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日蘭ネタ 戦艦松島の生涯 Act.2
1943年末、アメリカ合衆国降伏。
その報を戦艦アイオワ、現大日本帝国海軍特設砲艦松島は整備と休養の為に一時帰還した現在の母港である佐世保の港で知った。
補給だけならば洋上や朝鮮王国の港でも出来るが整備に関してはそうも行かない。
神に賄賂を送ってるだのかつては未来に生きてた一人の天才と国全体で渡り合ったと言われ、
30年は世界と隔絶していると噂される日本の電子機器に関しては機密的にも技術的にも日本国内で整備するしかない。
年も開けると北米沿岸に展開していた帝国海軍艦艇も順次後詰めの艦艇との入れ替えで帰還、
腫れ物の様に自分を扱うそれら日本艦の船魂から半ば無理矢理に聞き出し段々と姉妹やかつての祖国の様子が分かってきた。
第一次、第二次ハワイ沖海戦を生き延びた他の後期サウスダコタ級の姉妹らもその多くがサンフランシスコ沖海戦やグレートブリテン島沖海戦でその大半が轟沈。
本土も艦砲射撃や艦載機による空襲で沿岸部は壊滅し中部内陸部も日蘭の爆撃機による戦略爆撃により甚大な被害が出ているという。
敗軍の常と覚悟していたとはいえ実際に知るとショックが中々に大きい。
その後松島は整備を終えると支那鎮定軍に復帰、植民地軍などの奮戦で戦線を内陸まで押し込んだ為に艦砲射撃をする機会もないまま支那沿岸部の警備に当たり最後まで抵抗したソ連の停戦と講話を洋上で知ることとなった。
戦後未だ講和条約の調印の成されぬ米支那植民地沖、そこには五隻の戦艦が在った。
「アイオワやケンタッキー元気でね…。」
「コロラド…メリーやオレゴンもね。」
松島(アイオワ)と橋立(ケンタッキー)の船魂はコロラド、メリーランド、オレゴンと互いを見る。
本日、米本土へ戻ることを選んだ者らの最後の引き上げ船団が米植民地を出発する。
それに同行する決意を瞳に秘めた三隻と違い松島と橋立は今生の別れの様な表情だ。
Good-Bye(さようなら)…そう告げる三隻に対し松島は違うと叫ぶ。
その声を振り切りコロラドは松島から目を背ける。
そしてGood-Bye…そう別れを告げる同じ発光信号が三隻より松島と橋立に送られた。
圧力の上がった蒸気タービンの出力をスクリューに伝えゆっくりと戦艦コロラドはその巨体を動かし始める。
甲板上のコロラド達の乗員は遠ざかる支那植民地を見ると港にはコロラド達を見送る人々の姿が見える。
この巨艦ももうじき姿を消す、植民地を離れ本土に戻る人々を勇気づけたこの合衆国海軍最後の残光を一目見ようと見送る人々だ。
「まるで今生の別れの様ですね…。」
「比喩ではなく今生の別れだよ。戦後
アメリカは戦艦の保有を諦めた。この子らは帰国後に解体されスクラップだよ。」
最後の航海に当たる艦長と副長はそんなことを話す。虎は死して皮を留め人は死して名を残す…。
だが人々を勇気づけたこの鋼鉄の軍艦は鋼材となり数ある量産型戦艦の一隻として歴史書の一行ににその名を留めるくらいだろう。
長年乗った艦の最後にやるせなさを感じつつ艦長は軍帽を深く被り直すと沈黙する。
そんな時だ監視員が松島…いやアイオワからの返信確認を叫んだのは。
コロラドの船魂はその声にはっとし、艦長は弾かれた様に席を立つと急ぎ艦橋の外に出ると海風で吹き飛びそうな帽子を抑えアイオワの方向を向く。
そのアイオワの甲板には白い軍服を着た軍人達が並び敬礼をしている。かつてアメリカ海軍健在の頃の大演習で同じ光景を見た。
発光信号を認めると艦長の瞳に熱いものが滲む。彼も海の男だ。発光信号の内容は監視員や通信員が告げずとも分かる。
【貴艦らの勇戦に敬意を表す、再会の日まで壮健なれ!】
それと同時にアイオワより海風に乗り艦長やコロラドの船魂の耳に届く途切れ途切れの鉄血の歌、従軍する将兵を慰めた歌だ。
艦長やコロラドの船魂も良く耳にした故郷を遠く離れ必ず帰ると戦友たちに決意する軍艦の歌。
知らず知らずの内に艦長とコロラドの船魂はその途切れ途切れの歌を補う様に口遊む。
小さなその歌艦橋で聞く副長は手隙の者は甲板に上がる様に指示を出すとその表情を隠す様に帽子を被り直す。
わらわらと兵達が甲板上出てくる。彼らがアイオワと甲板上の白を認め信号の意味を知り歌を聞くと皆涙を浮かべる。
例えこれが最後の旅路なれど心までそうである必要はない。
「アイオワ!ケンタッキー!貴女達もまた逢う日まで壮健なれ!!」
声は届かないかもしれない。それでもとコロラドの船魂は目尻に涙を浮かべ外した帽子を歌のように振るう。
旅立つは己で死出の旅路なれど、艦体(身体)は無くなれど心だけでも戦友(とも)らの下へ…。
それが松島の見送った合衆国に残った戦友と姉妹の最後の姿。
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戦後幾歳月過ぎた頃…新たなる御役目を担う松島に元合衆国海軍将兵らよりあるものが届けられた。
松島艦長はそれらを艦長室に飾るとそれを感慨深げに見る。
「艦長、これが…。」
「ああ…解体された戦艦コロラドの操舵輪だよ…そっちはメリーランドの旗でそれは姉妹艦の…。せめて一部だけでも松島と共に、と元艦長達がね。」
「確か艦長は…。」
「ああ…あの日あの場所で松島と一緒に戦艦コロラド達の最後の航海を見送ったよ。」
当時は偉くなかったがねと寂しそうに笑いながらあの時の歌を口遊む。
「かならあずここへぇぇ…かえぇってくるとおぉ…。」
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松島は戦後を無事に迎えましたが別れを経験しました。
以上になります転載はご自由にどうぞ。
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次回は松島の新しい仕事書けるといいなあ()
最終更新:2024年07月22日 22:09