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憂鬱SRW 融合惑星 マブラヴ世界編SS「リヴェンジ」6
- C.E.世界 融合惑星 β世界 β世界主観1999年9月21日 マレー半島 シンガポール 国連太平洋方面第12軍 シンガポール基地
BETAの大規模侵攻、しかも世界各地で一斉に発生したそれが集結して3日ほど。
そこまできてβ世界はようやく一息をつくことができた。
最も長く続いていた北アフリカ戦線でもBETAの打ち止めが確認され、ようやく主要な戦闘が集結したのである。
未だに後方に浸透したBETAの捜索と排除、さらに戦場の後始末や戦闘の詳報を作り上げている最中ではあったが、とにかく一つの山を越えたのだった。
怒涛の展開という言葉では収まらない、一月余りが経過して、ようやく世界は理解したのだ。
即ち、自分たちは違う世界に存在しており、これまでとはまるで違う状況下に置かれており、既知を超えた勢力が渦巻く混沌の中にあると。
それは国のトップから末端まで等しく情報や証拠が刺し貫き、それまでの常識を刷新する形となったのだ。
特に、融合惑星に転移してきたころから接触をした地球連合の存在は、それまでのパワーバランスを完全に覆すものとも判明した。
BETAの大規模侵攻に際し、地球連合が介入したかそうではないかで、明確なまでに結果に差が生じたのだから。
これにより、これまでのドグマに捕らわれることのない動きが始まり、加速する。誰もがそれを感じていた。
しかし、その渦の中心にいる地球連合は決して暢気にしていられるわけではなかった。
β世界各地の国々や組織などから救援要請を受け、参戦したということは、その後の面倒も見る羽目になったということである。
失地奪還、防衛体制構築、戦地復興、環境浄化、現地国家の立て直し----数えきれない仕事が待ち受けていたのだった。
それは中小国連合からの外交使節と軍が派遣されていった東南アジアおよびインド方面でも同じであった。
片や一度BETAの侵攻を受けて苛烈な焦土戦を行ったところからの復興作業と再度の防衛のための準備。
片やユーラシア大陸への上陸と直近にあるハイヴの攻略の足掛かりの構築。
どちらも手が抜けず、あまりのタスクの多さに大洋連合に援助を申し出ることになり、何とか進めている最中であった。
特に直接的なBETAとの戦闘が集結した後も動き続けている、政治あるいは軍事的な意味での後方での仕事は未だに続行中だ。
膨大な量の事務作業、大東亜連合との折衝や連絡の取り合いや確認作業、軍事行動に伴うあれこれの手続き。
やることは未だに山積しており、戦闘終了後からぶっ続けで行われていてもなお、有り余っている。
シンガポールという最前線に位置していたこの国連軍基地は、すっかりこの東南アジア地域に関わる勢力の折衝の場であり、仕事をこなす場となっていた。
地球連合からの派遣軍のトップであり、政治的にもトップであるカガリ・ユラ・アスハはその中にあって缶詰であり、激務の中に捕らわれていた。
「……次は?」
「こちらです」
「よし」
だが、その中にあってカガリは未だに壮健に働いていた。
14日の未明に始まった大規模侵攻を受けてたたき起こされ、そこから既に1週間が経とうというのに、彼女の仕事は減っていない。
寧ろ増えるばかりであって、とてもではないが少女の年齢にある彼女がこなすべきものではない。
休める時間は減っているのに、熟すべきタスクは増えるし、心労やら不穏な動きなど、警戒すべきは多くある。
だが、それは彼女の持つ立場が課すものであって、カガリはそこから逃げていなかっただけなのだ。
子供は生まれを選べないし、親を選べないし、場合によっては育ちを選ぶこともできない。
ほんの紙一重、あるいはもっと小さい何かがあって、他の人間ではないカガリはここにいるのだ。
それが大きな理不尽をカガリに強いたことも確かだが、同時に彼女を助けることもあった。
良いとか悪いではない、善悪を超えたモノでしかない。
そして、カガリは他人が求めるところを見定め、その上で自分の為すべきをやると決めたのだ。
そうして今この瞬間も続行し続けている、それだけのことだった。
9:弥次郎:2024/03/26(火) 23:21:51 HOST:softbank126036058190.bbtec.net
「こちらは確認した、このまま続けてくれ」
「かしこまりました」
「代表、この案件ですが……」
「あー……そっちは大洋連合の方にやってくれ。
ギガフロートの管轄は大洋連合からの派遣軍に任せる形にしている。
仲介の件ならば書面は送ってあるはずだ」
「……ああ、確かに。これは失礼を」
「構わん」
そこでようやく一息入れ、ボトルの水を一気に飲み干す。
水が体に染み入る。生きているという実感が湧く。
仕事ばかりを熟していて、半ば機械のようだった自分に命が吹き込まれていくのだ。
「……」
「カガリ様、その水は大丈夫ですよ?」
「わかっている……だが、中々に怖いものさ」
じっとボトルを見つめていたカガリに側近の一人がそっと囁いた。
大丈夫という言葉の意味は言うまでもなく、その水が安全である---もっと端的に言えば毒やよからぬ薬品が混じっていないことだ。
この融合惑星の一角のこの世界において展開した地球連合の外交使節が、まさにそれに突き当たったのはごく最近の事。
国家の統制のために人の思考や記憶にまで影響を及ぼす指向性蛋白が混ぜられており、それが外交使節にまで供されたのだ。
それは事故であり、また国家として真実を知るものがごく少数しか存在しなかったというある種の不可抗力の結果でもあった。
とはいえ、実際に起こってしまったからには、それを警戒せざるを得ないのが実情だ。
安全確認を行っているほか、地球連合の人員が口にするものは多くがC.E.地球から持ち込まれたものに限定されている。
