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アバンテン帝国首都の官庁街のはずれにある古びた一軒家。
そこが駐アバンテン大日本帝国大使館であり、その一室で勤務するのが五島陸軍少佐である。
室内にはタイプライターの打鍵音と隣の大使の執務室から流れてくる、かすかなクラシック音楽。
本国へ送る報告書を作成する手を休めその音色に耳を澄ます五島。
ネクタイを緩め、大使館の事務員が入れてくれた紅茶のようなもの(レペンという草を乾燥させたものでアバンテンでポピュラーな飲み物)を飲む。
悪くない味だ。
五島の従卒が娼館の娼婦から分けてもらったという出自がなければ、もう少し美味しく感じたはずだった。
お調子者の五島の従卒「今泉」は、現地の情勢を把握するのが私の任務であります、などとのたまい首都到着後の最初の夜に首都の歓楽街に消えていった。
そして翌朝顔を真っ赤に晴らして帰ってきたときの土産がこのレペン茶である。
今泉のような馬鹿な真似はしたくはないが、現地を知ることが駐在武官としても重要なことなのは五島の理解している。
しかし、到着後は大使館立ち上げのための雑務に終われ、ろくに外出することもなかった。
外務省への訪問に同行した後も、馬車で大使館へと直帰し、酒癖の悪い事務官に付き合わねばならずそのまま寝てしまった。
外交上相手国の関連省庁へすなわち軍事をつかさどる部署への訪問をするのが、前の世界の常識だったがこちらでは勝手が違うらしい。
アバンテンの外務省職員に調整を頼もうとしたが、見事に断られた。
貴族主体の外務省と貴族に平民が混じる軍部。
両者の仲はどうやら悪いらしい。
まあ、どこの国でも似たようなものであろう。
訪問したいのであれば直接交渉してくださいと、言われてしまった。
今回のアバンテンとの国交の仲介をしてくれたガトン大使(ガトンは武官を派遣してはいない)にいろいろと聞いてみたが、ガトンも似たような扱いを受けていたらしい。
これは、厄介な国に飛ばされてしまったようだ。
五島は自分の不運を嘆いた。
しかし、うじうじと悩んでいてもしょうがないと五島は外出することにした。
軍服(背広型対米戦終戦後に制定)や軍刀は置いていき私服の背広に着替える。
アバンテンの文化レベルは、前の世界と比べるならWW1以前の欧米と似ている。
背広ならば街にうまく溶け込めるだろう。
事務官に外出することを伝え、外出の共をいたしましょうかと駆け寄ってくる今泉に雨漏りする屋根の補修を続けるように命令する。
自身の目論見が外れた今泉は釘とかなづち片手に五島を見送った。
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外出するのはいいがどこへ行こうか。
今泉が買ってきた首都の地図を見ながら五島は考える。
大使館のある官庁街の中心に皇帝の宮殿がありその周りに商業地区や平民の住む住宅地区などが広がっている。
商業地区に行ってみよう。
実際の人々の暮らしを把握しておくのは重要だ。
今泉が行った歓楽街は商業地区の奥にあるが行ってみようか……
「五島様は異国の地で日本男児として恥ずかしい振る舞いをなさってはいけませんよ」
突然赤い瞳と共にこの言葉が脳裏によぎる。
まるで耳元でささやかれたようだ。
思わず後ろを振り返るが誰もいない。
気のせいだろうか?
ところ変わって日本国のある食卓の風景。
「ああ、グラスが!」
「申し訳ありません、おじさま。 自然に割れてしまったようで」
「気にしないでいいんだよ。 君に怪我がなくてよかった(……おじさま……おじさま……)」
「どうかしましたか、おじさま。 難しいお顔をして」
「大丈夫、問題ない。 食事を続けよう(――入ってて良かったMMJ!)」
ところ戻ってアバンテンの商業地区。
五島はある建物を見上げていた。
「でかいな」
思わず声に出してしいた。
銀座の三越よりも大きいだろうか。
入り口には王冠と鷹が組み合わさった紋章が掲げてあり、その紋章がアバンテン皇帝の紋章だと五島は気づいた。
英国のハロッズのような皇室御用達の百貨店みたいなものだろう。
「ハスター」
入り口に共通文字で彫られた店名だ。
変わった名前だが、面白いものが見れらるかもしれない入ってみよう。
五島は吸い込まれるように店内へと足を踏み入れた。
そして少し時間は進む。
内務大臣の執務室。
「閣下、緊急事態です!」
「なにがあった」
「ハスターが労働者評議会を名乗るテロリストに占拠されました」
五島少佐は、どうやら面白いものを見られることが決まったようだ。
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続きは来週には出来るt
ああ!窓に!窓に!
最終更新:2012年03月19日 18:56