確保という面もあったためだ。

 BETAの大侵攻を受けて始まったインド・東南アジア方面の動きは、未だに始まったばかり。
 正式に地球連合がその兵力を動かせるようになったこともあって、これまでの常識では考えられないことが起こることは確定的だった。
 要求されるのは、国益などに固執した膠着した動きではなく、柔軟な判断と対応力。
 ゲームバランスをひっくり返す地球連合の存在に、嫌でも対応しなければならない時が、この地域にも訪れようとしていたのだ。
 それは、東南アジア地域一帯を襲った、途方もない規模の台風を超える、大きなうねりであった。
それに無関心でいられる国や組織など存在せず、あまつさえ個人レベルまでも影響を及ぼすことになるのはこの時の多くの人々が予想すらできずにいた。

 ただ、賽は投げられた、投げられてしまったのだ。
 もはや、巻き戻ることはない。

522 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/03/02(土) 23:46:21 ID:softbank126036058190.bbtec.net [86/148]
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最終更新:2024年07月06日 20:39