838 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/05/07(火) 22:21:18 ID:softbank126036058190.bbtec.net [99/119]
日本大陸×プリプリ「The Melancholic Handler」小話「小夜啼鳥伝」6
戦争が始まるかもしれない、という情報は一般市井の人々より早くフローレンスの耳に入ることとなった。
そのソース元はかねてからの知り合いである政治家のシドニー・ハーバートであった。
当時、既に戦争大臣としてジョージ・ハミルトン=ゴードン内閣に入閣していた彼は、そうであるがゆえに先んじてきな臭い情勢を嗅ぎ取っていた。
機密故に一介の医師であるフローレンスにすべては明かさなくとも、それとなく相談などをしていたことがやり取りされた手紙から判明している。
フローレンスとて聡い。戦争大臣から医療について聞かれることの意味くらいは推測できていた。
単なる興味以上に具体的な普及法などまで聞いてくる時点で、そういうことが起こるのだろうという当たりをつけていた。
果たして、それは正しかった。
シドニーの側が懸念していたのは、フローレンスのパトロンを務めていた中で知らされていた、祖国の医療の未発達ぶりであった。
パトロンや後援者を納得させるため、フローレンスは積極的に活動の内容をデータとして整理し、分析にかけ、論文や報告書の形で開示していたのだ。
その内容に目を通せば、上流階級は別としても、如何に平均的な医療が発達していないかを知ることができたのだ。
そして、戦争大臣---国防大臣などにあたる彼がそれに影響を受けて考えたのが、兵士たちを支える医療体制であった。
祖国でさえも平均値が劣っている状況なのだから、果たして戦時になり、戦場に近いところで高い質の医療が受けられるだろうかと。
陸軍や空軍、海軍への聞き取り調査などを行ったことでその実態を把握した彼は、頭を抱える羽目になった。
やたらと細かい縦割り行政であり、指揮権や物資の優先権などがごちゃごちゃになっていることが判明したのだ。
さらに、所謂軍医やそれを采配することになる軍医局の知識や組織体制などについても調査したところ、お察しのレベルであった。
軍医局や軍医へのヒアリングを行ったところ、自分たちの仕事に不足はないから余計な援助は不要、と実態調査を拒否されたのも彼の危機感をあおった。
この調子では、仮にフローレンスの学校や病院で学び、実践を重ねている医師や看護師などを送り込んでも除け者にされると判断したのだ。
かといって、今から軍医や軍医局、あるいは兵站管理のところにメスを入れて改善を行おうとしても、到底戦争に間に合わない。
つまりこのまま戦争に突入した場合、フローレンスが広めようとする質の高い医療などは実現できないまま死者を増やすことになる---そう理解できた。
史実においてはただフローレンスを送り出すだけだった彼がここまで事前に準備をしたのも、フローレンスの影響が大きいだろう。
彼女が日本における医療にかける膨大なコストとリソースと準備について手紙で語っていなければ、彼も懸念して調査などしなかったのは想像に難くない。
実際、史実においては彼の後押しを受けて入ったフローレンス率いる看護団は当初は邪魔者扱いされて、おまけに準備不足によって苦労したのだ。
更にはフローレンスがなまじ成果を上げたことで、さらなるタスクが降りかかっていったというのも史実で起こったことだ。
839 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/05/07(火) 22:22:21 ID:softbank126036058190.bbtec.net [100/119]
だが、戦争大臣であるとしても、シドニー一人ににできることには限界があった。
一つの省を任され、裁量権を有していると言っても、既存の体制の一部であることに何ら変わりはない。
彼が言い出したことだとしても、それが本当に実行できるかどうかは根回しや準備がどれほどできるかに律速される。
さらには、大臣でも周辺の人間の理解と協力がなければできることも決してできない。
寧ろ膨大なタスクを振られて、下にいる人間たちのためにあくせく働くのが上に立つものの役割であったりするのだ。
これがフローレンスだったならば、周囲を強引に巻き込んででも実行に移しただろうが、それほどの胆力は彼になかった。
弁護しておくと、彼の考えの方が一般的であって常識的なのであり、フローレンスのような果断さは常人が持ち合わせるものではない。
常人じゃないからこそ常人では不可能なことができたのは事実であるが、それ故に他人とのギャップに苦しむのである。
閑話休題。
ともかく、そういった実態を把握して悩んだ彼は、一先ずは常套手段をとることにした。
軍医局に対し、最新の医療関連の知識を取り込んで反映させるようにと打診を行い、色々と紹介を行ったのだ。
当然の如く拒否されてしまったが、粘りに粘り、戦時における予算を増やすことでなんとか話を通していった。
これは失敗も計算に入れた行動だ。いきなり一足飛びにやろうとしても反発を招くことは必須。
下手にやれば自分はやりたいことをやる前に大臣職から蹴り出される可能性が高い。
そうなればフローレンスへの援助などもできなくなるし、彼女の活躍の場を用意することもできなくなる。
打算的ではあったが、手順は踏んだうえで働きかけを行ったのだ。下地を仕込むというレベルでは合格である。
ついで行ったのは、戦争経験者からのヒアリングの実施だった。
これは彼が直接やったわけではないが、ロシアが策動していることに備えて使える人間を多数動かして行わせたのだ。
そこから得た教訓や実情を一次資料として固め、フローレンスや著名な医師などに対して分析と批評を依頼したのである。
過去の戦争でどういうことが起こり、どういう対応がされ、どういう教訓が得られたのか。
なまじかルール・ザ・アルビオンもあって戦争というより紛争が多かったことで、その手の蓄積が不足していた。
アルビオンが史実イギリス以上に一強になったことにより消失した戦争が存在したこともこれに拍車をかけた。
その結果、現行の体制では不足があるという専門家の意見を複数得られたのだ。
自分達のプライドや地位、あるいは領分に固執する軍医局や軍医その他に聞かせてやりたいほどだ。
彼らが見ているのは自分たちのことであって、実際に苦しむ兵士ではないこともよく理解できた。
こうして証拠と根拠を揃え、実情に対する対応策を揃えたうえで、シドニーは鬼札(ジョーカー)を切ることを選んだ。
即ち、ルール・ザ・アルビオンの中心にして主柱、アルビオン人が仰ぎ見る権力者---アルビオン女王への直訴という、とんでもないカードだった。
840 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/05/07(火) 22:23:33 ID:softbank126036058190.bbtec.net [101/119]
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さっくりといったな、ありゃあ嘘だ。
史実の通り行くわけないよね、ということで…
最終更新:2024年08月11日 20:13