71 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/04/19(金) 22:33:28 ID:softbank126036058190.bbtec.net [4/162]
日本大陸×プリプリ「The Melancholic Handler」小話「小夜啼鳥伝」
西暦1820年5月12日、2年にも及ぶ新婚旅行中の夫婦が、トスカーナ大公国フィレンツェにて子供を授かった。
フィレンツェで生まれたことから、夫婦は娘に英語でフィレンツェを意味する「フローレンス」と名をつけた。
父親の名はウィリアム、母親はフランシス、1歳年上の姉にはパーセノピーがいた。
そして、その一家の苗字はナイチンゲール。
そう、後のフローレンス・ナイチンゲールの誕生であった。
彼女はいわゆるジェントリの生まれに該当した。
故にこそ、彼女はジェントリに相応しい教育を受けることとなった。
英語を筆頭に、フランス語、ラテン語、ギリシャ語、イタリア語などの語学を学んだ。
それに限らず、ギリシア哲学・数学・天文学・経済学・歴史・美術・音楽・絵画・地理、心理学、文学といった分野も学び、吸収した。
ジェントリは貴族階級ではなくとも、それに準ずる地位と権力と富を持ち、社交界を形成する層であった。
そこに生まれた子女であるからには、フローレンスも、姉のパーセノピーもそれに恥じることのない教養を得る必要があったのだ。
学問だけではない、教養と立ち振る舞い、そして高貴ゆえの義務---ノブレス・オブリージュを果たすことが求められてもいた。
ピエール=マルク=ガストン・ド・レヴィの記述に始まり、のちにオノレ・ド・バルザックが引用することで普及したこの概念は、既に似たようなものは存在していた。
社交界という華々しい場において振舞いつつも、同時にナイチンゲール家は慈善事業や公共利益のためにその財を使うことを求められた。
そして、社交の場における華であるフローレンスは、慈善活動において、アルビオンの抱える負の面を目の当たりにすることとなる。
即ち、下層階級の、悍ましいまでの現実に触れることになったのである。
当時のアルビオン王国---アルビオン島は産業革命による大規模な発展の真っただ中にあった。
華やかなりしアルビオン(白)の時代、ルール・アルビオン、太陽の沈まぬ永遠の帝国---あらゆる渾名がされるこの時代を作ったのがそれであった。
立地、国外に抱える大量の植民地、石炭やケイバーライト鉱石の採掘など、多数の要素があったことはもちろんある。
しかし、それらを活かしきったのは紛れもなくアルビオン王国の努力と奮闘の結果であり、数えきれない苦難を超えた末に掴んだものなのだ。
同時に、その輝かしい光は闇を生み出す。
貧困・格差・悪環境・病気・公害・犯罪・差別・不正----数えきれないモノが生まれ、蔓延っていた。
光の当たる上層階級では存在せず、しかしその下層においてはどうやっても逃れられない、そんなものがごまかしようがないほどに。
無論、慈善事業が行われているように、決して当時の人々が改善の努力をしなかったわけではない。
そも、そんな負の面があるのはどんな国のどんな時代でも共通の事であって、アルビオンだけの問題ではない。
発展と成長の陰には衰退と退廃がある。富を全ての人々に平等に割り振ることはできず、リソースも足りなくなる。
社会の構造を抜本から変えても、どこかしらに欠点は生じるし、どうやっても失敗は起こるものである。
加えて欧州で先駆けてこれに突入したアルビオンは、必然的に最初にそれらの問題にぶつかり、対応策を模索している段階なのだ。
先進国であるがゆえに社会的問題の面でも先進国。厳密には大日本帝国がさらに先にいるのだがそれはさておき。
ともかく、そんな負の面をフローレンスは目の当たりにすることになったのである。
アルビオンに存在するすべての問題からすればほんの少し、末端も末端の、そのまた一部にすぎないほどかもしれない。
しかし、当時の彼女にできることはあまりにも少なかった。
あくまでも彼女はジェントリの子女、ナイチンゲール家の娘であり、学びを重ねている最中であり、力も自由もさほど有していない。
彼女が祖国の惨状に心を痛めたとしても、今の彼女ができることなど、ほとんど存在していなかった。
ただ、彼女の中に志の萌芽くらいは芽生えたのは、決して否定できない事であった。
