467:陣龍:2024/07/03(水) 16:53:09 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp
『花舞う流れ神は鈴鳴らし、夏夜の如し常世の鬼を討つ』
2020年12月31日、大晦日。ゲート世界と俗称され、幾多の世界が交わり混在した結果、
免疫反応の如く大小様々な混乱と悲劇が強引に引き摺り起こされている日本国。その日本でも、
ある人は旧年最後の日として厳かに、ある人は年末年始と言う長期休暇として朝日を迎える。
そして、本当ならば日常に有り触れた諸問題が流され、また様々な情報媒体が新年に向けた特集や特番等を流し出していたその時。
「きょ、巨大な蜘蛛が……襲ってくるー!!」「助けてーー!!」「ぎゃぁあーーー!!?」
紀伊半島の奈良県にて、日本全土の寺社仏閣、霊地に無造作にばら撒かれた多数の蠱毒による呪詛が
寄り集まり現世へ転化した土蜘蛛が、無防備に点在する【生餌】へと殺到を始めていた。
「大丈夫ですか!?こっち、コッチに捉まって…オイお前も反対に回ってお爺さん担げ!!」
「わわ、分かった!!お爺さん捉まって、逃げますよ!!」
「す、すまんの……」
「お、お兄さん方……脚を折ってるアタシらを背負ってたら、逃げられない……」
「なぁに行ってるんですか!ボディービルダーの大会に出れるこの筋肉なら訳も無いですよ!!」
「その大会、オマエ普通に負けてたけどな」
「じゃかましぃわい!」
その混沌に突如突き落とされた奈良の一角では、大晦日としては有り触れた地方の観光地等の取材の為に
訪れていたとある人気芸人コンビが、土蜘蛛から逃げ出そうと殺到した群衆に弾き飛ばされ踏み付けられ、
道端に蹲っていた老夫婦を偶然発見し、急いで担いで逃げ出そうとしていた。
尚、同行していたテレビカメラマンやAD等は既にこの混乱に巻き込まれて行方不明となっていたが、
逃げる途中で投げ捨てられたテレビカメラが視界の端に見えていたので、
顔見知りのスタッフたちが全員生きて逃げ延びている事を二人は願うばかりだった。
468:陣龍:2024/07/03(水) 16:54:33 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp
「なんなんだよ、アレ…!あんな怪物が日本に居るとか聞いた事ねぇぞ…!」
「どう考えても映画の撮影じゃ無いし、この前ニュースで有ったヂラールとか言うのじゃ無いか!?」
「宇宙から誰にも気づかれずに日本に落ちて来て暴れ回ってるって言うのかよ!」
「俺に言われたって分かんねぇよ!!」
死への恐怖を紛らわす為の本能的行動か、怒鳴り合う様に話す芸人コンビ。
後方では多数の建物を壊す様な轟音と共に人間の悲鳴らしき微かな声も聞こえている事からも、
怒鳴り合ってでも居ないと恐怖の余り逃げる為に走る事すら出来なくなりそうなのだ。
「よ、ヨッシャ警察官だ……」
「……ヤベェ」
そしてその恐怖を裏付ける様に、逃げ続けて目の前に拳銃を発砲しながら建物の影から飛び出て来た警察官を、
無造作とばかりに巨大な節足動物特有の脚で蹴り飛ばしてのっそり現れた土蜘蛛を見て、
思わず見上げて停止する二人。蹴り飛ばされた警官は、壁に叩き付けられてピクリとも動きすらしていない。
「……ハッハッハ……漫才したら、見逃してくれねぇかな?」
「お前……それはそれで恐ろしい事になるくねぇか」
「あぁ……確かにな」
万事休すと思い知らされ、完全に足が止まる両名。背負われている老夫婦二人の声も、最早届いて居なさそうだ。
「ゴースト、飛んで!」
『了解主さん!』
だからこそ、周囲で続く破壊の轟音を切り裂く様な風を切り裂く矢音と女性の声にも反応出来ずに、
今に自分達を食らおうとしてくる巨大な土蜘蛛を茫然と見続け。
「――――ふっ!!」
『チョワァアアー!』
顔面に一矢が深々と突き刺さって仰け反った大蜘蛛を、馬から飛び上がった謎の和装美人が
唐竹割の如く脳天から一刀両断する一部始終も、大口を開けたまま見続けていた。
『……お二人さーん?大丈夫ー?』
「……はっ!?あ、はい大丈夫で…え、馬?」
『はい、馬のゴーストウィニング号です。ちょっと色々事情は複雑ですが細かい事は流して下さい』
「アッハイ」
行き成り土蜘蛛が大挙蹂躙して来て、そして自分達も喰い殺そうとした土蜘蛛が弓矢と刀を持った女性に真っ二つに叩き斬られ、
そして馬が何故か言葉を喋る。情報の飽和で訳が分からない事だらけなこの場の芸人コンビと背負われた老夫婦。
「神流さん!無事ですか!?」
「立夏ちゃん、生存者四人確保したよ。治療の方とかお願い」
「は、はい!」
「神流女史、危険地帯なのですからもう少し落ち着いて行動していただきたい……」
「じゅ、銃?……まさか、自衛隊の方?」
その後、駆け付けて来た多種多様な面々、そして明らかに未成年も混じっているメンバーも居て、思考が止まる四人方。
469:陣龍:2024/07/03(水) 16:55:56 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp
「……取り合えず、ご愁傷様でお疲れ様なのです。暫くしたら、強制転送で安全地帯に避難できるのでそれまで辛抱なのです」
