282 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/05/04(土) 22:37:45 ID:softbank126036058190.bbtec.net [23/119]

日本大陸×プリプリ「The Melancholic Handler」小話「鵺の囀り」



 虎鶫は、夢幻会の抱える実働部隊の一人であり、強力な知識人の一人である。
 スパイや工作員、暗殺者としての技能が優れている点において、他の追随をほとんど許していない戦力だ。
同時にそういった工作員などを育成する経験と知識も有しており、すでに多くの人員を育成し、送り出してきた。
その他にも、その手の諜報の舞台で使われるツールや暗号に関わる分野においても現代から近未来までの知識を有し、それを扱う術を学んでいる。
将来に向けて彼の持ちうる知識や経験は吐き出せるだけ吐き出されており、夢幻会がひそかに隠匿・保存している。
 そういった都合上、虎鶫が積極的に外に出る---特に勢力圏外に出るということはほとんどなかった。
実力者ではあるが、同時に教育者という面があるために、中々に派遣するということが難しかったのだ。
万が一のことを考えれば---死亡だけならばまだしも、捕まって情報を吐かされた場合---リスクが大きすぎるというわけだ。
スパイの一人としては余りにも大日本帝国の裏を知りすぎているし、夢幻会といった致命的な情報さえも知りえているのだから。

 とはいえ、それは基本原則にすぎない。
 基本の枠を超える事態が発生した場合においては、その限りではない。
 例えば---原作にも関わる堀河公のアルビオンへの渡航および外務交渉という重大案件ならば、原則は無視される。

(なるほど……ついにか)

 そして、滋賀府のとある喫茶店で指令書を受け取った虎鶫はその暗号に目を通し、嘆息した。
 虎鶫は自分の重要性を理解している。同時に鬼札に近いがゆえに切るべき時が来ることも。
 堀河公およびその周辺の人員の警護---攘夷派による暗殺あるいは公然とした攻撃を想定し、罠にはめることが予定されていた。
その中で切られるカードの一枚に、虎鶫が選ばれたということなのだ。

(原作イベントに関わるのは名誉だが、相手が怖いところだな)

 指令書を裁断し、紅茶を飲み干して席を立つ。
 長居は無用だ、準備を急いでおかなくてはならない。
 特に相手が攘夷派となれば、アルビオンまでの道中はもちろん、アルビオン王国・共和国領内でも安心はできない。
アルビオンを打倒して大日本帝国の覇権国家としての地位を確固たるものとすべし---基本として攘夷派はその方針で固まっている。
それらは善意であり、アルビオンがあまりにも無体を働き、放置するには危険すぎるという判断から来ている。
実際、アルビオンはローマ以来の覇権国家となった代償として、あまりにも恨まれている。
攘夷派のシンパ、あるいは大日本帝国に期待する派閥が各国に存在する程度には。

 ただ、夢幻会としてはアルビオンには柱に括りつけてでも生きていてもらわないとならないのだ。
 絶対王者となってしまうと、その果てに待つのは停滞と堕落、そして凋落だ。
常に競い合い、油断を見せず、引き締めを図るために必要なのは友好国よりもむしろ競争相手だ。
技術的にも国力的にも優位にあるからこそ、アルビオンを失うことが恐ろしいのである。

(まあ、それを理解できるなら攘夷派なんてのはやってはいないだろうが)

283 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/05/04(土) 22:38:38 ID:softbank126036058190.bbtec.net [24/119]


 同時に、夢幻会や現政権の穏健派も攘夷派をそう簡単に切り捨てられないのだ。
 攘夷派と一括りにしてしまうと分かりにくいが、実際のところは内部でも様々な意見や派閥が存在している。
比較的穏当な派閥もいれば、やや過激な派閥もいる。現政権に加わっている攘夷派だっているのだ。
彼らの多くは合法的に動き、合法的に振舞い、合法的に存在する。それを力で排除しては大日本帝国の国体に関わる。
夜警国家や監視社会などというのは必要な要素でもあるが、やりすぎは結局のところ自分の首を絞める。
そうだからこそ、厄介極まりなく、対応に苦労するのだ。まあ、話が通じるだけマシ、とみるしかない。

 あり溢れた雑踏に混ざる一般市民に溶け込み、虎鶫は思考を重ねる。
 原作において、堀河公はアルビオン王国との不平等条約の撤回を求めて訪れ、ノルマンディー公の手配した勢力に襲撃を受ける。
その中にはチーム白鳩に属することとなるチセの父親も含まれており、戦いの果てにチセは父親を討ち取るのだ。

(それがどう変化するか……読みにくい)

 今回堀河公がアルビオンに赴くのは、原作とは違う理由からだ。
 アルビオン王国と共和国間の争いにおける不可侵、そしてアルビオン王国側を正統な後継国と認めるという二つの条約の更新なのだ。
付随する取り決めや条約などは多くはあるが、柱としてはこの二つがあげられている。
 同時に、アルビオン共和国側においては経済協定の延長交渉が待っている。
 矛盾しているが、これも二つに分断されたアルビオンという国家と付き合うための方便なのだ。

 そして、どちらかと言えば政治よりも虎鶫が気にかけるべきは、確実に来るであろう襲撃者への対処だ。
 あくまでもスパイの面が強いチーム白鳩では厳しいことになるだろうというのは確実。
 だからこそ、大日本帝国側からも人員が派遣されるわけなのだが---

「……」

 虎鶫は真顔になった。
 どう考えても、女の子主体のスパイアクションアニメに似つかわしくない激戦になる、と。
 作画崩壊とかするんじゃないか、とあらぬ心配までしてしまいそうだ。

(いや、問題なのは……そうじゃないんだ)

 虎鶫は表でも名が知られている人物だ。
自分が重要人物の護衛をすることを相手が見越している可能性に関しては非常に高い。
その上で護衛対象に傷一つつけることなく守り抜かなくてはならないのは、かなり厄介だ。
相手の戦力が謎なくせに、こちらの手の内がある程度明らかになっているのだから。

(まあ、丁度いいくらいのハンデと思うか)

 護衛を務める人間は歓迎できないが、戦士としては大歓迎だ。
 やはりというか、闘争が好きでたまらない---好きというレベルではない、本能に刻まれているというべきか。
湧き上がる感情を抑えながらも、虎鶫は雑踏に紛れ込む。一先ずは、自分についてくる奴らをどうにかしなくてはならない。
どう考えても自分をつけてくる時点で、疑ってくださいと言っているようなモノ。
裏路地で楽しくおしゃべりする必要がありそうだと、虎鶫は足を速めた。

284 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/05/04(土) 22:39:23 ID:softbank126036058190.bbtec.net [25/119]

以上、wiki転載はご自由に。
ふと思い立ったので、虎鶫さん視点で、本編前の様子を。
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最終更新:2024年08月11日 20:06