72 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/04/19(金) 22:34:10 ID:softbank126036058190.bbtec.net [5/162]
時代は流れ、西暦1847年。
27歳になった彼女は旅行家であるブレスブリッジ夫妻とともにローマを訪れていた。
当時のローマは、既にアルビオンによる大陸再征服運動(リ・レコンギスタ)によりアルビオンの統治下に収まっていた。
武力で制圧され、教皇領も失われ、バチカンの裏の稼業までも奪われ、果てにはカトリック教会がアルビオン国教会の下部に置かれる有様だった。
それができたのもアルビオンの航空艦隊の持つ武力と展開力であり、同時に肥大したアルビオンという国家の意志と力故だった。
当然、アルビオンによる政治・宗教両方の面からの締め付けと支配は反発を招いていた。
実際のところ、ローマという都市の重要性や政治的・宗教的なものからアルビオンは統治に力を入れていたが、それでも騒ぎは起こる。
アルビオン関係者を狙ったカトリック教徒によるテロ行為が幾度となく行われていたのだ。
恐るべきことに自死を辞さず、自らの死体の欠損さえも恐れることのないという、教義に背くような真似までしているほど。
それほどまでに、アルビオンの行為は敵意を生み、憎悪を掻き立て、恨みを買っていたということと言えた。
とはいえ、アルビオンの統治下にはいってからすでに30年以上は経過していて、それらはだいぶ沈静化をしていたのも事実だった。
カトリック教会の活動は許されているとはいえ、そこまで覚悟の決まった行動ができるような信者が時間経過で減っていたのである。
さらに屈辱があったことが確かだとしても、それによって何か致命的なことが起こったわけでもないのが拍車をかけていた。
これがローマ市民が飢えるだとか、治安当局に不当に逮捕されるだとか、差別を受けるとかならば話は別だろう。
それを跳ねのけるためならば、と不特定多数が敵に回り、どうしようもない事態に陥っていた可能性が高い。
だが、ここを制圧したのはアルビオンだった。
よく心得ていたアルビオンは、むしろカトリック教会や教徒内部、バチカン内部での争いをむしろ煽った。
敵性力を分断し、分裂させ、不和を引き起こし、敵同士がぶつかり合うようにすることで自分達へのヘイトを減らす。
分割して統治せよ、とはよくいったモノである。多数の植民地で磨いた技術が、ここでも活用された。
そういう経緯もあり、ローマは彼女のような旅行者が訪れることも可能な地域の一つとなっていたのだった。
史実において、彼女はこの地において保養所の所長をしていたシドニー・ハーバートと知り合うこととなる。
後にクリミア戦争において戦時大臣を務めることになる政治家であり貴族の彼との出会いは、後の彼女の活躍のきっかけといえるだろう。
だが、この世界においてはもうひとつ、エッセンスが加わることとなる。
史実において途方もないほどの活躍をし、多くを成し遂げ、知名度を誇った彼女のことを別ベクトルからよく知る人物たちがいたのだ。
彼らは史実において大きな活躍を残し、歴史に名を遺した人物に同じように接触し、多くを得ていたのだった。
人材の青田買い、あるいは単純な好奇心や興味、あるいは国家戦略---理由こそさまざまだが、ともかく各地で策動していた。
そう、
夢幻会の面々は彼女が史実において何時頃にどこにいるかを大雑把ではあるが把握していた。
この後に、世界さえも変えるほどの偉業を為したフローレンスに接触したがるのは至極当然とさえ言えたほどに。
そう、表向きは極東の国、大日本帝国からバチカンへの表敬訪問。
裏の目的としてはバチカンを中心とした欧州情勢に関する情報収集。
そして、夢幻会はフローレンス・ナイチンゲールへと接触し、リクルートなどを視野に入れた接触をもくろんでいたのだった。
それが、彼女の人生をより大きく動かすことになることを、フローレンスは未だに知らなかった。
小夜啼鳥は、籠の外の未だに広い世界を知らないままだった故に。
73 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/04/19(金) 22:34:51 ID:softbank126036058190.bbtec.net [6/162]
以上、wiki転載はご自由に。
議論が盛り上がっているので、婦長の活躍を追いかけてみることにしました。
捏造とかもマシマシですがよろしくです。
最終更新:2024年07月30日 22:48