558:モントゴメリー:2024/03/31(日) 00:56:57 HOST:116-64-135-196.rev.home.ne.jp
日蘭世界SS——とある田舎娘の物語(中編)——
第二次ゼーラント沖海戦終結後、洋上降伏したロレーヌは大洋連合海軍に鹵獲される。
されど抑留されることなく、戦争終結後はすぐさまフランスに返還された。
これは、蘭帝にしてもその他構成国にしてもサウスダコタ級に対して何ら興味も脅威も抱いていなかったという証左である。
(松島こと旧アイオワを運用している某国は例外)
なお返還された際のロレーヌは、武装の修復こそなされていなかったが通常航行に支障が無い状態まで応急修理が施され、塗装も可能な限り再塗布がなされていたという。
これは大洋連合の騎士道精神の発露として後々まで語り継がれ、FFRとOCU両陣営の信頼関係構築に多大な影響を及ぼした。
(同時に、イル・ド・フランスやノルマンディーへの仕打ちと対比され英米陣営への敵愾心を醸造する土台にもなった)
さらに、日本からサウスダコタ級の各種部品について提供の用意があるという話までが出た。
こちらに関しては流石に有償だったが良心的な価格であり、当時のフランス臨時政府はこの申し入れを受諾。
これによりロレーヌはリシュリューよりも先に修復作業に入ることになる。
この取引については流石に気前が良すぎるという声が日本国内からも出たが
「松島のために専用の生産ラインまで新設したんです。少しでも投資を回収しないとやってられませんよ」
という『大蔵省の魔王』の言葉に沈黙することになる。
こうしてFFR発足時点ではロレーヌは修理を完了し戦力化されることになる。
その際、艦名を変更するか否かの議論が持ち上がったが、ドイツ帝国から“武勲艦に敬意を表す”という声明が公式に出されたため終息した。
ただし、ドイツから同時に将来については「配慮」を望むという一文も添えられたため、ロレーヌという名の艦は彼女が最後となっている。
559:モントゴメリー:2024/03/31(日) 00:57:32 HOST:116-64-135-196.rev.home.ne.jp
その後はリシュリューと交互に任務と休息を取りつつ「暗黒の30年」期のFFR海軍を支えることになるが、評価はリシュリューと明暗を分けた。
理由は、第二次世界大戦時の大量損失によりサウスダコタ級=アルザス級そのものの評価が地に落ちていたのがまず一つ。
(彼女たち、ひいてはビンソン計画の再評価が進むのは21世紀を待たねばならない)
そして、大戦の大半を自由フランス海軍所属で戦ったのも大きい。
彼女の奮闘は知名度が低く、大多数の国民にとってはロレーヌのイメージは戦前から続く『田舎娘』のままであったのだ。
さらに言うなら、米国への感情が悪化していくにつれ、この田舎娘という異名は蔑称の色合いが強くなっていった。
しかし、自由フランス海軍所属であったのはリシュリューも同じである。
何故、そこで評価が分かれるのであろうか?
それは、リシュリューが神格化されていった事への副作用とも言える現象であった。
リシュリューが第二次ゼーラント沖海戦で成し遂げた敵艦隊中央突破は『未来への脱出』とFFR国民たちに呼称されていることは以前述べた。
そして、その“脱出”に同行出来なかったロレーヌは
「時代に取り残された者=旧時代の象徴」
とされてしまったのである。
この構図が定着した原因は“鉄人”ことジョルジュ=ビドーFFR初代大統領にもある。
彼は、リシュリューを称揚するために敢えてロレーヌと対比するような発言を複数回行っている。
彼は既にフランスを救うために無二の友の名誉を闇に葬っていた。
これから更に1隻の戦艦の名誉を否定することを彼は躊躇うことはしなかった。
それがフランスの救うためならば…。
560:モントゴメリー:2024/03/31(日) 00:58:22 HOST:116-64-135-196.rev.home.ne.jp
時は流れ「暗黒の30年」が終わり、リシュリューの再構築改装が計画された際、ロレーヌの退役もまた決定された。
理由はリシュリューが改装された場合、維持コストが増大するため、戦艦戦力を2隻から1隻に削減することになったからだ。
しかし、その後のFFRの高度経済成長を知る後世の我々から見るとこの理由は不自然に思える。
実際は、ロレーヌの改装は国民の賛同が得られないと判断されたのである。
こうしてロレーヌは役目を終え、解体される——ことはなかった。
政府に、鉄人に反旗を翻す集団が現れたのだ。
誰であろう、FFR海軍自体である。
彼らはロレーヌに対する国民の評価に納得してはいなかった。
街中で水兵がロレーヌをバカにした市民に殴りかかるなどといった事件は枚挙にいとまがない。
そして、この傾向は時代が下るにつれ海軍全体の総意になっていく。
考えて見れば当然だ。
この頃の海軍上層部の者たちは、第二次ゼーラント沖海戦に“参加できなかった”あの士官候補生たちである。
——ロレーヌが、あの海戦を最後まで戦った彼女が無価値ならば、『先生』に逃亡者の汚名を背負わせてまで生き残ってしまった我々はどうなるのだ…!!
彼らの思いは吹きこぼれ、海軍と言う組織全体を上げた抗議運動へと発展した。
これに対し、鉄人も負い目があったためか、あっさりと妥協し、ロレーヌは記念艦として保存されることが決定した——。
561:モントゴメリー:2024/03/31(日) 00:58:54 HOST:116-64-135-196.rev.home.ne.jp
以上です。
ウィキ掲載は自由です。
思った以上に長くなったので、3部構成といたします。
最終更新:2024年07月28日 23:57