589:635:2024/04/02(火) 19:23:46 HOST:119-171-251-94.rev.home.ne.jp
日蘭ネタ 戦艦松島の生涯 Act.3
終戦となり米との講和条約も締結されるのではとの観測も流れ始めた頃、戦艦松島の姿は横須賀のドックにあった。
「ミーもこれでオヤクメゴメンかしら?」
正規戦力ではなく余剰の員数外である自分はもう解体かとほっとした様な寂しい様な気分に松島は襲われた。
長門や加賀を始め多くの戦艦を保有し合衆国最大の戦艦であるモンタナ級すら上回る大和型を有する日本からすれば、
量産性第一の面白みも改修の余裕余りないサウスダコタ級戦艦は興味を引く存在ではないだろう。
風の噂では賠償艦としてモンタナ級を接収し戦力化するという話もある。
何よりも日蘭に対抗できる戦力は当面出現しない以上は平和への配当、軍縮へ舵を切らざるを得ないだろう。
そう思った、そう思っていた。鉄血を若干舐めていた気がしないでもない。
「これがアイオワか…。」
「いえいえ嶋田さん今の名前は松島ですよ、ま・つ・し・ま。」
バーナーで鋼材を焼き切る音やクレーンの稼働する音が響くドックに制服の軍高官思しき人間と背広を着た役人がやって来た。
解体される自分を見学にでも来たのかと思ったが何やら違うようだ。
軍高官と役人はドック内を見渡せる位置で言葉を交わす。
そのドックでは工員が忙しなく動き回り、明らかに新しい艦載機器と思しきものもあり明らかに解体作業ではない。
「しかしアイオワを日本が保有とか何処の架空戦記だか…で、コイツを改装してまだ使うとはなあ…。」
「我々の存在が架空戦記ですよ。後、戦中に作った米戦艦の部品のラインもまだ生きてますし少しでも元は取りませんと…。」
日本には現在、戦中に作られたサウスダコタ級を始め支那鎮定軍の米戦艦整備用の部品ラインが存在しフランスのロレーヌの修理などにも使われていた。
それにより松島の整備や改装が可能であったがそれだけが松島を維持する理由ではなかった。
「それで交渉はどうなってるんだ。改装したのに肝心要のモンタナ級がいないのでは話にならんぞ?」
「内容はほぼほぼ事前通り…条約締結後にモンタナ級が引き渡される予定、そしてそのまま調査と日本製機器に入れ替える為にドック入り。」
「入れ替わりで松島は改装完了予定で練習艦としてモンタナ級の乗員を訓練に使われるか…。」
「何分日本が保有する貴重な米戦艦ですからねえ…松島いなければ米戦艦の癖から何からを一から調査、
運用して問題点洗い出すとか骨が折れたでしょうな。」
「だからといって今回の改装やり過ぎじゃないか?」
戦艦松島は練習艦として酷使…げふんげふん…日本に奉職することが決定していた。
日蘭側が運用する貴重な米大型水上艦であり戦中の運用で乗員である日本海軍が癖を熟知していること、
戦艦として員数外なので部隊などの枠を圧迫する訳でもないので練習艦への改装にGOサインが出た。
日本の悪いクセである賠償艦、鹵獲艦は使い潰してあげなきゃ!(使命感)が出た訳ではないと思う多分。
しかもついでとばかりに試験運用中の戦艦用の最新レーダーやら火器管制システムやら司令部機能やら乗せて試験艦としても使う気満々である。
なお、講堂や艦載機材追加スペース確保する関係で主砲は減らされている。
まあこれだけの好き勝手弄っても戦力に影響でない員数外大型艦艇が存在するなど稀も稀だからしょうがないといえばしょうがない…のか?