「アッハイ、ヨロシクオネガイシマス」
最終的に、貫録が容姿の比では無いセーラー服の少女の一言に、イントネーションがおかしくなった芸人コンビのボケ担当が
丁寧にお辞儀をする。少なくとも自衛隊でも警察の救援部隊でも無いが、助けてくれる人々と言う事だけは理解出来ていた。
「――――!――――!!」
「……えっと、今度は何が?」
「この声……彼奴か、なんと面倒な事に」
「知合いですか?」
「最近になって、この近隣で訳の分からん事を大声でまき散らしてる都会のもんじゃな」
そんな折、何処から隠れていたのが湧いて出たのか、パニック状態と思しき支離滅裂に大声で気が狂ったように
叫んでいる人間が出て来る。渋い顔をしている老夫婦曰く、最近地方に出没するようになった、
偏った政治主張を繰り返して迷惑行為も同時並行で行う例の類だそうである。
「ラビさん、この警察官さん息が有ります。治療をお願いします」
「……了解」
「――――!!」
「……あの女の人らがメッチャ平静なのは兎も角、今喚いている人は何を言っているんだろうな」
「死に掛けの警官より私を傷一つ付けずに安全圏に連れて行けとかそんな類じゃねーの」
「……お前、なんでそんなにアッサリ言えるんだよそんな事」
「うるせぇよ、思い付いたんだから仕方ねぇだろ」
叫んで金切り声で和装の女性に掴みかかろうとして流されている件の活動家を他所に、多少落ち着いたのか批評をしている芸人コンビ。
刀と弓を持っている相手に良くもそんな事が出来る者だと若干呆れた方向性で関心をした所に。
「……ねぇ」
【ラビさん】と言われた女性が、土蜘蛛に蹴り飛ばされてぐったりしている警官を担いでいった直後に、
先程土蜘蛛を唐竹割した女性が弓に矢を持つと。
「――――え」
流れる様に矢を弓に番えつつ、喚き散らしている活動家へ振り向き弓を引き絞りつつ構え。
「……すっご……」
音も無く忍び寄り奇襲を仕掛けようとした二体の土蜘蛛を、その一射で胴体を撃ち抜き、二枚抜きで家屋の壁に磔とした。
古今東西の英霊の神業に見慣れたぐだの子も、思わずそんな一言を漏らした程に。
「―――――、―――?」
誰も彼もが、その【二枚抜き】にされた土蜘蛛の有様に集中している間に、ボソリと活動家へ向けられた言葉は、
当事者二人と例の【彼女】にしか聞こえなかった。
「……『黙って生き残るのと放言して殺されるの、どっちが良い?』ですか」
先の大蜘蛛を討ち取る際、騎射した事が無いからと右足を鐙に、左膝で膝立ちに成りつつ射撃し、
その直後に鞍に両足を抱えてゴースト号が飛んだ瞬間に飛び上がり唐竹割の一刀両断と言う
離れ業を実行して生放送先に様々な混乱をもたらしている事等露知らぬ駆逐艦娘の電は、
先の花舞神流こと飯崎鈴夏の言葉を振り返っていた。
470:陣龍:2024/07/03(水) 16:56:58 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp
素直に受け取れば、大騒ぎを続ければ土蜘蛛の襲撃で殺されるから黙れ、と言う忠告に聞こえはする。
だが言われた当人のみならず、少し離れた所で見ていた電には『邪魔建てするならこの場で消す』と言う
脅しの様にしか聞こえなかった。何とも異常な話である、戦場の狂気に飲まれた訳でも無いのに、
此処まで唐突に直接的とも取れる言葉を飯崎鈴夏が言い放つとは。
「まぁ、其のお陰で面倒は無くなったのが勿怪の幸いなのですが……」
とは言え、その【脅し】が余程効果覿面であったのか、その後の活動家は一切合切口を開きもせずに、
借りてきた猫より尚大人しく石の如き静かさで指示に従い、強制転送で回収されて行った。
何だか股の部分が濡れて居たり異臭がしたような気がしたのは気のせいとして置く事として。
「……飯崎鈴夏さん。以前、貴女は自身の能力を『格闘戦は準一流、剣術は一線級、
弓術は及第点のハンパもの』とか言ってた筈です。ですが、どう考えてもおかしいのです」
――――貴女は、【何物】なのです……?
心配そうに見る彼女の視線の先には、斬り捨てた、射貫いた大蜘蛛の体液を多数被っても平然と腕や服で
軽く拭ってそのまま戦おうとして、シャカリキになったぐだ子達に全身水洗いや聖水洗いで拭き取られている【花舞神流】の、
微妙にセンシティブ判定に引っかかりそうな飯崎鈴夏の姿が有った。
怪異、常世の存在に濃密に接触した事で、彼女…飯崎鈴夏の内身に巣食っていた僅かな残滓が浸食を加速させ、
更に異界の存在と【密】になるべく彼女の身体を少しばかり書き換え始めていたと知るのは、
ティアマト様によって全てを終らせられてからの事であった。
471:陣龍:2024/07/03(水) 17:00:37 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp
|д゚) 以上、奈良での大蜘蛛等との交戦模様でした。転載等はご随意に
ゴースト号 #゚д゚)<主さんが戦ってるのに自分は基本運搬だけとかなんでですやねん!?
飯崎 ^-^)<仕方がないでしょ、マックイーン号とかから絶対に戦わせないでって念押しで言われてるんだから
ゴースト号 #゚д゚)<ファ〇ク オフ!!
最終更新:2024年07月15日 20:06