単なる外交官ならばともかく、国家としてのVIPであるカガリがそういったモノで洗脳されては目も当てられないので、そこは徹底した注意を払っているのだ。
そしてもう一つ、カガリをはじめとした首脳部や軍の将校たちは常に一定の警戒を必要としていた。
言うまでもなく、自分たちに向けられている悪意というものであった。
「一応人助けはしたつもりなんだがな……」
「そう受け取らない人間もいるということでしょう」
実際、大東亜連合や国連軍などからは「救援が遅かった」と咎められはした。
だが、それは事前の話し合いや協定の結果であって、中小国連合が責められる理由にはならないものだ。
どういう思惑や考えがあったにしても、中小国連合の大規模侵攻への対応に参戦するのは現地国家の要請があるまでできていなかった。
寧ろ中小国連合の方が、発生した被害のひどさやその後の後始末に追われている事について文句を言ってもいいくらいである。
そんなのは正直なところ、逆恨みもいいところである。それが感情の結果だと言えばそれまでだが、そんな奴あたりに付き合う道理などない。
そしてもう一つは---少数ではあるが明確な悪意を以て向けられる視線だ。
圧倒的多数が感謝や畏怖などを向ける中にあって、その敵意や悪意の視線というのは非常に目立つ。
それらは身辺警護に入っている強化人間たちが感知し、護衛対象であるカガリのところまで報告に上がっている。
一体誰がその視線を向けてくるのか?追跡をかけてみれば案外簡単に判明した。
地球連合が介入して東南アジア・インド方面で大戦果を挙げたことを喜ばない勢力---アメリカ合衆国だ。
証拠としてはそういった強化人間やイノベイターたちが悪意を感じ取ったからという曖昧なものであるが、地球連合では通用するものだ。
誰が悪意を向けてくるのか、その場にいた人間をリストアップし、いつ何時どういうときに感知されたかを記録し、絞り込んでいけば所属がわかる。
その多くがアメリカ合衆国に繋がっていると分かれば、嫌でも警戒することになる。
10:弥次郎:2024/03/26(火) 23:22:34 HOST:softbank126036058190.bbtec.net
その理由としてはカガリは心当たりがあるどころではない。
アメリカの国益という視点から見れば、地球連合はアメリカが張り巡らせていたであろう戦略を大きく崩したのだ。
それこそ、恨みを買うようなレベルにまで行っているのだろうというのは想像だに難くない。
推測ではあるが、自国に都合の悪い大東亜連合をBETAの大規模侵攻に乗じて弱体化させようとした節もあるくらいだ、それくらいはやるだろう。
今のところは周囲をガードで固めることで安全を確保しているが、今後も無事とは限らない。
命を狙ってくるようなかなり気合の入っている行動に出ない保証も全くの0なのだから。
その分だけ窮屈になるのはカガリの身辺なので、心理的にはちょっと遠慮してほしいところである。
その内警護のレベルも引き上げられてより窮屈になると考えると、憂鬱になってしまうのは避けられない。
(一つの目的のためといっても、中々一つにまとまり切れないものだな……)
そして、それらは長ずれば国家間のまとまりのなさにつながる。
BETAという共通の敵を前にしても、世界は一つになり切れない。
自分達も最初からそうだったとは決して言わないが、それでも結束して立ち向かおうとしてきたのだ。
この世界の国々や人々だって、同じように協力し合い、連携すればBETAともっと戦えるであろうに。
そこで邪魔をするのが、結局のところ国益や国家としての方針の違い、考えの違いというわけだ。
そして、乱暴な手段にまでアメリカが走りかねない理由は、直近に迫った国連総会の緊急会合にあると推測されている。
各地で同時に起こった空前の大規模侵攻を収束させることに成功し、その結果について報告し合う場があるのだ。
当然だが、各地で起こった大規模侵攻への対処の結果が報告され、比較され、多くの国家の目にさらされることとなる。
地球連合が各地で収集した情報から比較すれば、アメリカが強権を振りかざし、あるいは自国本位な行動をとったことが明らかだ。
おまけにアメリカよりも地球連合の方が明確に強かったということも。
事情は分かる。
だが、そこまでに自国の利益を追求しすぎれば、総スカンを受けることになりかねないだろうとも。
これが一つの惑星に完結していたならばともかくとして、現状は既に大きく変化が起こっていて、素人でもわかろうというものだ。
だが、理解と納得は違う。殊更に国家レベルであるならばなおさらのこと。
確実に緊急会合は荒れることになるだろうし、そこに出ることになる自分はさらに苦労するだろう。
(……)
会合に向けた準備は既に始まっているが、より一層力を注ぐべきかもしれない。
実際、緊急と名前が付くように開催が決まって通達がされ、地球連合にも召集が来たのは昨日の事なのだから、準備はまだまだだ。
国家間の利害が醜いほどにぶつかり合うことになると考えるなら、今の仕事を中断する価値はあるかもしれない。
いや、仮にも人類の生存圏を守り切ったのだ、自分の発言はかなり重たくなるかもしれない。
だとするならば---カガリは一つ頷いた。
「今夜も徹夜だな、うん」
最高責任者が一番過酷なのである、殊更に政治と軍事の二つの草鞋を履いていると、猶更に。
ともあれ、戦いの場は軍事的なフィールドから政治的な領域へと移り変わる。
結局のところ、戦争とは国益を得るため、あるいは守るための政治的手段の一つなのだから、遷移するのはある種の必然。
それに向けて、若くして職務と職責を追う彼女は忙しく働くのだった。
11:弥次郎:2024/03/26(火) 23:23:35 HOST:softbank126036058190.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
次回より、ちょっと政治的な話をメインに2,3話くらいの
シリーズを予定しています。
最終更新:2024年07月20日 13:08