そしてその数ヶ月後の横須賀のドックでは晴れ晴れとした空では楽団が音楽(某海色)を奏でる中での改装完了式典が行われた。
新生戦艦アイオワもとい練習戦艦松島の新しい門出である。
その松島の艦橋の上で練習艦制服(鹿島とか香取のアレ)着たボン・キュッ・ボンの金髪碧眼の艦魂が虚ろな目をしていたり…。
さらに数ヶ月後。
「ここがJapan…。」
「私達大丈夫かな…。」
「きっと大丈夫よ。Imperial Japanese Navyは船を大切にするらしいから…。」
アメリカから引き渡された新鋭艦であるモンタナ級が日本へとやって来た。
そのニ隻、相模と周防ではそれぞれの艦魂が不安な顔をしていた。
そんなニ隻を先導する様に一隻の戦艦が近づいてくる、日本戦艦とも自分ら米戦艦とも違う姿。
その戦艦の艦魂は親しげに二人に話しかける。
「あなた達がモンタナ級ね?大丈夫よ、同じ元StatesのBattleshipのミーも大事に使われ(酷使され)てるわ!」
それに対する二人の反応は。
590:635:2024/04/02(火) 19:24:36 HOST:119-171-251-94.rev.home.ne.jp
「「誰…?」」
「…元後期サウスダコタ級のアイオワよ。」
まあそんな感じであろう。魔改造で面影あまりないし。
「「私達の知ってるサウスダコタ級と違う…。」」
「徹底的に弄り回されたからね…(遠い目)。」
そんなこんなで練習艦としての新たな艦生を歩み始めた元アイオワ現松島であるがその艦生は兎角地味だった。
訓練生乗せて訓練して遠洋航海に出ては各国を親善訪問して偶に仮想敵などで演習に参加しまた訓練生乗せての繰り返し…。
彼女が乗員の育成を手掛けた相模と周防が南米に睨み効かせたり観艦式に参加するなど戦闘艦として華やかなりし一線にいるのに対し、戦闘はおろか災害以外で出動すらな表に出ることなどほとんどない。
その災害でも主砲を一部撤去した講堂としても使われる広いスペースと最新の通信システムから陸海空軍の統合任務部隊の司令部任務、
訓練生の為の多くのベッドや本格的な手術室、ヘリ格納庫などを有し後方支援に当たることが多い彼女は知る人ぞ知る様な戦艦で外からは日本海軍一地味な戦艦などと呼ばれていた。
そんな地味ながらも彼女は海の男達に愛された。
1950年代に入ると彼女で育から巣立った雛鳥が海軍の現場を担う様になり、60年代には海軍で彼女に卵から育てられた者の割合が増えていったからだ。
「FFRじゃ軽巡が【先生】だって?ならこっちは戦艦が先生だぞ。」
松島はそんなジョークに使われ始めFFRの【先生】を範を取り先生と呼ぶものも居たとか。
しかしFFRにおいて数少ない有力な戦闘艦である故に一線を張る【先生】と違い一線の戦闘艦ではない彼女がその主砲を振るうことは無い。
その名が武名で轟くことがない以上松島の名が知られることはないと思われていた。
1965年(昭和40年)某日北海道亜大陸近海。練習戦艦松島は苫小牧市の祭りに合わせた一般公開の為に苫小牧港を目指していた。
大日本帝国において戦艦とは世の男性や子供にとって憧れであり戦艦がいるといないでは集客力が大きく違う。
海軍側としても未来の将兵を一人でも増やすべく空きがあれば積極的に派遣していた。
自治体としてはより大型の一線級戦艦に来て欲しかったこともあり松島が来ると決定した時は落胆した様子であった。
その頃松島の艦橋ではそんなことお構いなく戦闘でも災害でもないために艦長と副長は日常会話を行っていた。
「この艦が主砲を実戦で振るうことはないだろうなあ。」
「艦長、この艦が主砲を振るうとすればそれは他の艦艇が存在しないという危機的状況です。
それにこの艦は海軍の未来を担う若者を育てることこそが使命…敵を殺す為に主砲を振るう機会など無い方が良いのです!」
「おいおい興ふ『ビー!ビー!』、なんだ!?」
そんな時であった。急を知らせる警報が鳴り響いたのは。
その内容は数日前より発生した大規模火災が更に拡大したとの悲鳴の様な報…それは松島が向かっていた苫小牧の隣室蘭であった。
自社大型タンカーが諸事情により払拭していた為に日本石油精製が借り上げ石油を満載した外国船籍の大型タンカーが操船を誤り桟橋に衝突。
石油が漏れ出したばかりか漏れた油が気化、何かの火花に引火し爆発。
その火災はタンカー本体だけでなくオイル吸着マットを広げていたタグボートやもしも備えた消防船も巻き込み拡大、
もう誰の手にも負えない大規模火災へと発展した。
周囲には石油貯蔵施設やコンビナートが存在していたために室蘭市は周囲の住民を避難させ、
ついに市の消防だけでは手に負えないと判断し軍へ災害派遣を要請するに至った。
松島が受けた報はその災害派遣要請だったのだ。
戦艦でしかない松島に出来ることはあるのか分からぬ、しかし助けを求める陛下の赤子が居るのならば救わねばならぬと艦長は全速力を命じた。
松島はその声に応える様に機関の出力を上げた。
「ウソだろ!?」
「どうした?」
「げ、現在速度33ノット。」
「バカを言うな!改装され機関の出力上がり軽くなったとはいえサウスダコタ級の松島にそれ程の速度が出るわけないだろう!!
弛んでるぞ!機器の確認を怠るな!!」
「(アイオワ…お前さんはあのアイオワなのか?室蘭を救いたいのか…?)」
副長の怒声を聞きながら呟いた艦長の言葉はCICを飛び交う大声に掻き消された。
591:635:2024/04/02(火) 19:28:52 HOST:119-171-251-94.rev.home.ne.jp
「そんな…。」「酷い…。」
松島のCICに詰める乗員からそんな声が漏れる。
室蘭港沖に到着した松島が飛ばした艦載ヘリから伝送される映像に鉄血の大日本帝国海軍軍人すら言葉を失う。
未だ燃える海上、炎で燃え盛る石油コンビナート…その炎は明らかに室蘭の街へも迫っていた。
陸では陸軍が持ってきたトラックや普通自動車だけでなく装甲車を動員し住民を避難させてる他、
陸海空軍のヘリがひっきりなしに同様に避難民を乗せ陸軍の消防車や海軍の消火船に飛行艇、
空軍の輸送機が消防や警察などと共に延焼を食い止めようと必死に消火に当たっていた。
それしか出来ない。既に出来ることはやり尽くし延焼するのを伸ばし自然消火を待つしか無いのだろう。
まるで戦争の様だと誰かが呟く、まだ若い士官だった。
あの戦争より二十年、実戦経験あれど戦争を知る年代ではないのだろう。
「戦争…戦争なのだろうな…あの時と同じ…。」
それらの映像の中に懐かしい光景を見た艦長はそう呟く。
たまたま用事か何か…まさか苫小牧の祭りついで?…で室蘭を訪れていたのかここに居る彼らの姿だ。
地元の消防団と共にホースを握り火災に立ち向かう制服のままのCIS軍人。
火災より妊婦と子供を逃がすべく制服が乱れるのも構わず人で満載のリヤカーを人力で引くFFR軍人。
迷子やら道に迷った避難民を纏め上げ何処かに無線でがなり立てるBC軍人。
その光景に艦長は苦笑し副長に声を掛ける。
彼ら…帝国陸海空軍に米英仏…いやCISにBCにFFR…戦友達が戦争に向かうならば松島は全力を以て支援せねばなるまい。
あの支那の時の様に…。
「確か消火の万策は尽きた…とのことだな?」
「あ、はい。全ての消火手段は全て効果を発揮せず、現在延焼を食い止め自然鎮火を待つと…。」
「あるさ。消火手段ならば…松島が持っている。」
総員退避、その命令が発令された。
消火に当たっていた者らは怒りを抱いた。これ以上被害を拡大させるのかと、室蘭を見捨てるのかと。
皆、伝令や無線に怒声を浴びせるが彼らは必死に退避する様に促す。
まだ消火手段があると、しかしそれは人間が存在しては出来ぬどうか信じて退避してくれと。
その必死の説得に折れ彼らは互いの顔を見ると頷きその言葉に従った。
「まだ燃えてる…。」「父ちゃん本当に火事消えるの…?」
燃え盛る石油コンビナートの見える高台に避難した者らは皆心配そうな顔をする。
幼子など故郷の街が燃えるのではないかいかと今にでも泣き出した。
その時だった耳に届く風切り音、そして轟音が響きその幼子の涙を吹き飛ばす様な風が吹いたのは。
燃え盛るコンビナートの炎が一瞬で吹き飛ばされ消え去る。
それは別に燃える石油タンクの火も火災の原因となったタンカーの火災すらも吹き飛ばす。
「あれは…!」「戦艦だ!」
誰かが叫び指を指す。皆がそこを見れば沖合に旭日旗を翻す鋼鉄の巨竜の姿があった。
その砲が火を吹く度に火災の火元という火元が炎諸共消し飛ばされていく。
爆風消火…爆薬の生む衝撃波で無酸素状態と炎を消し周囲の物体をも吹き飛ばし消火帯を作ることによって延焼を防ぐ消火方法だ。
住民から歓声が上がる人間の力ではどうすることも出来ないと諦めていたものを鋼鉄の巨竜は容易く文字通りその主砲で吹き飛ばしたのだ。
歓声を受けながらも鋼鉄の巨竜…松島はその主砲から砲弾を吐き出し続ける。
その姿に懐かしさを覚える者も居た。
三人の中年も後半のCIS、BC、FFRの制服着た男性…皆着ている制服は一部が焦げたり煤けたりしている。
「ああ、あれはアイオワ…いやマツシマか…俺のところには来なかったんだよなあ。」
「マツシマ…上海いやエスト・デ・パリ奪還の時に見たな…。」
「クソ…マツシマがヤンキーの代わりに来てればあの時誤爆なぞされなかったのに…。」
「んだとテメエ…。」「お前ら新大陸の人間は攻撃も支援も大雑把過ぎるんだよ!少しはあのマツシマを見習え!!」
取っ組み合うCISとBCの軍人…じゃれ合う二人に二十年前の光景を思い出しクスリと笑うFFR軍人。
今ここではあの時の…支那植民地解放戦の時と同じ何処の国の人間だとか関係ない。
人間が人間を救う為に戦っているのだ。そして【彼女】もあの時と同じく人間を救う為に戦っている。
「マツシマやああマツシマやマツシマや…。」
彼女はどんな気持ちでその火力を存分に振るっているのか…。
彼女の名の原点を綴ったこの国の高名な詩を口ずさみながらFFR軍人はそう思った。
592:635:2024/04/02(火) 19:30:55 HOST:119-171-251-94.rev.home.ne.jp
以上になります。転載はご自由にどうぞ。
なお元ネタは昭和40年の機船ヘイムバード桟橋衝突事件と昭和49年の第十雄洋丸事件の際の護衛艦はるなの話だったりします。
最終更新:2024年07月28日 23:59